第三席渡辺安綱 第二席アリス・リデル
「焼き切られたのなら、焼かれた部分を切り落とせば再生するよ」
「えっ?再生するんだ?」
「えっ⁈しないの?嘘、多分・・・きっと・・・再生するったら!うん……そうだといいな」
血溜まりを作り、悶えるワーウルフを見つめる。
「安綱・・・随分と希望的見解じゃん・・天満スゲー痛がってるけど」
手足を切断されて、傷口から派手に鮮血を巻き散らかしながらのたうってる。
『なんと渡辺安綱っ!!あの一瞬で、ワーウルフの焼き斬られた部位すべてを切り落としたというのかっ!!スパースローで再生しても剣筋が見えねーぞっ!?』
巨大モニターでは、安綱の太刀捌きに興奮しているジェームズの声がこだまする。
『しかも、彼女ノーマルなんですっ!ギフト無しで進化学園新入生の第三席って、凄過ぎですっ!!』
再び切断された四肢が同じように焼かれた部分を切り落とされた手足との融合が始まっている。
『しかも、ランカー相手に安綱ちゃん、まったく気後れせず冷静な判断能力だ、ワーウルフの再生がもう始まっているぞ』
ワーウルフの手足が結合していく様子がディスプレイ・モニターにアップで映し出される。
「ほっ・・・・・ほら、言った通りでしょ」
胸をなでおろした表情で、安綱はニヤにどや顔で言う。
「安綱、いま「ほっ」としてたでしょ」
「しっしてないわよっ!!するわけないじゃん!」
『一方、銀子先輩は、飛んでくる石柱の対処で手一杯だっ!!――――――――というか外壁をどうやって斬ったんでしょうか?安綱ちゃん格子状に日本刀で斬ったんでしょうかね?』
『知らねぇーよ、見てねぇーもん、壁をぶっ壊すのは他のステアーズでもできる奴はいるだろうけど、あんな器用に斬るなんて普通無理だろぉ・・・って誰が柱を飛ばしちゃってんのさ?」
そこで何が思い出した様に瞳を輝かせるジェームズ。
「ああっ!!!!――――――――アリスちゃんなんだよなっ!?アリスちゃーんっ!!隠れてないで顔見せてくれぇぇぇぇーいっ!!』
ジェームズマジでウザい!と悪態を吐きながら飛来する石柱の処理で手一杯な様子の銀子。
「ああーもうっ!!ずるいぞっ!!壁の外からポンポンと!!君は減点1だっ!!」
銀子は光子剣で柱体を切り落とす事だけに専念している。
ニヤたちから少し離れた場所では、壁から石柱が面白いぐらい爆音を立てながら次々と射出され続けている。
「それよりも、あっちはしばらく大丈夫そうね、なんせゲート挟んで左右五十メートル程外壁を短冊切りにしてあるから!」
石柱と格闘している銀子の後ろ姿を見ながら安綱はつぶやく。
「安綱ぁ、どうやって壁をあんなにキレイに切れるのさ?あんなの俺でも無理だって!」
「ふん、教えてあげない!だってずっと覗き屋が張り付いてるからね!」
親指でドローンのカメラを指して、いたずらな表情でニヤに笑んでみせる安綱。
「それよりさ、狐のお姉さんは、なんでアリス本人を直接狙わないんだろ?」
「はぁー、ニヤくんちゃんと講習でルール聞いてなかったの!なんでなかぁ〜・・・はぁ…なんでこんなのに私負けたのかしら、あーめんどくさいなぁ――――――――ちょっとジェームスッ!!ルール説明してあげてっ!!」
呆れた安綱は、横に飛んでいる中継用ドローンのカメラに向かって叫ぶ。
『はっはいっ!!?』
ニヤたちの背後の巨大モニターで、突然名指しされたジェームスが背筋を伸ばし、手元の資料を見ながら説明をし始める。
「あははは、なんかでっかいテレビ電話みたいだね」
あんたが笑ってんじゃないわよと安綱に突っ込まれるニヤ。
『えっと玉藻御前だけでなく、今回警備側のステアーズの戦闘区域はエボ・シティー内に限定されています。よってエボ・シティー外からの攻撃に対しての反撃はルールー上禁止されてるんですよー――――――――って俺、なんで小娘に対して敬語でしゃべってんだっ!?』
北口広場の大型モニターには、かしこまってルールを説明するジェームスの姿が映っている。隣ではミサトがジェームスの姿を見て、尻尾をパタパタさせて必死に笑いをこらえている。
「ねぇ、壁の向こうの自称カワイ子ちゃん、どうせ不細工な姿を世界配信されたくないから、壁に隠れてコソコソしてるんでしょう?宣材用の写真なんて加工しまくり、ほぼ別人なんてよくある話だよね?あなたもその口なんでしょ」
飛んでくる石柱を切り落としながら銀子は呟いた。
「はっ!?自称?何言ってんのっ!?おばさん!」
壁の向こうから、怒りに震えるアリスの声。
「あっ⁈おばさん?」
銀子の顔にも青筋がビキッと浮かぶ。
銀子に向かって飛んできていた石柱がピタリと止まる。
壁にできた穴から、戦闘服の金髪ゆるふわウェーブミディアムの美女が怒りの表情で姿を見せた。
『ついに姿を現したぁぁぁぁっ!!!!!第二席 アリス・リデルッ!!!天岩戸より出でた天照大神の如く、その姿は美しすぎるぞっ!!!俺と結婚してくれぇぇぇぇぇっ!!!』
安綱はモニターのジェームズの絶叫に耳を塞ぐ。
「私の時には美女とかの表現がなかったのが、すっげぇ気に入らない」
不機嫌全開だ。
「まぁまぁ、安綱も刀持ってないときは可愛いよ」
フガッ
手足を再生し立ち上がった巨躯のワーウルフも、ニヤに同意するようにうなずく。
「なによソレ?お世辞はワードセンスとタイミングよ!」
ニヤの鼻頭をピンッと指先で弾くいて、次にワーウルフの胸板をバンと叩く。
「まぁ、いいわ、それよりも天満、復活したところ悪いんだけど、また体張ってもらうわよ」
安綱はニヤと天満に次の作戦を説明する。
一方、アリスは腕を組んで、不遜な態度で壁の境界線を越える。
「どう?これで文句ないでしょ?私が美人かそうじゃないかはあなたの判断に任せるわ。このセレモニーに私の容姿は関係ないもの、必要なのはこの窮地をどう脱するか?でしょう」
アリスは髪をさっと手櫛で研いで、余裕の表情で銀子に言い放つ。
『確かにアリスちゃんの言う通り、四対一になったとはいえ、相手は玉藻御前だっ!!この窮地をどう凌ぐかっ!?』
アリスは銀子を警戒しながら、両手を広げそっと切込みの入った壁の一部に触れる。空気が手のひらの中で視認できるほど圧縮し、そして中心に火花が発生した瞬間、爆発が起こる。石柱はまるでロケット花火のように指向性をもって銀子に向かっていく。
『これはっ!!彼女のギフトですねっ!!彼女の両親もギフト持ちのステアーズです。ご両親とも現役引退されているので、ここでご紹介しますね――――――――母親は元SSランカー炎帝ことオリビア・リデル、ギフトは発火能力、そして父親も同様で、SSランカー竜巻エール・リデル、ギフトは風使い(エア・ラーニング)、お二人とも初期のエボ・タワー攻略を支えた立役者ですね』
飛ばした石柱は、銀子を飛び越えその背後にいたニヤたちのすぐ側で爆砕し大量の砂煙を上げる。
「ゴホッゴホッ、アリスー危ないだろーっ!!!」咳き込みながらニヤが抗議する。
「あらあら、どこ狙ってるの?お友達に当たっちゃうわよ」
瓦礫が舞い上がった埃が充満する中、振り返ることなく、アリスの一挙手一投足に集中して構えている。
銀子は動物的カンで何かを察知し、同時に動く。
「この感じ⁈…嫌な予感がするね!」
周囲の異変を感じた銀子は、咄嗟に状態を低くしてアリスに向かってダッシュする。
「ご説明の通り私の両親は火と風のギフト…だから娘の私のギフトは当然!大気を操り、発火させる――――――――」
アリスの手のひらにバチバチと火花が発生した途端。
ダッシュした玉藻銀子の背後で大爆発が起こった。
読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。