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ぼっちのオレ、ぼっちのキミ

作者: 蛯名うみ

世の中の生き物という生き物は、命を繋ぐ為、果てしないリレーを続けている。

単細胞生物であれば、たたひたすらに自分の分身を作り続け、雄と雌のある生き物であれば、番いになる相手を探し、子孫を残す。

それは人間だって変わりはない。

体が子孫を残せるくらいに成長すれば、番いを探し子を残す。


これは太古の昔から遺伝子に刻まれた呪いだとオレは思っている。

「10代って大変だよぉ。まず1回目の難関は、中学校での進路でしょ。ここで人生の分岐を1つを決めるワケ。そして高校へ行って、進学するか就職するかの2回目の分岐。親から独立して、それから20代の前半ぐらいまでに恋もしなきゃいけない。だって体はもう大人なんだし、子孫を残したい!という気持ちには抗えないでしょ。分かる?」

要するに母の言いたいことは、愛だの恋だの大騒ぎしても、甘いセリフでラブソングを歌っても、生き物の『子孫を残す』という本能に従ってるだけで、最終的に交尾をして子孫を残すのが目的だというのだ。

こーゆー話を息子にする母親もどうかと思うが、その点については大いに同意である。

あの人カッコイイ~、あの子カワイイ~とかハート飛ばしてるのは、自分の番う相手を物色しているだけに過ぎないのだ。

昨今の人間はコミュ障気味の人間が多く、晩婚化が進んでいるが、それはそれで増えすぎた人口を減らそうとする深いところでの防衛本能ではないかとオレは睨んでいる。

オレとしては人間は減った方がいいと思ってるんで、特に問題はない。

人口減少にオレも貢献しようと思っているが、そこに関しては母は渋い顔をする。

「恋愛するもしないも自由だけど・・・あなたは一人っ子でしょ?私の兄弟に子供いないし・・・。これからずっと先にね、ママが死んで、ママたちの兄弟も死んだらお前は一人っきりになっちゃう。それが心苦しいの」

別れたパパの妹に従姉が1人いるけど、離婚してるからちょっとね、と母は申し訳なさそうに呟く。

どんだけ先のこと考えてるんだよとツッコミを入れたくもなるが、母は大真面目である。

親の愛だけは感じるところはあるので、そこは「オレがモテると思う?」と、笑って誤魔化しておく。

母には悪いが、オレに恋愛脳はナイ。

子孫を残すという呪いに、オレは打ち勝ったのだ。




「ねぇ」

騒がしい昼休みの教室で、突っ伏して寝ているオレに、頭上から誰かが声を掛けた。

「あぁ?」

まだ眠気の残るぼんやりした頭で、やる気のない声で頭を上げた。

そこにはオレの机に少し尻を乗せ、オレを見下ろす女がいた。

髪が長くて、少し化粧をして・・・誰だっけ?

勝手に人の机に尻乗っけんなよとイラッとしたが、そこは堪えて相手の顔を見据える。

「なんだよ」

不機嫌そうな声に相手もムッとしたのか、イラついた声で言葉を続ける。

「あんたさ、誰ともしゃべらないでずっと一人でいるけど、学校にいてなんか楽しいことあんの?」

「は?」

唐突に何ワケわかんないこと言ってんだ、この女は?

改めて教室の中を見回すと、窓際でこちらを見ながらクスクス笑っている3人組の女たちがいた。

ははーん、罰ゲームかなんかか?

あーゆー女のバカ集団に関わり合いたくはないが、降りかかった火の粉は掃う主義だ。

「学校いて楽しいことあるわけねーだろ。お前こそ学校いて楽しいのかよ」

「私は楽しいわよ!友達もいるしね。見たところ、あんた友達いなさそうだし」

「オレに下らない質問をするように仕組んだ女どもが友達とはね。オレならいらねーな」

「な・・・っ!?」

女の顔色が変わった。

図星かな?

「学校なんて勉強する為の場所なんだからつまんねーのは当たり前。更につまんねー友達作ってもっとつまらなくする気持ちが分かんないね。・・・もしかしてイジメられてんの?」

オレは下から顔を覗き込み、にやりと笑った。

顔が真っ赤になり、目に涙を潤ませて、女は廊下へ走り出ていった。

教室の中は静まり返り、皆の視線がオレに集まっているのが分かる。

ま、女の子1人泣かせたんだから当然かもしれないが、俺としては正当防衛のつもりだ。

「なぁ」

窓際の女3人に声を掛ける。

3人は青い顔をしつつもオレを睨んでいた。

「あのコ、あんたたちの友達なんだろ?追っかけねーの?友達なら追っかけるよなぁ」

追い撃ちである。

3人は顔を見合わせると、そそくさと教室を出て行った。

あの女1人の罪じゃない。

4人全員の罪だから平等に扱わなきゃな。

刑罰名は、『オレを怒らせた罪』。

しっかし・・・皆髪長くて見分けがつかねー。

なんで皆同じ格好をするかね。

もう一度オレは机に突っ伏すと、残り10分の昼休みの惰眠を貪った。




「ねぇ」

後ろから声が聞こえる。

デジャヴか?

同じような呼びかけを、昼にもされたような気がするんだが。

しかし今は教室の中ではない。

帰宅する為に校門を出たばかりで、周りには自分の他にも生徒が歩いている。

この学校に入ってから、一緒に帰るような友人を作った覚えもない。

だから自分を呼び止める声であるハズがないのだ。

多分他に歩いている生徒の誰かに声を掛けたのだろう。

「ねぇ」

うん、自分の真後ろで声が聞こえるが、呼ばれているのはきっと他の誰かに違いない。

「ねぇ!」

誰だか知らねぇが、早く返事してやれよ。

ってゆーか、名前呼ばないから誰も振り返らないんじゃないか?

「ねぇってば!1年B組の緋山大河くん!!」

・・・オレのフルネームだ。

ってことは、呼ばれているのはオレってことか。

立ち止まり、渋々オレは後ろを向く。

「なんだよ。そもそもお前誰だよ」

脱色をした肩までの赤い髪、無駄に短いスカート、女子高生らしいって言えばそーなんだろう。

オレの名前を知ってるってことは、同級生かクラスメート。

そもそも人の顔を覚える気がないんで、見た時がある程度の曖昧な記憶だ。

「誰って・・・やっぱ覚えてないんだ。あたしは同じクラスの香川七海。ヨロシクね、緋山くん」

香川七海と名乗った女は、にっこりと笑った。

正直驚いた。

自分で言うのもなんだがいつも仏頂面をして人を寄せ付けないオーラを出しているオレに、作り笑いでない笑顔を見せるヤツは初めてだ。

「・・・で、なんの用だよ」

「ん~・・・別に」

止まったオレを追い越し、楽しそうに振り向く。

「ただお昼のあの一件が面白かったから、あなたと話してみたくなっただけ」

「はぁ?あの不毛な会話を面白いって、あんた可笑しいんじゃねぇの」

クスクス笑いながら香川は言葉を続ける。

「周りに興味のない緋山くんは知らないだろうけど、私も友達いないの。あなたがお昼に言った通り、友達なんてつまらないって思ったから」

オレの意見に同意したから、話しかけたってことか。

「最初はね、高校生活に期待して、友達いっぱい作らなきゃって思ったのよね。だから皆と同じようにスカートを短くして、髪を染めて化粧をして・・・最初はそれでも楽しかった気がする」

オレは最初っから友達作ろうとは思ってなかったけどね。

母子家庭であまり家計に負担の掛からない高校を選んだらこうなっただけ。

『高校卒業』の免許を取得する為、3年ガマンしなきゃならない。

本当はすぐにでも働きに出たかったんだ。

しかし高校ぐらい出ておかないと、これから先就職するのが困難になるらしく、母にも頼むから高校だけは出てくれと懇願された。

だから成績も中の上くらい、人間関係以外は比較的優等生をやっている。

そもそも高校に必ず入らなきゃいけないんなら、最初っから高校まで義務教育にすりゃいいんだよ。

「でもさ。ちょっとしたことがあって、ハブられたんだよねー・・・」

「イジメられっこだって、告白されてもなぁ」

自分には関係のないことだし、そもそも今まで話したこともない人間にそんな話を振られても困る。

「ま、それはいいんだ!一時はへこんだけど、よーく考えてもハブられた理由も分かんないし。私の何かが誰かの気に食わなかった、多分それだけ」

香川の方をちらっと見たが、落ち込んだような表情はなかった。

どちらかと言えば、すっきりさっぱりした感じである。

オレと同じ、下らない奴らに関わっているだけ無駄だと気が付いたんだから、そこは称賛しよう。

「ただ、やっぱり友達っていないと学校でどう過ごしたらいいか持て余す時間があって、そこをぼっち先輩であるキミに助言を貰えたらって」

「はぁ!?」

失礼なヤツである。

そもそもぼっち先輩ってなんだよ。

同い年だろ?

「オレはぼっちでも困った時はないから、お前に教えることなんて1つもない」

香川から視線を外し、オレは再び歩き始めた。

だがヤツは、少し離れてオレの後ろを付いてくる。

5分くらい歩いたところで、流石にイラッときてオレは振り返って叫んだ。

「ついてくんな!なんだよ、お前!ストーカーか!?」

「あ、そっか」

香川は今気が付いたようにつぶやいた。

「ごめんごめん、ぼっちを極めたキミを観察しようと思っただけ。気にしないで」

そう言って、にこりと笑う。

「アホか!付きまとわれて気にしない方が可笑しいだろ!・・・あ、可笑しいんだっけ」

「ちょっとひどーい。可笑しいって何よ!」

彼女は頬を小さく脹らませ、怒った表情を作ってみたものの、すぐに破顔した。

「やっぱ緋山くんって面白いや。うん、確かに私は可笑しい」

自分を可笑しいと認識して笑うなんて、これはいよいよもって可笑しい。

「人なんて、誰でもどっか少し可笑しいものよ。さっきの女の子たちも、私をハブったコたちも、もちろん緋山くんも」

言われなくてもそんなこと、とうの昔に気付いてる。

でも同じことを考えるヤツが、オレの他にもいるんだ。

「あのさ、そもそも普通ってなんだよ。普通って物差しがどっかあんのかよ。皆違う、皆それぞれ可笑しい。どの物差しで、皆と違うって言ってんだ?だから・・・ってなんでこんなことオレ言ってんだよ!?」

これじゃ『可笑しい』を弁護しているようじゃないか。

イライラして頭をガシガシと掻きながら、香川を睨んだ。

「お。やっと目を合わせたね、キミ」

にやりと彼女は笑った。

合わせたんじゃねぇ、睨んだんだよ。

「これで知り合いぐらいにはなったよね?友達は・・・まだ難しいか」

勝手にうんうんと頷いて、香川はオレに手を差し出した。

「明日からはおはようって挨拶ぐらいはいいよね、緋山くん。顔、覚えてくれたでしょ?」

オレは差し出された手をじっと見た。

「なぁ。これで握手したら、友達に昇格とか分けわかんねぇこと言うつもりだろ?」

「あ、バレた?」

ニシシと楽しそうにヤツは笑った。

「誰がするかーーーーー!!」

バシッ!と手を叩き落とすと、今度こそ無視して歩き出した。

「つれないなぁ~」

香川は、そう言いながらまたオレを追い越すと、くるりと振り向いた。

「んじゃ、また明日、緋山くん。まったね~」

香川の駆けて行った背中を茫然と見送る。

・・・なんだよ、あいつ。嵐みたいだな。


髪が長くなかった。他の女どもみたいな化粧の匂いがしなかった。

風上からは、ふわりと彼女の残した柑橘系の香りがした。

多分明日会っても区別は付く、と思う。

あいつ、オレを見つけたらおはようって言うんだろうか。

今まで誰とも会話をしなかったオレが誰かに話しかけれられるなんて、考えるだけで気恥ずかしい気持ちになる。

ヤバイ。なんかオレ、コミュ力無くね?

学校に入ってまともな人間関係を築いて来なかったツケか?

これじゃ、社会に出たとき、困るような気がしてきた。

ここは香川を練習相手だと思って、挨拶を返すべきか?

しかし、唐突に挨拶をするようになったオレって、気持ち悪くないか?

「おはよう」って言葉1つに、考え込んでしまっている自分が、正直ヘタレだ。

だから自分のペースに誰かが入ってくんのってヤなんだよ・・・

はぁっとため息を付くと、明日の朝が来なければいいと久々に願った。


青春時代の自分探し。夢だったり、未来の不安や焦燥感、形に出来ない様々な想い・・・的外れなことでも真剣だったころの、沢山の無駄と、無駄だった時間の必要性を振り返りながら書いてみました。やっぱり形に出来ない想いは、今でも形に出来ないものですね。

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