ジャイアント・キリング!?
「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
スタジオのモニターにすがりつくように叫ぶミサト。
「おいおい、ミサトっ!! 落ち着けって、まぁ落ち着け」
機材を破壊しそうな勢いのミサトを、必死でなだめるジェームス。
「いやよーダメダメっ!!! ニヤ君のその可愛い顔を、これ以上壊さないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
スタジオのモニターには、20まで数えたところで、ノーマンに捕らえられたニヤを映していた。ノーマンに腕を掴まれたままの状態だ。
鼻血を垂らし意識が飛んでいたニヤだったが、何かに気がついたのか、瞳に力が戻りニヤリと口の端をつり上げた。
「ちょっと待って、モニターっ!!彼の口元アップしてっ!!」
サトミの指示で、モニターにニヤの口元がアップで映される。
「ニヤくんったら、ほら、笑ってるわよねっ!? これはこれは、わざと捕まって時間稼ぎしたの?」
ニヤの表情を見て、取り乱していたミサトも冷静さを取り戻す。
「ミサト、どうやらその通りみたいだっ!! さぁさぁっ!!!! ついにお待ちかねのギフトの顕現だぜっ!!」
ジェームスはノーマンの背後に現れた姿を見て、興奮しながら叫んだ。
二メートルを超えるノーマンの背後に、更に一回り大きい影が現れた。その影が大きく振りかぶった。
毛むくじゃらな巨大な腕がノーマンの巨体を軽々とぶっ飛ばす。
「むがぁっ!!!!!」
『おおおおおっ‼︎ 硬質の壁にノーマンの巨体が、半分うずまるっ!!!恐ろしいパワーだっ!!』
グラララララララララァァァァァァァァァァッッ!!!!!!!
進化の塔一階フロア全体に響き渡る咆哮。
暗闇に浮かぶ真っ赤に光る猛獣の瞳。
巨大な黒毛の狼男が、天満のバックパックを引きずり姿を現した。
「遅いんだよ天満」
自分の鮮血で汚れたニヤは倒れたまま、巨大な狼男を見上げる。
「きゃぁぁぁぁっ!!! 来たー狼男ッ!!めっちゃ可愛いっ!!!黒毛じゃないっ!!」
ミサトは目をハートにしながら、大喜び。
「ああー、なるほどな、それで服脱いでたんだな彼」
「ふふふ、あれほどの巨躯なら、どんな服でもビリビリになっちゃうもんねー・・・でも下着は破けないんだぁ、お姉さん残念」
「ありゃ、おそらく伸縮性に優れた特注品だろうな。戦闘服は、支給された物を着てるからね」
「下着も、支給制にすればいいのよ」
頬を膨らませて拗ねるミサトを横に、ジェームスが解説を続ける。
「獣人はギフトの能力としてはメジャーだけど、どの動物の能力を得るかによって、その能力は大きく変わるからな」
「狼男の能力は人間離れしたパワーとスピード、鋭利な牙と爪が特徴的ね――――――――うふ、でも、それだけじゃないわよねぇ・・」
「ミサト、ちょっと待てっ!!ワーウルフの動きが止まったっ!!」
異変に気が付いたジェームスがミサトの解説を遮りモニターを凝視する。
「人が気持ちよくじゃぺってるのに、邪魔しないでよぉ」
ジェームスの肩越しに、ミサトもモニターを見つめる。
ドサッ
ノーマンを弾き飛ばした、ワーウルフの右腕が床に落ちた。
ブシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥー
ワーウルフの右肩から噴き出した、ドス黒い大量の鮮血が、中継ドローンに降りかかる。ドス黒い鮮血がレンズに飛び散り、スタジオのモニターを赤く染めていく。
「おおおおおとぉぉぉぉっ!!!!! 攻撃を仕掛けたはずのワーウルフの腕が切断されたぁぁぁぁっ!!!」
興奮しながら、大げさに実況するジェームス
「ほんとスゲーな、ランカー・ステアーズってのは・・・いつの間に斬ったんだ? B級のスプラッター映画みたいじゃんかよ」
切断されたワーウルフの右肩を左手で必死に抑えるが、血しぶきは止まらず、その指の間から勢いよく流血は続いていた。
「背後から攻撃を喰らった瞬間ね、カウンターで戦斧を振り上げみたいね」
スーパースローでも霞むワーウルフの攻撃に、神がかりのタイミングで戦斧が下段から跳ね上がる。
ワーウルフの右肩から二の腕を断裂する瞬間を、コマ送り再生しながら実況するミサト。
「でも、そんなんじゃーワーウルフは止まんないぜ、見てみろよ」
嬉しそうに口元を綻ばせモニターに注目する。
グガッ!!!
斬り落とされた二の腕の手首をつかみ、ノーマンに対して顎下から上に向かってフルスイングする。
『鈍い炸裂音が響くっ!!!!!』
「うがぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
『顎からカチ上げられたノーマンは、糸が切れたマリオネットのように、膝から崩れ落ちたぁぁぁっ!!!』
天井を見上げ、立膝で崩れ落ちたノーマンの意識が飛ぶ。
ブチブチと筋肉繊維がちぎれ、真っ赤な鮮血が弧を描き飛び散る。そして、握った腕を一回転したさせて、ワーウルフは半ば砕けた腕を、鮮血噴き出す肩口に押し付ける。
すると、互いの筋肉組織が触手のように伸び、絡まり合う様に結び付いていく。見る見るうちにズタズタに損傷していた切断面は高速で再生され、元通りになってしまった。
『これは凄いっ!!逆再生の映像を見てるように、腕が再生したぁぁぁっ!!!』
「ライカンスロープにはコレがあるのよ!! 不死の最高峰ギフト「バンパイア」に次ぐ不死性。この超再生こそが、最大の特徴と言えるわ」
スタジオでは、ワーウルフの再生を目の当たりにして、我が事の様に興奮したミサトがジェームズに力説する。
「んだな、斬った殴った程度じゃ死ぬ相手じゃない、灰から蘇生する「バンパイア」程ではないにしろ、彼が四席だなんて、正直信じがたいぜ」
ミサトが用意してあったフリップを取り出してカメラに向ける。
「ステアーズ法で今年から情報解禁になった、とっておきの情報を発表しまーすーーーーーー。まずはこれを見て、進化の塔で、最初の進化のギフトが得られるというフロア10、そこでのギフトのタイプ別構成比率のパイチャートなんだけど、ステアーズの進化の傾向の約六割が「獣人系」のギフトを獲得してることを示してるの」
ミサトが出したフリップの円グラフがモニターに映し出される。内訳は六割が獣人系、三割が身体強化系、その他一割の比率だった。
「ああ、ステアーズで獣人系の能力者は多い、しかし、それは動物の何かしらの能力や部位を体に宿す進化パターンが多いな」
「鳥の様な翼が生えて飛行可能になったり、ヘビの熱センサーのピット器官を得て、暗闇でも対象を捕捉したり、ねこ科の猛獣の俊敏性や、鋭利な爪の出し入れが可能になったりね。ちなみに私は狐系の獣人でーす」
「猫耳、兎耳、狐耳は女子だと可愛いよな、うん、俺は好きだなぁ」
「やらしい目で見ないでくださいよ、ホント、キモいから」
コミケのコスプレイヤーのような、動物の耳を生やした美女の映像がイメージとして流れる。
「ジェームスの個人的な趣味は置いといて、獣人系能力の中でも「変身」するライカンスロープ・タイプは希少で、その能力値はトップクラス!ステアーズとして、コレは当たりギフトと言えるわ」
「新人ステアーズを待つフロア10の進化の門は、アプリゲーのガチャと一緒だもんな――――――どのギフトを得るかで、今後のステアーズとしての能力値がある程度決まってしまう、しかもリマセラ不可能ときたもんだ」
モニターには、天井を見上げて動かなくなったノーマンの姿が映る。
『おっとっ!!ノーマン気絶かっ!!完全に動きが止まっているぞっ!!』
一瞬、意識を飛ばしたノーマンの瞳に力が宿る。
「クソッたれ・・・一瞬意識持ってかれたじゃねぇーか」
口に溜まった血反吐を吐いて、握った戦斧を支えにして立ち上がる。
『ノーマン、意地で斧を杖代わりにし、倒れる事を完全拒否だぁぁっ!!!! しかし、巨体を支える足は小刻みに痙攣して、二の足が出ないぞぉぉぉっ!! 』
「ぐぅっ、あっ足が動かねぇ・・・俺のダメージもあるが、足の装甲の電気系統がやられたかっ!?」
バチバチと音を立てながら、膝関節を覆っている金属部分が破損して火花が出ていた。
「おいおい、像が踏んでも大丈夫じゃなかったのかよっ!? これぐらいで、ぶっ壊れてんじゃねぇーぞ!」
「やるよ、天満」
ニヤは鼻血をぬぐいながら立ち上がり、仁王立ちになる。
ギャォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!
ワーウルフはビリビリとフロア全体に響き渡る、雄叫びを至近距離でノーマンに浴びせる。
改めて仕切り直す様に、ノーマンと対峙する二人。
『さぁ、形勢逆転だっ!!!ノーマン万事休すっ!!』
「バカ野郎、そっちがそのつもりなら、こっちも本気で相手してやらぁ」
ノーマンが装着していたプレートアーマーが解除されていく。
『ノーマンッ!!大胆にも機動不良していたフルアーマーの装備を解除、壁の瓦礫に挟まった装備を捨て、戦斧を再び構えるっ!!』
生身で戦斧を持ち、血にまみれな鬼の形相で睨み上げるのは、さらに巨躯な黒毛の狼男。
まるで時空が歪むような、にらみ合いが続く。
『一触即発っ!! ノーライセンスの新入生がランカー・ステアーズを追いつめたぁぁっ!!! これは歴史に残るジャイアント・キリングだっ!!!!!』
睨み合ったまま身構えるノーマンが、固唾を飲む。
ゴクリッ
その刹那、ニヤが天満のバックパックを片手にワーウルフの背に飛び乗る。そして急かす様に肩をパンパンと叩き合図をする。
ワーウルフはそれに応える様に、突然ノーマンに背を向けると、カタパルトで射出されたかのように、四つん這いで床石を砕きながら北口へ、脱兎のごとく疾走したのだった。
「おっ…?」
鳩が豆鉄砲を喰らったかの様な表情のノーマン。
『なっ、なんとぉぉぉぉぉ!!!!逃げたぁぁぁぁっ!!!!!』
「なっ・・・・・ぷっ――――――――ぎゃはははははははっ!!!! なんだそりゃー‼︎ あぁー、俺の負けだ負けっ!!!一瞬でも俺様を本気にさせるなんて、やるじゃねーかっ!!ぎゃははははっ!!!」
肩透かしを喰らったノーマンは、一瞬状況がわからず驚愕の表情。しかし、二人が歴史的勝利よりもミッションを最優先したことに気が付くと、その場で座り込み、嬉しそうに膝を叩きながらしばらく笑い続けた。
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