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入学式

「私ね、入学式って体育館で新入生が整列して、校長先生の祝辞とか聞いたり・・・ってのを想像していたけど、なんでうちら新入生全員バスで移動してるわけ? 意味わかんないんだけど、ねぇ、天満聞いてる?」

 バスの前方、隣の座席に座っている安綱が呪文のように延々と文句を俺に向けて言い続けている。さっきからずっとだ。

「そんなに文句言うんだったら、普通の高校行けばよかっじゃん、お前の言うような普通の入学式を盛大にやってくれるだろうよ」


 進化学園は、進化の塔を攻略するための人材を育てる為だけの学園だ。だから、学園祭や運動会とか色んなフラグが立つようなイベントは、残念ながら皆無だ。

 サービスイベントのプールも温泉合宿も無いのだ!入学してから気がついたんだけど…。

 そういう意味でここで青春学園ドラマは期待できないなだ。

 学校と言うより、軍隊にイメージは近い印象だ。


「ウソッ!? 修学旅行ないの?うわぁ、進路間違えたかなぁ~」

 お前は修学旅行で進路決めるんか?。

「人を何のためらいもなく切り刻める奴が、普通の高校生活を夢見てるんじゃないよ」

 日本中でそんな危ない女子高生はコイツぐらいだろ?

 まぁ、帯刀してなければ、そこそこの女子高生だとは思うんだが、この外見に惑わされてはいけない。


 この女に、入試試験の模擬戦だけでなく、先日のセレモニーでも手足をぶった斬られてるのを、俺は忘れようがない。忘れてやるものか。

「何じろじろ見てるの?」

「いや、その制服、似合ってるな~って思ってさ」

「はっ!?なっ・・・何言ってんのっ!? バカじゃない」

 安綱は耳まで真っ赤にして、窓側に顔を背けてしまった。

「にしても・・・高校らしいイベントは無くても、進化学園の制服はあるんだよな」

 フェリーが島に着港してすぐに、俺たちは専用のバスに乗せられ、タワーに向かっている。

 用意された二台のバスには、既に進化学園の学生寮から第十期の新入生たちが、所狭しと乗り込んでいた。

 前日に支給された着慣れないブレザー姿の自分もそうだが、海外からの生徒も多く、年齢制限が無い学園のため、コスプレにしか見えない生徒もチラホラいる。まぁ、一言で言えば異様な集団なわけだ。

「私は超絶に似合ってるでしょうっ!! 天満、いいのよ、私の制服姿を穴が開くまで注視しなさいなっ!」

 前の席のアリスが立ち上がって、胸を強調しながら振り返る。

「ガン見したら、穴が開くんだ・・・」

 時間があれば、ぜひ挑戦したいクエストだが、バスは既に巨大なタワーの専用駐車場に入っていく。

 観光名所のように、数十台の観光バスが止めれる広大な駐車スペースがあり、そこへ二台のバスは入っていく。他の駐車スペースには、様々なステアーズチームのロコが入ったトレーラーや、装備品などを提供しているスポンサー企業のトレーラーが列を成して駐車してある姿は実に壮観だ。


 バスが停車して前方の降車口が開くと、後方に座ってた生徒たちが前方に向かってくる。

「ほらっニヤ君っ!! 着いたわよ! いつまで寝てんのっ!? わずか数分のバス移動で熟睡しないでよっ!! 」

 最前列のしかも通路側で爆睡しているニヤは、アリスがいくら揺さぶっても、むにゃむにゃ寝言を言うだけで、まったく起きる気配がない。

 アリスが通路に出れない状態の中、後方から次々と他の生徒たちがこちらに向かってくる。


「けっ、まったく運だけの首席様はいい気なモンだぜ」

「たまたま両親がギフト持ちだったから、苦労せず便利なギフトもらっただけの連中だろ」

「Is he stupid?」

「フン、まるで遠足気分だな黄色のサルが…」

「Who the fuck do you think you are?」

 バスを下車していく生徒たちが、俺たちを一瞥して、好き勝手に言いたい放題言って通り過ぎていく。なんか嫌われてるなぁ。


 特に通路側に座っているニヤの座席の背もたれを、ガンガンと蹴ったりヘッドレストを殴ったりと英語に中国語、韓国語にフランス語と様々な言語で侮蔑した言葉を浴びせながら通り過ぎる。

「ちょっと!あんたたちナニよ!」

 安綱が苛立って通り過ぎていく連中の背中に叫ぶ。

「渡辺さんは関係ないわよ、あなたノーマルでしょ?」

 列の最後の女生徒が振り返り、安綱にそう告げる。

「私達は、渡辺さん、あなたのことは認めてるのよ…」

「はっ?どういうことよ?」

 安綱の言葉に反応することなく、女生徒は前を行く生徒たちに続きバスの出口に向かっていく。

 

 俺たちギフト持ちが気に入らないのか? ニヤが寝てる姿に腹を立てたのか?

 緊張感の無いニヤに対していつも安綱が言っている、《こんな奴に負けたのか? 》的な感じの文句が大多数だと思うような…。

「なんか流れで、悪口言われたのはわかるけどさ」

「たぶん、調子に乗るなって韓国語で、あとは運だけで首席になったって言ってたみたいね」

 安綱も立ち上がり、つまらなそうに呟く。

「安綱、韓国語わかるのかよっ!?」

「韓流好きなんだよ、悪い?けど、今言った奴らは嫌い」

「どうやら、私たちギフトを持ってないノーマルの生徒たちのバスに乗っちゃった見たいね、あっちの2号車がギフト待ちの生徒が乗ってたバスいみたいよ」

「ナニよ!そんなのただの嫉妬じゃん!」

「なるほど、ギフト持ちとノーマルで車両が分けられてたんだな」

 ああ、だから安綱は関係なかったんだな。


 通路に出たところで、白髪で無精ひげの小柄な中年の男がニヤの前に立っていた。

「おら小僧、朝ですよー、起きやがれぇーっての!」

 そう言うと、熟睡しているニヤの頭を軽く鷲掴みにする。

 すると離れて見ていた俺たちにも聞こえるくらいの「バチッ」っと、電気が放電したような音があがる。

「あがっ!!」

 ニヤは、呻きながらビクンと痙攣して、飛び起きた。

「うぉ、電気かっ!?」

 マンガのキャラの様にニヤの髪の毛が不自然に静電気で逆立っている。

 アリスと安綱は思わず《ぷっ》っと吹き出す。

 あの電気、おそらくアリスと同じウィザード級のギフトだ。


「あははっ、ニヤ君何その頭ぁ、寝癖っ?」

 アリスは大喜びで、ニヤの逆立った頭をワシャワシャといじる。

「ハイハイ、時は金なり、遊んでる時間ねぇーから、さっさと降りろ――――――――。あと、今日の入学儀式が終わるまでは、仲良しクラブは止めてとけよー」

 そう言うと、男は一足先にバスを降りていく。俺たちも寝起きのボサボサ頭のニヤを、引き連れてバスを降りる。

「入学式じゃなくて…入学儀式?」

 

 駐車場を出て、徒歩でタワー西口から内部に入り、進化学園の別館と書かれた近代的なビルの入り口に制服を着た集団がぞろぞろと入って行く。

 収容人数千人を超えそうな巨大な講堂に案内された。どうやらここで《入学儀式》をするのか?


 ずらりと扇状に並んだ座席の中央に約90名の新入生が着席して、壇上に立った講師に注目する。

「はいはい、みなさーん注目ーっ!! まずは入学おめでとう…と言っておこうか」

 講師は薄ら笑いで、生徒の顔を確認するように見渡す。

「今日の式を案内をする、講師のシャオロンだ。一応現役の個人Sランクだから敬意をもって接するように」


 あの人やっぱり学園の講師だったんだな。まぁ、流石に新入生に40代は紛れていないので必然的にそうなんだろうけど。

 しかし、Sランク?しかも個人ランクだろ?ステアーズフリークの俺でも知らないって…公式戦とかスタジオ・ステアーズはおろか他メディアにも露出してないのか…。


「入学式と銘打ってるが、進化学園の入学式は、まぁ、普通じゃない、今日は校長や理事のあいさつも無いし、お前たちの保護者も参加していない。フフフ、まぁ見たらわかるわな」

 ひとり嘲笑する。

「毎年行われるこの入学式の内容はトップシークレットだ。各国の政府や諜報機関が知っていても、まぁ、お前たちには教えてはいないだろう」

 確かに、進化学園の授業内容や学園のイベントについての情報は、入学前に調べた公式サイトの情報とパンフレットぐらいの知識しか無い。


「えっとだな、まず、先に言っておくが…今日集まった88人、この中の約一割。俺の見立てでは8人から10人は、無事に戻ってこれないから、辞退する者がいたら名乗り出てくれ。まあ、退学ってことになるんだが」

 その言葉に、構内は水を打ったように静まり返る。この人…一割帰ってこれないって言ったよな。

「あははははは、それぞれ国の期待背負って来てる連中も多いしなぁ、いねぇーか、そーだわな」

 そうだ、この88人は国籍も入学動機もバラバラだが、それぞれ命を懸けて入試試験を受け、難関を乗り越えてきた強者の集団だ。

 途中リタイヤなんてあるわけない。

「質問です、それはこの中で死人が出る、という想定の話ですか?」

 アリスが真剣な表情で挙手して質問した。

「死人とは限らないが、まぁ、それに近い状態になる、これは統計の話しをしているのであくまでも目安だ。ただ、過去の例を見ても、全員が無事で帰ってこれた事が一度も無いのも、まぁ事実なんでな…怖いだろー、はーい辞める人~」


「………」

 構内は静まり返り、誰一人手を挙げる者は居ない。自分がその一割に入らない自信がみんなあるのか、真っ直ぐ講師を見つめて、皆動じた様子もない。

 俺も平気なフリ。ニヤは耳の穴を穿りながらあくびしてるし、緊張感の欠片もない。


「オッケー、上等上等。んじゃ、全員受けるという方向で式を進めるぞぉー。今日の入学式は知識もギフトも戦闘能力も要らないからなぁ」

 おいおい、命掛けの入学式なのに、言ってる意味が分からないぞ。知識もギフトも戦闘能力も要らないって・・・。



「さっき、バスの中で、猫柳ニヤたちを好き勝手言ってた連中ー、彼らが運だけで高成績を取ったと思って罵ってた奴ー、気を付けろよ、今日一番大事なのは、お前たちが馬鹿にした《運》だけだっ!!」


「運だけって…」

 会場の新入生たちがザワつく。その表情はみんな硬い。

 そりゃそうだよな。

 俺も思考停止。


 ただ、今朝フェリーの客室で見た、ワイドショーの占いの結果を思い出し。おうし座一位!それにすがる自分がそこにいたわけで………。今更逃げられるわけではなく、腹をくくるしかなかった。



読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。


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