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仲仁短編集  作者: 仲仁へび
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01 クラスのはみだし者



「何でも行動次第だって思うんだよね」と、夕暮れに沈む公園で、クラスメイトの一人である少女は僕に言った。


 その言葉を受けて、体の芯まで凍えてしまいそうな寒風にさらされながら、ブランコを揺らしていた僕は、少女の顔を見つめた。


 その日、僕はクラスメイト達ともめにもめて、ふるぼっこされたばかりだった。


 体中に軟膏をぬりたくらなければいけないような怪我をしたのに、何が原因だったのかは、実ははっきりしていない。


 それは、下校時刻間際にクラス内で起きた盗難事件の犯人捜しが原因かもしれないし、数週間前にインフルエンザが猛威を振るった影響で、僕等のクラスだけが居残りして勉強しなければならなくなった事が原因かもしれない。

 もしくは、クラスで世話をしていた町中の花壇が、誰かに踏み荒らされてしまった事が原因なのかもしれない。


 とにかく、ストレスが溜まっていたのだ。

 みんなはけ口がほしかったのだろう。

 そこでちょうど、はみだし者という良い的がめだってしまった。


 いくつかの不用意な発言をしてしまった僕を、皆が袋叩きをするに至るのはある意味で必然的な事だったのだろう。


 心当たりはある。

 たぶん……。


 犯人捜しに沸く皆に「犯人はクラスの中にいるとは限らない」。

 勉強を嫌がる彼等に「いつかは勉強しなくちゃいけない」。

 顔も知らない誰かの行為に憤る彼女等に「警察の人や大人の人に任せるべき」


 って、言ってしまった事が原因なのだろう。


 皆にとって僕は、突発的なトラブルが起きた時でも一人だけ冷静な頭のおかしい奴で、言わなくても良い事を言う空気の読めない人間で、自分達の行動に理解の無い大人の味方なのだ。


 でも、仕方ないじゃないか。


「あの時は仕方なかったよね」


 ブランコに乗る僕の目の前にいる少女が、内心を読み取ったように同意する。


「だって、施錠されていた教室に出入りできるのは先生もそうだし、勉強しておかなくちゃ今度のテストで分からない所が出て困っちゃうし、お昼ならともかく夜まで花壇を見張ってるなんて危ないもん」

「……」

「ほら、立ち上がって。明日私が皆に説明しておいてあげるよ。君はちょっと、説明不足すぎるんだよ」


 差し出された手を掴むかどうか迷う僕に、少女は呆れたように嘆息する。


「クラスのはみ出し者になるのは、はみ出し者で良いって言って諦めちゃうからだよ。ちゃんと説明すれば、皆が皆分かってくれなくても、きっと何人かは理解してくれる」


 孤立無援から少数派になっただけの状況を、偉そうに述べてくる少女は、今はどちらの側に立っているのだろう。

 クラスメイトの側に立って不和の原因を取り除こうとしているのか、はみ出し者である僕を哀れだと思って手をさしのべてくれているのか。


 僕の目を覗き込んだ少女は、そこもぴしゃりと言い当てた。


「必要以上に甘えないの。そこも君が決める事。私が味方だって言ったら、君の中できちんと私は味方になるの? 違うでしょ。私を味方にしてくれるのは、君の意思。さ、もうそろそろ決めよ。はみ出し者のままで貴重な学校生活を続けるか、ちょっとだけ踏み出してみるか」


 どうするべきなのか、迷ったけれど、結局は目の前の少女の手を取る事にきめた。

 だって僕はクラスのはみだし者なんだから、目の前にいるちょっと他のクラスメイトよりはみ出している少女の行動につきあってみるのも、そんなに悪くはないと思ったのだ。


 彼女はああ言ってはいるけど、こんな関係の始まりがあるなら、はみ出し者のままでいるのも案外悪くはないかもしれない。




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