↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/89

アリスたちの課題

アイデアの洪水を迅速に最短で最高に仕上げる技が欲しいです。

凡人が手掛ければ、どんな最高の素材も凡作に成り下がるもの。


バカは馬鹿みたいに、バカな夢を追い続けるしかできないってのに・・・・。


「さぁ、今日のスタジオ・ステアーズは!いよいよ、あと3日に迫りました!新一年生の前衛トーナメント特集をお送りしまーす!」

「ねぇ、ジェームズ!なんと大会3日前のオッズ予想表で、参加メンバー発表時に集計した人気予測から大きく変動してるの!それに合わせて発表時のオッズから随分変わってるから、みんな注目して見てね」

 スタジオのスクリーンに、進化学園の一年前衛クラスの出場メンバーの下馬評が映し出される。

 指し棒でモニターを指しながらオレンジメッシュの狐女ミサトが紹介する。

「まずは、大幅ダウンが渡辺安綱ちゃん!せっかく手にしたギフトも、そのピーキーな性質で能力を使いこなせていないって情報が入ったわ。先日の学園で行われた模擬戦で、格下の相手に一発KOされた映像はショッキングでしたよねー」

 動画サイトのあげられた、八女うさぎに安綱が倒されるシーンが繰り返しモニターに流れる。

「この映像がSNSで拡散された影響で大幅にランクダウンしちゃいましたー。三番人気から現在十番ですねぇ」

 大きく映し出される下馬評に発表時の順位と現在の順位が比較表示して見せる。

「うさぎちゃんはこの大金星で人気が急上昇!現在六位です。この大人しそうな見た目とのギャップは萌えますよね!」

 ミサトはジェームズにアイコンタクトを送る。

 いつもならセクハラまがいの発言と行動で暴走するのがお決まりなのだが、当人はミサトの話を、いつもとは全く違うローテンションで不機嫌そうに聞いている。


「あと大きく変動したのは、トーナメント発表時にダントツ一番人気で予測倍率1・1倍だった猫柳二夜!どうやら何者かに襲撃されて、現在も入院中との噂が巷で流れてるんだ!」

 手元のモバイルで確認しながら原稿を読み上げるジェームズ。

「まぁ、学園に確認したところ、命に別状無しって事で棄権はしねーみたいだけど…これで一番人気から一気に圏外にランクダウンだ」

「ただ、俺たちスタジオ、ステアーズの取材力を要しても《噂》程度の情報しか入ってこない…当然、悪い大人が隠してるってことだよな…」

 イライラした様子で頭を掻きむしってジェームズは吠える。

「ってかよー!まだ入院中ってどういう事だよ!なぁ、ミサト!進化学園ってエリクサー作ってる製薬会社《アーカード》のCEOが理事やってんだろ?潤沢に供給されてるエリクサーで治らない…って、誰に何されたんだ?って話だよ!先生たちよ!しっかりしてくれよ、14才のガキぐらいちゃんと守ってやれよ!なぁ!そうだろ!で、どこの病院にいるんだよ?」

 カメラをガッチリ掴んで、自分のアップのままホールドした後も勢いを落とさず続ける。

「あと二夜を襲ったヤツ!試合前のガキを襲うとか恥ずかしい事すんなって!どこのどいつ知らねぇーけど、馬鹿なことすんなってよ!」

 

 憤慨するジェームズを横目に、事の真相を知っているミサトの視線は宙を彷徨う。

「まぁまぁ、とりあえず落ち着こうねジェームズ、カメラに唾飛んじゃってるから…でも、ニヤ君無事で良かったじゃない、棄権じゃないって事はトーナメントに出るつもりなのよぉ」

 ジェームズに、ニヤはミカドが襲ったなんて口にも出来ず、ただ誤魔化すように話を逸らすのだった。

「猫柳二夜だけじゃねぇー!六席ワンは中国政府から大会に棄権の意向を示してきてるし、七席のザハールに限っては現在行方不明。ロシア政府からギルドに捜索依頼も出されている状況だろうが!他にも大会棄権者が何人かいるぞ!」

 悔しそうにスタジオセットのカウンターテーブルを叩く。


「猫柳二夜同様、大会前に有力選手を闇討ちで潰すのが目的か?自国のステアーズの能力を明るみに出したく無いのか?思惑は各国各企業あるんだろうけど、毎年毎年相変わらずよぉ、きな臭い連中が躍起になって暗躍してるのがイラつくんだってよ俺はさ」

 ここで、大きくため息をつく。

「あのよ…」

 改めてジェームズが真顔になってカメラを睨む。

「子供達使ってギャンブルしてる俺たちが言うのもなんだけどなぁ!国や企業のメンツや収益別にしてよ!正々堂々戦わせてやってくんねぇーかな!大人が陰でコソコソとカッコ悪い事すんなよなぁ!恥ずかしくねぇーのかって話だ!」

 イライラが爆発してセットに当たりちらす始末だ。

「ジェームズの気持ちはわかったから!落ち着きなさいよ!ホントにどうしちゃったのよ今日はー!」

 分かってんのかこのヤローと、カメラに掴みかかるジェームズを必死に抑えるミサト。

 ミサトの目配せで、スタッフが三人がかりでジェームズを制止する。


「まぁまぁ、では、気を取り直しまして!人気上位に急浮上してきたグループを紹介します!」

 下馬評の隠されていたTOP3の名前が公開される。

「一番人気は天草天満君!続いてキム・ヨンウさんにロシアのヴォルフ君とライカン勢が上位を独占状態です!」

 スタッフに促されて、コホンと咳払いをしジェームズは着席する。

「あー、超回復持ちのライカン勢に票が流れてるって事は、事前に襲撃されにくいことも含めてなんだろうな……あぁ、これ皮肉な」

 今回の放送のジェームズが頗る機嫌が悪そうだ。

「逆に言えば投票した連中の殆どが、一番人気だった猫柳ニヤは襲撃によって、まぁ身体に重大な損壊を受けたと考えてるわけだ!復帰しても重大なハンデを負っているってな。で、反動でこのライカン人気になるわけだ!」

 カウンターに片足を乗せて、指し棒でバンバンとモニターに映る下馬評を叩く。

 暴走する前に、ジェームズを押さえつけようと番組スタッフがカメラインして、ジリジリとジェームズを包囲する。

 そんなスタッフ連中を片手で征しながら「分かってるって」と呟きマルチ画面をスライドする。


 ここで、マルチモニターが万能薬エリクサーについて!という画面に切り替わる。

 スタッフはジェームズの包囲を解き、持ち場に戻る。


「フン、コッチも仕事だ!ちゃんとやるわい!黙って見とれい!」

 鼻息を荒くして、指し棒を振り回す。

「んじゃーよ、ここで、エリクサーってクスリについておさらいしておこうか!言わずもがなステアーズなら誰しも一度は世話になる《製薬会社アーカード》製の超強力再生薬だ」

「このエリクサーの製薬技術の発見でエボの探索での死傷者の数が大幅に減りましたからねー」

「あぁ、このスーパー再生薬のお陰でステアーズの生還率はグンと上がったのは事実だ。たが!このスーパー万能薬にも出来ない事が、まあ存在するんだな」

 モニターをミサトがスライドして画面が変わる。

「それが…コチラ、この図の様に身体のパーツが一部でも破壊されてしまうと、エリクサーやハイポーションは傷口だけを再生して損壊した部位は復元されないのです!」

「首を切り落とされても、処置が早ければ蘇生可能なエリクサーだが、頭部を破壊されてしまうと脳死は免れないわけだ」


 モニターにデフォルメされた人間のイラストを使い、エリクサーの再生限界について説明する。

「指を潰されたら、潰された分、指は短くなってしまう。足も腕も同様だ」

 デフォルメされたイラストの四肢が破壊され、傷だけ修復されていくアニメーションが写されてる。

「ただ例外として、獣人系のギフトを筆頭に普通の人間と比べて、遥かに再生能力の高いギフト持ちなら、手足の再生は可能なのよねぇ」

 人間のキャラの隣に猫耳のキャラが登場し、同様に四肢が破壊されるが完全に再生して見せる。

「ニヤくんの場合は神眼系ギフトで獣人系ギフトじゃないから、ひょっとしたらひょっとしちゃうかもしれないわけで…」

 ミサトも神妙な表情で告げる。

「現在も登校してないみたいだし、ステアーズとしての将来を奪われてしまった可能性もあるんです」

「ただ、ニヤは参加するって言ってんだ、当然本人には勝算があるってことだからな、俺は個人的に期待してるし、楽しみでもあるな」

「ふふふ、私の尊敬してる人もニヤくん一点張りです!」

「誰だよそれ?ギャンブラーかよ!俺は応援するけど賭けるなら手堅く韓国のキムだね!」

 モニターにそれぞれの現在の予想オッズが表示される。


「まぁーな、色々カッとなって言ったけどよ、所詮俺たちは、トーナメントの無事開催を祈るぐらいしか出来ねーって事だな…って事で!!次回の放送はいよいよトーナメント当日!生で実況するからな!必ずチェックだ!みんなで一儲けしようぜ」


「ではでは、また次回お会いしましょう!バイバイ!……」



 スタジオステアーズの放送をモバイルで視聴していたアリスが「はぁ〜」と溜息をついて画面を消す。


「はぁー、じゃねぇーよ!アリスよ、教室の一番前の席で隠しもしないでSS(スタジオステアーズ)の生配信観てんじゃねぇーって!授業中なんだからちゃんしなさいよ、子供じゃねーんだからさ」

 講堂の教壇前、最前列の席で堂々と生配信を観ていたアリスの頭を、指し棒でペシペシと叩く講師のシャオロン。

 胸元につけたマイクに乗ってシャオロンの説教か講堂全体に響き、他の生徒達がどっと笑う。


 注目の的となったアリスは顔色ひとつ変えずに、その場ですっと立ち上がる。

「ニヤ君はどうしたの?今朝病室にお見舞いに行ったら、彼居なかったのだけど」

 その声は講堂全体に聞こえるような、大きくてハリのある声だった。

 当然、周りの生徒も気にしているようで、シャオロンの言葉を待つ雰囲気で見つめる。


「猫柳の事と、授業は関係ないだろ?」

「目覚めたのね?」

 射抜く様な目線でシャオロンを見つめる。その表情は冷たく無表情だ。

「うっ…あぁ、今はリハビリ中だ、信用できるヤツが面倒見てるから心配しなくていいぞ…では、授業に戻るぞ」

 アリスの気に押されたのか、ニヤが目覚めた事を肯定して、シャオロンは授業に戻ろうとアリスに背を向ける。


 仏頂面だったアリスの口元が少しだけ緩み、俯いたまま誰にも聞こえない声で「そうなんだ…」と呟くと、瞳を輝かせて顔を上げる。

「まだよ!先生!」

 元気よくシャオロンの背中に言葉をぶつけて、腕を組んで不遜な態度でアリスは続ける。

「ねぇ、みんなが言わないからついでに聞くけど、なんで私たち後衛クラスはトーナメントに参加できないの?分かるようにみんなに説明して欲しいわ!」

 アリスの発言に生徒たちは沈黙しアリスを見つめ、続いて固唾を飲んで講師であるシャオロンに注目する。


 シャオロンはゆっくりと振り返り、講堂を見渡し面倒臭そうに「はぁ〜」とため息をついて見せる。


「あのなぁ、授業では自由に質問等の発言はしてくれて構わないよ、だけど授業と関係ない私語は控えてくれよ…今は大事な大事なステアーズ法の授業中なんだからさ!俺だって嫌だよ。授業が退屈だなんて百も承知だって」


 頭をボリボリと掻きながらぼやくシャオロン。

 しかし、アリスは腕を胸の前で組んだまま、直立不動で動じる事なく続ける。

「授業の事はどうでもいいのよ!」

 バンッと机を叩く。


 どうでもいいんだ…。

 クラス全体が心の中でアリスに突っ込んだ。


「Aクラスは大々的にトーナメントをやるってお祭り騒ぎ!公に賭けまでしてるのに、そんなのズルいわよ!なんで私たち後衛クラスの生徒には参加資格がないの!おかしいわ!私は認めないわよ」

「お前が認めなくっても、世の中回ってるんだよ!今はありがたーいステアーズ法について授業してるんだ!面倒だから、それ以外の話はするんじゃないって言ってんだよ俺は!わかってくれよ、ホント」

 教壇に身を乗り出し、抗議の瞳のアリスに向かって悲痛に叫ぶ。

「私はトーナメントに出場したいのよ!」

 まったく物怖じしないで、アリスも声を張って返す。

「我が儘言うんじゃないよ。あのなぁ…仮にこのクラスでトーナメントして、お前は攻撃手段を持たないヒーラーを丸焼けにして、いい気分か?楽しいか?それでいいのか?」

「うっ!なによ、その例え、なれるわけないじゃない」


「このクラスで、お前の様に広範囲で火力が出せる後衛が何人いるんだ?解るだろ?殆どがサポート系のギフトなの、だからトーナメントもやらないし参加もさせない、危ないだろ?それぐらい理解しようよ」

「うぅぅ、そんな正論聞きたくなーい!私はトーナメントに出たいのよ!ニヤ君に勝ちたいのよ!」

「そんな個人的な事を、子供みたいに大声出していうもんじゃないの」

 そう言って、再びため息をついて、シャオロンは生徒たちの瞳を見渡す。

「まぁ、アリス以外でもトーナメントに出て実力を試したいって者もいるかもしれんが、ハッキリ言っておく!トーナメントに参加は出来ない!大会は3日後だぞー!当然、応募は終わってる」

 シャオロンは少し考えて、何かを思いついたように「そうだな」と頷いた。


「だか、腕試ししたいってんなら、とっておきの課題をお前たちにやろう!もう少し後にしようと思っていたんだが、アリスの様にチームランク以外で個人ランクの昇給を考えてる者には、必須の課題だ!挑戦したいやついるか?」


「ナニよソレ!面白そうじゃない!当然やるわよ!」

 好奇心旺盛で瞳を爛々と輝かせて、アリスは手を上げて飛び跳ねる。

 アリスに釣られたのか?殆どの生徒が手を挙げる。

「いやいや、それにしても意外だな。」

 手を上げたやる気に漲っている生徒たちを大人の冷めた表情で見渡す。

「後衛のお前たちが、こんなに個人ランクの昇級試験に興味があるとは驚きだな、みんなやる気あるんだなぁ〜関心関心…けど、んな、簡単な課題じゃねぇーんだけどな」

 突き刺すような視線を巡らせる。

「なお、今回の課題がクリアできなかった者は、ステアーズ法についての補修を受けてもらう!当然トーナメントの観戦も無しだ!」

「工ェェェー」

 生徒たちのブーイングの中。

「トーナメントどころじゃないぞ、下手すりゃ死んじゃうから」

 誰にも聞こえない小さな声で呟き、シャオロンはシニカルに微笑むのをアリスは見逃さなかった。

 


読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。