40階の謎
いよいよ新年度が始まりました。
今作品も、新章にむかて一層励んでまいりますので
どうぞよろしくおねがいします。
真っ赤な瞳がまるで値踏みする様に見つめている。
両目が真紅に光った瞳は、息子である俺の目ん玉を奪った以前と同じ輝きを放っている。
「その瞳…、オレとは別の仕上がりになってやがったか…面白い、まぁ及第点ってところだな二夜」
そう言って瞬きすると、両目の色が青色に変わる。
なるほど、瞬きで切り替わる仕様って事だ。
確かに、俺とは違う仕様に仕上がったって事だね。
「茜をここまで追い込むとは、さすがと言うべきかな?」
目の前の少年は、まるで容姿とは不釣り合いな厳格な口調で俺に近寄ると、頭髪をくしゃっと握る。
その握った髪を力任せに自分に引き寄せ、耳元でドスの効いた声で呟く。
「だが、やり過ぎだ…義理とはいえ、実の姉をキサマは何回殺すつもりだ!? あぁ?」
俺はミカドの手を振り払うと、目一杯殺気をはらんだ紫の瞳で睨み返す。
「あぁ痛いなぁ、6回だよ、解るだろ? この女は俺の友達を6回殺したんだ、当然の報いでしょう? 」
掴まれてクシャクシャになった髪を整える。
「この目のことも含めて、俺すっごく怒ってんですけど! 」
なんならこのままミカドと一戦する勢いで、抜刀したグラディウスを前のめりに構える。
「フン、俺の技をコピーした程度で勝てると思ってるのか? キサマは…」
「勝てる勝てないの問題じゃない! この女が2人を生きらえらせなかったら、天満も安綱も死んでたんだ…当たり前だけどさ、友人の命弄ばれて怒るのって普通じゃん」
この女の気分次第ってところ恐ろしいのだ。
逃げ場のない怒りを何かにぶつけたいってだけかもしれない。
けど、それを許容しているこの男も許せない。
コイツの気分次第じゃないか! 俺の瞳も、友人の命もさ…。
「痛たたた…」
金色金剛阿修羅王だった肉塊から、裸の茜が這い出てきた。
「ふん、こんなんで、私に勝ったつもりにならないでよね」
茜は立ち上がって、恥ずかしげもなく胸を張ってふんぞり返りながら告げる。
開口一番がソレなんだ。
「誰がどう見ても、負けてただろ! 茜の完敗だ! 」
子供の姿のミカドは自身が羽織っているマントを裸体を隠そうともしない娘に頭から被せる。
「……ウソ」
ここで初めて茜はミカドの存在を認識したのか? 瞳を丸くして目の前の少年を見つめる。
「パパァー! 来てくれたのぉ?! 」
「えぇい! じゃれつくな! 」
ミカドに飛びつく茜の顔を掴んでハグを拒むミカド。
『えっ…と、どういう理由かわかりませんが…子供の姿になった赤星帝氏の乱入など波瀾な展開となりましたが、大会優勝者はぁ!! 猫柳二夜選手!』
ジェームスが手を掴んであげて勝ち名乗りをすると会場から歓声が上がる。
「くどいですが…本物の赤星氏で間違いないですよね? 」
「この瞳で、監修の前で裸踊りでもさせてやろうか?」
帝の瞳が赤色に輝く。
「うっ…えっ,遠慮しておきます…」
ジェームスはゴクリと唾を飲み込んで、言葉を続ける。
「で、今大会の序列ですが、二席と三席はいかがいたしましょうか? 」
ジェームスがマイクを押さえてミカドに伺いを立てる。
「通ったダメージ量と生存時間を鑑みて、二席を天草天満、三席に渡辺安綱ってところだろう」
ジェームスは黙って頷くと、大きく息を吸う。
『続いて序列二位は! 天草天満選手! そして三位が渡辺安綱選手となりました! オッズによる配当金はこちらです!』
電光掲示板に単勝、ストレート、ボックスと配当金が表示される。
競馬中継でよく見るアレだ。
なるほど、三番人気の天満が二席になったのが予想外だったみたいで配当金はやや高めだ。
安綱の強さも、黒髪ポニーテールの彼女のファンも多いから、当然二番人気も納得だけどさ、言っても安綱は最近ギフト持ちになったばかりの一年生で、天満は生まれてからギフト持ち…この差は1ヶ月や2ヶ月で本来埋まるものじゃないんだよね。
あれだけ他者を圧倒して戦えるのは、安綱が鬼斬り集団の《渡辺》だからで、ギフトを完全に使いこなせてるかと言えば答えはNOなのさ。
今日の戦い方を見ても、人間を遥かに凌駕する《鬼》を平安時代から専門に狩ってきた《渡辺》の技に頼りすぎている感は否めない。
刀による《斬撃》を決め手に想定した構成の攻撃パターンだけでなく、あの雷撃を牽制やフェイントだけでなく、もっと決定打になるような構成や技の熟練度を上げる必要がある。
今回は時間が足りなかった…ってのが敗因だろうね。
安綱があのギフトを使いこなせるようになったら、間違いなく俺たちより強くなるだろう。
『それでは、表彰式の前にまずはこちらをご覧いただこうじゃないかぁぁ! アイドルグループ《フォックス》による新曲のお披露目だ!』
『先週リリースされた新曲《尻尾まで愛して》です! 皆、心して聴けぇぇぇ!! 銀子ぉぉぉぉぉ! 愛してるぜぇ! 』
ジェームスの呼び込みと共に、派手な演出でメインステージに6人組のフォックスのメンバーが登場する。
爆音で流れる音楽に合わせて踊る銀子さんと目が合う。
ステージ脇で待機している俺たちを見つけると、上機嫌でウインクして軽く手を振った。
すっごい上機嫌だ。
どうやら賭けには勝ったみたいだね…ホント、期待に添えて良かったよ。
「それにしても、あの凶暴性悪赤いきつねの玉藻銀子の豹変ぶりは見事なものね」
「ファンはみんな知ってるさ、どっちもプロってことだろ? アイドルもステアーズもさ」
この後の表彰式の為に、係員に誘導されてステージ横に案内されてきた天満と安綱だ。
「凶暴ってところは安綱も変わらないと思うけどね」
銀子さんはギフトのよる弊害で凶暴性が発症してるんだろうけどね、安綱の場合は彼女の本来の気性の荒さだ。
「誰が凶暴よ!? 」
「お前だよ! 自覚ないのかよ? それはそれで相当ヤバいぞ」
天満が一番の被害者だからね。
「はぁ? 嘘ぉ、私は《渡辺》でもかなり温厚な平和主義の方なんだけど…」
天満に真顔で「ヤバい」とまで言われた安綱は、流石に狼狽えた様子。
やっぱり自覚なかったんだ。
「お前が温厚って…渡辺家ってどんな戦闘一族なんだよ! マジで怖いって」
天満も呆れた様子。
「さすが鬼切り渡辺家だねぇ」
「ニヤくんも! うちの事、家系ラーメン屋みたいに言わないでよ…」
安綱の事だからもっと怒るかと思ったけど、意外にしおらしくなっちゃった。
フォックスの新曲のお披露目も終わり、表彰式が始まる。
参加選手が会場に整列する中、俺と天満と安綱は表彰台で、それぞれメダルをかけられて讃えられた。
「オリンピックかよ…」
天満が呟く。
「あはは、それ俺も思った」
「それにしても、なんで私が3位なの? 私は天満に負けたなんて思ってないから調子に乗らないでよね」
「調子になんて乗ってないし! なんなら俺が3席でいいぜ、代わってやろうか? 」
「はぁ、代わってやろうか? ですって!? なんならここで二位決定戦してあげてもいいわよ」
「やるかよ!! 」
「みっともないから戯れ合うのはやめなよ、負け犬のお二人さん」
「「誰が負け犬だ(よ)!!」」
茜と同じ幻獣クラスのギフト持ちのクセに、キッチリ3回も殺されちゃって、ギフト持ちになったばかりの安綱はまだしも、ギフト歴17年の天満はもう少し頑張ってもらわないとね。
天満より茜の方がキャリアは短いし、なんなら彼女は回復者なのだ。
「俺からしたら、2人ともダメダメだよ」
「「あぁ!?」」
両脇の2人に睨まれるけど、事実だから仕方がない。
「ハイハイ! 両脇のお二人さん! 笑って笑って!」
数人の記者たちの構えたカメラに向かって引き攣った笑顔で答える2人を見て、本気で吹き出しそうになる。
『それでは、これより大会スポンサーでありますチーム《六界》代表赤星帝氏と《USAイーグル》チーム代表のノーマン・ガーランド氏から重大発表があります! 』
メインステージに小さなスーツ姿の子供のミカドと対照的に巨体のノーマンが現れた。
ジェームズの案内で対談用の大きな椅子にかけるように促すと、二人は揃って腰掛ける。
『さて、お二人は本日我々に重大な発表があるそうですが、どのような内容なのでしょうか? 』
『あぁ、この姿で赤星帝を名乗るのは抵抗があるところだが、まず俺たちが7年前に到達したフロア40に存在する《門》について説明したい! 』
ソファから足を浮かせた帝がそう言うと、アリーナの巨大モニターに7年前の《六界》と《U S Aイーグル》との共同アタックの様子が映し出される。
『先ほど赤星茜氏が変身した、39階のフロアボスの金色金剛阿修羅王を倒した我々は2チーム揃って40階に到達しました。この映像は当時我々が撮影した映像です』
子供の姿のミカドに比べて、まるで筋肉でスーツが張り裂けそうな巨体のノーマンが続く。
モニターに西洋の城にあるような石垣に囲まれた木造の門が映し出される。
『我々はこの門を《COMPLEX GATE(劣等の門)》と名付けました…』
『この門は通過した者の、深層心理にある劣等感を少し歪んだ形で叶えるという,変則的な門であり』
『当時、年齢的に限界を感じていた赤星氏は、見ての通り若返り…より強く大きくなりたいと思っていた私の身長を5センチほど伸ばしてくれました…』
ノーマンの大ぶりのジェスチャーで、ドッと会場が笑いに包まれる。
『なんと! ノーマン氏の言ったことが事実なら、門が通過者の劣等感を解決してくれるとの解釈でよろしいでしょうか!? 嗚呼、是非私も通りたい!』
MCのジェームスも食いつく。
『いかにも! これは考え方次第では、今後この門を訪れる者はこのコンプレックス解消の作用を能力向上に使える! という事を覚えておいて欲しい』
『気になっている枝毛がなくなったり、身長が伸びたり、ソバカスが消えたり、薄かった胸が大きくなった! それでもいいというのならそれもよかろう』
ノーマンは立ち上がり会場を見渡す。
『しかし、必要な事を心の底に刻む事で、さらなる進化の可能性がある事を是非覚えておいて欲しい! 筋力アップ、耐性アップ、スピードアップ等々、塔を攻略するのに自信がない能力を補える可能性があるということを!』
ここで、帝がもう一つの謎に触れる。
『そして、もう一つ! 我々が41階に上がれなかった理由をここで話しておこう…』
『ソレが、この映像だ』
画面に映し出された映像は、石段の階段の突き当り。
本来41階の入口に当たる場所に、もう一つの門が閉ざされたまま聳え立っていた。
『当時の俺たちではどうしても扉を開けない理由があったのさ…それを説明しよう…』
ノーマンが顎髭を触りながら、意味深に微笑んだ。
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