第4話 タケノコ生活
日向「僕は貴方に奉仕なんてしません、最低ランク? 大いに結構」
日向「最低ランクから成り上がってみせる!」
ミルラ「ちょ、ちょっと待ちなさい!」慌ててミルラが日向に駆け寄る。
ミルラ「オホホホホ、ちょっとごめんなさいね」
ミルラは取り繕うようにマスターに弁明しつつ日向の耳元で囁いた。
ミルラ「いーい?」
ミルラ「あんたは知らないだろうけど、最低ランクの冒険者は奴隷以下の扱いよ」
ミルラ「くだらないプライドなんか捨ててマスターさまに奉仕しなさい」
ミルラ「中級冒険者になるのってうーんと幸運な事なんだからね!」
日向「僕、気が付いたんだ」
ミルラ「ん、何よ?」
日向「名前が浮かんだ時に記憶が少し戻ったんだ」
ミルラ「へー、それで?」
日向「僕はこの世界の住人じゃない!」
ミルラ「そう、すごいじゃない」
日向「僕は異世界に転移してしまったんだ!」
ミルラ「そうなのね、よかったね」
日向「つまり僕は神だ!!」
ミルラ「へー」
日向「だから僕は…」
ミルラ「つべこべ言わず、中級冒険者になりなさい!」
ミルラ「あんたは下級冒険者の大変さを分かってないのよ!」
ミルラ「くどくどくどくど…」
日向はミルラの助言を無視してマスターに向き直った。
日向「僕は最低ランクで構わない」
日向「さあ、登録を頼む!」
マスター「ほうっ…良い目をしてるな」
マスター「見たところ結構年も取ってるみたいだし、何か策でもあるのかい」
マスター「まあ、いいさ、そこまで言うなら最低ランクの冒険者になるといい」
ミルラ「あっ…そんな…」
日向「ああ、手続きを頼む」
ミルラ「馬鹿な男…」
マスター「そうだな、いや…どうだろうな?」
マスター(ステータスもレベルも低かった…が、職業が神だ)
マスター(長年この仕事をしてきたけどこんな職業は初めて見た)
マスター(と言うかそもそもなんで冒険者ギルドで斡旋する前になんで職業に就いている)
マスター(こいつは只者じゃない…)
様々な思惑の中、日向の手続きは終わった。
マスター「おめでとう、これで君も冒険者の仲間入りだ!」
マスター「お帰りはあちらの扉でどうぞ」
日向「…さっそく仕事を貰いたいのだが?」
マスター「生憎と今は最低ランクに回せる仕事はないんでね」
マスター「そこの嬢ちゃんがやってる仕事で今日の分は最後だったのさ」
日向「ふむ…」
マスター「最低ランクが行う仕事はゴミみたいなもんばかりだが」
マスター「それでも仕事があるだけマシな方さ」
日向「そうか…そっちか」
マスター「そっち? 何のことだ?」
マスター「まあいい、そんな訳だからまた明日ここに来な」
マスター「明日の5時になったら新しい仕事が入るからな!」
日向「ふむ…わかった」
冒険者ギルドを出るとミルラは日向に詰め寄った。
ミルラ「ハッキリ言って、貴方はバカよ」
ミルラ「最低ランクの冒険者ってかなり苦労するんだから!」
日向「ミルラも最低ランクだったんだね」ぷーくすくす
ミルラ「言っておきますけど!私はステータス高いのよ?」イラッ
ミルラ「たまたま仕事を失敗したからペナルティを受けちゃっただけよ!」
日向「わかった、わかった、そう言うことにしておこうね」
ミルラ「むきー! その顔は信じてなーい!」
ぐぅ~! 突然日向のお腹が鳴る。
ミルラ「アンタ…お金持ってるの?」
日向「そんなものはない」
ミルラ「はぁ…呆れた、それでどうするつもりなのよ?」
ミルラ「アンタの世界は違うのかもしれないけどね」
ミルラ「ここでは食事するのにも宿に泊まるのにもお金がかかるのよ」
日向「ふむ…」
ミルラ「ちっ…特別だからね、奢ってやるのはこれ1回限りだからね」
日向「奢る? その必要はないな」
日向「その代わり買取屋を案内してくれ」
ミルラ「アンタねえ…私はそんな義理も義務もないの、分かる?」
日向「お、お願いします…!」ぽろぽろ
ミルラ「ちっ、そんな顔するんじゃねーよ、仕方ねーな!」
ミルラ「案内してあげるからついて来なさい!」
たったったった・・・
場所:買取屋
店員「買取屋へようこそ!」
日向「ふふふ、とりあえずこれを見てくれ」
布の服 眼鏡 ハンカチ
店員「ふむふむ、1000モチですね」
日向「そうか、そうか、1000モチか!」
日向「ミルラくん、1000モチってどれくらいなんだ?」
ミルラ「食事が1回100モチ 宿が1泊500モチが相場ね」
日向「えっ…?」
ミルラ「高い食事なら1回1000モチ以上する、食事代すら届いてないわ」
日向「て、店長を呼べ! 店長を!」ぎゃーぎゃー
店員「最近こう言う変な客増えたなー…転職しようかなあ」
店員が奥へ引っ込むと代わりに店長が現れた。
店長「私が店長です!」
日向「おうおう! 別世界の服や眼鏡、ハンカチが
たった1000モチぽっちとはどう言う了見なんだ? ああん?」
ミルラ「なんだコイツ…急に強気になったぞ」
ミルラ「やはり本当は強いのか…?」
店長「うーん、この服は10モチですね」
日向「別世界の服にいちゃもんをつけるのか!?」
店長「先ず服のセンスが頂けない、誰もこんなの身に着けたくならないでしょう」
店長「手触りもよくない、こんな馴染みのない布は嫌がられてしまいます」
店長「それにここ、何やら染みが出来ていますね、汚いですよ」
店長「何より貴方が着てた服でしょう? みんな嫌がるかと思います」
店長「本来なら買い取り不可ですが珍しいので80モチです」
日向「あぅあぅ…」
店長「次にハンカチですか、薄汚れてますね、臭いです」
店長「服に比べるとセンスが悪くないですけど、これは酷い」
店長「ああ、貴方の汗を拭いてたのですか、納得しました」
店長「こちらも買い取り不可にしたい所ですがオマケで10モチです」
日向「くっ…」ぽろぽろ
店長「この眼鏡のセンス自体は悪くないですが」
店長「視力向上や治癒魔法がある世の中、果たしてこれを必要とする人がどれくらい居るか…」
店長「所詮貧乏人相手に勧めるしかない代物です、700モチです」
店長「合計790モチですが、お得意様になって欲しい意味を込めて1000モチです」
店長「どうですか? 良心的でしょう?」
日向「…わかった、それでは1000モチで買ってくれ」
店長「見るところ替えの服がないようですが、これを売れば下着だけですね」
店長「下着姿で歩いたら捕まりますがよろしいですか?」
日向「ううっ…」
店長「ちなみに眼鏡とハンカチのみの場合は710モチのお支払いします」
店長「…お得意様になれそうもないという事でサービスはなくなります」
日向「こうなったら自棄だ! 服と眼鏡とハンカチ、1000モチで買ってくれ!」
店長「毎度ありがとうございます♪」