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海と陸との繋がり(1)

じりじりと照りつく日差し。

それはひどく白い肌に突き刺さる。

生暖かい潮風が髪を撫ぜた。

ベッタリとする感覚。鬱陶しそうに女は長い黒髪を払い除ける。

湿気が高いのか、額から汗がにじみ出ていた。


「まったく、何なのよいったい。」


女は白いスカーフを首に巻き、サングラスを光らせて不機嫌に言葉を吐いた。

砂浜の向こうに海を見、コンクリートの上で仁王立ちをしている彼女の服装は、

海に似合わないきっちりとした白いスーツである。

道行く人が怪しすぎる彼女を見るが、

当の本人はまったく気にせずにぶちぶちと文句を垂れている。

彼女の名前は(ひじり)。顔は美人で街を歩けば誰もが振り返る。

しかし、性格は高飛車でプライドが高く、自己中心的。

典型的な美人な性格ブスと周りから言われていた。


「あの子達がそんなことするわけないじゃないっ。」


しかし、田舎に帰って来た彼女はそうでもないらしい。

見知った名の噂話を聞いて、わざわざ嫌いな海にまでやって来たのだから。

まだ不機嫌に愚痴りつつも、彼女は砂浜に降り、海へと勢いよく歩いている。

その度に高いヒールは砂に埋まった。


「だいたい、皆臆病すぎるのよ!」


噂を思い返す度に聖は眉を潜め、苛立っていた。

それが足の速さを更に速めている。

海につくなり、聖は固まった。

目に入って来た光景にさっきの怒りも忘れ某立ちになっている。


「あ、ひじりちゃんだ!」


聖よりも高い声が彼女の名を呼ぶ。

海に下半身を埋め、赤い水着で胸を隠す少女は、彼女ににっこりと微笑みかけた。

手には大きなビーチボールを抱えているから、遊んでいたのだろう。


「どうしたの?」


まったく反応を返さない聖に、

金髪のふわふわとした髪を潮風になびかせながら少女は首を傾げた。

きょとんと自分を見る童顔をサングラス越しに見て、聖はわなわなと震えだした。

そして彼女に怒りをぶつける。


「どうしたの?じゃないわよ!このアホ半魚人!!」


「ひっどーい!私は半魚人じゃなくて人魚よ!!」


聖の言葉に直ぐ様反論をし、元から丸い頬をさらに膨らませ、

下半身でバシャリと水を巻きあげた。

ほんの少し、かい間見れた下半身は魚のような尾びれだった。

それに聖は驚いた様子も見せはしない。

それもそのはず、この人魚、名はクリスティーナ。

愛称はクリスといい、聖とは昔からの知り合いなのだ。


「人魚も半魚人も同じようなもんでしょ!」


水しぶきが上がった箇所を眉を潜めながら見る聖。

また、まだ怒りは収まらないらしく、声を張り上げている。


「何でよ!?私と半魚人様じゃ比べものにならないじゃない!」


クリスも負けじと怒鳴り返す。

彼女の言葉に、聖は額に皺をよせた。


「様ぁ〜?」


「そうよ。半魚人様は私達が遠く及ばないほどカッコイイの……

なんといっても私達の夢は半魚人様と結婚すること。きゃ、言っちゃった。」


「黙れウカレポンチ。あんたの趣味がイマイチ私にはわからないのよっ。」


うっとりと夢見る乙女になっていたクリスに、すかさず聖は突っ込みを入れた。

クリスはそれに不満らしく、尾ひれをばたつかせながら抗議の声をあげている。

聖は手をクリスに向けて、彼女を制した。


「クリス。今日は遊びに来たんじゃなくて、貴方に聞きたいことがあって来たの。

おふざけは辞めにしてくれるかしら?」


「ごめん……なに?」


いつになく真剣な聖に、クリスは少し浮かない表情になる。

彼女は口をへの字に曲げ、目だけで聖を見ていた。


「貴方、この海に来る人間を襲ってるって本当なの?」


嘘だと言って欲しい。本当のわけがない。

聖はそんな言葉をいつの間にか心の中で唱えていた。

ただ単なる噂であれば、それで全てが片付くのだと。そう信じて。


「本当よ。」


しかし、クリスの答えはその期待を裏切った。

聖は目を見開いてクリスを凝視する。

また、クリスは気まずそうに視線を斜め右下に落とし海を見つめている。

風が彼女達の髪をなびかせ、太陽の光がじりじりと彼女達を突き刺す。

青い空ではカモメが飛びながら鳴き交わしている。

聖にとって、過ぎ行く時間はとても長く、永く感じられた。


「……どうして?貴方、私を助けてくれたじゃない。

そんなことするような奴じゃっ……ないじゃない!!」


聖は信じたくなくて、自分に言い聞かせるように叫んだ。

クリスを見ることができずに下を向いて。

クリスと聖は幼い頃に出会った。

それは、聖が父親について海へ遊びにきた時のことだ。

お決まりのごとく、彼女は泳いでいる最中に波に浚われてしまったのだ。

そこで聖が見たのは父親ではなく、

透き通るようなエメラルドグリーンの瞳と、

水に濡れているにもかかわらずふわふわとした金色の髪、

エラのような海と同じあおい耳。

そして、自分に向けられた笑顔だった。

それが聖には今でも忘れられないクリスの印象で。

聖母のような柔和で優しい笑みが聖にとって彼女なのだ。

それとはまったく逆の彼女の答え。

それは聖にとって、とてもショックなことだった。

そう、憧れが打ち砕かれたような、そんな感じの。


「……聖ちゃん。聖ちゃんは海が怖いのよね?」


聖の問いに答えず、クリスは聖に聞いた。

その声からは何を考えているのか読み取ることができず、聖は眉を潜めた。


「そうよ……溺れてから怖いわ。苦手よ。

海の青が視界に入るたびに、

海のさざなみが耳に聞こえるたびに、

潮風の匂いがするたびに、

身がすくむ思いだわ。」


聖は息をゆっくりと吐きながら、正直に答えた。声は震えている。


「……私ね。人間が怖いの。

聖ちゃんが海を怖いように、私は人間が怖いの。」


クリスのその言葉に、聖は何を返していいのか戸惑った。

しかし、クリスもまた、聖同様に自分の気持を正直に述べている。

二人とも相手に嘘をつきたくないのだ。

聖が黙っていると、心の中で自問自答を繰り返していたクリスが首を横に振った。

聖はなんとも言えない表情でクリスを見守っている。


「ううん……正確には違う。私が怖いんじゃないの、私の友達が怖がってるの。」


クリスは顔を上げ、聖をじっと見つめた。

どうやら答えが完全に出たらしく、エメラルドグリーンの瞳に迷いは感じられない。


「……友達って?」


聖は見つめ返した。そして、クリスの次の言葉を促す。

クリスは聖から視線を外し、そっと海の中から手を出した。

白い小さな手に、ちょこんと申し訳程度に白いマリモが顔を出す。


「うみちゃん。」


その白い毛に覆われた小さなマリモを見て、聖は名を呼んだ。

うみちゃんと呼ばれたそれが、返事をするかのようにもそもそとクリスの手の上で動く。

聖が懐かしそうにうみちゃんを見て微笑むのを見て、クリス眉を潜め苦笑った。

そして、躊躇いながらも聖に話出す。



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