エボ・タワーに登ろう 其の三
フロア2からフロア3へ向かう階段の手前に巨大な改札口の様なゲートカウンターが、緊張した俺たちを待ち構えていた。
「一人ずつ順番にお進みください」
「ライセンスをかざしてゲートをお進みください」
女性のアナウンスに促されて、俺たちは改札に向かう。
「天満ぁ、なんでマシンなのにカタカナの片言の日本語じゃないのさぁ」
「いつの時代のSFの話ししてんだよ」
ニヤは流暢に案内を日本語で話すAIが気に入らないらしい。
改札カウンターには複数のガードボットが、通過していく俺たちを監視している。
セレモニーで俺とニヤで散々バラバラにしたヤツの上位機種だ。バックパックには対人ミサイルのポッドが左右二基搭載、前面にはレールガン二門とおだやかじゃない装備だ。
にしても、このしゃべり方はいつの時代のロボット設定なんだろう。
顔認証システムで、入学手続きを終えた俺たちの扱いは仮ライセンスのDランクだ。
いわゆる顔パスで、ガチャンガチャンと一人通るとバーが回転しながら生徒たちは入場して行く。
チーフ率いるナインのメンバーは特殊入り口と呼ばれる、車両が通れそうなほど大きな改札を慣れた感じで通っていく。
「フロア3の最初の敵はスナイパーだ。スナイパーは「フォックス」が、銃弾はすべてナインが防ぐので、君たちは列を乱さずついてきてくれ」
「決してパニックになって、走り出したりしないでねー」
シャオロンとチーフが階段を後ろ向きで登りながら、後続の生徒たちに拡張機能で告げる。
長い階段を登り切った先の通路を曲がると、テニスコート二面分ぐらい部屋に出た。
「部屋の先のラインから先に出るなよ!狙撃されっから!」
「狙撃って?・・・・ここ、遮蔽物がないじゃん、どうやって銃弾防ぐんだよ?」
部屋の先は、二車線道路ほどの幅の直線通路。
その先は薄暗くどこまで続いてるのか視認できない。
皆が目を細めて見ていた瞬間…。
ガンッ!
ガスッ!
隊列の先頭にいたナインのシールダー、イージスの盾に衝撃音が響く。弾かれた跳弾が壁にめり込む。
全員が壁を凝視。
そして、遅れてターンという銃声が聞こえた。
銃撃っ!? 俺たちは少し遅れて、慌てて屈んで当たりの様子を伺う。
「すまん…」
そう言ったシールダーのイージスの足が僅かに部屋の先のラインを超えていた。
「ドンマイ!…よし!このまま止まらずに進もう!みんなが入るにはこの部屋はちょっと狭いからね」
「了解」
チーフの提案に、そのままシールダーの2体が前面に巨大な盾を展開しながら進み始める。
ガンッ ガンッ
続けて打ち込まれる弾丸を、造作なくイージスとスヴェルの盾が弾丸を生徒たちに当たらない方向に弾く。弾道が見えているのか? 予測しているのか? その動きに微塵の無駄も感じない。
ターン ターンと何秒か後に響く銃声が、狙撃手がそれだけ離れていることを示す。
「20mmの対物ライフルだ、当たると部位ごと吹き飛ぶので注意するようにー」
相当の距離を取られているのに、注意しようがないんだけど。ギフト持ちの俺たちならまだしも、背後にはギフトを持っていないノーマル連中が半数以上待機してるんだぞ。と内心毒づいていたらニヤが寄ってきた。
「ロールプレイングゲームってさ、はじめの敵ってスライムがデフォルトじゃん、なのにいきなりスナイパーってさ、興ざめじゃん、正直ガッカリだよ」
ニヤは本気でスライムとの遭遇を期待してたんだろうな。居ねぇーけど。
「普通のダンジョンゲームとは違うって事だろ、どう攻略するんだろうな」
スタジオ・ステアーズの放送されていない階層は多数ある。ステアーズ法がらみで、ギフトが得られる階層やフロア3からフロア10までの情報は公開されていない。
スナイパーが敵って事は、ガーディアンはセキュリティボット系のマシン・ソルジャーが10階層続くのかな?
ちなみに放送されている階層だと、フロア11からの獣人階層は亜人または獣人と呼ばれるガーディアンが多数跋扈している。
犬人族をはじめ、鳥人族や蜥蜴族牛人族などゲームでもお馴染みのモンスターが木々や蔦が蔓延る遺跡回廊に登場する。
フロア20を超えると鬼神階層と呼ばれ、「鬼族」にカテゴライズされるガーディアンが階層を支配している。
小鬼大鬼をはじめ吸血鬼までいるらしい。
フロア30を超えると魔階層と呼ばれ、「魔族」の支配する階層で薄暗く、ガーディアンも異質て強敵が多い。
そして、40階層以上は人類はまだ未到達なわけで、どんな敵が待ち構えているのか?誰も知らないってわけだ。
多くの人が予想してるのが「竜族」または、「天使族」がくるのではないかって?ってのが主流の予想なんだけどね。
フロア50が最上階ではないか?とかフロア100まで階層はあるとか囁かれているが、実際のところ進化の塔の頂上が何処なのか誰も知らない。
前人未踏の頂上を目指すステアーズは多くない。
「登頂を目指すのが、それだけ危険で、その頂に到達できるほど我々はそんなに強くない。」
これは、人類で初めてフロア40に到達したチーム・リーダーがインタビューで語った言葉の一節だ。
塔登者を進化させる塔…エボ・タワーの3階層で俺たちは身を縮ませて牛歩の如く進んでいる。
俺たちがテッペン目指す様なステアーズになるか?
それとも稼ぎ重視の一定の階層で戦うステアーズになるかは、まだ分からない。
「俺は天満と違ってテッペン目指すんで!」
ニヤが頭を低くしながらも上を指差す。
「俺は金持ちになれるのなら、どっちでもいいけどな」
大抵のことは、金が無いと何も始まらないからな…。
そんなこんなで、俺たちがおそらく500メートルほど進んだ辺りで、フォックスのメンバーが列から外れた。
「んじゃ、私らが、露払いしてくるから、まぁ、君たちハイキングにでも来たつもりでゆっくりおいでねー」
銀子はフォトンソードを二本展開し、まるで散歩に出かける感じで歩き出す。
「あっ、でもスナイパーの再配備は5分後ですので、それまでに突き当りまで来てください」「ではではー、お先にー」
刹那さんといづなさんも慣れた様子で銀子の後を追いかける。刹那さんは青色、いづなさんは緑色のフォトンソードを展開。
時折、銀子さんの赤いソードが“ぷぉん”と振れた後、ターンと銃声だけが聞こえる。
「おいおい!あの人たち!放たれた銃弾を斬って溶かしてるのかっ!? 」
「スッゲェ!ステアーズって皆あんなことできるの?」
「えっと、あんなことできる人たちは、ほんの一握りですよー」
チーフが困った様に俺たちに教えてくれた。
ナインは先頭にシールダー二人を前面に配置し、続いて索敵のアイザック、そしてチーフとシャオロン講師、俺たち4人から成績上位組から生徒と続き、生徒の左右としんがりを残りのナインのメンバーが警護しながら、先行した銀子さんたちを追う形だ。
「ほとんどのチームは、こうしてシールダーを前面において距離を縮めて、近接戦でスナイパーを排除する方法を取ります。後は相手よりも優れたスナイパーを使い、先に狙撃して進むのが定石となります」
アイザックが前方を見据えたまま解説してくれる。
「それ以外の方法だと、僕たちみたいな護衛専門チームに依頼する。とかですねー!ご依頼待ってますよ!」
「ちなみに10階までの護衛をお願いしたらいくらなのかしら?」
アリスが興味深そうにチーフに質問する。なんかチーフのこの可愛い声にも慣れた感じだな。
「フロア10までの護衛ですと…二千万円プラス諸経費ですかね」
Vサインを見せる。2.5mのサイボーグの女性らしく可愛らしいVサインをして首を傾げて見せる。
ぶりっ子サイボーグには違和感しか感じない!
「おおー、二千万!サインはVだね!あっピースか?」
ニヤが嬉しそうに言う。
「九識インダストリーのオフィシャルチームが二千万円でレンタル出来るなんて、安いんじゃないの?分かんないけど」」
安綱の意見に、俺も一票。俺も分かんないけど…。
「安い代わりに、何か条件があるのよきっと…後は戦利品の持ち帰りの権利とか?」
アリスの意見が一番、的を得てる様に聞こえるぞ。
「そうね、アリスちゃんが一番近いわね、護衛中に得た情報とデータの全ては九識インダストリーと共有が条件。あと戦利品も選択権は我々が貰います」
「なによ、全然普通じゃない、つまんないわ・・・名前が「ナイン」だから九千万なんてのを期待してたわ」
アリスは何を期待していたのか、腕組んだまま口を尖らせる。
「駄洒落かよ!」
チーフは黙って、首をかしげる。
「んっ?」
アリスもチーフを見上げて首をかしげる。
「・・・そうだよ、九識の僕のギフトがそのままチーム名「ナイン」なんだよ。」
九識インダストリーの「ナイン」は有名だ。
だけど……、そうだよ…この人たちのギフトって?なんなんだ?
「ふふん、そうねぇー、でもどんなギフトかは内緒なのだ。企業秘密なんで教えてあげたいけど教えてあげれないな」
「9人だからナインじゃないんだ?」
「大人ってのは建前と本音ってのがあってね、隠し事だらけなんだよー、言っていい事ダメな事いっぱいあるんだなぁ」
チーフの言葉に、前を歩いていたシャオロン講師が振り返る。
「そういう世の中なんだから・・・お前たちも大人になるまで生きてたら、まぁ、わかるさ」
チーフの言葉は、シャオロンに向けての言葉だったのか?
「なんか、意味深だな」
腕を組んで、うんうんと頷きながらニヤが呟く。意味わかっていってるのかこいつは・・。
約1キロぐらい歩いたところで、突き当りにたどり着いた。
壁の中に狙撃用のスペースが作られてあって、中に真っ二つになったスナイパーライフルを二挺装備したガードボットがブスブスと煙をあげていた。切断面の金属が溶解しているフォトンソードの切り口だ。キッチリ仕事してるなぁ銀子さんたち。
しばらくすると、壁を仕込まれたレールを一台のガードボットが二基連なって現れる。俺たちが警戒して身構えると、「大丈夫だって」とシャオロンが手で制した。
「再配置です、こうして掃除屋が破壊されたガードボットを回収し、新しいガードボットが装填されます。掃除屋は壁をレールにガードボットだけでなく、侵入者の死体もキレイに片付けてくれます」
アイザックのレーダードームのライトがクルクルと旋回しながら解説。この人も謎が多いよなぁ、何処から声が出てるんだろうか?人が入ってるのかな?
「あと銃弾が打ち込まれた壁も自動修復するんだよ、凄いよねエボって!」
掃除屋は、壁の下にある横穴に向けて、ゴミをほうきで電動ちりとりに吸わせるようにガードボットの残骸をガシャガシャと捨てていく。
「せんせーっ!ならさ、この掃除屋ガードボットを破壊すればスナイパー居なくなるんじゃないの?」
「掃除屋を破壊すると、また掃除屋が来る。延々と掃除屋と代わりのガードボットが供給され続けるんだ、疲れる話だろ?だから誰もやらねーんだ」
「ふーん、そーなんだ!」
残骸を横目に突き当りを90度曲がると、再び直線通路。
「このルートな、角を曲がる度にスナイパーの数が増えていくんだわ、合計15回曲がるんだけどな」
どんなルートだよ!
振り返るとみんな同じ顔してた。
「まぁ、最後の方は距離も短くて、銃弾の雨あられってやつだ…。なぁーに、今日は銀子たちが先行してるから、ただ約10キロのウォーキングでフロア4に到着だ、楽だろ?」
なんか、凄いこと言ってるけど、シャオロン講師がダルそうに話すと、全然大したことに聞こえないのが不思議だ。ステアーズにとってこうやって狙撃されるのも日常なんだな……って思うとゾッとするぜ。
フロア3だぞ・・・この先どうなってんだ?俺…だんだん自信なくなってきたぞ。
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