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もう一人のランカー・ステアーズ

 疾風怒濤の勢いで、四つ足の巨大な黒い影は一直線に塔の北口を目指す。

 カメラドローンが二人の姿を捉えるため、塔北口から発進したが、一瞬で見失った。

 カメラの追尾を振り切り、市街地を全く速度を落とさず、黒い獣は荒い息を吐きながら駆ける。

「天満、居るよっ!!・・・さっきの視線の相手」

 ワーウルフの首にしがみついたまま、耳元でニヤが大声で叫ぶ。ニヤの瞳も爛々と蒼く光ったままだ。

 その蒼く光る視線の先に、一人の人影が見えた。

 行先のエボ・シティー北口のゲート前広場に、狐の面を着けた女が腕を組んで立っていた。


「ノーマンの奴め、手を抜いたな」

 正面から怒涛の勢いで、自分に向かってくる獣の姿を捕らえると、狐の女は呟いた。

『さぁ、エボ・シティー北口ゲート前には、アリーナでは現在ランキング12位っ!! 本日もう一人ランカー・ステアーズ 個人ランクSSっ!!! 身長168㎝ B85W58H88ッ!!!ナインテイル・フォックスッ!!――――――――玉藻銀子たまもぎんこおおおお! 俺、大ファンだぜーっ!!愛してるぜーベイビー!』

『なんでジェームス、玉藻先輩のスリーサイズ知ってるんですかー、マジでキモイですっ!!』

 放送中のスタジオ・ステアーズのジェームスが、北口に設置してある複数のディスプレイ・モニターから銀子に向けて熱烈なラブコールする。

「ベイビーじゃないわよ、ジェームスうざっ」

 うるさいし…もっと前で待ち構えればよかったなと呟く。


 モニターに映るのは、狐の面に頭部には狐耳、臀部から栗色の毛並みのいい尻尾を九本生やした戦闘服を着た女性だった。苛立ちを表しているように、複数あるしっぽがパンパンと地面をたたく。


 鼻歌まじりでご機嫌なジェームスが、ドローンを操作して、舐める様に彼女をアップで撮影していく。


 赤髪をポニーテールで縛り、狐の面、黒いプレートが複数張られた装甲服のアウターに、インナーは胸の下でシャツを縛り、へそ出し。防刃カーゴパンツに金属製の筒状の物が十一本ジャラジャラと下げられたベルトを着けた玉藻が、二人を待ち構える。

「さて、お手並み拝見と行こうか・・・」

 西部映画のガンマンの様に、腰を落としホルスターのリボルバーにいつでも手をかけれるような体勢、手のひらを開き、指先は腰から下げた円筒状の金属に触れ、両肘を背後に回す。

 銀子の視線の先に、砂煙を上げて疾駆する黒い獣の姿が映った。

「ガッカリさせんなよー」

舌舐めずりする色気のある唇から、犬歯が可愛らしく飛び出る。

『さぁーっ!!ノーマンを退けた両名を待ち構えるのは、俺様ちゃんのアイドル玉藻御前だぜっ!!』



「誰がアイドルよ・・・」

 ため息つきながらも、正面に迫るワーウルフを見据える。黒い塊となって勢いを落とさず目前に迫るワーウルフ。

『ああっとぉぉぉ‼︎ 新入生コンビっ!! 玉藻先輩に無作為に突っ込むのは危険だぞぉぉぉっ!!!』

 実況中継のミサトの叫びに、ワーウルフがとっさに反応。的を散らすために、直進から急きょ銀子から右側に進路変更し、背中に乗っていたニヤは銀子の左側へ跳躍する。


「ミサト、偏った実況は減点1だぞ」

 狐面はぼそりと呟いて、両手を腰の金属製の円筒に伸ばす。

「じゃ、まず一匹っ!!」

 フラッシュのように、赤い閃光が瞬く。

 『銀子先輩、狙いをワーウルフに絞ると一気に差を詰めるっ!! ワーウルフも瞬時に反応し、鋭利な爪を伸ばし銀子に向けて振り下ろしたーっ!!!――――――――いやっ!降ろしていないっ!!!』

 

「ブブッー!遅すぎる、あくびが出る 君は減点4」

 何事もなかったように、巨躯のワーウルフの脇をスタスタと通り過ぎる。

『どうしたーっ!!ワーウルフ、攻撃の手を止めたぁぁぁ!!!』

 ガハッッ!!

 ワーウルフの瞳が見開く、そして音を立てて右腕が落下し上半身が不自然に前倒しに倒れる。

 ワーウルフは振りかぶった右腕だけでなく、左腕、両足がひざ下から切断されたのだ。

 しかし、戦斧で切断された時のように、派手に鮮血を巻き散らかすような断面ではなく、出血は全く無い。

 

「天満ぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 その様子を見て、叫んだニヤの姿が消える。

 狐面の銀子は、瞬時に現れたニヤの顔面をカウンターで掴み、勢いを殺さず地面に叩きつける。

 頭部を強打し、苦悶の表情のニヤ。その両手には天満のククリナイフが握られている。

 「へぇー、やるじゃん、でも詰めが甘い、減点1」

 ピシッと音が鳴り。狐面が真っ二つに割れて、妖艶でいたずらな表情の美女が現れた。


『いつの間にっ!!!銀子先輩の面が割られたぁぁぁぁぁっ!!!!』

『ナイスだニヤァァァ‼︎ 銀子ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!! クッソ可愛いなぁぁぁぁチクショォォォォォォッ!!!お面で隠す様な顔じゃないだろーがよぉぉぉ‼︎ 』

『ジェームス!!先輩をそんなエロ目で見るなぁぁぁっ!!』

 モニターに映る銀子に、異様な執着を見せるジェームス。サトミはモニターに映る銀子を汚されまいと、ジェームスの目を両手で覆う。


「まったく何やってんだか・・・うるさいねぇあの二人、君もそうは思わないかい? 」

 半ば呆れて、背後のディスプレイモニターを指して銀子がニヤに言う。が、ニヤはその言葉を無視し、ナイフで銀子の手首を狙って振るう。銀子は大人しく手を引くと、ニヤは野生の獣のように飛び起きると、銀子を警戒しながら両手足を切断されたワーウルフに近づく。

「あらあら、元気な仔猫ちゃん」

 落胆する様子で、腰にぶら下げている筒がカチャカチャと音を鳴らす。少し傷ついた様子で、目も合わせないニヤに対して呟く銀子。

 その言葉も、聞き流してニヤはワーウルフの傍でしゃがみ、四肢の傷口を見つめる。

 

「再生が始まっていない?」

「そりゃあ、そうよ――――――――焼き斬ったもの」

 ワーウルフはガフガフと、泡を吹いて悶絶している。その様子を心配そうに見つめるニヤの背後から、ブォン、と音と共に赤い光がニヤの頬を照らす。

光子剣フォトン・ソードよ、スタジオ・ステアーズで見たことあるでしょ?――――。ライカンスロープの超再生を止めるには、切断面を焼き切るの。そうすると再生細胞の結合を防ぐことができるわけ、フロア10からは常識中の常識よ、憶えておきなさい」

光刃を収納して、柄を腰の専用ホルスターに吊るす。ジャラジャラと11本の柄全てが光子剣なのだ。


「降参しなさい、君の持ってるナイフじゃ光子剣は止めれないわ――――――――それに私のギフトは見ての通り常備発動型パッシブ・スキルだから、ノーマンのように手加減できないわ、こんなところで死ぬのも嫌でしょ?」

「そりゃ死ぬのは嫌ですよー、でも、やってみなくちゃ分からないじゃないですか?」

 ニヤは立ち上がり、ナイフを持ったまま無防備に銀子に歩み寄る。

「あら、自信満々ね・・・なら君のギフト試してみようかっ!!」

 銀子に向かって、ニヤの瞳が蒼く輝き不敵に微笑む。

「僕のギフトを試すのもいいですけど・・・・」

 不意にニヤは正面に立つ銀子に対して、明後日の方向を見る。緊張した場面で対峙している銀子もニヤの視線を追う。北口のベンチや自動販売機がある、休憩所のような場所が視界に入る。


「んっ?」

 ヒュンッ――――――――


 風きり音が死角から聞こえ、何かが高速で通り過ぎたと認知した瞬間。視線を送った先の自動販売機が爆砕する。


『なんだなんだっ!!!ちょっとミサトに視界を遮られてた瞬間に、自販機が粉砕してるぞっ!!!』

 爆砕音にジェームスがミサトの手を振り解き、全壊した自動販売機を注視する。

『何かが銀子さんめがけて飛んできました、何か大きいものがっ!?』

「えっ?」

 意識外の出来事に、驚愕の表情の銀子。それを見てニコニコしているニヤ。

「狐のお姉さん、危ないですよー」

 トンッとニヤが一歩ジャンプして下がると、矢継ぎ早にゲート側の壁から三メートルほどの四角柱の石材がドンッドンッ音を立てて射出される。

『これは!?北口ゲート横の壁っ!?外壁が碁盤の目ように切込みが入れられ、ところてんのように押し出し式で射出されていますっ!?』


「そうか、君たちは二人じゃなかったなっ!!」

 次々とロケットのように飛翔してきた石柱を、両手に持った光子剣を振るい分断していく。それ以上のペースで、柱体が次々とスピード上げ銀子を追従するように撃ち込まれる。

「ふん、面白いっ!!」

 九本の尻尾が腰にぶら下げてある光子剣の柄をくるりと巻いて掴むと、独立した別々の生き物のように光子剣を振るい、柱体を細切れにしていく。

『出たぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!!九尾十一連撃っ!!!!凄くね!!!?九本のしっぽと両手で十一刀流だせっ!!!流石ランカー・ステアーズ、玉藻銀子に死角なしだぁぁぁっ!!!』

『それ、ネーミングセンス厨二っぽくないですかー、ジェームスだけですよぉそんな必殺技みたいに言うのっ!!』

 銀子の十一条の赤色の光線が高速で舞う。次々と石柱を切り落としていくなか、倒れたワーウルフの横に二本の日本刀を帯びた黒髪ロングの少女が音を立てずに着地した。


「安綱ぁっ!!!」

「安綱ぁじゃないわよ、ニヤくんホントにバカッ!?天満バラバラじゃん」

 安綱と突然の再開に喜ぶニヤに対して、少し怒った表情で安綱はそっと刀に手を添える。

『ここでぇー、新入生女子チームッ!!渡辺安綱わたなべやすつながついに合流だぁぁぁぁぁぁっ!!一体今までどこにいたんだ!!美女は一人より二人がいい!できれば三人いればもっといいっ!!そうだろみんなぁぁぁっ!!!』


「ジェームス、相変わらずウザいね、まぁ、おかげであんたたちの動向がわかったから、よかったんだけどさ―――――っていうかあんたも、いつまでも泡吹いて悶絶してるんじゃないわよっ!!犬天満!」

ワーウルフを見下ろして吐き捨てる。そして二本の刀の柄に手を添えると、チンッと金属音が響く。


ブッシャァァァァァァッ!!!!!!!

 大量の鮮血がワーウルフの四肢から噴き出す。

ムガァァァァァァァッ!!!!!!

 悶絶していたワーウルフが苦悶の叫びで暴れまわり、あたりを血の海にする。

「ちょっ!!ちょっと安綱何やってんだよっ!?天満スゲー痛そうだよ」


『なんとっ!!何を考えているんだぁぁっ!!!合流した渡辺安綱ぁぁぁぁっ!!!いきなりワーウルフを斬撃ぃぃぃっ!!!!!!』




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