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バカマンモス大学 純文学研究会  作者: はるあき
入学編
2/10

つり橋(2)


「純文学日和だ!」


 抜けるような青空を見上げ、俺は大きな声でそう叫んだ。

 ここはバカマンモス大学北駅前。周りにはスーツ姿の新入生たちが、新生活に心を踊らせているのかキラキラとした目つきで、大学へと続く一本道を歩いている。

 道の両脇には満開の桜が咲いており、桜吹雪が舞い散っている。青空と桜吹雪とスーツ、三色のコントラストを見ると、劇的な瞬間が訪れている気がして、心が沸き立ってくる。


「三味線日和だ!」

「ボルダリング日和!」

「ジャグリング!」

「ラクロス!」

「ヘラクロス!」


 俺の声に釣られたのか、新入生達が思い思いの言葉を叫び始めた。

 流石はバカマンモス大学。噂に違わぬバカっぷりだ。

 ジャグリングと叫んだ奴は何故か黒ふんどし一枚の格好だし、ヘラクロスと叫んだ男なんて、髪の色がピンクだ。アニメなんかではよく見るけど、生でピンクの髪なんて見たの初めてだよ。

 しかも、そんな俺達を他の新入生は笑いながら見ている。ドン引きしているような奴は数人しか居ない。

 このノリの良さ。

 良いね。いい大学だ。


「いきなり何叫んでるの?」


 俺がこの大学のノリの良さに感心していると、横から冷静なツッコミが聞こえてきた。

 ぱっちりとした目をこちらに向け、金色のショートボブヘアーを風で揺らしている。唇にはピンクのルージュがキラキラと輝いていて、近くで見るとまるで西洋人形。

 俺の唯一の親友、西園寺明日香だ。

 この場でドン引きしている数人の中の1人である。


「いや、ついに俺の純文学ライフが始まるかと思うと、テンションが高まってな」


 高校までは、ひたすら1人で本を読んでいるだけだったからな。

 楽しくはあったが、そろそろ感想を言い合いたいお年頃である。ここでなら間違いなく同志に会えるはず。俺は新入生のノリの良さを見てそう確信した。


「愉快な人達は沢山いるみたいだけど、純文学が好きな人はいるのかな?」


「間違いなく居るだろ?あの無駄な情熱のほとばしり。あいつらこそが純文学だよ」


「私、未だに純一の言う純文学が、何を指すのか分からないんだよね〜」


 小さなため息を吐きながら半開きの目でこっちを見つめて、そんな疑問を投げかけてきた明日香。(ちなみに、純一ってのは俺の名前だ)


 良いだろう。

 俺が純文学とはなんたるかを教えてやる!


「純文学ってのは、人間の感情や行動・言動を通じて人の内面に踏み込んだ作品のことなんだよ。だから、あいつらみたいに無駄にエネルギッシュで感情むき出しの人間ってのは、純文学の主人公になれる素質を持っていると言える」


 俺はさっきの髪ピンク男(今は桜の木に登って枝を揺さぶり、強制的に桜を散らそうとしている)を指さして、明日香の質問に答えた。


「あれが主人公の物語ってどんなのよ?只のバカに見えるんだけど」


「分からん。だが、ひょっとしたら深い考えがあってやってるのかもしれんだろ?」


「深い考えがあるとしたら、もう怖くなってくるよ。バカだと思ってるからまだ見てられるのに」


「いや、そんなことないぞ。あれが純文学だ」


 と、そんな会話をしながら髪がピンクの男を見守っていると、今度は下にいる新入生に向かって何かを投げ始めた。

 下に居た新入生の女子達は、悲鳴をあげながら逃げている。


 だが、そんな女子達とは対照的に、男は平然としている。

 投げられた物を拾うやつも居るくらいだ。


「ゲコッ」


 正面で繰り広げられているカオスな光景を見守っていると、俺の足元からそんな鳴き声が聞こえてきた。

 見ると、小さめのカエルがつぶらな瞳でこちらを見つめていた。


「なるほどな」


 どうやら髪ピンク男はカエルを投げつけていたようだ。


「どう?流石に怖くなってきたんじゃない?」


 明日香はニヤニヤとしながら、からかうよう様子でそんな事を聞いてきた。


「いや、そんな事は無い。ああいう訳の分からない行動こそが純文学なんだよ」


 俺は不安な気持ちをかき消すかのように、いつもより気持ち大きめの声でそう答えた。


 するとその時、俺たちの目の前でピンク髪の男が桜の木から飛び降り、ダッシュで女子達を追いかけ始めた。

 特に一組のカップルが標的にされているようで、執拗に追いかけられながらカエルを投げつけられている。


「本当に怖くなってない?」


 明日香が、再び俺に同じ質問を投げかけてきた。


「そんなことないですょ・・」


 俺はとっさに否定したが、その声は蚊が鳴いたように小さいものだった。




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