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「お前ら、あんまり俺のことリスペクトしてないからさ……特にアリス! お前な!」
シャオロンは軽くストレッチをすると、アリスから刀を受け取り、持ち主のポニーテールの少女へと返す。
「イマイチ信用してないみたいだからな。ちょっと本気を出してやる。しっかり見ておけよ」
刀を腰に戻したポニーテールの少女は、両足を広げ、静かに抜刀の構えに入る。
「怪我しても知らないからね、センセー」
「遠慮するな。――ついでに天草! お前も来い! 相手してやる!」
突き出した手のひらで手招きし、眼鏡の青年を挑発するシャオロン。
「いいんすか? マジで行きますよ」
青年は上着を脱ぎ捨て、獣化する。
――美しい黒毛のワーウルフ。
前傾姿勢で、低く構えた。
「んじゃ、弁護士さん。審判よろしく!」
ひらりと手を振り、シャオロン講師は私を指す。
「は、はい! それでは――はじめっ!」
いきなり審判を任され、緊張で声が上ずった。
私の合図と同時に飛び出したのは、ポニーテールの少女――渡辺安綱さん。
赤星茜と堂々と渡り合っていた、S級のサムライガールだ。
真剣で、生徒が教師に斬りかかる――島の外では明確な犯罪行為。
だが、この島ではステアーズ同士の私闘は、両者の同意があればすべて自己責任とされる。
アリスが収監されていた保安部も、日本の警察とは異なる治安組織だが、島内の犯罪の取り締まりを担っている。
その保安部の駐車場で始まった私闘を、立番の隊員たちですら興味深そうに見つめていた。
踏み込んだサムライガールの居合いは――三連撃。
チン
チン
チン
一撃ごとに、鋭く鯉口が鳴る。
斬撃は――視えない。
事務方の私に、追えるはずがない。
耳に届くのは、ただ音だけ。
狙いは、シャオロンの右腕。
必中の三連撃が――
右腕を三分割したように、視えた。
バチッ――
弾ける電流音。
次の瞬間、再生した右腕が、納刀の隙を晒したサムライガールの顔面を掴み――
そのまま、地面へと叩きつけた。
――刹那。
彼女を庇うように、ワーウルフが飛び込む。
下段回し蹴り。
だがシャオロンは避けない。
その蹴りを受ける瞬間、自らの下半身を稲妻へと変化させ――
雷撃を、カウンターとして叩きつける。
バチッ――バチィィン!
電撃により、四つん這いの体勢で硬直するワーウルフ。
シャオロンはそのまま放電する拳を振りかぶり――
後頭部へ叩き込む。
雷を纏った、渾身の一撃。
「グハッ!」
感電したまま、完全に動きを止めるワーウルフ。
「……と、まぁ、こんなもんだ。どうだった、アリス?」
太ももを軽く叩きながら、シャオロンは挑戦的な視線を向ける。
「今の……先生のやったことが、私にも出来るの?」
「お前の両親も到達できなかった境地だ。簡単じゃない……が、不可能じゃない」
「マジか!」
何事もなかったかのように、ワーウルフが跳ね起きる。
ゆっくりと人の姿へと戻りながら――
「ってことは、アリスがあれ出来るようになったら、俺たちと一緒にオーバー40のリザーブ枠、入れる可能性あるよな!?」
天満君はメガネをかけ直し、期待に満ちた目で講師を見る。
「アンタ、一発でやられて何嬉しそうに言ってんのよ!」
「お前だって同じだろ! 安綱のほうが先だったろ!?」
二人のやり取りは、まるで夫婦漫才のようだ。
「ねぇねぇ先生、俺とはやってくれないの?」
銀髪の美少年が、悪戯っぽく笑う。
「ニヤ、お前とはやらねぇ。相性最悪だからな。――というか赤星帝との相性なんだけどよ」
赤星帝。
瞳術系ギフトの最高峰――原初のステアーズ。
「戦わないってのも、負けない秘訣だ。肉体の電気化を口頭で封じられたら終わりだからな。あと不意打ちにも弱い」
自らの弱点すら、隠さず語る。
その姿に、私は純粋な感嘆を覚えた。
「まぁね。一見して、いくつか攻略法は見えたけど……でもエボの中じゃ有効だと思うよ、それ」
銀髪の少年が、不敵に笑う。
赤星茜と渡り合った彼の言葉は、妙に重みがあった。
「これは“ギフトの過大解釈”として長く嫌厭されてきたが……俺たちエレメント系や、天満や安綱みたいな幻獣系には有効な強化法だ」
それは十年ほど前から研究されてきた理論。
たとえば――ライカンスロープ。
《狼男》。
進化の塔以前、実在を目にした者はほとんどいないはずだ。
だが――誰もが知っている。
映画。小説。ゲーム。アニメ。
人々の認知が、“それ”を形作っている。
つまり。
天満君のギフト《ワーウルフ》も――
周囲と本人の認識によって、定義されている。
《狼男とはこういうものだ》
その固定観念こそが、ギフトの枠を縛っている。
ならば。
《狼男》ではなく、《狼》へと拡張すればいい。
それだけで、可能性は広がる。
アリスも同じだ。
《火使い》《風使いの娘》という認識が、彼女を縛っている。
だがもし――
己を《火》そのもの、《風》そのものと定義できれば。
肉体という制約から解放される。
「言うは易く行うは難し、ってな。そんな簡単な話じゃない……が――」
シャオロンは、アリスを真っ直ぐ見据える。
「そこで、アリスよ」
「な、なによ……?」
一拍の静寂。
そして――
「お前、俺の弟子になれ」
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