クレイモア
「高濃度の酸素中では、細かくなった金属や鉱物のような不燃物でも激しく燃え上がるのよ!」
背後から風で激しく煽られている金髪を手で押えながら、得意げに語るアリス。
「それをギュッと圧縮して、パチッと着火したら、ドカンってわけ、粉塵爆発ってやつ?」
「そっかー、だからずっと石柱を狐のお姉さんに斬らせてたんだね、石柱を壊させて大気中に粉塵で満たしたってわけだ!」
「そっかー、じゃないわよっ!!!状況考えなさいよっ!!!―――――――飛んでるのよ、私たちっ!!わかるっ!?」
安綱は恐怖の表情でワーウルフの腕にしがみつき、ワーウルフの首に巻き付いてはしゃぐニヤの耳元で叫ぶ。
「一度浮かび上がれば、上昇気流を操作して飛行させるのは簡単なんだけど、人とかある程度の重量の物を浮かすのに、キッカケになる指向性の爆発が必要だったって事なの」
安綱と反対の腕に抱かれているアリスは至って冷静だ。
「あははははははは、飛んでるじゃなくて、ぶっ飛んでるんだけどぉーっ!!!」
「アリスッ話が違うっ!!何が壁を超えるだけよっ!海上飛んでるんだどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!着地どうするのか聞いてない!!」
高度十数メートル、安綱の眼下には暗闇に真っ黒に染まった海面が高速で後方にすっ飛んでいく。
「嫌ぁぁぁぁぁぁ、落ちるぅぅぅぅぅぅっ!!!!!」
暗闇に安綱の悲痛な叫び声だけが響き渡った。
一方、爆心地では…。
『まったく、どうなってるんだっ!?中継が完全にブラック・アウトしてるじゃねぇーかっ!?中継していたドローンがすべて爆発に巻き込まれたのかっ!!?おーいスタッフどうなってんのよ、アリスちゃんは?玉藻御前はどうなった!?俺の銀子ちゃんは?』
真っ暗になったモニターに毒づくジェームス。
『ジェームス落ち着いて、予備機を北口に向かわせてます、あと三十秒ほどで到着するわ」
中継用ドローンの映像が北口ゲート付近に差し掛かり、ドローンのカメラのレンズが捉えたのは、ライトに照らされた大規模な爆発の跡だった。
まだあちこち白煙を上げ、燻っている広場が見るも無残な瓦礫と化していた。
『おいおい、マジか、兵器を使うことなく、人の力だけでこれだけのことができるのかよっ!?正直、今回のセレモニーにランカー・ステアーズを二人も投入すると聞いたときは馬鹿げてるって思ったさ・・・けど、足りなかったってことだよな』
思わずスタジオの周囲からも、ため息が漏れる。
『ウィザード級のギフトは希少で強力ですが、ホントにライセンス無しで、このレベルは異常ですよ。銀子先輩だけを狙うならもっと小規模の攻撃で十分じゃないですか、これは味方も巻き込んだ自殺行為です』
公園隅の爆発から免れたディスプレイ・モニターには、混乱したジェームスとミサトの声だけではなく番組スタッフの声が飛び交う。スタジオでは想定外の出来事に混乱してる状況が、ありのまま放送され続けている。
「痛たたたた、ステイツもとんでもない化け物を作ったわね、あれがアメリカのワイルドカードって噂のアリス・リデルの力ってわけ?」
覆いかぶさった瓦礫を押しのけ、埃とススだらけの玉藻銀子が立ち上がり、ピンと立った九本のしっぽがパタパタと体の埃を払う。
『おおおっとっ!!!瓦礫から生存者ですっ!!!?あの姿は・・・玉藻銀子っ!!!流石先輩ですっ!!私たちフォックスのリーダーです!』
銀子は半ば崩壊した北口ゲートを見上げる。周囲を飛んでいた中継ドローンのライトに照らされた銀子は苦笑いして手を振った。
『しかし、肝心の彼らの姿がありません!爆発に巻き込まれてしまったのか?、それとも何処かに潜伏しているのか⁈』
『ちょっ・・・ちょっと待てよ、ドローンの高度をもう少し上げて御前の方向にカメラ向けてくれ』
銀子を俯瞰で撮影するため、カメラのドローンは高度を上げる。
『これはっ!!』
爆発の起点部から放射線状に爆風が一方向に向かって扇状の爆発痕残っていた。
『そうなんだ、この爆破痕おかしいだろう?まるで巨大な指向性地雷がゲートの南側に居た味方の三人の背後からゲート外にいたアリスちゃん自身に向かって扇状に爆発してるんだ』
『ゴールは北の海上に停泊しているフェリーですよね!?……まさか爆風で味方もろともを北側に飛ばしたっ!?…でも、至近距離であの爆発に巻き込まれて、そもそも無事なんでしょうか?』
『それもあるが、今回のセレモニーで女子チームの行動には謎が多いすぎるぞ。――――――――、まず、どうやってエボ・シティーに進入したのか?侵入を悟られることなくエボ・タワー一階の中央階段にたどり着きサインして、隠密行動のままシティーから脱出?・・・さらに男子チームが北口へ到着したとたんに渡辺安綱が合流だろ、で、銀子とアリスが戦闘開始したとたん大爆発で全員行方不明ってか』
スタジオでは、デフォルメされた安綱とアリスのアニメーションを使い、セレモニーでの二人の動向を考察するジェームス。ミサトも隣で?マークの表情で首をかしげている。
二人が思考している時。
ドドドドドドドドドッンッ!!!!!!!!
生配配信中のスタジオ・ステアーズのスタジオが突然激しい縦揺れに見舞われる。
セットのディスプレイがいくつか倒れる。
『なっ・・・なんですかっ!?縦揺れって?じっ地震ッ!??』
『んなわけっ・・・ないだろ、だってここはっ!!――――――――』
必死にセットのテーブルにしがみつくミサトとジェームスのふたり。
『このスタジオは!海岸から1キロ以上の沖合だぞっ!!海の上なんだぞっ!!!』
海上を周回している中継ドローンが俯瞰でフェリーの映像を映す。
モニターには暗闇の海上に白くて巨大なフェリーが停泊している。船首には栄光の塔登者号と描かれていた。
操舵室や客室から煌々と漏れる光は、まるで映画のワンシーンのように暗闇の海上に浮かんでいた。。
スタジオのセットでは、多くのライトやカメラに囲まれたジェームスがマイクを握り立ち上がり、ミサトの手を取る。
「連中っ!!まさかここまで飛んで来たのかっ!?チクショォォォォォォ!!どこまでぶっ飛んでやがるんだっ」
興奮して走り出す。
「甲板に上がるぞっ!!カメラ付いてこいっ!!――――――セレモニーのエンディング撮るぞっ!!」
「はっはいっ!!!」
力強く倒れていたミサトを引き上げるジェームス。
ミサトはジェームスに手を引かれ勢いよく走り出すと、カメラスタッフと共にスタッフたちをかき分けスタジオから飛び出した。
「何もかも洗いざらいインタビューしてやるっ!!」
読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。




