セレモニーが終わって
番組ディレクターがカンペを出す。
【番組エンディング・・・あと三十秒で〆て】
それを確認したジェームスはミサトに目配せして、番組の〆のセリフを語り始めた。
「いやいや、ありがとう、実に面白い話が聞けたよ。もっと君たちのことを知りたいけど、もう時間がないんだってよ!いやー残念でしようがないぜ。今後ともスタジオ・ステアーズをよろしく頼むぜ!というわけでぇ――――――――以上、特別番組「進化学園第十期生入学セレモニー」私ジェームス・ギャラクシーと」
「今年の新入生に脅威を感じて、少し焦っている現役ステアーズのミサトでしたーっ!!さよならー」
狐耳を揺らしながらミサトがカメラに手を振る。
ミサトに促されて、新入生の四人も慌ててカメラに向かって引き攣った笑顔で手を振った。
「ハイッカットー!!オッケーですーっ!!!」
「おつかれしたー」
撮影スタッフは、機材を片付けはじめる。
「えっえっ?もう終わったの?うそー、お開きなんだ」
突然の番組終了宣言で、あっけにとられるニヤ。片手にボールいっぱいのサラダ持って、おろおろしている。・・・というか、女子かっ!?そのサラダの量っ!
「お疲れぇー、君たち今夜は良かった。すっげぇ興奮したぜ、期待してるからな!頑張って良いステアーズになってくれよっ!!」
一仕事終えた感全開でジェームスは、縛っていた金髪を解いて、スーツの胸ポケットからモスコットのサングラスを取り出してかける。
収録時とは別人のような雰囲気を漂わせて、ニヤの横を颯爽と片手をあげて通り過る。
「んじゃな!」
スタッフや彼の取り巻きが大勢彼の後を追う。
まるでランウェイを行くモデルみたいな歩き方で、パーティー会場から出ていく。
「うわぁ、オンオフの切り替え速ぇー、天満そう思わない?」
ニヤはジェームスの変わり身の早さに若干引き気味で見送る。スタジオ・ステアーズでは、わりと三枚目キャラなのに、実は二枚目キャラだったのか?
「まぁ、ジェームスは人気のタレント・ステアーズだからな、仕事詰まってんだろ」
髭の生えた船長らしき人に挨拶をした後、船尾のヘリポートから、さっさと島に帰ってしまった。
「ステアーズって、エボ登るだけじゃないんだなっ!? マジで驚きなんだけど」
「エボ・アイランドには、塔が落ちてくる前からの島民が現在も住んでるけど、エボ・シティー内で生活している人は、現役引退したステアーズも入れて、全員ステアーズのライセンス持ちだ。それぞれ仕事を持ってるケースが多いな。あとはそのステアーズの家族用ライセンスもあったけな?こっちはタワーには入場不可だったっけ」
「ウソ~」疑いの目で俺を見てくるニヤ。
「そもそも、シティーへ入るにはライセンスが必要だろ。今回のセレモニーは、ライセンス無しの俺たち違法侵入者を、警備ステアーズが捉えるってシチュエーションだったから、俺たちは追われてたんだぜ」
「ああー、そうだったねぇー、確かそんな設定だった」
「ライセンスは塔に入るだけでなく、この街で暮す永住権みたいなものなんだよ」
「お二人さん!セレモニーは終わったけど、食事はゆっくり楽しんでねっ、て」
再びサラダを山盛りにして、テーブルに戻ってきた安綱が話しかけてきた。
「サラダ流行ってるのか?肉喰えよ肉をっ!」
俺のとなりでもニヤは、山盛りサラダを頬ばってる。
「サラダは健康にいいんだぜ、あと玄米とか知ってる? お通じ良くなるんだよー」
「お通じとか言ってんなよ!お前は芋虫かっ!? 血と肉を補うのは血と肉だっ!! 断然っコレだろうっ!? 」
俺の皿にはあらゆる肉料理が山積み状態だ。今夜はとにかく斬られまくって血を多く失い過ぎたから、補える時に補っておきたい。
「それより、天満、傷はもう癒えた?大丈夫なの?」
巨大なシュラスコを串ごといってた俺の顔を、安綱は覗き込みながら聞いてきた。
肉を口いっぱいに頬ばっていたので、慌てて水で流し込む。
「ああー、傷なっ!?アリスの爆炎のやけどは治癒に時間がかかるな、実はまだ背中の傷は治りきっていないぞ、グチュグチュだぞ見るか?」
切り傷の直りは割と早いが、焼かれると再生細胞がうまく活動できないようだ。
「観ないわよー。それよりまだ痛いの?」
「痛さは、お前に斬られた手足が一番痛いかったぞっ!! 焼き切られた部位をスライスするなんざぁ、前代未聞の激痛初体験だったぞっ!!俺はケバブかっ!てな感じだったぞ!!? 」
「なにそれ・・何? 謝れって言ってんの?」
「謝罪はいらん、アレでまぁ、助かったわけただからな」
狼男の時に喋れれば、コミュニケーションも取れるんだろうけどなぁ。あの口の形状だとガブガフするだけだし。アニメじゃ亜種族は当たり前に喋ってるけどな。現実は悲しいぜ。
高速治癒とか漫画みたいな不死性持ってるのに、喋れないって・・・俺はゆるキャラかよ。
「あら、じゃぁ、まだ、お礼も言ってくれて無いから、私はてっきり余計なお世話だったかと思ってたわ」
「お前、嫌な言い方するよなぁー! んじゃ…改めて、俺の手足をスライスしてくれて、ありがとうよっ!安綱」
「えへへへ、どういたしまして」
自分で言わせてといて、天使みたいな笑顔見せてんじゃないよ。
そんな安綱を押しのけて、何者かがジャンプして俺の首筋に手を回して抱き着いてきた。
「ああーん、天満君、ねぇねぇおねーさんと連絡先交換しない? いい? オッケー?もちろん当然よねー !」
おっと、スタジオ・テスアーズのミサトさんっ!!俺何気にファンだったんだよな。
首に回された腕だけでなく、胸も肩に押しつけてくるものだから、必然的にその柔らかい感触に、全神経はその部分に集中する。続いて俺を襲ったのが、密着したミサトさんから香る大人の女性の匂い。摘みたての青くて爽やかなローズの香り。スタジオ・テスアーズで見るミサトさんとは違う、洗礼された大人のイメージというか、男子高校生を瞬殺するエロい香りだ。
ギフトのせいか、俺って鼻が利くというか、香りに敏感なんだよ。肩と鼻に意識集中。
ドキマギしながら、慌ててモバイルを取り出す。
「えっー、はっはい、喜んで」
「はいっ、ゲットッ! 」
ミサトは俺から無理やりモバイルを奪うと、QRコードを勝手に読み取る。
「なに公私混同してるんですかっ!!?」
安綱はミサトからモバイルを奪って、俺に投げて渡す。
「あら、渡辺安綱ちゃん?ひょっとして嫉妬かしら?違うなら、ちょっと空気読んでくれるかなぁ。」
しっしっと人払いするように手を振るミサトさん。顔は笑顔だが、殺気が迸ってます。
「嫉妬?違いますよ、おばさん」
安綱も敵意全開で応対してるけど、なんだ? このふたり何かあったのか。
「あら、まだいたの?ちっちゃいから判らなかったわ、安綱ちゃん あなたはいつから、天満君のマネージャーになったのかしらぁ」
もうコード読み取ったわよーと、舌を出して撤退していく。
「天満くーん、また連絡するわねー、今度はお邪魔ムシなしで二人きりでねー!バイ~」
「バイ~じゃないわよ、色ボケ女っ!!私はマネージャーじゃないし!お邪魔虫ってなんだよっ⁉︎」
ミサトの背中に文句を投げかける。
「安綱ー、いつから天満のマネージャーになったの?」
「ニヤうるさいっ!!」
「まぁまぁ、別にいいじゃないか、それに現役のステアーズと繋がっておくのは、学生身分の俺たちには有益だ、俺たちはこの島の事、知ってることしか知らねぇーからな」
「何当たりの前のこと言ってんのよ、よかったじゃん年増のお姉さんと繋がれてさ」
「繋がるとか・・・なんかいやらしい」
頬を赤らめて、上目遣いでちゃかしてくる。
「お前も変な事言ってんじゃねぇーよ、ニヤ」
多感な時期だからなぁ、人一倍そういうの興味あるんだろうけどな。
「そう言えば、アリスは?」
「ほらほら、ジェームスのインタビューの途中で、米軍のお偉いさんに呼ばれて席外してたね」
「おおー、そうかアリスの両親は軍属だったなぁ」
軍属ならライセンス取ったら、そのまま軍の公式チームに入隊という流れかな。俺たちみたいな個人はスポンサー探しを一から始めないと、塔に登ることもままならないから。
「ねぇーみんなっ!!」
席を外していたアリスが息巻いて走ってきた。手には新品のシャンパンとグラスを持ってきていた。
「アリス、どこ行ってたのよっ!?」
「うん、ちょっとね――――――――。ああ、そうそう、今夜はのこフェリーの最上級客室で私たち宿泊ですってっ!!」
「わぉー、高級ふかふかベッドで寝れるんだねー」
「今夜のご褒美ですって、明日私たちはお休みで、一日クルージングを満喫したら、いよいよ入学式よ」
鼻歌交じりに栓を抜くと、慣れた手つきでグラスに注ぐアリス。
「アリス、あんた、それ・・・」
安綱の口に人差し指を当てて、疑問を途中で塞ぎ、俺は首を横に振る。
「信じよう・・・だって俺たち未成年だしな」
「それよりさ、天満~ 俺たち学校で何やらされるんだろ?」
「そりゃー、勉強だろー、ライセンス取るんだから、自動車学校みたいな講習や実技があってさ・・・免許持ってないからよくわかんないけど」
「普通の高校とどう違うんだろうね?」
安綱も首をかしげる。
「私も日本のハイスクールのことは、よく知らないわ」
「あとさ、クルージングってどうやって満喫すればいいの?俺フェリーとか乗ったことないから分かんないよー、もう真っ暗だし海も見えないよ」
「・・・・・・・」
安綱もニヤ同様、俺を見つめる。
「俺も、しっ知らねーよっ!!!!」
飯食って、寝るしか思いつかん。
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