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折り返し地点の葛藤 


「おっ・・おい・・待て・・待ってくれっ・・・どうしたんだニヤっ!?」

 二夜は俺の手を引き高速で移動する、前方に見えた塔入り口が一瞬で眼前に迫る。初めての進化塔に入る時ってのは、もっと感慨深いものがあると思ってたんだがな。そんな事を思い浮かべた時には塔1階に侵入してた。なんだ・・・このスピード・・・。凡人の俺には限界速度をとうに越えている。

「いっいっいっいっいっ・・・息が・・・がふっ」

 周りの景色は漆黒の闇になって後方にすっ飛んでいく。

 いや、コレ・・・ブラックアウトしちゃってる?足が地についていない感覚。アレッ俺走ってないよね、腕を掴まれたまま宙を浮いてるというか・・・。

 上下感覚もマヒして意識が飛びそうになる。


 俺がスピードに奔走される?

 

進化の塔を間近にして、ゲートを見たとき同様にテーマパークに到着したばかりの小学生みたいにはしゃいでいたニヤが突然、俺の腕を握り走り出した訳なんだけど・・・・どうした?進化学園の入試試験の試合でも飄々としていた二夜が焦ってる・・・のか?

 眼前に真剣な表情でニヤがなんか言ってる。

 いつの間にかニヤの暴走は終わったのか?高速移動の名残で視界がまだぼやけてるが、こいつこんな顔できるんだな。

 なんて考えていたら、ニヤは思い切り右手を振りかぶり。

バチンッ

バチンッ

 俺の顔を叩いているのか?

 つか、往復ビンタかよ。

バチンッ

バチンーーーーン

 まるで他人事のように思えた光景がだったが、突然感覚が戻った。

「痛ってぇぇぇぇぇえぇぇぇっ!!!!」両頬に激痛という感覚が現れる。


「何しとるんじゃいっ!!!?」

 ニヤの右手首を握りビンタを止める。

「寝てる場合じゃないってっ!!!天満」

「お前が俺の意識飛ばしてんだろうがっ!!!」

 ニヤの胸ぐら掴んで猛抗議。

「天満急いでサインしてっ!!」

 胸ぐら掴まれたまま、横向いてサインペンを俺に差し出す。

 俺の顔を一切見ないで、右側ばかりを気にしている。

「なんだってんだよ?んっ!?」

 ペンを受け取り背後を向くと、進化の塔フロア1の中央階段がある。交差する巨大な二本の階段が高さ五メートル程の天井に向かって伸びている。通常時なら多くのステアーズたちがここから探索に出かけるエボの玄関口だ。


「階段っ!?・・・もう、着いたのかよ・・ここが進化の塔なんだよな?」

 改めて周囲を見渡す。もっとゲーム的なダンジョンみたいなのを想像してたけど。レンガ造りで真っ暗でさ、うっすらと光る壁とか床でモンスターなんか出てきたり、ダンジョンの中の食物連鎖どうなってんだ?みたいなのを期待してたけど・・・現実のエボのダンジョンはなんか巨大なショッピングモールみたいだな、というのが第一印象だ。


 もっと感動すると思ったけど・・・モンスターも居ないし、宝箱がある感じではないな。

 無機質な大理石に囲まれた空間に、まるで地下街のように整備され多くの店舗や看板や標識が設置されていた。人類が二十年で完全掌握したのがこのフロア1と上階にあたるフロア2だけだ。

 階段の下にはセレモニー用に、わかりやすい昔ながらの掲示板が掲げてあった。

「ウソだろ、もうエボの中心エリアに着いたのか?時速何キロで走ってんだよ」

「ねぇ、天満、このまま二人で頂上目指して上に上がらない?」

 ニヤは塔の東口を警戒して微動だにしないまま呟いた。

「んだよ、学園に入学すりゃいくらでも登れるだろう、それよりも東口に何があるんだ?」

「ここに逃げ場がないなら、いっそ上に行くのもありかなぁって思ってさ」

「ないない、規定違反だぜ、それこそこの島から永久追放モノの違反だ」

「そうだけどさ・・」

 何をシュンとしているのか俺には理解できないが、こいつがこんなおかしなことを言うほどの事態だということを一応気に留めておく。


 追手の臭いも気配も感じないのに、首席のこいつがこれだけ警戒してる正体が何なのかは皆目見当がつかない?本当に警備側のステアーズ居るのか?人数は?頭を捻りながら俺も警戒モードでペンのキャップを取って、掲示板を改めて眺める。

 これでセレモニーの半分クリアかよ。

「行きはよいよい、帰りは恐いってか、歴代の先輩方も全員ここまではクリアーしている、サインしてから出るのが大変なんだ」


 この掲示板は進化学園入学セレモニー専用掲示板だ。今年度で十期目、俺たちのを除いた三十六人の名前が書いてあるはずなんだが・・・。ざっと数えて見て、一、二、三・・・・三十四、三十五、三十六、…三十七、三十八っ!?さんじゃう・・・はち。

「んっ?」

「ぬあぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃっ!!!!!――――――――アリス・・・リデル・・・渡辺安綱だぁ、アイツらいつの間にっ!?」

 筆記体で流暢に書かれたアリスのサインの横に、がっつり毛筆で書かれた達筆な安綱のサイン。

「あいつら、いつの間にゲート抜けたんだ?ここまでくる間にモニターに映ってたの俺たちだけだったろっ!?なぁ、ニヤ・・・・・」

「がはっ!!!!」

 俺は自分のサインを描いた後、ニヤにペンを返そうとした瞬間、ニヤが俺の目の前からすっ飛んだ。

 柔らかい肉が硬質な壁に激突した音だけが聞こえた。

 おそらくニヤは壁に激突したんだろうが、俺は突然現れニヤを体当たりで突き飛ばした巨大な人物から目が離せない。


「フシュゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・まずは一匹っ!!」

 大きく息を吐きだし、巨大なクマが前傾姿勢からゆっくりと仁王立ちになるようなシルエット。

とっさにナイフを引き抜いく。

「あっ・・・あんたはっ!!!」

 ステアーズ目指してる人間が知らないはずがない。

「SSSランカー ノーマン・ガーランドっ!!!」


 ステアーズ・ライセンスの最上位っ!!SSSスリーエス元NHLナショナルアイスホッケーリーグのアイスホッケーの選手だった経歴を持つ、アメリカ海兵隊隊員。

 ファースト・ステアーズのひとり、地球に飛来したこの巨大な宇宙遺跡に最初に入った調査部隊の生き残りの一人。生ける伝説だぞ。最新ランキング9位。


「ハロー、ボーイ覚悟はできてるか?」

 デカい・・・なんだこの威圧感。

 身長190㎝以上、巨漢の元アメリカ海兵隊のえげつない胸板、鎧のような筋肉を覆うフルアーマーのパワースーツで、その巨体は二メートル以上だ。

 それに、その巨漢が持っている、異様なまでの巨大な戦斧はまさに「鬼に金棒」なんてチープな言葉さえ浮かんでくる。嗚呼、ガキの頃夢中で集めたステアーズチップスのホログラムカードと同じじゃねーか。テレビ台にフル稼働フィギアとか買って飾ってたなぁ。

「って、なんで入学セレモニーでSSS(スリーエス)ライセンスのトップランカーがフル装備で出てくんだよっ!!」


 見通しが良くて、これだけの巨体が隠れる場所なんて皆無なこの状況で、あれだけ警戒していた、首席のニアに悟られることなく奇襲するなんて、どれだけだよSSSランカーってのは・・・死んでないよなニヤ。俺はニヤの安否を確認する事も出来ずに、蛇に睨まれた蛙のように視線すら動かせない状態でフリーズする。頭はパニックで余計なことばかりがグルグル回ってる。


「USAイーグルの最新型人工筋肉搭載のプレート・アーマーだ、まだプロトタイプたけどな、全世界配信だからなぁ、宣伝も兼てのお披露目だ」

 子供のころから憧れてたレジェンドが、目の前で俺に向かって話してるぜ。夢かよっ!最高かよ。目の前でニヤをやられてるのに、変なテンションだ。恐怖と畏怖で身がすくみ、極度の緊張と歓喜の興奮で顔がにやける。

 お前らはこの新作の実験台だから、データ収集が終わるまで死ぬんじゃねーぞ、がははははははと豪快に笑いながら戦斧を振り回す。

 「スタジオ・ステアーズ」で何度も観たヒーローだ。しゃべり方や仕草や動作も全部知ってる。

 俺は親父やおふくろよりも、あんたに憧れてここに来たんだ。



「最新式の装備は良いぜっ!!エボを登るならいい装備をそろえないとな、装備が貧弱だとチームの生存率が一気に下がるからな、ここで踏ん張ばれば、お前も良いスポンサー見つかるぜぇ!!」

 あんたはエポが解放される以前、人類未踏のこの塔に踏み込んで生き残った伝説だ。

 二十年で人類最高到達地点40階をマークし、ステアーズの最先端を未だ現役でけん引し続け、スポンサー年間契約金12億円越えの化け物だ。世界各国に大豪邸を持ち、多くのハリウッドスターやセレブとも親交が厚い。人気実力ともにトップクラスのステアーズ。


 俺は憧れたあんたみたいになる為に、必ずステアーズになって成りあがってみせる。


 この放送は世界中のステアーズチームのスカウトマン達だけではなく、多くのチームを抱える大企業のトップたちも視聴しているはずだ。セレモニーに選出された生徒は他の一般生徒よりも早く、全世界のステアーズ・スポンサー企業に自分を売り込む事ができる。命がけの自己PRタイムってわけだ。

 ノーマンの所属する、USAイーグルに自分を売り込みたい――――――――なんて言ったら爆笑されるだろうな。


 ふーっと、息をついて。

 浮かれている自分を落ち着かせる。

 固まった手足は動く。ナイフを握った両手をくるくる回す。

「・・・こっちはダマスカスナイフ二本しか装備してねぇーてのっ!!」

 手の甲で眼鏡の位置を正す。そして、使い慣れたナイフのエッジを見て、改めて冷静さを取り戻した。


「この状況、理解できてるか?――――――――理不尽なほどの実力差、支給品装備のボーイと選ばれた者しか装着できない最新鋭のオリジナル装備の俺様・・・・勝つのはどっちだ?」

 目の前の巨漢なアメリカ人は戦斧を振り上げ、俺めがけて振り下ろす。

「これが現実だ、ここは夢見る異世界じゃないぜ!!ボーイッ!!」

「っ!!!」

 硬度の違う異種の鉱物を積層鋳造した、木目模様の黒い刃のダマスカス・ナイフ二本でいなす。硬くしなやかなのが特徴のこのダマスカス鋼は、決して曲がらず折れない――――――――はずだ!!

多分きっと・・・・。

ギギギギギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!!

 金切り音を響かせ、火花を散らしながら軌道がそれた戦斧は、俺の体の真横を通り過ぎて石床を粉砕する。

「この島には、王様も居なければ、魔王も居ねぇーぞっ!!ボーイッ!!!」

 まるでアイスホッケーのステックみたいに、巨大な戦斧を下段からすくい上げる。

 流石元NHLの選手だけあって、まったく無駄とためらいの無いモーション。

「いい反応だ、ボーイっ!!!!」

 

 ボーイボーイうるせえって!

 冗談じゃねぇぞ、脳しょう飛び散らして死んでてもおかしくない一撃だ。

 すくい上げた後そのまま戦斧の横薙ぎ一閃、完全に無防備だった胴体を狙ってくる。未成年相手にこの攻撃出せるって、どういう神経してんだコイツ。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!こんなもん喰らったら即死じゃねぇーかっ!!!」

 さっきまで、憧れてたっての無し。幼少期のちょっとした夢が台無しで帳消しだ。

 ちょっぐらい手を抜いてくれるのを、期待していた自分にも幻滅。集中力を切らしたら本気であの世に召されてもおかしくない。

「いっそ召されれば女神さまが現れて、都合のいい異世界に転生できるかもなぁ!!おらぁぁぁぁ!」

 心まで読めるのかっ!?ってか、俺言葉に出してたっ!?

 

 動揺して一瞬のスキを見透かされて、上段から振り下ろされた戦斧の衝撃。

 破砕音と衝撃波が同時に響き、粉砕され床石の瓦礫がショットガンの銃弾ように飛んでくる。

「うおっっ!!!!」

 腕をクロスにして顔面をガードするが、銃弾のような瓦礫が肉の腕を抉っていく。慌ててバックステップ。

「前途ある若者に何てことしやがるっ!!!」

 腕が痛い、血が止まらない。

 両腕に心臓がある様にドクンドクンと血流の流れを感じる。あまりの痛みに歯を食いしばり口の中で血液の鉄臭ささが広がった。。


「メガネのくせにピーピーとよくしゃべる奴だな、全世界同時放送だぜ」

 カメラドローンをチラッと見て、戦斧を軽々と片手で持ち上げ、ブンブンと回し始める。

「俺様が秋葉原で学んだ眼鏡キャラってのは、冷静で策士で冷酷なキャラがほとんどだったんだがな、お前はそうじゃないのかい、ジャパニーズ?――――――――だったらガッカリだ」

 

 はっ?


「どこ情報だ!!んな!メガネがクールなキャラって決めつけてんじゃねぇー、それどころじゃねぇーだろコレはっ!!?」

 血がドバドバと流れる腕を振って見せる。死ぬほど痛い。

 でも、頭は意外と冷静で、このおっさんがアキバに出現しただけで、それは事件だろっ!?つか、何しに行ったんだ?メイドか?サブカル系か?だからさっきからやたらと、異世界転生モノ例えが多かったわけか・・なんて、くだらないことを高速で思考する。


 それにしても、まったく殺意も悪意も無いただの攻撃でコレだ。去年までわりと和気あいあいにやってたじゃねぇーかよ。集団鬼ごっことか。

 

 まさか公開処刑ってホントなのか?


「あははははははははははは」

 死んだかもしれない攻撃を避けたところで、俺の精神が音を立てて崩壊していくようだ、涙と笑いが止まらねぇ。

「おいおいおい、笑ってる場合じゃねぇーだろ、それとも余裕か?」

「泣いてんだよビビってんだよっ!!、見てわかんねぇーのかっ!!!」

「謙遜するなって、今年の新入りどもは特別らしいじゃねぇーか、塔に登ってもいないのに天然のギフト持ちなんだろ?――――――――でも、ダメダメだなぁ」

 言われなくとも分かってる。こんなに追い込まれても、俺は正直ギフトを出したくないのだ。

「お前なめてるだろ?ランカーのステアーズ相手に、ギフトの出し惜しみして生きて帰れるとでも思ってんのか?」

 さっきも言われたよ「なめてんのか?」って。一日に何度も言われないだろ?普通…。

 実のところ、なめてなんかいないのだ。

 ただ嫌なだけなんだ。思春期真っただ中でアレをやるのか、それともここで死んでしまうのか?・・・・嗚呼、葛藤で死にそうだぜ。

 ナイフ二本握り締め覚悟を決める。

 このまま葛藤で死ぬか、必死に足掻いてみせるか・・・。


「んなぁぁぁぁっ!!!!んなところで終わってたまるかよ!!」


 

「天満ぁ、少し落ち着いて」

キュッキュッ キュッ

 サインペンで猫柳二夜と書いたところで、はぁーとため息ついて呆れた表情で振り返る。


「落ち着いてられっかっ!!・・・・・ってニヤっ!?」

 壁に吹っ飛ばされたはずのニヤが、何食わぬ顔で掲示板にサインしている。

 いや、飄々とはしてるけど、銀色の前髪が鮮血で真っ赤だ。

「なんで、お前血流しながらサインしてるんだよっ!!大丈夫か?」

 頭部から顔面にかけて大量出血してんじゃねぇーか。

「うん、すげぇー痛かった、ホントは出会う前に逃げ出したかったんだけどね。天満も腕、痛そうだね」

 肉が抉れて、ナイフを持っているのがやっとな俺の腕を指して言う。

「ほう、銀髪ボーイいつの間にっ!?」

 ノーマンの表情に警戒が混じる。

 その瞬間、ノーマンは巨大な戦斧を音を立てずにカチあげる。

 しかし、巨大な戦斧は空を切る。

「なっ!?」

 ノーマンだけではない、俺の視界からモーション無しで、ニヤが消えたのだ。

「天満」

 後ろっ!!?

 その声で俺は振り返る。

 煌々と蒼く光る瞳をしたニヤが、真剣な表情で俺を睨む。


「俺たちのミッションはサインして脱出だよ・・敵の撃破じゃない。あと、ここでギフトの出し惜しみは駄目だよ、相手の実力を知っているなら、なおさらね」

 淡々と正論を語る二夜の両瞳には、蒼いクロスの紋章が煌々と浮かび上がっている。

 ニヤの神眼系ギフト200×(Two Hundred times)。

 正直どんなギフトか俺は知らない。

 ただ進化学園の模擬戦でニヤとアリスが戦った時、一度だけ見たことがある。


「フンッ神眼持ちかよ、系列は身体強化か瞬間移動能力者テレポーターかっ!?」

 ゆっくりとニヤを警戒してノーマンが向きなおす。

 多分、不正解だ。

「面白い、それが銀髪ボーイのギフトかい?」

 嬉しそうに舌なめずり。その表情は冷静だ。

「そうか・・・そうだよな」

 俺は思わず呟く。


 ニヤも本気出して向き合ってるんだ。俺ごときが、ギフトの出し惜しみしてる場合じゃないよな。いい加減覚悟決めろ、俺っ!!

「ニヤ、悪い・・・二十秒時間稼いでもらっていいか?」

「二十秒?・・・メガネボーイは溜め系のギフトか?・・この俺様を二十秒、小僧が無手で相手をすると?」

「オッケー、二十秒ね!」

 ノーマンの言葉には耳を全く貸さず、ニヤは見透かした笑顔で俺の顔を見つめる。

「んじゃカウント始めるよ――――――――。いーち、にー」

 ニヤがカウントを始める。しかも指折りながらっ!! 子供かっ!?


「ランカー相手にガン無視かっ!!? いい度胸だ」

 巨体が瞬時に消える。残像を残しつつ低姿勢になり、超高速でニヤの懐に入る。そして巨大な戦斧を再びうねりをあげながら振り上がる。

 たちまち轟音が巻き上がる。回避不能のタイミングの攻撃を、ノーマンは刹那の瞬間でやって見せた。


「なっ!?」

 戦斧は轟音を上げて、空を裂いただけだった。

「さーん、しー」

 振りかぶったノーマンの真横にニヤが瞬間移動。しれっとした表情のまま、俺に向かってカウントを続けるニヤ。ボクシングのレフリーみたいだな。


「これはこれは、どうなってるんだ?」

 ノーマン・ガーランドは顎に手を当てて、いぶかしそうな表情のまま、ゆっくりとニヤの方に向き直り、戦斧を構え直す。



 200×発動中のニヤには、あらゆる攻撃が通じない。

 さっきみたいに、出会い頭に意識外からの攻撃。いわゆるギフト発動前の不意打ち、そこで仕留めなければいけなかった。

「ごぉー、ろーく」

 耳元で大声でカウントを続けるニヤ。

「わかったよっ!!やるよ、やりゃぁーいいんだろっ!?」

 俺のギフトは色々準備が必要なんだからよっ!! 吐き捨てるように俺は言うと、ナイフをシースに収めバックパックに入れる。そして、おもむろにタクティカルベストを脱ぎ、アンダーアーマーを外す。戦闘服の上半身を脱ぎ、インナーのタンクトップも脱いで、キレイに畳んでバックパックに詰め込む。


「ぶっ!!!!」


 俺が正座して、上半身裸でタンクトップを畳み終わった瞬間、ノーマンは耐え切れなかったように噴き出した。

「ぎゃはははははははははっ!!!!なんだそれっ!?ジャパニーズ・ストリップか?マジうける」

 おっさん、「マジうける」とか何時のギャル語言ってんだよ。

「だから嫌なんだよっ!!人前で裸になるとか、恥ずかしくて死にたくなるわいっ!!!」

「うぷぷぷ、どんなギフトか知らんが、ぶっ・・チマチマと裸で服畳んでるのを大人しく見てやるわけにはいかねぇーんだわ」

 大きな手を口元にあてて、巨躯を折って腹を抱えて、あからさまに馬鹿にして笑ってやがる。


 ひとしきり笑った後、ああー腹が痛いとか言いながら戦斧を担ぐ。

 皮肉にもこれが初めて、ランカー・ステアーズのノーマンに与えたダメージだった。


「俺は男の着替えには興味がないっ!!というか見たくもないんでなっ!!」

 女の着替えには興味あるんかいっ!?

ブォォォン。

 まるで氷上のアイスホッケー選手のように、鮮やかにターンして両手で戦斧を構える。

 あのパワースーツ、ホバー機能付いてるっ!? いや浮遊機構の類か?その動きに見とれている隙に、一気に間を詰められる。

 やっぱり狙いはこっちかよっ!!?


「おっさん! 半裸で無防備な好青年を、問答無用で襲うのかよ!!俺だって好きで見せてるわけじゃねぇってっ!!」

 戦闘服のズボンを、片足抜いた状態の俺に肉迫する。

「おおおーうっ!!せっ、せめて服と眼鏡をカバンにしまわせてっ!!」

 服とか脱ぎ散らかしたまま死ぬのも、死ぬほど嫌なんだよ俺は。

「進化のエボでは、弱いものから襲われ死ぬんだよっ!!」


「じゅうはちーっ!!!!」

 突然、瞬間的に眼前に現れたニヤがノーマンの顔面目掛けてパンチを放つ。

「ちっ、瞬間移動っ!」

 ニヤの奇襲攻撃に対応したノーマンの反応がえぐい、カウンターで戦斧の迎撃をしている。

「そんな不意打ちが俺様に効くかっ小僧!!」

 ニヤに目掛けて戦斧が唸りを上げて猛追する。あの戦斧追尾機能付きかよっ!? そう思った瞬間、再びニヤの姿が消える。

 そして、戦斧を振り切った、隙だらけのノーマンの前に再びニヤが現れる。

「じゅうきゅうぅぅぅぅぅっ!!!!」

 ニヤの攻撃に、体勢が崩れたままのノーマンは対応できない。

「クソッ、一発もらってやるっ!!ガキの打撃が俺様に効くわけっ・・・ぐぼぉぁっ!!!!」

 ニヤは右拳を振り切り、プレート・アーマーで守られていない、ノーマンの顔面に渾身のパンチを入れる。


 おもいっきり効いてるな、アレ。

 ノーマンの身体は巨大なハンマーで殴られたように、鼻血を噴き出しながら、その巨躯を仰け反らせる。打撃の重さと衝撃で、思わず手から戦斧が離れた。


「いい打撃だっ!! 何をしたらそんな細腕で、これだけの破壊力が出せるんだぁ? 小僧!」

 仰け反り、倒れかけたノーマンの身体が、不自然な角度で止まった。

 ノーマンの血だらけの顔がニヤリと笑うと、反動で引き戻り大きな手でニヤの右腕をがっしりと捕まえる。

 ノーマンは、したり顔で勝ちを確信する。

「ほい、捕まえた」

「うぉ!しまったっ!」

 飄々としていたニヤの顔に、焦りが出る。


「ほらぁぁぁぁぁぁ!!! にじゅーーーーーーーうっ!!!!!」

 ノーマンがニヤの代わりにカウントを進めながら、再び仰け反り、その反動で引き戻った頭突きが、右腕を掴まれたニアの顔面に炸裂する。

 鈍い音の後。

 ニヤの顔面に埋まったノーマンの頭部が離れる際に、ぐちゃっと、赤い鮮血が糸を引きながら垂れた。

「にじゅういちぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」

右腕を掴まれたまま持ち上げられ、ぐったりとしたニアの顔面に、再びカウントを進めたノーマンの頭突きが炸裂。

「腕を掴まれたままだと、瞬間移動は無理みたいだな」

 腕を掴かまれたままの、ニヤの意識は朦朧としている様子で、ぐったりとしたまま動かない。


「まぁ、ランカー相手に20秒粘ったんだ、自慢していいぜ」

血だらけのニアの顔を見ながら、捕まえた獲物を値踏みするように、至近距離で観察するノーマン。


しかし、その背後に、ノーマンの身長を遥かに凌ぐ化け物が出現した事を、彼はまだ気がついていなかった。


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