エボ・タワーに登ろう 其の二
カシャン カシャン カシャン
複数の金属音が響き、修学旅行生のように集合していた俺たち八十八人が左右に分かれて道を作る。
その中央を金属音の正体が悠然と隊列を組んで悠然と歩いてくる。
「おおお!マジかよっ!!まさかこんなに早く会えるなんてっ!!」
おそらく、ステアーズファンの小学生男子にダントツ一番人気のステアーズチーム。九識インダストリー公式チーム「ナイン」、大小さまざまなサイボーグたちが名を連ねる、九人の機械化小隊。
ランクAながら、人気だけはランクS以上、フル稼働フィギアもシリーズ物で大人気だ。当然、俺たち進化学園新入生全員知っているし、多くのファンがこの中にもいるだろう。その証に、彼らの為に道を空け、ナインを見送る視線は羨望と敬意が込められているのが俺にもわかる。
「すっげぇー、本物だー、うぉぉぉっ!!!天満見て見てっ!!かっちょええええっ!!!」
ニヤは視線でなく、全力で表現してるけどな。
「やぁ、アイザック、今日も生徒たちの護衛を頼むよ」
シャオロンが先頭を歩いてきた、頭部が円盤型の傘状サイボーグに声をかけた。
「御依頼感謝します、今回は我々九識にとっても、興味深いデータが取れるミッションになるでしょうね、楽しみにしています」
そう言うと、アイザックは俺たちの方を見た。
「なるほどねー、やっぱり私たち天然ギフト持ちがエポ・タワーで、二つ目のギフトを取得するかどうかは、テスアーズ委員会を始め、各国気になってるところじゃない?」
アリスが俺に耳打ちしようと、背伸びして話しかけてきた。傍から見たら頬っぺたにチューしてるみたいだぞ。
「ギフトを二つ持とうなんて欲張りは、精神崩壊したり、死んだりするかもって、ネットでは有名な話だけどね・・・天満には是非体を張って証明していただきたい事案だわ」
「俺、魔法使いになりたいっ!!」
「ほら、安綱、ここにいるぞ欲張りがっ!!」
ニヤにヘッドロックかける。俺たち四人は頭付け合わせてコソコソ話。何やってるんだか・・・。
「はいはい、みんな注目ーっ!!」
シャオロンの号令で、みんな緊張した面持ちで向き直る。
「みなさん、初めまして、我々は九識インダストリーのチームナイン、私はアイザック、今回のミッションの護衛担当をいたします。」
「本日の予定は、このまま皆さんには五階まで上がっていただきますので、我々ナインが先導しますので、このまま共に中央階段を上がってきてください。」
9体の大小様々なサイボーグたちが一斉に歩き始める。
「はーい、みんな移動ーっ!!」
シャオロンとアイザックが先導して、中央階段を上がっていく。
大人が横並びで五十人並んでも有り余る横幅の階段を目の当たりにする。
「まったく、壮観だぜ」
階段を見上げて、思わずつぶやく。いよいよステアーズとして始まるんだという実感。
「天満ぁ、いよいよだね、このままてっぺんまで行っちゃうっ!?」
興奮気味の俺たちを、安綱は冷めた目で見つめる。
「なっ、なんだよ?」
「あんたたち、まだ一階だよ、人類は二階まで完全制圧してるんだから、二階三階の階段がスタート地点なわけ、オッケー?」
んなことは知っとるわい。何がオッケー?だよ。俺が右隣の安綱を睨んでると、アリスとニヤも階段の手前で横並びになる。人が感慨深く浸ってる時に邪魔するなよ、先に行けばいいだろうに。
「まぁまぁ、階段は階段よ、この一歩が私たちの偉大なる第一歩になる事を願いましょうよ、ねっ安綱」
アリスはそう言うと、俺とニヤの間に入り、俺たちの腕をぐいっと掴んで、自分の腕を回す。
「そうね、記念すべき一歩にしましょ!」
安綱も俺の右腕に腕を組んできた。・・・・・なるほどな。
「んじゃ、行きますか――――――――。はじめのーっ!!」
「「「「一歩ぉぉぉっ!!!!」」」」
俺たちは声を合わせ、はじめの一歩を踏み出した。
フロア2は既に人類が掌握し、好き勝手にリノベーションした結果…未来的なまるで巨大なハブ空港の様な様相へと変貌していた。
多くの店舗が並び、3階へ伸びる複数の階段へ向けて、通路にはすべて動く歩道が完備されている。
番号の振ってある歩道乗っていれば、迷わずフロア3の目的地へ上がる階段に到着できる様だ。
目的地の数は20までナンバリングされていて、階段の前に改札の様なゲートから、ライセンスの提示で入場できる様になっている。
「知ってるか? この島の電気な・・・すべてこのフロアから無尽蔵に人類が抜き取ってるんだぜ」
「皮肉よね、先人が命を賭して得た貴重なエネルギー源を、人類は無尽蔵に浪費することで、塔に必死で抵抗してる」
アリスと安綱が顔を見合わせて「嘆かわしいー」とか、言い合っている。
フロア1が雑多な市街地の印象に比べて、フロア2に店舗がひしめくエリアと企業エリアが分かれており、一部に自社のロゴを掲げているだけの簡素なつくりのビルが立ち並び、それぞれの入り口には屈強なガードマンやセキュリティー・ドローンが警備している物々しい雰囲気を醸し出していた。
「ここは、私たち九識インダストリーのラボですら、このフロアに自社ビル持つことができてないぐらい競争率が高いのよ」
高いのよ・・・って?。
俺たちの真後ろに立っていたのは、ナインのリーダーである指揮官だった。
全高2.5mの二足歩行のサイボーグというか・・・パワードスーツを装着したサイボーグなんだろうけど、メカメカした外見に似合わず、声は若い女性の声だったので、俺たち四人はぎょっとして振り返った。
「あっああー、ごめんなさい、こんなごつい外見で、この声はまずかったかっ!?」
なんか、中でごちゃごちゃ言ってんな。
「・・・・・・・」
俺たち四人は無言でサイボーグを見上げる。
「あーあ――――――――。すまない、どうやら驚かせてしまったみたいだ」
うおっ!ボイスチェンジャーで男の声に変わった。
「・・・・・・」
アリスと安綱は、すでに変人を見る目に変わっている。
「遅っそいよー、うわぁ、ショックだなぁ、チーフって、もっとごつい男の人のイメージだったのに、ちょー可愛い声なんだもんよー」
ニヤが本気でショック受けてる。そりゃそうだよなぁー。ナインの司令官のチーフが女の子って。
偵察のアイザック、頭部のレドーム型のセンサーと強力なレーダーを持ち、フロアの索敵を担当。
左右を固める防御の要、シールダーのイージスとスヴェルは複数の腕を持ち、巨大な四つの盾で敵の攻撃を無効にする。そして四つ足の狼型のヘルハウンドは牙と爪を武器に攻撃。軍馬スレイプニルにまたがる二刀流の剣士グラム、狙撃手バレット、ハンマー使いニョルニル。
そして、それらを指揮するチームリーダーがこの指揮官のチーフなわけだが、意外過ぎる。
「ごめんごめん、なんか君たち見てたら、楽しそうだなぁって思っちゃってさ、仲いいよね君たち」
ごついサイボーグが、女の子みたいにジェスチャーで話してるのは、不気味だ。
正直怖い…。
「声と姿のギャップに、ついていけないよ」
ニヤの嘆きには、俺たち三人も同感だ。
「僕が言う事じゃ何だろうけど・・・あんまりね、仲良しグループは作らない方がいいよ、学生のうちはね」
仲間はステアーズになってから、自然にできるからさ…と呟く。その声は何かを思い出して、まるで記憶を遡る様に絞り出しているような声だった。
一人称が「僕」なんだ・・・って、思ったけど言える雰囲気じゃない。
「先ほど、講師がおっしゃってた言葉ですね、私たちの中の一割が、今日戻れないと言われました」
アリスが言葉の真意を読んで、シャオロン講師の言葉を伝える。
今日、俺たち新入生の誰かが帰れない、戻れない状況が待ち構えている。
「仲良しグループの誰かが居なくなる可能性が多いにある…だから、精神衛生上仲良くしちゃいけないの?情がうつれば落ち込んじゃうから…かしら」
アリスの言う通り。きっと大人たちはそれを見越しての意見なんだろう。
「確かに、うちら緊張感がちょっと足りなかったね、気を引き締めていきましょう」
パンパンッと自分の頬を両手で張って、気合を入れる安綱。
「そうだな、ちょっと弛んでたな、俺たち」
背後を振り返ると、俺たちの後ろには80人を越えるの生徒が整列している。雑談している連中もいるし、周りをキョロキョロと落ち着かない様子の生徒やそれぞれだ。
皆、俺たち同様そんなに緊張した様子は無い。
一割は戻って来れないって…どういうことなんだ?
「はいはい、まもなく目的地の一番ゲートだぞ、ダラダラしないで付いてくるようにっ!!」
シャオロン講師の言葉に、生徒たち全体が緊張で背筋を伸ばす。
目の前に、フロア3に続く巨大な階段があらわれた。
「そんなに緊張しなくていいよ、僕たちがキッチリ守ってあげるからさ」
ナインのチーフがそう言ってくれたけど。
「そんな可愛い声で、言われてもさぁ」
ニヤだけは、どうしても納得できない様子だった。
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