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海と陸との繋がり(2)

「海坊頭のうみちゃんね……人間の子供に仲間が殺されたの。

その子、まだ巨大化することできなかったんだって。

食べるわけでもないのに、気味悪がられて殺されたのよ。」


「……だったら尚更じゃないっ。

貴方がそうやって人間を襲ってたら、気味悪がられるわ!

怖がられるわ!!

そしたら、誰かが貴方を殺しに来てしまう…。」


クリスの言葉は、聖にもよくわかった。

だけど、クリスがしていることは自滅に近い。

そう思ってしまうと焦りと、クリスがいなくなるのではないか。

という不安が聖に襲ってきた。

聖は両の手で顔を多い隠す。

カタカタと肩を震わせながらなんとか耐えるような形で。


「聖ちゃん。人間はね、繋がりを壊すの。

自然との繋がりも、他の生き物との繋がりも。

全部、全部。壊してるんだよ。私も、もうここにしか居られない。」


クリスは聖に言われたことにまったく触れようとはしなかった。

まるで、わかっているのだと。そういった感じで。

けれど、淡々とした口調は聖に何も読み取らせてはくれなかった。

聖はサングラスを外して涙を拭い、黒い細い瞳がクリスを捕える。


「どういうこと?」


聖はクリスがこの世界の住人でないことを知っていた。

だからこそ最後の言葉が気になったのだ。

ただ、海の中の別世界の住人と聞いたことがあるだけで、

聖は本当のところ彼女がどこに住んでいるのかは知らない。

毎日この浜辺にいるわけではないことからして、

少なくとも何処かに家はあるだろう。


「聖ちゃんには、まだ教えてなかったね。」


やっとクリスは笑んだ。その笑顔は無邪気で楽しそうだ。

それにつられて聖も笑む。


「海が私の世界と聖ちゃんの世界を結んでるの。」


「海が?」


二人とも、さっきまでの緊迫した雰囲気はどこへやら。

今では楽しいおしゃべりになっている。

それは、クリスが自分の秘密を聖に話すという親しみ感から来るものなのか。

それとも笑顔の効力か。どちらにしても和やかな雰囲気である。


「海って鏡みたく風景を映し出すでしょ?

あれがね、本当は別世界に通じてるの。

よくよく見れば違うところに気付くはずよ。」


「うっそー。まったく信じられないわ。」


クリスの言葉に驚きながらも批判の声を上げる聖。

今までに聞いたこともない事を容易く信じることは難しいようだ。

聖はとめどなく流れる汗を拭いながら上着を脱いだ。

じりじりとする暑さに耐えられなかったのだ。


「嘘じゃないよ。

ただ、繋がる場所は狭いし、繋がってる時間も短いことが多いから見つかり難いのっ。

蜃気楼って知ってる?」


「馬鹿にしないでよ。そのくらい知ってるわ。

温度さがあまりに違ったりすると、光の屈折でその場にないものが見えるのよ。」


「陸のはそうかもね。

だけど海のそういった現象は少なからず違う理由もあるのよ。」


自信満々に答える聖の鼻頭を折るように、クリスは人指し指を振って否定する。

聖は、口をへの字にし何よっ。という顔でクリスを見た。

それに促されたのか、クリスは言葉をつむぐ。


「あれは私の世界の船よ。

一瞬繋がったその場所に、私の世界の船があったの。

あ、信じてないね?」


眉をぴくぴくと動かし、口を引きつらせてる聖を見て、クリスは頬を膨らませた。


「消えちゃう船とかあるでしょ?

あれだって私の世界に迷い込んだりしてるんだからっ。」


さらに続けるクリスに、聖は呆れたように溜め息をついた。


「いいわ、百歩譲ってそれを信じてあげる。

それで?なんで貴方は此処にしかいられないの?」


クリスを急かすように聖は問うた。

その言葉は一瞬で場を氷つかせた。緊張が走る。

重々しくクリスは口を開いた。


「私の世界とこことの繋がりが絶たれようとしているの。」


「……。」


「っ……海が汚れたから!海を人間が汚したからよっ!!

海は汚れて光を失った。

海は、何も映さなくなったのよっ!」


セキを切ったようにクリスは叫ぶ。

大きな瞳からボロボロと涙が溢れ落ちた。

聖はただ黙ったままクリスを凝視している。

聖は、胸が締め付けられた。

胃がぐるぐると回って、見ているのに何も認知できないでいる。

ただ彼女の頭の中は真っ白になったのだった。


「ねぇ、クリス。それならなんで貴方は此処にいるの?

帰れなくなる前になんで帰らないの?」


頭は何も考えられないのに、疑問が口をついた。

聖は自分でも戸惑ったように眉を潜める。

クリスは涙を溜めた目で聖を睨みあげる。

それに聖は圧倒され、口をつぐみ生唾を飲んだ。


「このまま帰るなんてできないよっ。

人間に復讐してやるんだっ。

海との繋がりを壊した奴らを、私は許せない!」


そう強くクリスは訴えた。人間である聖に向かって。

けれど、聖は自分に何ができるのかわからなかった。

ただ、人間はたかが一人何かを訴えても、何かを変えることは難しい。

そう聖は大人になって確信していた。

約束なんてできない。

きっと海を綺麗にするなんて。


「クリス……ごめんなさい。

私には貴方に止めてと言うことしかできない。お願いだから……。」


考え直して。と小さく続け、聖はクリスに背を向けた。肩が小刻に震える。


「明日……また来るからっ。」


聖はクリスが声を発する前に、それだけ言って駆けて行った。

聖が走りさった後には、涙で濡れた少しの砂と、

寂しげに見送るエメラルドグリーンの瞳があった。


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