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戦闘狂症候群


 その戦闘は、俺たちがフロア9へ上がった時にはすでに始まっていた。


「ちょっ・・ちょっとっ!?どういうこと」

 アリスが困惑した表情を見せた。

 アリスだけではなく、俺たちを含めた全員の生徒が驚愕の表情でその戦闘を目の当たりにした。

「あんな人居たっけ?」

「誰だあの人?」

 皆が首を傾げる。


 眼前で銀子さんと見知らぬ男が、光子剣フォトンソードで斬り結んでいた。

 しかも、かなりの手練れの様で、銀子さんと平然と渡り合っている。ランクS以上の強さだろ?アレ。


「お前たちに制服でここまで来させた理由の一つが、まぁ…アレだ」

 シャオロンはしゃがんで銀子さんと戦っている男を凝視している。

「なぁ、どう見てもあの男ステアーズだろ?着けてる装備も身のこなしも、んで佇まいもさ」

「どういうことっすか?意味わからないっすよ、なんでステアーズ同士戦ってんですか?」

「そうよ、このフロアのガーディアンはマネキンじゃないんですか?」

「あははは、すっげぇー人間に近いマネキンだったりしてっ!?」

 ニヤはふざけて言ったみたいだけど、それがどうやら大正解みたいだ。

 

 シャオロンはニヒルな表情を見せてニヤを見る。

 スッゲェ悪い顔。

「正解だ、アレはマネキンの最終進化形態。限りなく人間に近いアンドロイド。――――――――おそらく、塔で死亡したステアーズの遺伝子を解析して、工学技術とクローン培養によって量産化されたマネキン・ステアーズってとこだ」

「はぁ…ってなんすか?それ!」

「うそ、じゃぁ、塔で亡くなった誰かと戦ってるって事? 」

 その話マジで酷くない?、アリスは安綱に抱き着きながら、無表情の男を観察する。

「天満、ステアーズフリークじゃん、アレ、誰か知ってる?」

「知らねぇーよっ!!この二十年で何人のステアーズが亡くなってると思ってんだっ!?」

 自分で突っ込んでおいて、改めて思い知らされる。――――――――。

 

 いったい、エボ(ここ)で何人死んでるんだ?

 

 おそらく誰かの仲間だった男の姿したマネキンは、銀子と距離を取り、二振りの赤色のフォトンソードを構え無表情でたたずむ。

 

 同じように二振りの赤色のフォトンソードを構えた銀子が、嬉しそうに舌なめずりをする。


 対峙すること数秒。

 銀子が先に動く。

 高速で飛び出すと、四連撃を一瞬で繰り出す。 

 その苛烈な四撃が綺麗な火花を散らしながら、バックステップしながら二刀で受け流す男。

 銀子さんは追従し、懐に潜り込み六連撃。

 男は表情一つ変えずに二刀流で華麗に舞って銀子の攻撃を吸収し、受け流す。

「いづなっ!!刹那!!、手を出すんじゃないわよっ!!コイツは久しぶりの当りだっ!!」

 嬉しそうに男に斬撃を繰り返し打ち込む。

 男は相変わらず表情一つ変えないで、銀子の斬撃をフォトンソードで受け流し最小限の動きで対応する。

「アレは相当の手練れだよ、あの攻撃受け流すかな?」

 安綱が攻防を観ながら呟く。

 一方、刹那さんといづなさんも同様に敵と遭遇したようで、先行していた先の暗闇の中、フォトン・ソードの光が二条展開する。

「こっちも、銀子さん止める余裕なさそうですっ!!」

「たった今、手が出せなくなりました」

 いづなさんと刹那さんは銀子さんとは反対方向の暗闇を見据えて、フォトンソードが放つブォンという音と青と緑の光子が刃の形状に展開される。


 それに呼応するように、ふたりの前に現れた戦闘服を装備した二人の男が赤いフォトンソードを振りかぶりながら突っ込んで来た。


 このふたりの顔も別人だ。 

 無表情の二人の男は刹那といづなに襲い掛かる。

「おっ、レッドソードッ!!」 

 いづなさんは少し緊張気味に構え、男の打ち下ろしを受け止める。

「こっちも当たりです」

 ピリついた表情で刹那さんが銀子さんに報告する。


 何が当たりなんだよ?なんか緊迫感は増したけど嬉しそうだぞ、というか相手は誰だ?やっぱり見覚えがない。しかし、構えの異なる二人組には、まったく隙が無い。


「こっちの相手かなりの強敵ね!だから当たり・・ですか?」

 安綱がシャオロンの耳にささやく。確かにSSランク銀子さん相手に斬り結ぶなんて芸当、並のステアーズじゃ役不足だろう。

「手練れなのは正解だが、当たりはソードの色だ、赤は激レアで強いし、赤は売ると高値が付くんだ」


「なんか、信じられないっすよ、八階までは機械兵って感じだったじゃないっすかっ!?・・・なんで急に・・・アレ完全に人ですよね?・・・だって、ほらっ!」

 銀子さんのしっぽが繰り出す、死角から襲う三本目の赤いフォトン・ソードがすくい上げるように男の手首から切断。


 ロッドを握ったままの手は宙を舞う。


 切り落とされた手首は赤黒断面を見せながら、周囲に血と肉が焦げる臭いを撒き散らして、ゴトリと落ちた。

 「まずは一本っ!!」

 器用に尻尾の一本で、ロッドを握ったままの男の手をゴミのように引きはがして、ロッドを拾い上げる。


「この肉の焼けた臭い!アレ、ホントにマネキンですか?」

 男は顔色変えずに、斬られた手首を見つめる。

「クッククク、自分もこないだ焼き斬られたからねぇ」

 安綱は意地悪い顏で俺の耳元で呟く。

「嫌な笑い方すんなって!」


「傷の断面まで人間と同じって…厄介ね」

「ねぇねぇ、やっぱり血も赤いの?白とかじゃないんだ?」

 アリスとニヤと言う通り、フォックスが戦っている相手は、まんま人間なのだ、マトモな倫理観の持ち主なら相手を殺傷するのに躊躇してしまうわけで…。もっと人工的な相手なら容赦なく戦えるのに…。


「アンドロイドの血液が白いなんてのは、フィクションの世界の話だろ?、製造しているのが人間じゃないんだ、わざわざ色を変える意味もないし赤い方が戦略的には現に有効だろ?」

 確かに、赤い傷口を見て動揺しまくってる俺たちにとっては戦略的に大いに有効といえる。初見だったらまず騙されて、殺られてしまうだろう。


 そして、手を切り落とされた男は、怯む様子もなく残った左腕で銀子さんに襲い掛かかってるし。

 

 次の瞬間。


 ドンッ


 俺たちの目の前で、男の頭が破砕した。


 ドンッ ドンッ


 続けて、いづなさんと刹那さんが相手をしていた男たちの頭部も破砕する。


 鬼の形相で、銀子さんは俺たちの方向を睨む。

 正確には、俺たちの背後からマネキンを狙撃した人物を特定して、睨んでるわけで…。


「ちょっと、バレットッ!!あんた殺されたいのっ!百点減点よっ!」

 鬼神のような殺意を全く遠慮することなく、俺たちの背後にぶつける銀子さん。

 生徒の何人かは、その殺気にあてられて失神して倒れ込んだ。


「タイム・アップだ、フォックス」

 硝煙が漂う、巨大な20mm対戦車ライフルを抱えたサイボーグ、ナインの狙撃手バレットは、銀子の殺意を真っ向に受けて怯むどころか、硝煙を吐き出している銃口を銀子さんに向ける。

「お前たちの仕事は生徒を無事にフロア10へ導くことだ、ここはまだフロア9だ、弁えろ」

 バレットがそう告げた瞬間に、炎の様に熱くヒリヒリするような衝撃が放たれた。

「ランクAごときが私に説教かっ!?どうやら、本気で鉄くずになりたいらしいわね」

 銀子の九本のしっぽが四本の赤いフォトンソードを展開して、扇状に広がる。こうなっらた私たちはお手上げですーと、銀子の後ろで早々に光子の刃を収めた、いづなさんと刹那さんは諦めたように両手を広げて首を振っている。


「銀子さん、プロなんですから、ちゃんと仕事しましょうよ」

 チーフが冷静に銀子を諭す。

 先頭にシールダーのイージスとスヴェルを立たせ複数の腕のシールドでバリケードを構築。その背後に索敵のアイザックとチーフが腕を組んで仁王立ちしていた。

 ここに来て、まさかフォックスvsナインの構図になるとは思わなかったぞ。

 両者バチバチの状態で睨み合っている。

 

 その空気を察してか?バレッタが構えていたライフルを肩に担いだ。

「チーフすみません、出過ぎた真似をしました」

 チーフに一礼して、銀子に背を向けナインのメンバーの元に戻る。

「いや、いいんだ、僕たちナインは一心同体、君の意見は僕の意見だからね」

 チーフはバレッタの肩に手をやる。

「ありがとうございます…」

 俺たち生徒たちの視線を一身に受けながらも、後方で護衛の為待機しているニョルニルやヘルハウンドたちの方向へバレッタは戻っていった。

 

「誰がっ!! 勝手に終わらせて良いって言ったっ!?ああっ!?」

 更に銀子さんから発せられる、溶けた飴の様に高温で溶けそうな殺意がナインに向かって放たれる。

 ナインは平然と受け流すが、生徒たちの半分以上が卒倒した。


「これがランクSSの本気の殺気な・・・の・・」

 アリスが片膝をついて呟く。

 ジリジリと、まるで高温の重力に灼かれながら押しつぶされそうな感覚だ。


 セレモニーで俺たちと対峙した時とは雲泥の差だ。あの時の銀子さんはまったく本気の欠片も見せてなかったんだ。


 無秩序に放たれる本気の殺意に押しつぶされそうな感覚で、俺はいつの間にか四つん這いになっていた。

 周りを見ると多くの生徒が前倒れに倒れている。

「言ったよね、うちらはコレが目当てでフロア9(ここ)に来てるってさっ!!」

 怒り心頭の銀子さんは、周りの空気を歪ませる程の殺気を放ちながらジリジリとナインの方向へ近づく。



戦闘狂症候群バトルマニア・シンドローム・・・」

 思わず出た言葉が、いつだったがスタジオ・ステアーズで見た、強敵を求めて彷徨うステアーズの特集を思い出させた。

「ほう、なかなか物知りだな、天草天満」

 四つん這いで、必死に前を向いていたら、俺の横に立ったシャオロンがクシャっと頭を撫でてきた。

「えっと…人は強い力を手に入れると、その力を行使したくてしょうがなくなっちゃうってヤツでしょ?」 

 ニヤは怯む様子も全くなく、シャオロンの横で平然と両手を頭の後ろで組んで事の顛末を見守っていやがる。

「ニヤ、お前平気なのか?」

「うん、へっちゃら」


「へっちゃらなんだ…」

 後ろで、諦めた様な声で安綱が反応する。


 ニヤもある意味バケモンだな。このプレッシャーの中へ依然としてやがる。恐怖心とか皆無なのか?。

「よく勉強してやがるなぁ、感心感心。しかも、ギフト持ちでありながらその辺のコントロールをちゃんとできてるから、まぁお前らは優等生なんだろうな」

 感心した様子で俺たちを見比べる。

 「ちなみに銀子はバケモン並みに強いが、心のコントロールについてはお前たちよりも下だな、あのザマだしよ」


「そっ、そんなことより、先生ぇ、止めないんですか?」

 安綱は俺とおんなじポーズで、まるで二人で土下座しているみたいな状況で、息が苦しそうだ。

「すっげぇ良く切れる包丁買ったら、とにかく試し切りしたくなるよな、銀子たちの場合、要はそういう事だ、武器の性能と自分の能力に酔ってる状態だな」

 銃を手にしたら、撃ってみたくなる。はじめは空き缶を狙ってるだけで満足していたのに、だんだん標的が大きくなり、無機物から生物へ、そして対象が人になってしまう…みたいな事だろう。

 銀子さんだけでなく、多くのステアーズが患う病気みたいなものらしい。特に強いギフトを所持してしまったステアーズが発症するのは有名な話しだ。

 『自分の力を存分に発揮できる相手と戦いたい』という抑えられない麻薬の様な欲求だ。


 そういう意味でもこのフロア9のマネキンは、剣術という部類にかけては銀子さんたちの満足するレベルなんだろう。

「そんなの、まるで辻斬りじゃない」

 安綱はグラムに貰った光子剣のロッドに手をかける。こいつ銀子さんに斬りかかるつもりかっ!?

「剛毅だねぇ、ランクSSに立ち向かっていく気概、俺は嫌いじゃないがな」

 今は止めておこうなと、そっと安綱をなだめ。

「頭に血が上ったやつの正気に戻す方法ってのは色々あるんだ、まぁ、見てな」

 シャオロンはやれやれと言いながら、俺たちを庇うようにナインの面々と対峙している銀子さんの前に立った。


「何?、あんたが私らの相手してくれるわけ。シャオロン」

 舌なめずりして、斬りかかる気満々の銀子さんが、シャオロン講師をロックオンする。

 暴走列車を止めるブレーキ役のいづなさんも刹那さんも、これから起こるトラブルをどこか期待しているのか、銀子さんを止めようとはしない。

 もう、ブレーキの役割を放棄しているわけで、シャオロンはどうやってこのトラブルを解消するのか、固唾を呑んで見守る。


「なぁ、銀子、お前壊れたロッド何本だった?」

 シャオロンは突然そんな質問をぶつける。

「三本よ、それがどうしたのよ?」

「良かったじゃないか、一度の戦闘で激レア四本だ、大収穫だろ」

 その言葉に、少し考えて、面食らった表情の銀子。

「・・・そうね・・・よかったわ」


「まだ、フロア10の階段ステアまで、しばらく距離があるからな、後三本はいけるんじゃないか」

 シャオロンはそのまま歩を進め、銀子を通り過ぎる。

「さぁ、行くぞ、お楽しみはまだ先だ」


 シャオロンの言葉で、銀子は展開していたフォトン・ソードをオフにして、ロッドを腰にぶら下げる。

「ふん、そういう事ね、まぁいいわ」

 毒気を抜かれた表情で踵を返して、シャオロンを追う銀子。

「ちょっと、姐さん待ってくださいよ」

「ええー、もう終わりなんですか~」

 正気に戻った刹那さんといづなさんの二人も、シャオロンの後を追う。



「三度の飯より戦いが好きっていう困った連中、ああいうのがパーティーにひとりいると大変迷惑だ」

 アイザックが俺たちの横に来て呟き通り過ぎる。

「ああいう輩はすぐ勝手な行動する、私欲で戦いを始める、強敵ともとの戦闘の為なら平気で味方を裏切る等々、様々な症例がある、ああなる前に君たちもギフトを得た後、自覚症状があるうちに医師に診断を仰ぐことをお勧めする」

 ナインの面々が周りを警戒しながら、気を失った生徒たちを優しく引き起こす。


「ホント、めんどくさい人たち、知ってる?ああいう人たちを『リアル厨二病』って言うんだよ」

 チーフはあきれた様子で、ため息をついた。







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