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安綱vs天満


 結局、シャオロン講師まで巻き込んだ大立ち回りをした後、ワーウルフに変身した天満によってワータイガーは沈黙した。


 やっぱり、ライカンスロープの戦闘力の高さには驚かされる。

 SSランクにSランク三人相手に一歩も引かない戦闘力、おまけにニヤ君とアリスを巻き込んで、ひとりで戦って見せた。

 最後にワーウルフに変身した天馬が何かやったみたいだけど、美味しいところだけ持って行った感が否めない。

 正直最後のところ以外、動きが悪いなんてものじゃなかった、まるで枷でもつけられていた様な酷さだ。

 何か特別な技でも出したのだろうか? 

 きっと、そうだ。

 私に見せてない技なのかな?

 

 あそこに、私の知らない天満がいる…。

 そりゃそうだ、入試の時に初めて会ったんだ。


 知らなくて当たり前なのだ。

 

 何でだろう?

 頭では解っているのに、私は天満の全てを知っている…みたいな感覚が胸の底…イヤ、頭の隅にずっとそうした感覚があるのだ。


 入試の模擬戦、入学セレモニー、そして今日と…濃密な時間が、ずっと四人で一緒に居たような錯覚をさせてる。

 こうして、ニヤとアリスがハイタッチしてたりするのを遠巻きで眺めてるなんて、疎外感全開じゃん。


 私も早くそっちに行きたい。

 気持ちがはやる。

 焦っちゃだめだ。

 

 ワーウルフから、人の姿に戻った天馬はいそいそとズボンを履いている。

 なんか、プールの授業の後、教室の後ろで人目を気にしながら着替えてる男子中学生みたいで。ちょっと可愛いかも。

 なんか必死に慌てて着替えてる。

「あは、バカっぽいなぁ」

 天満の着替え見てたら、焦りでささくれだった気持ちが落ち着いてくる。

 そう言えば、私と入試の模擬戦の時もあんな感じで着替えてたな。

 男の人の着替えって、そうそう見る機会なんてなかったけどね、天満は不本意だろうけどいつも彼は服を脱いでいるイメージだ。



 天満はズボンを履き終えて、綺麗に揃えてあったスニーカーを履いたところで、倒れていたワータイガーの方へ走っていく。

 意識を取り戻したワータイガーと何やら楽し気に喋ってたと思ったら、ワータイガーが見る見る裸体の女性へと変わっていく。あれキム・ヨンウ⁈

 取り巻きの赤髪と金髪が目のやり場に困っているところに、天満が自分の制服のジャケッ トをワザとらしくキム・ヨンウに掛ける。

「うわ!何?ソレ!やる普通?!…優しさの押し売りか?優しさのテロリストか?」

  あんなキザな事をするキャラじゃ無いのに、何?キムの事好きなわけ?狙ってんの?

 あんな事されたら、普通さ…女子なら好きになっちゃうヤツじゃん。

 ほら、キムもまんざらじゃ無い顔してるし!

 上目遣いで女の顔してる!

「うおおおおおおー!!なんか無性に腹が立って来た!」

 私の前に並んでる人たちがビックリして、訝しそうに振り返る。

 私今声出してた?

 きゃぁ!恥ずかしいヤツだ。

 顔から火が出そうだ。

 天満め!私の時といい、女の子なら誰でも良いわけ?

 誰かれ構わず、優しさ振りまくのもいい加減にしろってんだ。


 ここに髭切と膝切が在れば、模擬戦の時みたい、なます切りにしてやるのに!


 

 天満(あいつ)は私の初体験の相手なのに自覚無いわけ?――――――――。

 

 あいつが私を「渡辺」にしたのに!


 あいつが優しさで私の初めてを奪ったのは、入学セレモニーに出場する新入生を選出するトーナメント方式の模擬戦だった。


 進化学園の入試試験の一般学科試験と基礎体力テストの成績上位者から上位8名によるトーナメント戦の三位決定戦。

 

 アリスに負けた私と、ニヤ君に負けた天満との戦い。

 勝った方が第三席って事。


「ねえ、本気?」

 試合開始の合図が鳴り響いた後、真剣を二振り持った私に対して、余裕なのか緊張感の無い顔で私の出方を伺っていた天満に、正直むかついた。

「俺が木刀なのは、俺がギフト持ちだからだろ?」

「違うわよ!! あんたギフト使う気ないわけ?さっきの試合でもギフトを出す前に負けてたでしょ」

 トーナメントは私以外全員ギフト持ちで、公平を期すために特別に私だけ真剣の使用が認められていた。

 ノーマルの人間は武装してはじめて、ギフト持ちと対等と進化学園は考えているようだけど、私のような例外もいるのに失礼だと思った。

 一回戦の相手もギフトを出す前に、速攻で失神させて戦闘不能にしてやった。

 そして、私が一回戦でやったような速攻で、二回戦ニヤ君に負けたコイツはギフトを使う気配すら見せないのだ。

 やる気ないのか?コイツは?


「ん~、あぁ、だってさ、お前その刀で斬るつもりないだろ?一回戦も二回戦も峰打ちだったし、居合いなら開始の合図に決まってるよな?」

「ぐっ…」

 何コイツ⁉ 分析してたの?メガネだからそういうキャラか?

 そりゃ、女子中学生が生身の人間斬ったことあるわけないじゃん。

 渡辺だから、鬼は斬ったことあるけどさ…。

「フン、図星か?」

 そんな私の心を見透かしたように天満は微笑んで。

「安心しろ、俺特異体質だから、そうそう死なない身体なんだからさ」

 そう言うと、無防備に左腕を差し出す。

 そうそう死なない身体だから、怖くないっていうわけ。

シャンッ

 私は無言で剥き身になった刀身を天満の左腕にあてる。

 当てただけで斬ってはいない。


 慌てて差し出した腕を引っ込めると思ったのに、天満は涼し気な顔で微動だにしない。

 うん、実に可愛くない。

「ほら」

 それどころか、天満は髭切の切っ先を掴むと腕の内側の薄皮を一筋切って見せる。


 一条の切り傷から赤い鮮血が浮き溢れるが、傷口を乱暴に親指で拭うと傷口は綺麗に無くなっていた。


 ゾクッ


『コイツ、人間じゃねぞ!!混じり者だ!! ギャハ一足りねーもっとだ!!もっとこいつの血を寄越せ安綱!!』

『なんで、いつも髭が先なんだよコラァ!!』

 天満の血を吸った髭切から、私に魔力のような力が波の様に流れ込んでくる。


「かっ・・・・はぁ」

 体の芯の部分、下半身がしびれるような快感に、思わず吐息が漏れる。

 こいつらの要求通り、もっともっと天満の血を吸わせたら…私、どうなっちゃうの?と云う一抹の不安を抱える。

 しきりに襲ってくる快感の波に飲まれそうになる。

「…ぐっ」

目の前の天満には、私がこの悪魔のような誘惑と戦ってるなんて悟られない様に、歯を喰いしばり全神経を集中させる。


 そんな最中に、このバカは甘い顔で恐ろしい提案をしてきた。


「どうせ、俺たちベスト4だしさ、ここで勝負関係なしで実戦練習しないか?…あんたは死なない俺で試し斬りって感じでさ、俺は剣筋を読みながら、回避と防御の練習をするってのはどうだ?」

 願ってもない申し出だけど、正直私が自分を保っていられるかわからない…一族挙げて霊刀として崇めてきてなんだけど、この二刀はとんだ妖刀だ。

 刀に魅せられて、夜な夜な「斬り捨て御免」って辻切しかねないほど魅惑的な感覚に気が狂いそうだ。

「・・・・・」

「どうだろう?」

 この感覚を理性を保ったまま、二刀を振るえるようにならなければならない。

 じゃなければ、鬼を切る前に私が人の道を外れて、それこそ鬼に堕ちかけかねない状態なのは現状把握している。

 天満のその提案は実にありがたかった。


「胸を借りるつもりで、お願いするわ…」

 ダメだ。欲求が抑えられない…。

 身体が勝手に…。

「オッケー、んじゃ準備するから、ちょっと待っ…」

シャンッ――――――――

 

 柄を握り代えて膝切が高速で跳ね上がる。

「なッ!?――――――――」

 驚愕の表情で、天満は自分の左腕を見つめた。

 まるでスローモーションのように、天満の左腕が肘先から滑り落ちる。

「アハッ…」

 下腹部に痛みに近い快感が波紋になって広がる。

 自然に口元がほころぶ。

『ガハハハッ、コリャ良いぜ!!最高だ安綱ぁ』

 膝切から脈打つように、ドクンドクンと私の中に何かが入ってくる。


「馬鹿っ!!準備するって言ってるだろ!!クソっ! 痛ってぇ!!――――――――ってか、はぇーんだよっ!」

 天満は慌てて腕を拾い上げ、蹲りながら傷口にすり合わせ抗議の目で私を見る。

「ハアハア…ごめん」

 もっと、もっと・・・・・快感を頂戴。


「なんで、お前笑ってんだよ」

 あの時、私はどんな表情で天満を見ていたのだろう?


 きっと、ひどく歪んだ笑顔だったに違いない。

 


読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。

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