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バカマンモス大学 純文学研究会  作者: はるあき
入学編
5/10

つり橋(5)


 図書館で明日香と別れた俺は、新入生オリエンテーションを受けるため学科棟まできていた。


 ちなみに、俺の専攻は調理栄養学科である。

 将来は純文学に出てくるような渋い喫茶店のマスターや、バーのマスターになりたいと思ってこの学科を選んだ。

 もし駄目だった場合も、この学科を出てれば主夫になるという道もあるし。

 昼は掃除洗濯をこなしつつ純文学を読み、夜はご飯を作りながら純文学を読む。純文学を愛する者にとっては、夢のような生活である。

 ・・・我ながら甘い考えだとは思うが。


「早くしろよ−!」

「もう帰っちゃうぞ!」


 尚、俺のように甘い考えを持つ人が多いからか、この学科は柄が悪い。なかなか来ない説明者にしびれを切らし、不平不満を叫びだしている。

 見た目も特徴的な人が多くて、茶髪をくりんくりんに巻いたギャルや、ダンスが得意そうな顔面に墨入れちゃってる系男子など、偏った人種で溢れている。

 大きめの講義室に60人ほどの学生が集っているが、髪が黒いやつなんて俺ぐらいである。

 右端に座っている男なんて、髪の色がピンクだ。


 ってあれ?

 あいつ、ひょっとして今朝見たピンク髪じゃねえか。

 あんな短髪をピンクに染めているやつなんて、そうそう居ないだろう。

 そういえば、あのピンク髪はなかなかの純文学的パッションのほとばしりを感じるやつだったよな。

 ・・・


「やあ。隣良いかい?」


 俺は意を決して、ピンク髪に声をかけた。

 やべぇ奴である可能性は高いが、純文学の才能がありそうだしな。勧誘しておいて損はないだろう。


「ん?あぁ、どうぞ」


 俺の呼びかけに、少し面倒な様子ではあったが普通に答えてくれたピンク髪。

 あれ、思ったより普通の対応だな。

 とてもカエルを投げながら女子を追いかけていたやつとは思えない。

 顔も彫りが深めのイケメンフェイスだし、歯並びも良い。(シンナーで溶け切っているんじゃないかと警戒していた)

 見た目で変わっているのは髪の色くらいだ。


「今朝、バカマンモス大学北駅でカエル投げてなかったか?」


 ピンク髪の様子に少し安心した俺は、気になっていた質問をしてみた。


「ははっ、見られちまってたか。まいったなぁー」


 するとピンク髪は照れたような様子ではにかみながらそう言った。

 いや、「まいったなぁ」じゃねえよ!

 それ彼女と一緒に居たとこを見られたときのリアクションだから!

 桜を散らかしてカエル投げていた奴が、やっていい反応じゃねぇよ。


 やっぱり、こいつやばい奴かもしれん。

 目を見てみる。(瞳孔は開いていない)

 指を見てみる。(ちゃんと10本ある)

 首を見てみる。(注射跡はない)


 ギリギリセーフか。

 よし、もう少し踏み込んでみよう。


「なんであんな事をやってたんだ?」


「ふーむ。話せば長くなるんだが・・・ざっくり言うと、俺は人間の心の機微ってやつを観察するのが好きでな」


「ほう!」


 分かるぞ!

 人の心の動きこそが、純文学の源だからな。

 そこに目をつけるとはお目が高い。

 ピンク髪と俺、割と気が合うかもしれん。


「その観察をするために、俺は状況をセッティングしていたに過ぎないのさ」


「なるほど」


 面白くなってきた。

 こいつは逸材かもしれない。


「新入生の皆さん、席についてください!オリエンテーションをはじめます」


 と、俺がピンク髪の男に感心していると、黒板の前に来た事務員がそんなアナウンスをしてきた。

 どうやら、オリエンテーションが始まってしまうようだ。

 今いいとこだったのに。


「お、始まっちまうみたいだな」


 事務員の存在に気がついたのか、ピンク髪は体を黒板に向けた。

 直近の言動だけを見ると、本当に真面目なやつだ。

 面白そうだし、会員候補だな。

 ということで、


「俺、神木純一って言うんだけど、そっちは?」


 まずは、自己紹介から始めてみることにした。




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