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課外授業

「まさか保釈金なしでアリスが釈放されるとは思いませんでした……」

 アリスを助けるために駆けつけたのに、まさか彼女の恩師に救われるとは思いもしなかった。

「今回は完全に私の準備不足でした、シャオロン講師。本当に助かりました。弁護士失格ですね」

「いやいや、今回の件は私の監督責任なんで、お気になさらず……」

 シャオロンは恥ずかしそうに頭を掻く。

「でも、アリスから報告があった《ギフトの強奪》。しかも奪った能力を複数所持できるなんて……にわかには信じられません」

「他の生徒の証言では、映像で見せたキメラの能力は、同じロシア国籍のザハールのギフトのようです」

「同郷の同志のギフトを奪うなんて……」

「それも込みの国家計画なのかもしれませんね」

 釈放されたアリスの口から直接襲撃者の情報を聞いても、まだシャオロン講師の話していたことがどこか絵空事のように感じられた。

 しかし、彼らが嘘をついていないことは、私のギフト《罪視シン・ビジョン》で証明済みだ。

 私のギフトは、人が犯した罪の色がオーラとして視える。罪が重ければ黒く濃いオーラが現れ、嘘は嘘特有の色が出る。

 エボでは、索敵や相手の強さを測るのに有効だった。あとトラップを見破ったり、裏切りを予測したり……。でも戦闘向きではないので、事務方に回って正解だったと思っている。

「この二十年で行き詰まった人類の、ロシアなりの答えがそれなんでしょうね」

 シャオロンは皮肉めいて呟き、その視線は心配して駆けつけた同級生たちと話しているアリスへ向けられていた。

「アメリカはギフトとギフトを掛け合わせることで、アリスを生み出しました」

 アメリカ合衆国は、優秀なギフトユーザーをカップリングすることで、二種類のギフトを持ったハイ・ブリットを生み出すことに成功している。

「ギフト一つじゃ足りないって考えなんでしょうが、私からしたら少々乱暴な考え方に思えるんですけどね。増やせばいいって問題じゃないんです」

「ふーん、センセーは複数のギフトとか必要ないって考えなんだ?」

 シャオロンの背後に、いたずらに笑うアリスの姿があった。

「ならシャオロンセンセーなら、あの黒いスライム男に勝てるんだ? あの赤星茜を倒した奴に!?」

「ああ、講師が生徒に負けるわけねーだろ」

 腰に手を当て、講師を挑発するようなアリスの言葉に、シャオロン講師は迷いなく答える。

 しかし、あの赤星茜相手にギフトを奪い、アリスと赤星帝、ノーマン・ガーランドの追跡からも逃れている相手だ。

「アリス、お前に一つ足りねーもの、教えてやろうか?」

「私に足りないもの?」

 講師も意地悪な顔でアリスを挑発する。

 この二人、いつも学校ではこんな感じなのかしら?

「おい、渡辺! お前の腰にぶら下げてるモノ、一本貸してくれ」

 なにか始まる雰囲気に、アリスの同級生の三人が集まる。

「なになに? 何か面白そうなこと始まりそうね」

 興味津々の黒髪ポニーテールの少女は、腰に差した二振りのうち一振りをシャオロンに手渡す。

「おう、アリス。ちょっと構えてみろ」

 鞘から抜いた抜き身の刀をアリスに手渡す。

「はっ? 私に剣術でも教えるつもり?」

「いいから正眼で構えてみろ。そう、左拳を下腹部の前に置き、剣先を相手の喉元の位置に定めて」

 そう指導し、正面に回ったシャオロンはおもむろに真剣の中程を掴み――

 ズイっと、踏み込む。

 アリスの構えた刀の剣先は、シャオロンの喉元にブスリと奥まで突き刺さる。

「おっ、おい先生! 何やってんだ!」

 メガネの青年が二人の間に入り、大声を上げる。

 逆に私は状況が掴めず、息を呑んだまま身動きできない。

 シャオロンは首に刀を刺したまま、駆け寄った青年を手で制した。

「センセイ、平気なの?」

 アリスの刀を握る手が震え、刀がカタカタと鳴る。

「あぁ、ちょっとビリッとするぞ」

 シャオロンは意地悪くそう笑うと、アリスの目の前で閃光を放つ。

 バチィーン!

 雷が落ちたような轟音。

「キャーッ!」

 刀を持ったまま、アリスは背後にひっくり返る。

「これがお前に足りないものなっ!」

 数メートル背後に瞬間移動したシャオロンの首には、傷一つない。

「なっ……なんなの!?」

「ギフトの限界を決めてるってのは、案外本人なんだ」

「ギフトの限界?」

「お前は今回の試験で追加装備を使い、自分の足りないものを補って合格したが、エボに実際登ったら精々Aランク止まりだ」

 シャオロンの言葉にポニーテールの少女が頷く。

「九識のナインがAランク止まりなのと同じね」

 眼鏡の背の高い青年も同様に頷く。

「なるほど。火器の弾薬に燃料にバッテリー、装備の不具合や故障となると、装備頼りで長時間の塔登は難しいよな」

「だから、ギフトの限界ってなんなのよ! 勿体ぶらずに早く種明かししなさいよ!」

 まるで授業のようなやり取りを、アリスは苛立ちを隠すことなく講師にぶつける。

 今目の前にいるのは、私が知っているアリス・リデルとはまるで別人だ。

 彼女はもっと沈着冷静な優等生だったはずだ。

 なのに、講師や同級生とまるで女子高生のように振る舞う彼女に戸惑いながらも、そんな彼女に私は好意を抱いた。

「アリス・リデルは炎と風を操るギフトの持ち主だが、それを決めたのは誰だ?」

「なに? 今度は謎掛け?」

 首を傾げ、不機嫌全開のワガママ娘だ。

「本人を取り巻く環境と、それを決定づける本人……ってことになるのかしら?」

 思わず答えてしまった。

「サラさん、正解」

「おぉー」

 メガネの男の子が感心してくれて、嬉しい気持ちになった。

「刀が首に刺さった瞬間、俺は体を電気の塊に変えたんだ」

「はっ?」

「ごめん、先生何言ってるかわかんない」

「いやいや、人間の形してたし!」

 生徒が三者三様にツッコミを入れる。

 かつて雷のギフトで単身三十階層に到達した、SSランクの中国人がいたのを思い出した。

「なるほど。李小龍講師、かつて雷公と呼ばれたあなたなら、肉体を電気に置き換えることもきっと可能なのでしょう」

 電気は切ることもできないし、傷つけることもできない。

 その理屈を無理やりギフトに乗せたのだ。

「アリス、講師はあなたに炎使いではなく、炎そのものになれと言っているのよ。炎は斬れないし殴れないもの」

 それが可能になれば、アリスは単身で三十階層どころか、四十階層塔登のメンバーにだってなれる!


読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。


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