エボ・タワーに登ろう 其の四
フロア3は、本当にウォーキングで終わってしまった。
先行していた狐のお姉さんたちは、どうやって増え続けていくスナイパーを撃破していったのだろうか? 狙い射出される銃弾を剣で斬る。ガンマンと対峙する侍みたいなのを想像しみると、実にチープな見世物だ。
しかし、十人を超える狙撃手から被弾しないで相手を近接攻撃で倒すとなると、一気に難易度は上がる。
エボタワーの開幕のフロアーでこの難易度って、ゲームならバランスが悪過ぎだ。ニヤじゃないが、ダンジョンゲームさながら、序盤はスライムとか小動物系のモンスターから始めてほしかったなぁ。
現在、俺たちはフロア4からフロア5に向かって進行中だ、フロア3で配置されていた中、長距離狙撃ガードボットに加え、通称スパイダーと呼ばれる、機載型機関砲を二門搭載した六脚の蜘蛛型の兵器がフロア4から新たに登場している。
スパイダーは遊撃部隊として、地べたを這うように高速移動しながら接近してガトリング砲をぶっ放し、その頭上を、スナイパーの援護射撃の銃弾が飛び交う。いわゆるチーム連携で挑んでくる。
しかも、フロアは全体的が迷路になっていて、いつ敵と遭遇するかは分からない。ナインはシールダー先頭と最後尾に配置し襲撃に備え、俺たち生徒はフロアをぞろぞろと進む。
「チーフ、最後尾に敵影確認、現在接近中、距離150数スパイダー5」
ブォンブォンと回転する頭部のレーダードームの音を響かせ、アイザックさんの索敵で敵の出現は襲撃前に察知される。
「スレイプニルとニョルニルは迎撃に当たって、スヴェルはそのまま最後尾でシールドを展開、一発の銃弾も通しちゃダメよっ!!」
チーフの前面に戦術ホログラムが八面展開し、ナインのメンバーの状況と映像がリアルタイムで送られ、細かな支持をチーフがメンバーに指示する。
ハンマーのような巨大な両腕を持ったニョルニルが軍馬スレイブニールにまたがり、襲撃してきたスパイダーを、その巨大な鎚で迎撃していく。
「まるでSF映画さながらの映像ですね」
チーフの背後から、チーフの面前にホログラム展開しているタクティカル・モニターを思わず覗き見してしまう。
「まさに科学そのものだ、フィクションなんかじゃなくな、ステアーズにもいろんなチームが存在するが、ナインは科学分野では最先端のチームだ。フロア3から10までの限定区間を探索、攻略するために作られたチームだからな」
シャオロンが緊張感ない表情で振り向く。隊列の前方と後方で戦闘が行われているはずなのに、俺たちの周りはその緊張感が全くない。
通路には銀子さんたちが駆逐したスパイダーの残骸が無数に点在している。
「スパイダーに内蔵されている小型バッテリーや基盤、あと機関砲なんかもジャンク品としては価値があるからな、チームに所属していないプライベーターのステアーズの小遣い稼ぎにもなるから、覚えとけ」
ナインのマップナビの誘導により、俺たちの隊列は道に迷うことなく最小限の戦闘で最短距離を移動している。
フロア4に上がってから、安綱はメモ帳を開いて、こまめにマップを手書きしている。
「うお、この時代に手書きかよ、というか、マメだねぇ安綱」
「はぁっ? この時代だからじゃない、モバイルのオートマップが故障したら? ガイドが負傷、死亡したら? エボじゃ十分にあり得る事なんだよ。遠足じゃないんだよ、アホ天満」
「だれがアホじゃいっ!?」
一気にまくしたてやがって。ちょっと傷ついた。
「そうだよ、これぐらいの道、暗記してるに決まってるじゃん、そうだよねアリス?」
暗記してるって決めつけるなよ。してるわけないだろ、ニヤは暗記してるのかよ!?戦闘を横目に行軍してるんだぜ、そんなことできるわけねぇーじゃん。
ステアーズオタクってだけで、座学の試験は何とかクリアした俺と違って、やっぱり首席だよなぁ。
「そうね。私も一応記憶してるけど、安綱の記録が正解かもね、個別で戦闘に巻き込まれて方向を見失った時、マップが有ると無いとじゃ生存率が大幅に変わってくるわ」
うおっ、劣等生は俺だけかよ。
「ちゃんと攻略法考えておけよー、チームなりソロなり、卒業までにはお前たちだけで踏破できるようにならないと、ステアーズなんて夢のまた夢だからな」
シャオロン講師のありがたい言葉、確かにステアーズとは階段を探して上層階へ登っていく者たちの総称だ。
俺たちはまだ、階段を探しちゃいない。道すがら、守ってもらいながら登ってるに過ぎない。
「今はただ、お荷物ってことよね」
安綱のつぶやき。
「ああー、ぞろぞろと連なる長ーいお荷物だな」
俺は、背後を振り返り、インターナショナルスクールよろしくの多国籍の制服集団を見つめる。
言語別で集団を作り、小声で各々の国の言語で話している。
「日本語に堪能なアリスは問題ないにしても、他の連中にシャオロン講師の言葉は届いてるのかな?」
当然、後ろの連中が何を話しているのか、大半は分からない。
「はっ!?――――――。えっと・・・私は天満達がシャオロンの英語をちゃんと理解してるのに驚いてたんだけど、ほら、会話がかみ合ってたから」
「え、どういうことだよ、俺たちには日本語でしか話していなかっただろ?」
「えっ……どういうことだ?」
皆がフリーズする。
アリスには英語で聞こえて、俺たちは日本語に聞こえる?
「ぷはっ!あはははははははっ、おせーよ――――――――。やっと気が付いたのか?今年の新入生は洞察力が足りてねぇーな、ちなみ俺が今話してるのは広東語だ」
ひとしきり笑い、衝撃的なことを言ってくれる。・・・なんだって広東語?
「先生ー、ちょっと言ってる意味わかんないよー」
ニヤも予想通りチンプンカンプンだ。
「災いなるかなバビロン、神の怒りに沈む都って知ってるか?」
シニカルに口の端を上げて、シャオロンは俺たちに向き直って質問してきた。
何言ってんのか?、俺もチンプンカンプンだ。
「メソポタミアの古代都市、紀元前十八世紀のバビロニア王国のことですか?」
アリスがさも当たり前のように答える。何でも知ってるな、こいつら。
「ああー、バベルの塔っ!!聖書に出てくる、創世記のお話かな?」
ニヤは聖書まで読んでるんか? 俺は月刊ステアーズを毎月購読してるぐらいしか本なんて、読んでないけどな。
「バベルとは、アッカド語で神の門を表す言葉だ。それで聖書によるとヘブライ語で「ごちゃ混ぜ」という意味らしい――――――――。今、我々がいる進化の塔が、かつてバベルの塔と呼ばれていたことは知っているか?その理由がフロア5にある、第一の進化の門「バベル」だ」
それなら知ってるぞ、エポの初期のころはバベルの塔とか言われてたな。
「かつて栄華を誇ったバビロニア王国の王様が、調子に乗って自身も「神」になったとのたまい、何を血迷ったのか、「神」に謁見するため、国中から人々を集め巨大な塔を作り始めた。絶対者の「神」はそれを許すはずもなく。天空にそびえる塔に降り立ち、愚かな人々に罰を与えたんだ」
こういう系の話好きなんだろうなぁ、いつもめんどくさそうに話す講師が饒舌だ。
「その「罰」が人類から共通の言葉を奪ったのさ、言語をごちゃまぜにしたというべきか。人類の言語が未だ国によってばらばらで、二十一世紀になっても人類が一つになってないのは、その愚かさの証しだわな――――――――。」
そうこう言ってると、フロア5に上がる階段が眼前に現れた。
「この階段を登れば、エボタワー最初の進化「共通言語」だ」
「僕たちステアースに国境も言葉の壁も無いのだよ!」
チーフが胸を張って、さも自慢げに言う。
先行していた銀子さんたちが、俺たちに気が付いて手を振ってれている。
いよいよフロア5へ向かう階段だ。
俺たちも、手を挙げて返す。
「じゃぁ、フロア5にあがれば・・・」
目の前の階段を見上げながら、ニアが嬉しそうに言う。
「ああ、その気になれば地球上の誰とでも、お友達になれるだろうよ」
「ナニよそれ、日本に来る為に、必死にアニメ見て日本語覚えたのにーっ!?私の努力が水の泡じゃない」
アリスは頬を膨らませて、拗ねて見せる。
アリスの奴、日本語をアニメだけでマスターしたのかっ!?
ある意味、凄いな。覚えられるんだ。
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