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No.1.2.3.4.とNo.5.6.7.8

 結局、フロア9を攻略するのに、五度襲撃を受けた。計十五体のマネキンを掃討。

 敵の掃討のほとんどは銀子さんが一人で倒してしまった。そう、まるで憂さ晴らしの様に、未成年には刺激が強すぎるスプラッター・ショーを見せられた感じだった。

 しかも、ドロップ品のフォトンソードのロッドは青8緑4橙3と、お目当ての赤は最初の四本だけで銀子さんの機嫌はすこぶる悪かった。

 

 フロア10へ上がる階段を目の前にして、銀子さんは頬を膨らまして階段を見上げる。

 銀子さんの九本のしっぽのうち三本が苛立ちを表しているように、パンパンと床を叩き続ける。

「すっごい、機嫌悪いよね、アレ」

「年増のヒステリックって、傍から見ても見苦しいわ…アレが更年期ってやつ?」

 今まで経験したことのない殺気を浴びさせられた相手を目の前に、毒づくアリスと安綱って改めて凄いよなって思う。怖いもの知らずというか、負けず嫌いというか。


 女ってやっぱり怖い…。


 二人の会話が聞こえたのか、銀子さんの狐耳がビクンッと反応して、ゆっくりと振り返る。

「聞かれてるよ、アリス」

「聞こえるように言ってるのよ、大人げない大人と、子供らしくない子供は私、嫌いなのよ」

 ニヤが気を使ってアリスに耳打ちしてるのに、アリスはお構いなしだ。忖度とか協調性とか空気読むとか無縁だよな。やっぱりお国柄なのかね。


「フンッ」

 アリスを一瞥した後、荒いため息をついて、銀子さんは階段を再び見上げて、ゆっくりと階段を登り始める。

 また一悶着あると踏んでいたが、少々肩透かしを食らった感じだ。

 十数メートル幅の階段を、生徒たちが整列しながら登っていく。

 

 いよいよフロア10だ。

 

 人間に進化を与える門「獣界門ビースト・ゲート」が俺たちを待ち構えているはずだ。

 獣界門ビースト・ゲートと呼ばれる門をくぐることによって、塔登者は塔からギフトが得られる…らしい。

 一般的にこの情報は島外には一切知らされていない。

 重要機密事項として情報管理が徹底されていて、進化学園に入学して,初めて知らされた事実だった。

 ステアーズ専門誌やスタジオ・ステアーズでも、一般公開していない情報は多数あり、俺たち生徒が万が一SNSなんかで機密情報を漏洩したなんて暁には、極刑は免れない程の重罪となる。

 

「天草ぁ、ナニ神妙な顔してんの?お前たちギフト持ちはこのフロア10のゲートはあんまり関係なと思うぞ、一度ギフトを得た人間は何度通っても変化ないからな。まぁ、俺の勘だけどさ」

 耳をほじりながら、シャオロンは俺たちの横を通り過ぎていく。

「あら、センセイ、アメリカでは私たちのような先天性のギフト持ちでも、セカンド・ギフトが得られる可能性はゼロではないと見てますよ」

 アメリカのラボでは、そういう見解なのか?

 ウチの親父なんて「なんにも起こりゃしねぇって!」の一点張りだったけどな。

 この件に関しては色んな噂がある。

 ギフトが混ざるとか、正気を失ってしまう、モンスター化してしまう等々、セカンド・ギフトが手に入るっていう楽観的な意見よりも、事態が悪化する様なネガティブな意見が多いのも事実だ。


「アリス、欲張り過ぎは破滅の素だよ」

 それよりもセンセーお腹減ったよーと、アリスにぺったりくっついてニヤがシャオロンに空腹をアピールする。

 ニヤってああいうのフツーにできるよな、俺がアリスにやったものなら、もれなくセクハラ変態メガネの烙印は免れないだろう…。

 それにしても羨ましい。

「天満ぁ、何羨ましそうに見てるのよ」

 そんな俺を見て尽かさず安綱が突っ込んでくる。

「うっ…見てねぇって」

 セクハラ認定される前に、安綱(この女)になます切りにされるのは決定。

 酢と砂糖で和えたら、それはさぞ美味しくいただけるに違いない。



「ハイハイハイ!ギフトの二つ持ちになるならないは別として!まぁ、飯にするべ」

 シャオロンは俺たちの掛け合いの途中で、パンパンと手を叩きながら間に入ってきて、ドンブリと箸を持つ仕草をしながら言った…。

 って!今言ったよな!? あるの?メシ!


「食事するところあるんですかっ!?だって、ここエボっすよ」

 着の身着のまま、制服姿でフロア9まで連れてこられたけど、確かに俺たちは携帯食も無ければ、キャンプする装備もない。

 あるのはエポに登る前に渡された経口補水ゼリーだけで、どうやって往復するんだろうって思ってたけどな。


「そりゃーあるよー、富士山の八合目にだって山小屋あるんだぞっ!エボの十階にだって茶屋の一つだってあるのだよ、諸君」

 後ろから追いかけてきた、チーフが階段を駆け上がり、「ほら」と指さす。

 その指の先を見る為、早足で階段を駆け上がる。

 そして、眼前に広がる景色に俺たちは歓喜の雄叫びを上げた。

「おぉぉぉぉっ!!!!茶屋どころの話じゃないじゃないっすかっ!!」


 階段を登りきるとそこには、でっかい神社があった。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!天満、灯篭があるよっ!!!天満ぁ、こっちには狛犬が居るぞっ!!なぁなぁ、ここって神社だよねーねぇー天満ぁっ!!なんでエボに神社があるんだろうなぁ」

「天満、天満うるさいって!!」

 ニヤは神社と言ったけど、よく見ると正確にはここのは神社じゃない、本来あるべく拝殿も本殿もない、ただ瓦屋根の大きな旅館風の茶屋と枯山水の日本庭園、そして、長い石畳が続き、千本鳥居って言うのかな、朱色の鳥居が無数にフロアの奥へと続き、その先に巨大な鳥居が聳え立っていた。



 ザッザッと敷かれた玉砂利の感触と音を聞きながら、八十八人の制服姿が並ぶとまるで修学旅行だ。


「なかなか、良い趣向よね、五階はストーンヘンジ風で十階は日本の神社だなんて、京都の稲荷神社に雰囲気が似てるわ」

「アリスは京都も観光したの?」

「もちろんよ!日本中見て回ったわよ!」

 制服姿の女子二人に思わず見惚れる。

 ここだけ見たら、普通の高校生の修学旅行みたいだ。

「なぁなぁー天満ーアレが、獣界門ビースト・ゲートなの?きゃはははははっ!! 完全に鳥居じゃんアレッ!!」

 神社の境内をニヤは興奮しながら走り回る。

「走り回るなっ!!お前はわんぱく小僧かっ!!!」

 コイツだけは。中学生の修学旅行だな!

 走り回るわんぱく小僧を俺は猛ダッシュで接近し、小僧の首根っこを摑まえる。

「ニヤ、はしゃぐのは良いけど、いちいち俺の名前を叫ぶなっ!!」

 ヘッドロックして、悪ガキ坊主にお仕置きする。


「はしゃぐのも良くねぇな、いい加減にしろっ!お前らでかい図体して子供かっ!?」

 シャオロンが冷めた目で俺た諌める。

「まったく、講師の言う通り、あんたたち馬鹿じゃないの?中学生かよ」

 そう呟き、おまけに語尾に「死ねばいいのに」とギリ聞こえる様に言ってくるあたり安綱らしい。

「別にいいじゃない、男の子は元気な方が可愛いわよ」

「ええー何言ってるの? アリス、何?その発言なんか保護者っぽいんだけど」

「あら、ヤダ奥さん、わたくしあんなに大きな子供二人も生んだ覚えございませんことよ」

「あらあら、私、てっきりあのバカ二人の保護者の方かと・・・ほほほほ」

 安綱とアリスが井戸端会議コントを始めた、ノッてくると長いんだよなぁアレ。


 そんなやり取りを眺めていたら、背後からザッザッと砂利を鳴らして、例の韓国勢が早歩きで近づいてきた。


「ホントにあんたたちが私らより成績が上位って、いまだに信じらんないんだけどっ!側から見るとアンタたち、まるっきりおバカ集団にしか見えないから!」

 キム・ヨンウがイライラした様子で通り過ぎる。

「いやいや、俺たちはそんなこと思ってねぇーからな」

「うんうん、俺たちは関係ないからなっ!!」

「はぁ、あんたたちまで何言ってんの? ほら、さっさと行くよ」

 スタスタ歩いていくキム・ヨンウの後を、早歩きで追いかけるパク・シフとリ・ミンソンがアリスたちに申し訳なさそうに手を合わせながら通り過ぎる。


「ハンッ!トーナメントにも出れなかった連中が吠えてんじゃないわよ!」

 安綱は韓国勢の背中に中指を立てる。

 中指立てんなって。

「安言わせておけばいいのよ、ウチらのチームワークを妬んでるだけよ!」


 確かに俺たちが意気投合したのは入試のトーナメントからだ。

 入試試験は学科と基礎体力測定と面接で行われ、その成績上位八名による模擬戦のトーナメントが開催されたんだ。

 安綱が言ったトーナメントとはこの事で、ルールは相手を戦意喪失、または闘技場から落としたら勝ちっていうシンプルな内容で、訓練用の武器を各自選んで戦う感じのものだった。

 本来ならギフトを持たないノーマルな受験生が模擬戦を行う、ちょっとした武闘大会の様なトーナメントなのだが、創立十周年の今年は違った。


 トーナメントの8名の出場者の内7名ギフト持ちという、極めて異例で初めての状況の中、唯一のノーマルも剣鬼の安綱だった事でトーナメントは大荒れに荒れた。


 未成年の高校入試の模擬戦がまさかあんな死闘になるなんて、誰も想像していなかっただろう。

 初戦を突破した俺は準決勝でニヤにボコられ。

 3位決定戦で安綱に八つ裂きにされて敗退。

 結果、4席となった。

 総合的に見て、一番派手に負傷やられたのは明らかに俺だろうなぁ。

 そして、入学が決まり、あのセレモニーだ。

 力を出し切ったからこそ、俺たちは意気投合し、チームになれたのかもしれない。

 少年漫画によくある展開。ライバルとタイマン張って友情が芽生える…みたいな。

 アレを現実で、しかも命がけでやった結果だ。

 それを同じ新入生という同じ立場で目の当たりにした…からこそ、こうやってふざけている俺たちが気に入らない、先行を許してしまったノーマルの新入生の気持ちも、まぁ分からんではない。

 まるで、置いてきぼりをくらったような心境。

 お前たちだけが、特別だと思うなよ!

 きっと、そんなとこだろう。


 でも、親は選べないからなぁ。

 俺たちはたまたま両親がステアーズだった…ただ、それだけだ。


「そうそう、俺たちチームだよー、天満いつまでもチームメイトをヘッドロックしてちゃダメだぞぉ」

 チームとか口では言ってるが、ニヤと安綱に試験で半殺しにされて、セレモニーではアリスに生焼けにされた…。

 ホントにチームだよな?俺だけ犠牲者みたいな…。

 

 思いなしか、ヘッドロックの力も入ってしまう。

「痛い!マジで!天満ぁ」

 悶絶するニヤをしばらく楽しんだ後。

 「はいはい、チームならもう面倒起こすなよ」

 そう言って、ニヤを開放した。

 

「オラオラ、お前らちんたらしてねぇーで、早く来いっ!!縁台に軽食が用意してあるから八人グループで座れっ!!」

「はっはいっ!!」

「おっおう!」

 シャオロン講師が本気で怒りだす前に、俺たちは茶屋に向かってダッシュした。


 

 緋毛氈ひもうせんと呼ばれる赤いフェルトが敷かれた縁台に野点傘のだてがさ、用意されていたのは、熱いお茶と数種類団子が山の様に用意されていた。

「お団子じゃん!私あんこの頂戴!」

「いっぱいあるから、焦るなよアリス!」

 各々ビュッフェの料理を取り分ける様に、用意された皿に好みの団子を乗せて着席した。

 

「なんか、やっぱり君たち凄いね」

 騒がしく遅れて着席した俺たちを、三つ編みのメガネの女の子が席を開けながら話しかけてきた。

「えっと、君誰だっけ?」

「ニヤ君、女の子にそういうの失礼だよっ!!・・・って誰だっけ?」

「安綱ぁ、あんたが一番失礼よ」

 ニヤに続いて、安綱とアリスが縁台に腰掛ける。


「ハハハハハ、やっぱり憶えてなかったか、俺たちは入試模擬戦のあんた達の一回戦の相手さ、シェーン・ロバーツ、一応五席だ」

 白人の金髪の男が爽やかに笑う。この人…ギフト出す前に安綱に瞬殺されたアメリカの人だ。

「ワン・ユートン、中国四川省出身、六席」

 ラフなウエーブロングの美人さんが握手を求めて手を差し出す。

 俺は焦ってズボンで手のひらを拭いて、握手に応じる。

 ニヤの初戦の相手だったらしいが、憶えていない。ごめんなさい。

「ザハールだ、ロシア、サンクトペテルブルク出身 七席だ」

「痛てててててっ!!!力強すぎだよっ!!」

 二メートル近い身長のロシア人がニヤと握手している。

 彼の巨体は印象的で記憶に残っている。

 確かアリスの対戦相手で、アリスのギフトのエア・マスターで顔の周りの大気を成分調整されて酸素欠乏チアノーゼになって失神して負けた。あの巨体が受け身も取らずに前のめりに倒れたのは衝撃的だった。

「波際奈美です、私の事憶えてますか?天草君」

 改めて三つ編みメガネの女の子が俺を見上げた。茶色い瞳がまっすぐに俺の目を見つめている。

「ああ、憶えてるよ、君とはやり辛かった」

 彼女のギフトは水使い、体内で精製した塩水を水弾として打ち込むギフトだった。

「ウソ、私は天満君がワーウルフに変身できることすら知らずに負けたんだよ」

「違うよ、天満は単純に着替えを見られるのが嫌だったよー、三位決定戦で私に腕を切り落とされて初めて狼男になったんだから」

 安綱は俺と波際さんの間に入って、彼女から俺の身体を遠ざけるように胸板を押した。

 

 そして、俺の立ち位置と入れ替わる様にアリスが波際さんの前に立った。

「で、私たちの何が凄いの?」

 アリスに真正面に立たれて、彼女は緊張気味につばを飲み込んだ。

「えっと・・・・ね」

 彼女はまるで眩しいものでも見るように、ゆっくりと瞼を閉じてこう言った。



「あなたたちは、なんでそんなに楽しそうなの?」





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