小悪魔エア・マスター
暗闇に飛び込んでから気が付いたんだけど、夜間の高高度降下は高所恐怖症とかいうレベルでは図れないほどの恐怖を感じた。
思わず「おおー」とか、声出してたもの。
雲を抜けて暗闇を落下し続ける。眼下に島の街明かりを見下ろした時は、自分がとんでもなく高いところにいると再認識させられた。
そんな恐怖の中、私は計画通り、地上に聳え立ってる塔の南口ゲート付近の着地点を目指して飛んでいた。高度二千メートルを過ぎたあたりで、アリスから通信が入った。
『ハロハロー、安綱ぁーちょっと予定変更するわ、ニヤ君たち東側に行っちゃったから、私たち二人で潜入しまーすオーバー』
『ちょっと、予定変更って!!?』
高度は千メートル、私はパラシュートを開傘。身体にドンッ抵抗を感じて上空に浮かび上がったような衝撃の後、アリスから再び耳を疑う内容の通信が入った。
『パラシュートを開いたままシティーに着地すると目立つから、焼いちゃうねー』
『焼いちゃうって、ちょっとッ!!?アリス』
私は姿の見えないアリスを探して、上下左右キョロキョロと暗闇に目を凝らした―――――。
突然の眩い閃光の後、急に襲ったエアタイム、ふわっと浮く感じがした後、内臓が突き上がるようなフリーフォール。
『えっ!?・・・・』
私のパラシュートは音もなく、アリスに焼かれてしまっていた。
『うそだぁぁぁぁぁぁっ!!!!!アリスの奴ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!ぶった斬るっ!!!』
刀の柄に手を当てたまま、猛スピードで落下。アリスの姿を探す私の眼下には、島の市街地が猛スビードで迫ってきていた。
『物騒なこと言わないの、大和なでしこが台無しよ』
まるで戦闘機のように、フライングスーツ姿のアリスが私の足元に現れ、背中で落下する私を受け止める。
『アリスっ!あんた何考えてるの!――――――――って、あんたパラシュート背負ってないじゃないっ!!』
『あら、私の事斬ろうとしてたのに心配してくれるの? まぁ、出会って間もない私を、信じろって言っても無理な話よねー』
『スカイダイビング中に自分のパラシュートを焼く奴を、誰が信じるんじゃいッ!!出会ってからの時間とか、マジ関係ないからっ!!』
『安綱って、もっとクールなキャラだと思ってたんだけど、意外としゃべるんだねぇ。そうそうー天満君もそうだよね。メガネでクールな執事系キャラだと思ったんだけど、突っ込み気質よね彼』
『何を世間話してるの?! アリスあなたは頭おかしいの? ふたりともパラシュート無いんだよっ!!こんなこと悠長にしゃべってる場合じゃないでしょ? ほらほらほらぁぁぁぁっ地面だってすぐそこぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!』
恐怖で目を必死に閉じる。
『神風ッ』
アリスがそう呟いた瞬間、地面から二人の身体が浮き上がるほどの突風が吹いた。
『嘘ウソうそぉぉぉぉぉっ!!!飛んでるよ、アリス飛んでるっ!!』
『安綱が軽くて良かったよ、あっちの図体のデカい二人だとこうはいかないわ。ほら、私の両親って炎帝と竜巻じゃない、で私はパイロキネシスとしては母様程ギフトは強くないのよね。可燃性のガスに着火できる程度っていうの? どっちかっていう父様の風使いのギフトの方が色濃く受け継いでるみたいー』
『あんたの両親とか、どうでもいいのっ!! 何で飛んでるのかどうでもいいから、どこに向かってるのだけ教えてっ!!』
必死にアリスの背中にしがみついて叫ぶ。お互いフライングスーツのヘルメットに装備されていたインカムがあったから、強風の中、普通に会話できてたけど、状況と会話の内容がアリスと全然かみ合わない。
『そうねー、このまま南口から進化の塔へ侵入、中央階段前の掲示板に二人でサインして、北口から脱出は予定通り――――――――ただ、中央階段では大きな音立てられないから、安綱ぁ先に着地して、旋回して飛んでくる私を抱きとめてー』
『ごめん、何言ってるか意味が分かんない』
そうこう言っている間に進化の塔に、ムササビみたいに飛んだまま進入。時速二百キロ越のスピードで、私はアリスの背中に必死でしがみつく事しかできないっていうのに、アリスは自分を抱きしめてーとか意味不明なことを言う。
自分にギフトが無いことを恨めしくもあった。
でも塔中央に近づくと、アリスの言った意味が不意に理解できた。
『そうかっ! 音を出した途端、私たちの行動が隠密ではなくなるんだっ! 』
なるほど、とりあえず特殊なギフトは必要ない――――――――。必要なのは覚悟と根性だっ!。
『理解できたみたいね、このスピードで止まるには、さっきみたいな相殺する風の力が必要になるんだけど、塔内でそれをすると、轟音と暴風が一緒に巻きあがるわ。警備の人数も相手のランクもわからない以上、バレないに越したことはないでしょ?』
『わかった、やるよ』
『オッケイ、んじゃタイミングは任せるわ』
進化の塔の一階を無音で滑空する。アリスは空気を操り速度を落とした。中央階段が見えた瞬間、カウントダウン3.2.1.――――――――。私はジャンプして猫の様な着地をイメージ。
飛行からの勢いが停止するまで数メートル距離を要した。
アリスは私を降ろした後、天井ギリギリまで上昇し、旋回して私に向かって飛んでくる。
タイミングを合わして、両手を広げて構える。
アリスが突っ込んでくる。
『うぐっ!!』
私はバックステップしてアリスを身体ごとキャッチする。衝撃を殺すために何度か後方にジャンプしながら、なんとか二人抱き合ったまま壁にぶつかって止まった。
『痛たたたたたたた、安綱生きてる?』
『生きてるけど、正直私は死ぬんだと何度も思ったわ、あと身体中痛い』
なんとか立ち上がり、ヘルメットを脱着し、フライトスーツを脱ぎ捨てた。
「サインして、脱出すれば終わりなんだよね? 」
筆ペンでサインしながら、隣でサインしているアリスを見つめる。
「それよりさっ!!人間って凄いねっ! ・・・宇宙から飛来した構造物を、まるで地球上と同じようにのように街にしちゃってるわね、ほらほら、ショッピングモールみたいじゃない?」
進化の塔フロア1は、確かに人の手で改造された近代的な商業施設のような様子で、雑多な感じなビルには、多くの店舗や広告看板が目に付く。宇宙からの飛来したものとは、誰も思わないだろう。
「それよりさって・・・・ねぇアリス、人の話聞いてる?」
当たり前のように話しているけど、アリスはアメリカ人だ。しかもアメリカ育ち。日本語、普通に上手だよなって感心する。だからか、アリスとはしばしば会話がかみ合わない。
言語の問題なのだろうか?ただ、私の言葉を聞き流しているのか?風使いのクセにっ!?空気読めないみたいな・・・不思議ちゃん? 。
アリスは髪を手櫛で研ぎながら、何かを待っている。しかも鼻歌交じりだ。
「アリス・・・あのさ」
しっ、と人差し指を口に当ててウインクする。
そして、建物に設置してある大型スクリーンモニターに映像が変わった。
『皆さまお待たせしましたっ!!!!さぁぁぁぁぁぁっ!!ついに新入生代表チームがゲートを通過っ!!!』
『進化の塔を制覇する人材を育成するために設けられた〈進化学園十期入学セレモニー〉ついーにー開始ですっ!!!!!!!!』
大音量でジェームスの声が響く。
モニターには、ゲートを通過したニヤと天満の姿が映し出されていた。さっきまで広告画面だったディスプレイモニターの画像が切り替わり、セレモニーの中継が始まったのだ。
「ナイスタイミングッ!! 馬鹿正直な二人だから正々堂々ゲートからシティーに入ると思ってたわ」
まるで中継を始まるのを待っていたかのように、アリスは無邪気な笑顔を見せる。この笑顔は正直ズルい。たいていの男はおろか、女の私の心もやられちゃうよ。
「さぁ、囮のふたりが暴れまわっている間に、私たちは逃げるわよ」
アリスは私の手を握ると、北口を目指して走り出した。
この展開を予測していたの?
アリスは頼もしくもあり、楽しそうに私の手を引いて走る。きっと、追手はゲートから侵入したニヤ君と天満を追うのだろう。
そして、死に物狂いで追っ手を振り切って、中央階段にたどり着き、掲示板で私たちのサインを見た時の二人を想像したら、無性に笑いがこみ上げて、思わず声に出して笑ってしまった。
「あはっ・・あはははははは」
「安綱ぁ、悪い笑い方してるわよ」
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