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フロア10 獣界門其の六 救われた命、救われなかった命


「天満殿、私を弟子にしてくれ・・・そして、どうか私に力の使い方を教えて欲しい」

 白髪のヴォルフ・ミハルコフは裸のまま、俺の目の前で土下座しながらそう言った。

 裸のイケメンに土下座されるシチュエーションに、正直困惑してしまう。

「あの…とにかく頭を上げてくれ!」

「日本ではこのスタイルが最上級の敬意と請願の礼式だと聞いた」

「なんか間違ってるような気もするんだけど…」


 キム・ヨンウをワータイガーから人の姿に戻した後、冷蔵庫にバラバラでキンキンに冷やされていた白狼を同じ方法で蘇生したところ、こんな状況になったわけなんだが…。


「私は別にあんたの弟子になんかなりたくはないのだけど、あんたがどうしてもって言うのなら、私に変身のコントロールを指導する機会をあげてもいいわよ」

「どれだけ上から物言ってんだよっ!オマエは!」

「あら、光栄でしょう?私の指導ができるのよ!」

 環さんから借りた、茶屋の従業員用の作務衣に着替えたキム・ヨンウは、偉そうに腰に手を当て、上半身仰け反り気味に高飛車な物言いだ。

 助けてもらった恩も感謝も微塵にも感じさせない傲慢な態度に、

実はこの女、高貴な人なのかもしれないとさえ錯覚してしまいそうになる。


「教えてあげなさいな、ライカンスロープのギフト持ちの講師って、今いないはずよねぇ、シャオロン?」

 ヴォルフに着替えを持って来た環さんはそう言うけど、俺は教えを乞うために入学したわけで、人に教えるっておかしくないか?というか、教えていいのか?

「確かにライカンは希少ギフトだからな、講師が務まる程の人材となると、確保に時間がかかるかもしれないな」

「いいじゃん!やれば?天満ぁ、大体面倒見るつもりが無いなら助けんなって!」

「んな、簡単に決めんなって!俺は一生徒だぞ!」

「やっちゃえ、いいじゃん、天満軍団結成だよ」

「だれが天満軍団じゃいっ!!」


 ニヤに突っ込みを入れたところで、ふと自分とヴォルフとキム・ヨンウを交互に見比べる。

「な、なによ!?」

「なんか、全部オヤジの思惑通りに進んでってるなぁって、思ってさ」

「うむ、御父上ですか?」

 環さんから借りた作務衣を着たヴォルフは正座したまま、俺を見上げる。

「狼の強みってのは、爪や牙じゃなく《群れ》なんだとさ」

 ふむふむと頷きながら、必死にメモを取るヴォルフ。

 安綱と同じレベルでマジメかよ。

「私は虎なんですけど!狼じゃないから!だから関係ないわよ」

「知っとるわい!……、そういう意味じゃないくてだな」

 高飛車女に言い聞かせてやろうと思ったら、スクッとヴォルフが立ち上がり、キム・ヨンウに向き直る?

「ヨンウ殿、天満殿はひとり立ち出来るまでは《群れ》でいろっ…と我々に言っているのではないでしょうか?」

 つくづく優秀だなヴォルフ君。

「そう言う事だ…と、俺も思ってる」


「そう言う事なら、天草すまんが、講師を手配できるまで基本だけでいいから指導してやってくれないか?」

 シャオロンは反対するかと思ったんだけどな、生徒が生徒を教えるってのは…。

 まぁ、講師は別に手配してくれるのなら、そうだよな、俺が勝手にしゃしゃり出て助けたんだからな…引き受けても良いかもしれないな。

「頼む!バイト代出すから!」

「やりましょう!」

 シャオロンの一言で決定。

「同好会というかサークル的なもので良ければ、OKっす」

「かたじけない、天満殿」

「まぁ、それなら私もいいわ、あんたと四六時中一緒に居ろって言われてもイヤだし」

「こっちもお断りだ」

「天満ぁ、俺も天満軍団入りたいよぉ」

「軍団じゃねーし、俺がニヤに教えることなんて何もねぇーよ、成績優秀な首席さまよ」

 わお、俺免許皆伝じゃんと、はしゃぐニヤをほっといて、俺は獣界門の前で俺を睨んでる安綱と目が合った。

 目が合った瞬間、親指を立てて?

「………」

 安綱はにっこり微笑んだ後。

「グー?グッジョブ?…からの…」

 安綱の拳が横になって…立てた親指を首にあてて‥キル・ユーってオイッ!!

 口では確かに「死ね」と呟いてやがった。

 そして、不吉なジェスチャーの後、プイッと横を向いて待機している生徒達の奥に隠れてしまった。


「あらあら、安綱を怒らせちゃったわね~天満君」

「アッアリスッ!?」

「あんまり、安綱を怒らせたらダメよ」

 耳元で身に覚えのない事を呟くアリス。

 どうせ、いたずらっ子みたいな顔をしてるだろうと見たら、以外にも超真顔だった。

「ウソ!本気であいつ俺の事怒ってんの!?なんで?どうしてさ?」

「知らないわよ」

 アリスも怒ってるのか?冷たい視線を一瞥して行ってしまった。


「俺たちほったらかして、天満軍団とか作ったからに決まってんじゃん」

 決めんなよ。

 嬉しそうに俺の顔を覗くニヤ、そんなに俺の不幸が楽しいのかね?コイツは?

「お前はさっき「いいじゃん」とか言ってたよな、でライカンの同好会作ってなんで安綱が怒るんだよ、しかもアイツは門の向こうだから、話だって聞いてないだろうに」

 訳が分からん。

「そう言う時は、胸な手を当ててよく考えるのだよー天満」

「知らん!」


 ウラガエリ現象で獣化しても元に戻れることが分かったからか、生徒たちからヒリつく緊張感がだいぶ和らいだ状態で入学の儀式は再開された。


 俺はまた出番があるかもしれないので、上半身裸のままバスタオルを羽織って待機している。

 ニヤは風呂上りみたいだとひとしきり俺のことをイジった後、ナインの待機してる方へせわしなく走って行く。

 落ち着きないなぁアイツ。

 

 

 現場の雰囲気はだいぶ明るくなったが、実はウラガエリ現象は獣化だけじゃなかったんだ。

 残りの生徒たちが順番に門を潜り、ギフトを得ていく中、再びウラガエリが発症した。


 49席は獣界門を通り抜けた後すぐに発火能力パイロキネシス暴走で激しく燃焼し、早急な消火作業によって一命を取り留めたが、全身大やけどでリタイヤ。


 42席は今度は逆に自身を氷の棺で急速冷凍して自らコールドスリープしてしまい、今度は早急な解凍作業により救出。意識不明のままリタイヤ。


 そして極みつけは38席、彼は突如狂戦士バーサーカー化して暴走、止めに入ったナインのグラムとニョルニルを吹き飛ばし、獣界門とは逆方向、フロア11に向かう階段を駆け上がって行ってしまった。


 俺たちは呆然と走り去る狂戦士の背中見送った――――――――。


「えっと、アレは…良いんですか?ステアーズ委員会的には?」

「良くねぇーよ、まぁ始末書もんだけどな…最悪裏返った連中が獣界門を逆走してシティーに転送しなければいいんだって」

「遺族に報告するのはシンドイけどねぇ」

 遺族って?何?裏返ったら死んだ事になっちゃうわけ?

「言ったろ?一割戻れないって、もともと全員を無事に帰そうとは思ってないんだよ」

 と、シャオロンは吐き捨てる。

 そんな適当でいいのか?


「フロア11からのガーディアンは公開情報だから知ってるな?」

「フロア11から19までは《獣人》エリアっすよね?」

 獣人フロアはスタジオ・ステアーズでも頻繁に放送していて、出現するガーディアンもファンタジーでお馴染みのオーク、コボルト、リザードマン、上層階たとミノタウロスの存在も確認されているのだが・・・。


「まさかっ・・・あの噂、本当だったんすか?」

 実際に見たウラガエリってのは、ギフトの暴走だけだと思ってたけど、まさかそのままモンスター化してガーディアンになるって噂が事実だとは全く考えてなかった。

「全部じゃないけどな――――――――。ただ、二つ名を持ってるヤツは。ほとんどウラガエリだ」


 二つ名とは、ノートリアルモンスター《悪名高きモンスター》と呼ばれるで同種族の中でもひときわ強いく、他よりも大きかったり、固有の装備や能力を持っていたりする亜種の名称だ。


「何者がが二つ名を討伐すると、もれなく獣界門を通った新人がその穴を埋める為に裏返るってわけだ」

「うわー、それって絶対極秘事項っすよね?」

 だからスタジオ・ステアーズでもフロア10以下の放送は無かった訳だ。

「他言無用だぞ、情報の共有はエボ島内だけな。漏らしたらライセンスはく奪だから、心しておくように」

「んな、恐ろしい事ベラベラと俺に教えんで下さいよ」


 なるほど、生徒同士で仲良くするなとか言ってた理由がコレだったわけか。

 毎年一定数の生徒がこうしてモンスターになってるなんて、実に酷い話だ。

 いずれタワー内で不意の再会なんて…あるのかも知れないわけで…。


「大人って、ズルいっすよ・・・そういうの最初に皆に知らせるべきではないですかね?普通」

「言わないのが、大人なんだよ」

 シャオロンは頭をボリボリ掻きながらキム・ヨンウとヴォルフ君を眺める。


「まぁ、今年は暴走したライカンスロープを元に戻せるって解っただけで、表彰モンなんだぜ」


読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。



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