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ジェームス・リポート

 

 ジェームスとミサトに続いてカメラクルーが甲板に出た。そこでカメラが捉えたのは、まるで隕石が落下したかのように大きく陥没した甲板だった。

「やっぱり、爆風を利用して飛んできたんだな・・・・」

 思わずジェームスが漏らす。甲板の陥没が着地時の衝撃の大きさを表していた。


 底を覗くと、デッキライトに照らされた巨躯のワーウルフがぎろりとカメラを睨む。カメラマンは思わず「うっ」と恐怖でたじろいだ。その気配を感じてワーウルフの大きな腕に抱かれていた安綱とニヤもするりと甲板に降りた。

 少し離れて波風に金髪を揺らして佇んでいるアリスも、カメラの存在に気が付いて振り返る。

「やぁ、会いたかったよ、新入生諸君っ!!そして、おめでとうっ!!見事なフィニッシュだっ!!」

 ジェームスは四人に告げると、パチンと指を鳴す。

 

 そして、大げさに両手を広げると、彼の背後から一条の花火が打ちあがりボンッと花開く。それを合図にフェリーの周りに祝意を表すよう、いくつも花火が打ちあがる。

「アリス、まだ放送中なんだって、エンディングで花火とかびっくりしたな」

 立て続けて花火が打ちあがり、ニヤはアリスの隣に駆け上がり空を見上げて呟く。

「そうね、今夜は上手く行き過ぎたわ――――――――。MVPはもちろん天満君ね。彼が居なかったらこの脱出劇は不可能だったもの」

 アリスはワーウルフを見て、ニヤにそう言うと風になびく髪をかき分ける。



「ああーもうっ!!ワーウルフちゃんっ!!可愛すぎるぅぅぅっ!!!」

 ミサトがジェームスの脇から飛び出し、ワーウルフに飛びついて両腕を開き抱きつく。モフモフの毛に顔をうずめ恍惚の表情を見せる。

 ワーウルフは突然のミサトの抱擁に緊張したのか、身動きできずに狼狽える。

「ちょっと、おばさん何やってんのっ!?天満の傷まだ癒えてないんだけどっ!?」

 安綱は怒りの表情でミサトの右手首を掴んで捻り上げる。

「あぁ、誰がおばさんよ、私はまだ二十八なんですけどっ!?・・・・てっ!?これって血っ!?」

 掴まれたミサトの手のひらには、べったりと深紅の鮮血が付着していた。

「天満、傷が癒えたら着替えて」

 安綱が天満のバックパックを投げて渡す。


 グルルル。

 

 ワーウルフはバックパックを受け取ると、大きな手で器用に磁気メモボードを取り出し、安綱に見えるように「ありがとう」と書いて見せた後、ジャンプして上部デッキへ登って行った。


「バカッ、どっかの球団マスコットかよ」

 ワーウルフを見送ると小声で呟く安綱。

「なによ、あんたたち、そうゆう関係なわけ?」

 ミサトがあざとく安綱に詰め寄り、肘で安綱の小脇を小突く。

「違います」

 安綱は否定しつつも、フェリーの最上部で月明かりに照らされたワーウルフの叫んでいるような細く、鋭い遠吠えをあげている姿を愛しそうに見つめていた。


 


「さぁ、中に入って、パーティーの用意がしてある、そこでいろいろ話を聞かせてくれ!!聞きたいことが山ほどあるんだっ!!」

 ジェームスに促され、四人は船室で進化学園の制服に着替えを済ませると、船内レストランのパーティー会場に案内された。記者会見のような高砂席のメインテーブルにアリスとニヤを挟んで、安綱と天満が着席する。

 ピアノの生演奏が始まり、四人とМC二人のグラスにシャンパンが注がれる。

「何これ?なんか私とニア君の結婚披露宴みたいに見えない?」

「じゃぁ何ぃ、私と天満は媒酌人なの?」

「違うわい、謝罪会見だろ、この並びは」

「俺、お腹減ったよ、まだ食べちゃダメなんでしょ?」

 眼前にはブュッフェ形式の豪華な料理がずらりと並び、会場の隅にはライブキッチンやバーカウンター併設され、出来立ての料理やドリンクが提供できるよう準備してある。


 照明を当てられ、カメラは四人を順番に映していく。

「それでは!見事ミッション成功した四人にっ!!乾杯っ!」

 グラス片手に乾杯の音頭をジェームスが取る。

「皆さん、おめでとうございます!」

 飲んでいいか迷っているニヤにミサトが耳元でささやく。

「ニヤ君、ノン・アルコールだから飲んで大丈夫よ」

「このご時世に未成年にアルコール出すわけないでしょう、私は本物のシャンパンでも構わないけどね、ヴリュット・レゼルヴでもドンペリのヴィンテージなんかいいわねぇ」

 アリスはグラスに口付けて、まるで本物のシャンパンを嗜むように飲み干す。


 

「無事にセレモニーミッションをクリアした四名が揃いましたっ!!これより食事を楽しんでもらいながら、セレモニーを振り返りたいと思いますっ!!」

「まずは、俺だけじゃなく、視聴者もずっと気になってたことをアリス・リデルちゃんに突撃するぜっ!!」

 料理を選んでいたアリスに、小型ジンバルカメラを片手に構えたジェームスがインタビューする。

「お話しできる範囲までなら、お答えしますわ」

「オッケー、んじゃ、まずどうやってカメラは疎か、エボ・シティーの監視システムにも引っかからずに、君と安綱ちゃんがエボ・シティーに人知れず潜入したかっ!?全員疑問に思っている事案について教えてくれ!」

「おおー、それな、俺もすっげぇー驚いたぜ。サインしようとしたら、既に二人のサインが書いてあってさ、どのタイミングでサインしたんだよっ!?」

 骨付き肉を両手に握った天満が、カメラにフレームインする。

「セレモニーのルールはちゃんと守ってるよ」

 安綱も山盛りサラダを持って合流。

「えっと、私たちは空自の第一輸送航空隊の輸送機から高高度降下で島に降りる予定だったんだけど、ニヤが予定のコースを外れて島の東側へ行っちゃったの」

「生理現象が我慢できず先走ったニヤを追って、俺も島の東側で降下したんだけど、アリスたちは予定通り南側に降りたのか?」

 天満の問いにアリスではなく、安綱が答える。

「私は予定通り南口へ降下予定で考えてたわ、なのに後から急降下してきたアリスが直接シティ内に降りるって言いだしたのよ」

「ちょっと待ってくれ、すると君たちはゲートの外ではなく、シティー内に直接降下したのか?」

 ジェームスの食指が動く。アリスから自分が導き出せなかった答え欲するように、かなり前のめりな姿勢になる。

「それだけじゃない、アリスったら、高度760mでわたしの開傘かいさんしたパラシュートを焼いたのよっ!!!あの瞬間はアリスを刀の錆にしてやろうと、心の底から思ったわ」


「パラシュートを焼いたっ!?」

ジェームスとミサトが声をそろえて、首をかしげた。

「まずは、私からその辺りのことを詳しく話すわ」

 安綱はサラダボールを置いて、ゆっくりと話し始めた。

 



読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。


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