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その青春は腐り始めていた。  作者: ナヤカ


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ガールズトーク

「あんさぁ、このままでいいわけ?」


 屋久杉笑里(えりりん)が、そんなことを言いだした。それに私も姫川雪那(ヒメ)も無視を決め込む。


「あんさぁ、聞いてる?」


 放課後。学校帰りに寄ったファーストフード店の片隅。なんとなく広げた課題ノートは真面目な女子高校生を見せておくための演出で、ペンを手に取るよりも頼んだポテトを摘まんだ回数の方が圧倒的に多い。


 今日あった事をなんとなく話して、テストの事をなんとなく心配して、みんなまだ勉強してないことを確認しあって、クラスの男子の事を少しだけ話して、何も話すことがなくなって、沈黙が続いたあとにエリリンが切り出した。


「このままって何が?」


 ヒメが何気なく手に取ったスマホをいじりながら聞いてあげた。


「私ら二年だよ? このままダラダラ過ごしてて良いのかってこと」

「なにそれ。別によくね」

「別によくなくね? だって二年なんだよ? そろそろヤバイって」

「ヤバイの? つーか勉強の話?」

「違う違う。ほら、ドラマとか映画の二年ってめっちゃ青春してるし、このままじゃ私ら、そういうこともなくお婆ちゃんになっちゃうよ?」

「いや、あんなの現実じゃないから。やめときな? 夢見るの。見るだけ損すっから」

「えぇぇ、でもさぁ、なんかもっと遊びたいよねぇ」

「うわ」

「……どしたん?」

「見てこれ。自宅から薬物押収だってさ。あんだけ否定してたのに結局あったのかよー」


 唐突にヒメがスマホ画面を見せてきて、そこにはTwitterの速報ニュース。有名な俳優が警察に家宅捜索をされ、逮捕に至った内容があった。それにエリリンは嫌悪感を露にする。


「やっぱやってたねぇ。ファンの人かっわいそー。でも、警察が動くのって証拠があるからなんでしょ? それを考えればさ、ファンを止める猶予はあったよね」

「逆にわざと逮捕ズラしたんじゃね? ファンを止める猶予を与えるために」

「なにそれ! 警察めっちゃ優しいじゃん! やっぱり彼氏にするなら警察官だよねぇ。なんか守ってくれそう」

「やめときなぁ? ルール、ルールって口煩そうだし、あんたが捕まるって」

「それあるなぁ。その時は保釈金頼むぅ」

「保釈金っていくら?」

「さぁ? 百万とかあれば足りない?」

「百万かぁ。なんで罪を侵した奴に払わなきゃいけないのか疑問だわ」

「私ら友達じゃん?」

「そっか。友達だからか。そりゃしゃーねーわ」

「仕方無いよねぇ」


 生産性のない会話がダラダラと繰り広げられる。エリリンはハンドタオルを畳み、枕代わりにして上半身だけを卓上に投げ出していた。そんなことができるのは、彼女が髪をサイドで結わえているから。まぁ、たぶんエリリンならそういった髪型じゃなくてもしてそう。


「そういや何の話だっけ?」

「なんだっけ? ……そーそー! 私らこのままで良いのかって話」

「あぁ……それか。もう無理だって。ウチら奴らからは女としてみられてねぇし」

「えぇぇ? そんなことなくない?」

「あるある。もう時効だから」

「時効かぁ……。でもさぁ、そういうのって男子がいけないよね。モテたいならもっと頑張って欲しい」

「頑張ったところで……ね。急にイケメンになられても引くだけだわ」

「あはは、それあるなぁ。もはや評価を覆すの難しいよねー。一回「こいつとは無理だー」ってなった後に性格めちゃ変わったとしても接し方変えられないよねー」

「それな」


 そう言ってヒメは鼻で笑った。黒髪ロングに勝ち気なつり目。態度はいつも横柄で、口調の端々が男っぽい。彼氏の影響なんだろうと思う。ヒメな彼氏は、写メを見る限りわりと不良だ。あと、エリリンに接するみたいに躊躇なく他人を否定するくせに、自分を否定するとキレる。だから「時効の使い方間違ってね?」とは言えなかった。


「じゃー無理かぁ。私らの青春って終わってたんだねぇ」

「とっくの昔な」

「とっくかぁ。……経済特区ってなんだっけ?」

「んー? なんか毛が沢山の人が起こした革命じゃなかった?」

「あぁー! あの人ね。教科書見たら普通に禿げてたんだけど」

「それな。逆にあれで覚えたわ。テスト出たらソッコー」


「いや、経済特区と毛沢東は全然関係ないから」


 さすがに突っ込みを入れざるを得なかった……。しかも失礼過ぎるうえに全然覚えられてない。なんだ毛が沢山の人って。私もよく分かったな……。


「じゃあ、アンサーは?」

「経済特区は中国内で発展してる区域。毛沢東は農民運動の指導者ね」

「さっすがザッキィ。それも彼氏さんとの成果ですかぁ? つか、農民って……畑のついでに頭も耕しちゃったのか毛が沢山」

「成果というか普通に授業でやったじゃん……。あとそうやってネタにするの止めといた方がいいよー。「ジョン万次郎あんな毛があったのに禿げてんじゃん」とか言われたらあまりいい気しないじゃん?」


「ジョンマンって日本人だっけ……?」

「ジョンって外国人の名前じゃね……ハーフ?」


 ダメだこいつら……。もはや説明することすら面倒臭くなってくる。


「もういいや……別に今回のテスト範囲でもないし」

「えぇー。というかザッキィ早く彼氏さん貸してよー。一人だけ頭良いとかずっこくね?」

「それな。別にタダってわけじゃなくてさぁ、こっちもそれなりにいろんなこと教えてあげるし……ね?」


 そう言ってヒメは悪そうな顔をしてみせた。


「あっはー! ヒメ寝とる気だぁ!」

「いやいや教えるだけ。教えてもらう代わりに」

「ギブ&テイクツーだね!」


 テイクツーって余分に貰う気まんまんじゃん……。でも、別に指摘はしない。たぶん、語呂が良かったから付け足しただけなんだろうし。


 それよりも、だ。私は少し息を吐いてからなるべく平然を装って告げる。


「それに、彼氏とは別れたから」


 その瞬間、眠たげなエリリンの目が開き、ヒメの肩がピクリと動く。


「はぁああ!? うそ? いつ??」

「この前の日曜日」

「マジ? 原因は?」

「いや、なんか毎週会ってるのとか惰性になってね? って話になって「別れてみる?」とか言ったらマンザラでもなさそうだったから」

「うわぁ……それで別れたの?」

「まぁ」

「とうとう別れたのかぁ。落ち込んだ?」

「うーん、怒りの方が強かったかな。そのあと落ち込んだけど、今は吹っ切れた」

「まぁじかぁ……」


 二人とも唖然としている。ふっふっふっ……完璧じゃないか。


 鹿羽に言われた通り、私は架空の彼氏を手放すことにした。別れた経緯もネットを漁ってつくった。あとは話すタイミングだけで、自然と告げる瞬間を私は待ってた。


「でもさぁ、「別れてみる?」っていうのにマンザラでもないのは別れるしかないかもー」

「それな。向こう飽きてたんかもね? にしてもザッキィと別れるとか馬鹿過ぎ」


 案の定、二人は私の味方をしてくれる。私は嘘をついて二人と接していたけれど、二人のことは嫌いじゃない。気が合うし、話してて楽しい。仲良くなるキッカケは確かに彼氏持ちだったけど、そんなのはどうでも良くなるくらい私は三人でいるのが居心地良かった。


「その馬鹿面拝みたいんだけど? もう写メくらい見せてくれてもいいっしょ」


 ヒメが言ってくる。私は二人に彼氏の写真を見せたことがない。というより無かったから。


「あー……、ごめん。全部消した」

「はぁぁ? ウチらに見せるまでがオチだろ?」

「オチじゃないから……勝手に面白い話にしないでくれん?」

「私も見たかったなぁー。ザッキィのタイプ知りたかったし」

「いや、全然イケメンじゃなかったし。なんか、いつもボーッとしているような奴だったし」

「そっかぁ……じゃあザッキィこれからどーすんの?」

「まぁ、夏に向けて適当に見繕うかな」

「前向き過ぎん? なんかスゲーわ」

「ね! 別れたって聞いたのに先超された気分になる」

「落ち込んでても仕方ないし」


 彼氏なんかいないし、別れてもいない。落ち込んでは……いたのか。

 それでも、今の私はナイーブじゃなかった。


 たぶん、鹿羽のお陰だと思う。


 彼が私なんかよりもずっと悩んでたから……なのに平気な振りしてたから……だから、たぶん平気になった。


 どんな気持ちだったんだろう。どんなに……あの人のことを想ってたんだろう。


 彼はそんなこと、おくびにも出さなかった。出さずに格好付けてた。それは逆にダサいと思ったけれど、不覚にも格好良いと思ってしまう私がいた。


 なんなんだろう……。


 その疑問は、私自身に宛てたもの。


 あんな奴、興味もなかったのに。好きな人は別でちゃんといるのに。


 私はなんとなく私が分からないでいる。


「まぁ、なんとなくあたりは付けてるし」

「うそ!? だれだれ?」

「わかった。同じクラスの鹿羽って奴っしょ? この前、二人してサボったらしいじゃん」


 彼の名前が出てドキリとした。


「ちっ、違うから。タイプじゃないし」

「お? その反応怪しくないですか? ザッキィさん?」


 エリリンが煽ってくる。


「いやいや、怪しくないから。そもそも私とは絶対合わないし」

「まぁ、だよねー。見たことあるけどあんまパッとしないし」

「そうそう」

「んじゃ誰よ?」


 そこでようやく、私は本当の気持ちを吐露する。二人にそんなことを話すのは初めてだったから、少しだけ緊張した。


「春馬……かな」

「あいつかよー。めちゃ身内じゃんか」


 ヒメが呆れたような表情。彼はヒメと同じ一組だった。そして、昼休みによく集まるのもヒメのいる一組。だから、わりと話す機会も多かった。


「そっかぁ、なら一肌脱いでやりますかぁ。それとなく二人きりにするね?」

「エリリン下手くそだからバレるって。やめときなぁ」


 二人は笑いながらも応援してくれるらしい。やっぱ持つべきものは友だなぁと思う。



 ただ……本当の私は少しだけ違った。



 春馬くんに告白をするのは、気持ちを整理したいという考えの方が強い。


 私は、ここ最近鹿羽くんと接する機会が多くて……彼の事が少し気になっていて……そんな自分が分からなくなり始めている。


 なんなんだろ。


 でも、春馬くんに告白をすれば、そんな気持ちが明確になるような気がしていた。オッケーを貰えたならきっと嬉しくて、彼のことは"やはり気のせいだった"と思えるに違いない。


 と同時に、フラれるかもなぁとも思っている。なにせ、冗談半分で言った告白を、彼は笑って否定したから。



 もし、春馬くんにフラれた時は……その時は……。



 私は悪い女だ。一つに絞らなければならない気持ちを、同時に二つも抱えてしまっている。しかも、その二つはどちらが本気なのか分からなくなり始めていた。


 だから、告白をすれば……その二つが一つに絞れるような気がしていたんだ。


「そろそろ私帰るね。やることあったんだ」


 スマホ画面の時刻を見て、私は真っ白な課題ノートを片付けた。買い物をしなくちゃならない。

 約束してしまったから。お弁当つくるって。


「そっか。それじゃまた明日」

「またな」

「うん。お先っ!」


 ビシッと半端な敬礼でその場を後にする。外はすっかり暗くなっていて、帰宅し始めるサラリーマンの雑踏が多くなっていた。


 そんな中を私は軽快に走る。


 なんとなく、何事も上手くいきそうな気がした。

やばい……会話に脈略が無さすぎて投稿するの躊躇ってしまった。


意味分からなかったらすみません。あと口悪すぎた……。

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