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本番開始

今回は割りと早めの投稿です。

まだまだ暑い日が続いてますが、秋はいつ来るのでしょう?

次回、続きが気になった方、応援宜しくお願いします。

褒められると伸びるタイプなので是非是非。


 ズバァーッン!


「うっおぉぉぉぉっ!」

 身長180センチはあるだろう、体格のいい男子が大楯を構えて前進。

 その大楯に銃弾が着弾したのと同時に、衝撃で盾ごと上体が跳ね上がる。

 模擬弾が粉々に粉砕されオレンジの粉となって後方に流れた。

「嘘だろ、模擬弾でも当たったら死ぬレベルじゃん」

「怖ぇー、あんなの無理だって」

 生徒たちが戦々恐々とする中。

 

スッタァァァァーン!


 着弾の後に銃声が遅れて通路に響いた。


 その様子を伺っていたBクラス全員が固唾を飲む。

「全然見えねーんだけど…」

「なんか着弾の衝撃ヤバくない?」


 男子生徒は、仰け反った姿勢から慌てて前傾姿勢に戻し、呼吸を整える。

 体を盾の中にすっぽり隠し、ゆっくり歩を進める。

 2m


 3m…。


 ズバァーッン!


 わずか数メートル進んだところで、2射目が着弾。

 大楯を構えた彼が衝撃で数メートル下がる。

「スタート地点に戻されてんじゃんかよ」

 それでも、男子は盾に身を隠し必死の形相のまま肩で息をしながら、ジリジリと再び歩み始める。



 ズバァーッン!


 第3射目を受けた時、盾の当たりどころが悪かったのか、構えた盾ごと後方に吹き飛ばされ、派手に転がってしまった。


「そこまで!」

 その様子を見ていたシャオロンが試験の中止を告げる。

「はーい、今のを見て、同じように盾を使って進もうと思ってた奴らー、どうする?やるか?やめとくか?」

 

 待機場でモニターしていた生徒たちに意地悪な笑みを見せながら、試験の続行を尋ねる。

 生徒たちは互いに気まずそうに顔色を伺う。


「まぁ、今のやり方でなんとか進んだとしてだ、スナイパーをどうやって倒す?手段は?武器も体力もなければ、当然、その先も絶望的って事で、今のは不合格だ」

 真新しい大楯を持った殆どの生徒が俯いてしまった。

 ただ《通過》を目的にしていた連中はここでリタイヤかしら?


「この課題の目的は、まず持っているギフトをいかに状況に当てはめて運用するか?次にギフトでカバーできない部分をどう装備で補うか?ってところが重要だ」

 盾を購入して行進するってのは、半分正解ってことで、正解じゃないのよ。

「んじゃ、クリアするって自信のある奴ー!挙手っ!」


「ハイハイハイ!私にやらせて!」

 待ってましたわ。

 さっさと私をクリアさせなさい!じゃないとトーナメントの開会式に遅れちゃうじゃない!

「あっ、言っとくけどアリス・リデルは最後な、お前俺の授業邪魔したから、俺もささやかな仕返しだから諦めろ」

「はぁっ?ナニよそれ!?」

「ナニよそれ…じゃ無いよ、俺は講師でお前は生徒なの!わかった?言うこと聞きなさいよ、まったく」

「そんなの横暴よ!」

「横暴でもなんでもいいの…ハイ、他に自信のある人ー!合格したら特別席でトーナメント観戦しに行っていいからな!不合格者は自室でモニターで観戦だからな外出しない様に!」

 

 目の前で立ち上がって挙手し続ける私を無視して、シャオロンは他の生徒の顔を見る。

 すると赤髪のパク・シフと金髪のリ・ミンソンが手を挙げる。

「ほう、いいねぇ、んじゃ二人がどんな方法でこの通路を攻略するか見せてもらおうか?どっちが先でもいいぞ」

 顎の無精髭を摩りながら、シャオロンは二人を交互に見つめる。

 韓国の二人は無言で手を出して、ジャンケン。

 勝ったのは赤髪の彼。

 二人は拳を軽く当てて、互いの健闘を祈った。


 韓国の赤髪のパク・シフはサイコキネシスのギフト持ちだ。彼が用意した装備は…、戦術用ゴーグルと、ドラゴンをも倒しそうな巨大な大剣だった。

 その鞘にも入らない巨大な剣を軽々と担いでパフォーマンスを見せた。

「おおー」

 他の生徒たちがどよめく。


 パク・シフは高身長だが、とてもあんな巨大な剣を扱えそうな筋肉質な身体ではない。

「なるほど、念動力で剣を操ってるのか?」

 ふふん、と上機嫌で呟くシャオロン。

 浮力はギフトで、剣の軌道は腕で操ってるのね。


 パク・シフは中段に大剣を構えてスタートラインに立つ。

「では、はじめ!」

 開始の合図と同時に、中段に構えた大剣を床に叩きつけて、刃を横に倒し自身の身体を隠す。

 

 風切り音。


 ズパァァァーン!


 飛来した弾丸は剣の側面で斜め上に軌道を変え、天井に当たり粉々に粉砕した。

 間髪入れずにパク・シフは大剣を軽々と目の前に放り投げると、サーフボードに乗るようにジャンプする。

「なるほどな…」

 シャオロンが納得した様に頷く。

 大剣がパク・シフを乗せて宙に浮く。

「行けぇー!!」 

 フワフワと宙に浮いた大剣がパク・シフを乗せてゴールに向けて飛翔する。

「うーむ、確かに面白い発想だが、さて…2射目はどう捌くんだ?」

 シャオロンの呟きの通り、2射目までに距離は稼げたがゴールはまだ先だ。


 モニターに映されたパク・シフに2射目が射出される。

 パク・シフは飛翔するボードにエアブレーキをかける様に剣先を浮かせ、底面で銃弾を受ける。

 そして、体勢を戻すと再びゴールを目指す。

 3射目も4射目も同様に弾丸を防ぐ。

「完全に射撃の射線を捕らえてるのは、あのゴーグルだな」

 シャオロンも気がついた様で、彼がつけてるのは戦術AI搭載のステアーズ御用達の戦闘用ゴーグルだ。


 彼があの日、購入したのは《武器》だけでなく《目》も購入していたってこと。


 あの特殊なゴーグルは剣の軌道を読んだり、銃弾の弾速に、射線まで正確に予測し可視化して使用者に知らせるシステムで、近年では九識製をはじめ義眼化も一般化している代物だ。

 狙ってる場所とタイミングが分かれば、防御にギフトを無駄に発動しなくても済むだけでなく、飛行に能力を集中させることが出来る。


 そして、そのまま勢いを殺すことなくスナイパーのボットに肉薄すると、大剣から飛び降り柄を掴んで横薙ぎ。

 見事にボットを真っ二つ破壊して、試験をクリアしてみせた。


「文句無しの合格だ!防御、移動手段、そして攻撃…自分のギフトを理解したうえで、しっかり練られた攻略だった!お見事!はい皆んな拍手ー」

 シャオロンの言葉で、生徒たちからも拍手が上がった。


 そんな中、次に緊張した顔でスタートラインに立ったリ・ミンソンもパク・シフ同様にゴーグルをはめてクラウチングスタートの姿勢で待機。

 スナイパーボットの交換完了で試験は再開された。

「それでは次、始め!」

 スタートの合図でリ・ミンソンは全力疾走。


 銃弾の接近をゴーグルが知らせ、そのタイミングに合わせてギフトの花弁の形の半透明のシールドを展開。

 シールドと共に全力疾走のリ・ミンソン。 

 シールドが弾丸を弾くと、シールドを消して進む。

 2射目に合わせてシールドを展開し、銃弾をものともしないで僅か数分でスナイパーの元に辿り着いてみせた。

 そして、具現化した2枚の花弁をブーメランの様に飛ばしてスナイパーを見事に破壊した。

 モニターにはガッツポーズするリ・ミンソン。


「タイムはまぁ平均的だが、ギフトを常時展開にしないで要所要所で使ったところは良かったな!上階層を目指すならギフトを効率よく使うってのは賢明だ…リ・ミンソン合格!」

 二人の合格者が出て、生徒たちからも歓声が上がる。

「よーしこの調子で、次は誰が行く?…あっ、わかってると思うがアリス以外な!」

「もう!意地悪ね!わかってるわよ!いい大人がいつまでも根に持たないでよね!」

 まったく、あと何人この試験受けるの?早くしないとトーナメント始まっちゃうじゃない!

 開会式で組み合わせが発表されるみたいだけど、安綱は何試合目なの?ニヤ君や天満君と当たらなければいいけど…。


「あの、私いいですか?」

 私の心配を他所に、自信なさそうに波際奈美が手を挙げる。

「ほう!よし、波際行ってこい!」

 シャオロンの言葉に押されて、奈美はゆっくりと大きなリュックを背負ってスタートラインに立つ。

 そのラインを超えた瞬間から狙撃手の標的となる。

 誰かに銃口を向けられてるってだけで、普通なら足が震えても仕方ないんだ。

 しかし、ステアーズは逃げてはいけない。

 奈美も立ち向かう為に必死に考えて、そしてスタートラインに立っているのだ。


 軽量型の戦闘服に、腕にはこないだ購入したガントレットを装着している奈美。

「行きます!」

 彼女は深呼吸してから、リュックから2リットルのペットボトル2本を取り出し、水を目の前に撒く。

 すると、撒いた水がまるで生き物のようにスライムの様に固まって、ぷよぷよと蠢いた。

 そのスライムを従えて、彼女ははじめの一歩を踏み出す。


 彼女は水属性のギフトの持ち主だ。

 体内の水分、または環境に存在する水分を自在に操る。

 カテゴリー的には私と同じウィザード系のギフト。 

 はじめに勢いよくスライムが飛び出し、彼女の前方で弾けた。

 弾けたスライムは変形して、通路を覆う薄い膜状になると、その形状のまま猛スピードで前に進み始めた。

 それを追うように、奈美はシューズの底から水を噴き出しながら中腰で水面を滑るように加速する。

「なるほど、水圧のジェット噴射を移動に使ったのか」

 シャオロンが驚いた表情を見せる。

「でも、弾丸はどう処理するのかしら?」

「あの膜…だろうなぁ」

「あんな薄い水の膜で銃弾は止められないじゃない」

「止めなくても方法はあるさ」

 何よ、エラく上機嫌じゃない。

 私には意地悪な癖に、ちゃんと指導者の顔で奈美のことを注意深く観察してる。

 しかも、ちょっと嬉しそうなところがムカつく。

 ロリコンオヤジめ!

 

 スタート地点にある巨大モニターに、通路の壁際を走る奈美の姿が映っている。

 その彼女にスナイパーの銃弾が飛来した瞬間、彼女の姿が弾けるように反対側の壁際へ飛んだ。

 その後に、パァァァンと彼女を狙った銃弾がスタートライン奥の防壁に当たり粉々になった。


「何?今、銃弾を避けたの?えっ?どうやったの!見えなかったわ」

「見えなかったか?ならこっちでスローで見てみようか」

 そう言うと、手元のリモコンでモニターを操作。


 画面には、前面に張った膜に穴が開いた瞬間が捉えられ、次のコマでは奈美の右手が壁に触れる。

 そして、次の瞬間、自身に迫る弾丸から身を躱すように、右掌からジェット噴射で身体ごと吹き飛ばし反対側へ跳躍したのだった。


「前面の膜は弾丸の射線を視覚化する為のものだったみたいだな、壁際を走っているのも始めから弾丸を逆サイドに飛んで避ける前提だったってことだ」

 まるで自分が教えてやったかの様に、したり顔でシャオロンは私を見てくる。

 「そうね、彼女凄いわ、あんな方法を考えていたなんて思わなかった」

「まぁ、しかし、世の中そんなに甘くないわな」」

 シャオロンはそう呟くと、モニター横の自動販売機で500mlのミネラル・ウォーターを2本とスポーツドリンクを1本購入する。

 てっきり、一本は私にくれるものだと思っていたら、シャオロンはスタートラインギリギリに立って、奈美の後ろ姿を目を細めて見つめる。

「おーい!お前ら、少し下がってろぉ」

 待機してる生徒たちに手をひらひらさせて、もっと後ろに下がれと合図を送る。

「ナニよ、何するつもりなの?」

 生徒たちが後ろに下がる中、シャオロンの立ち位置から左側を銃弾が風を切って飛来し防壁に当たる。

 壁際から壁際を走る奈美を狙う銃弾はスタートラインの中心に立つシャオロンには、当然擦りもしない。

 頭で解ってても、怖くないのかしら?

 シャオロンは動じる事なく、ゆっくりとしゃがんでスタートラインから奈美がつけた濡れた路面を凝視する。

「コイツは…不味いな」


 銃弾が5度着弾したところで、モニターに映る奈美の姿に異変が生じた。

 軽快に滑る様に走っていた足が止まり。

 弾丸を避けて反対側に跳躍したところで、よろめいて倒れてしまった。

 スナイパーまでの距離は、あと数十メートルという地点だ。

 すぐに体勢を立て直して、回避行動に移らなければ直撃されてしまう。

「思った通りだ!クソッ!間に合えぇ!…」


 バリバリバリバリッ!!


 シャオロンの身体のあちこちから放電が始まったと思った瞬間、私たちの目の前からシャオロンが消えた。

 通路の濡れた場所がバチバチと放電している。

 

 モニターでは、950m地点で倒れて動かない奈美の前にシャオロンが突然現れて、放たれた銃弾を放電しながら突き出した片腕で受け止めた。

「おいおいおい!一瞬で800メートルも移動したのか!?」

「すっげー、まるでレールガンだな」

 スタート地点に戻ってきたパク・シフとリ・ミンソンが目を見開いて驚いた。



システムを緊急停止して、シャオロンに支えてもらいながら戻ってきた奈美の顔は、明らかに試験前より痩せたというか、げっそりとやつれていた。

「アレだ、極度の脱水症状ってヤツな」

 スタート地点で座り込んでしまって口も聞けない奈美に、シャオロンはペットボトルの水を手渡す。

 おぼつかない手で蓋を開けて、一気に喉に流し込む。

「ゆっくり、ただ飲み込むんじゃなく、ギフトを使って身体に染み渡らせるイメージで飲むんだ!」

 シャオロンの言葉に、黙って頷く奈美。

 2本の水を飲み干し、3本目にシャオロンはスポーツドリンクを手渡した。

「人間、体内の水分が2%失われると、人はのどの渇きを感じ、運動能力が低下、 3%失われると、強いのどの渇き、注意力散漫、食欲不振などの症状がおこり、4~5%になると、疲労感や頭痛、めまいなどの脱水症状が起こる。そして、10%以上になると、普通の人間はまぁ、死ぬ一歩手前ってとこだ」

 奈美は3本目のスポーツドリンクを飲み干した後、小さな声で「ごめんなさい」と呟いた。

「怪我ならハイポーションやエリクサーでなんとかなるが、脱水には効かないからな」

 顔色が戻り、肌艶にハリが戻ったところで奈美は立ち上がる。

「やっぱり…課題は不合格ですよね?」

「んー、クリアはしてないけどな…まぁ合格でいいんじゃないか」


「えぇー、講師それはひいきですよー」

「ゴールしてないじゃないか!」

 盾でクリア出来なかった連中から抗議が上がる。

「あのなぁ、今回の課題はスナイパーの攻略をすれば合格だ!ただ、Aランクを目指すに当たっての方向性を示すのが条件なんだ」

「方向性?」

 イマイチ自分がなんで合格なのか判っていない奈美が首を傾げる。

「己のギフトと向き合い、試験をどう攻略するか?を考える課題だったのさ」

 シャオロンはホワイトボードで書き殴りながら説明する。

 こう見てると、実に指導者らしい姿だわ。

「波際の今回ダメだったところは、ギフトに使う水の運用方法だ!攻撃の察知と移動に回避にギフトを応用するところは完璧だ!しかし、使用する水分量が圧倒的に足りなかった。4リットルの水の膜以外の移動と回避に使った水は体内の水分から抽出したものだ、アレだけ派手に使ったら脱水症状になるよな?」

「…ハイ、思ったより攻撃回数が多くて…」

「なら、どう補うか?の答えが見つかればこの先の自分の闘い方のスタイルも見えてくるだろ?それが大事なんだ!解ったか?」

「はっはい!ありがとうございます!」

 ガシガシと乱暴に奈美の頭を撫でるシャオロン、アレで一応激励してるつもりなんだろうけど、だだのセクハラね。

「お前らはまだひよっこだ、大事なのは、どうなりたいか?なる為にはどうすべきか?ってのを在学中にいかに早く見つけて形にする事、それが一番のステアーズへの近道だと覚えておいて欲しい」

 そして、シャオロンはコホンと咳き込んで、私を見つめた。


「んじゃ、この中で唯一今言ったことが体現できてるヤツに手本を見せてもらおうか?…アリス、ギフトの使い方ってのを皆んなに見せてやってくれ!」


「これ終わったら、トーナメント見に行っていいのよね?」

「あぁ、俺の名前で良い席取ってある」


「いいわ、やって見せてあげる!」

 こうしてやっと私の本番が始まった。







読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。

面白い作品になるように頑張ります。


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