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皇帝と少年


 まず、赤星帝という人物について考えよう。


 今から20年前に宇宙から飛来して島に突き刺さった謎の構造体エボタワーに、調査隊として当時、自衛隊と在日米軍共同部隊が現地に派遣された。


 調査隊が塔に入って72時間後、先鋭40名の部隊の中で生きて帰ってきたのは僅かふたり。

 ひとりは自衛隊員の赤星帝三佐と在日米軍調査隊の唯一の生き残りが元海兵隊のノーマン・ガーランド大尉だったのは有名な話しだ。


 二人はフロア10の獣界門から偶然地上に戻り、人類初のギフト持ちになった。

 ノーマンのギフトはライカンスロープ。

 さっきまで知らなかったけど…。

 

 そして、赤星帝は魔眼を手に入れた。


 今じゃ怪物並みに強い赤星帝だが、彼ば初めから「皇帝」だったわけではなかったんだ。


 ステアーズ法が制定され、ステアーズが世界中に認知されると同時期に開催されたステアーズによる戦闘エンターテインメント「円形闘技場アリーナ」が開催。

 古代ローマのコロシアムで剣闘士グラディエーター同士が死闘を見世物にしていたアレの現代版だ。

 その様子の中継を担って始まったのが《スタジオ・ステアーズ》だ。


 ステアーズが塔に登る為には多くの装備や支援が必要になる。

 アリーナでスポンサーに名を売る為、多くのステアーズが参加し鎬を削った。

 そして、アリーナで数多くのスターが誕生したんだ。


円形闘技場アリーナ」でその実力を示し、スポンサーを得て強者となった者は再び塔に戻り、エボタワーから多くの物を人類に与えた。


 ステアーズの実力と人気を示すランキング制が導入され、人気ランカーのタワー・クライムの様子を密着取材する企画でスタジオ・ステアーズの人気も相まり、更に多くの資金が世界中から島に集まり始めた。


 優秀なステアーズが塔から持ち帰る遺品オーパーツは人類の文明を大きく進歩させ、莫大な富を生んだ。

 中でも顕著な発見が「エリクサー」を始めとする超回復薬の開発だ。

 回復薬の発明は現代医学の常識を根底から覆す発表となり、大金を積めば外傷で人が死なない世の中の到来となった。

 

 まぁ、その恩恵に授かれるのは富豪と一部の権力者に限るってのが現状なんだけど。

 それ以外でも、未発見の鉱物やテクノロジーをもたらすステアーズという存在が世界に大いに影響を与える存在となったのは言うまでもない。


 自衛隊を退役した赤星帝もその最たる一人だった。

 一対象の動きを一瞬止める。

 たったそれだけの瞳術だったギフトを、わずか数年で複数の対象見つめ命令するだけで、相手を無条件でひれ伏せさせる程に成長させた。

 そして、アリーナの初代王者として現在まで君臨している。

 印象的なその赤い瞳は当時「王者の瞳」と呼ばれ恐れられたが、戦闘とクライムを繰り返すたびに進化していく赤い魔眼はいつしか畏敬の念を込めて「皇帝の瞳」と呼ばれるに至っのだった。

 

「で、なんでそんなもんがニヤの目に入ってんだよ?」

「知らないわよ!」

 俺の呟きに、隣に座ってた安綱が反応する。

 てか俺、どこから声に出して喋ってたんだ?


 安綱がこっちを振り向くたびに頭の上で括ったポニーテールが揺れる。

 アリスに呼ばれて振り向くと、揺れる。

 ニヤに埋め込まれた《皇帝の瞳》も気になるが…。


 友人が集中治療室で苦しんでいるってのに、不謹慎だと思うが、なんかうずうずする。

 犬のように飛びつきたい衝動に駆られるところだが、時と場所をわきまえてグッと我慢する。

 できればずっと目で追っていたいところだが「何見てんのよ!」とキレられるのは安易に想像できる。

 大きなイヤリングとかさ、胸元のネックレスとか好き嫌い好みはあると思うが、男はついついチラ見してしまうものなのだ。


 ひょっとして、俺だけか?

 いかんいかん、思考の沼にどっぷりハマってしまっているな…コレ…。


 取り敢えず、この生理現象にちかい欲求は、俺のギフトの持つ本能が足らしめてるという事にしておこう。

「すまん、いろいろ考えすぎたみたいだ」

 違う意味も込めて謝罪しておく。

「わかってるよ」

 心配そうな表情から無理して微笑んでみせる。

 ホントに分ってたら、俺の知ってる安綱はそんな顔しないぜ。

 ぶん殴るか、ぶった斬るの二択だと思うぞ。

 

 まぁ、それだけ、安綱はニヤの事が心配なのだ。

 俺は心配じゃないのか?

 俺はメガネを押し上げ、野生を押し込む。

 きっとこの衝動は現実逃避の類なのだろう…緊迫して緊張する場面から、心が目を背けて違うものに向こうとしている。


 アリスや安綱は単純にニヤの事を心配してるし、襲撃者に対する怒りも抱いてる。

 そして、どうすることもできない自分に苛立たしさも感じている。友人としては当然の反応だと思う。


 もちろん俺自身も同感だ。

 だが「感情に惑わされるな、感情は人の背中を強く押してくれるが、同時に真実を曇らせる」

とオヤジに教えられた俺は、自身の野性をコントロールする為、常に冷静で合理的で居なくてはならない。

 で、ポニーテールで心落ち着かせたって事にする。


 まぁ、感情的になった思考は、自身の都合のいい事実を作り上げてしまうものだ。


「アリスと安綱の話しではタワーから戻った後、三人で食事中にニヤが何かに反応して飛び出して行ってしまった事から、誘拐や襲撃とは考えにくい、おそらく何らかの方法で呼ばれたんでしょうね?」

 ニヤを狙って呼び出した。

 目的はニヤの瞳を奪う事、またはニヤに魔眼を埋め込むことだろう。

「現状は、神眼系のニヤの瞳に相反する魔眼系の皇帝の瞳が移植されたことによる拒絶反応でニヤは生死を彷徨ってる事ですよね?・・・なら、その目を切除すればニヤは回復しませんか?義体メーカーの九識のCPU義眼なら生身より高性能でタワー攻略には便利ですよね?なぜそうしないんですか?」

 メガネのズレを指で押し上げながら詰めてみる。


 アリスと安綱は無言でミサトとシャオロンを見つめる。

「この期に及んで、あんた達もニヤを襲った連中と同じこと考えてませんか?実験的な何か・・・例えば、魔眼と神眼、二つのギフトの所有は可能か?とかギリギリまで経過観察したいから手術しないみたいな事たくらんでないですよね?」

「ぷっ!」

 俺の言葉に反応したのはミサトさんで、目を見開いて驚いた表情を見せた後、ぷっと吹き出して声を上げて笑い始めた。

「あははははは、鋭いね天満君、きっと実験って意味では間違ってない。でもそれを強制してるのは私たち大人じゃないよ。そこで苦しんでるニヤ君本人。彼をここに運ぶ前に私に言ったのよ――――――。」

 ミサトは少しニヤの真似をしながら。

「俺が死んでも、絶対にこの目を取らないで・・・アイツが生きてるなら俺も死なないから!」―――――ってね」

 唇に当てた人差し指を俺の口に当てる。


 「フフフフ、というわけで証拠を提示するわね。はーい!ポチッとね」

 とミサトさんは笑顔でカメラの再生ボタンを押した。

「百聞は一見に如かず、まぁ、思うところは有ると思うが黙って観てみろ、とんでもないもんが映ってるからよ」

 したり顔でシニカルに笑むシャオロンの思惑通りに事が進んでいる事にイライラしながら、俺たちはモニターを注視する。


「――――――――、えっと四月十日、今は19時23分、場所はシティー東部四番街倉庫前、現在私の目の前で行われている死闘を個人的に記録します!」


 カメラは倉庫の外観を映し、大型トラックが数台駐車してある駐車場で対峙している二人にピントを合わせた。

「なんのつもりだ!?遠距離から人を射貫く様な殺気ぶつけてきてさ!用があるなら直接言いに来いよな!」

「さすが九識製の集音マイクねぇ、ちゃんと拾ってるわよー、さて、私の目の前では今期の進化の首席の猫柳二夜君ともう一人は誰かしら、謎の少年との一騎討ちの記録を撮りますー」

 

 会話のろくに交わさないで、瞳を煌々と蒼く光らせたニヤが二本のグラディウスを持って、全身をコマの様に回転させ連撃で相手に高速で叩き込む。

 グラディウスとは、古代ローマのコロシアムでグラディエーターが好んで使っていたショートソードの一種だ。

 刃渡りは50㎝ほどで幅広で肉厚な刀身で先端は鋭利に尖っている。

「現在、進化学園一年生猫柳二夜君の攻撃を簡単に防げれちゃうあの少年は一体誰なのでしょう?ステアーズで最年少はニヤくんの十四歳のはずでしょ?どう見ても彼はその…中学生じゃん!?」

 カメラを回しながらリポートを開始するミサトさんは、ニヤと対峙している相手を見て首を傾げる。


 相手はニヤよりも一回り小柄な赤髪の少年だ。

「事の経緯は、私は東港で甲板の修理で寄港していたフェリーの進捗報告の帰り道に偶然視線だけで人を殺せそうな恐ろしい殺気を放った少年と遭遇したのがキッカケで、ニヤ君が凄い勢いで殺気が放った少年に向かって走って行くんで、おもしろそうだなぁって尾行したんだけどねー、ホント誰よあの子?」

 その赤髪は銀子さんのそれより更に真紅な赤色だった。

 装備も同様の真紅の赤で、目立つ事この上ない。

 まるっきり見た目が、赤星帝のコスプレをしてる少年じゃないか!

 待て待て、皇帝様がニヤを襲ったんじゃないのか?このガキんちょ何者なんだ?

 


 小柄な体躯に構えた真紅のロングソードはまるで大人が大剣を担ぐように肩に載せて構える。

 回転して打ち込んでくるニヤの斬撃に冷静に一閃、迎撃の一撃を体重を乗せて撃ち下ろす。

「あぐっ!」

 小柄な体型に不釣り合いな重たい斬撃はニヤの剣撃を打ち下ろし、ニヤはたまらず体勢を崩す。

「くだらん!本気を出せ!二倍三倍程度で敵う相手と思ってるのか?」

 見た目とは随分ギャップのある話し方で言い放つと、強烈な回し蹴りでニヤを吹き飛ばす。


 倉庫のシャッターがへしゃげる程の勢いでニヤは激突。

「赤いの!お前は誰なんだよ!なんか僕に恨みでもあるのか?」 

 が、ダメージを負った様子の無く飛び起きると、ショートソードの剣先を相手に向けて叫んだ。

「ん?・・・あぁ、これか?」

 少年は剣を握っていない方の手を胸に当てて、改めて自身の身体を再確認するような素振りを見せる。

「ちょっと訳ありでな・・・・これなら嫌でも思い出せるだろう二夜!」

 少年は前髪をかき上げて、真っ赤に輝く魔眼をニヤに見せつける。

「その瞳!皇帝のエンペラー・アイ!ええええっ!お前!ミカド!・・・なのか?」

 禍々しく真紅に輝く瞳を見て、ニヤが明らかに狼狽している。

 いやいや、ニヤだけじゃない、俺もビックリしてる。

 あの少年が赤星帝本人なのだ!?


 ここで、シャオロンが動画を一時停止する。

「天草?お前、ミカドがエボの最高到達地点フロア40から生還した後、メディアでその姿を見たことがあるか?」

 赤星帝率いるチーム「六界」がフロア40に到達したのは去年の暮れだが、六界が公式発表したのは未開部分のルートマップと出現モンスターのデータだけだ。

 チームメンバーの数人はインタビューなど露出をしてるが、チームリーダーのミカドは、正月のアリーナチャンピオンズリーグにも出場していない。

「見てません・・・この子がミカド・・・なんですか?」

「そりゃ、子供の姿になっちまったら表には出てこれんわな、四十代後半から中学生まで若返り・・・羨ましいかぎりだぜ」

 白髪も息切れも四十肩も無ぇーしな…。そうつぶやいて煙草に火をつける。

 が、途端にタバコ先端の火だねが消える。

「って、なんで火を消すんだ?アリス・リデル」

「講師、煙草止めれば息切れは治るわよ、あと病院は禁煙でしょ」

 アリスの肩から身を乗り出し、安綱が続きを要求する。

「それよりも、続き見せてよ、どうやってニヤ君は負けたわけ?」

 あんなガキんちょが、首席のニヤより強いなんて信じられないからだろう?だが中身が皇帝様なら話しは別だ。


 一対一で皇帝に勝てる相手なんて、この島に存在しないだろ。

 だから、チャンプで皇帝なんだ。




読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。

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