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Re:call~異世界転生  作者: 漣恋
1章〜始〜
9/12

9

 天地を揺らがす轟音。地面を豪快に剥がし、地形を変えていく。蒼く透き通っていた空は、不吉を思わせる黒い雲が多い尽くしている。


――これがクロエル様の力か・・・・。


 クロエルの省略詠唱を聞き、只ならぬ危機感を覚え即座に遠退いたエルフ達は神と言われる所以である魔法に圧倒されていた。


 天地を翻し、自然を味方に付けるその魔法はクロエルの命令一つでどんな自然災害をも引き起こせる。

 

 即座にバックステップを踏んだマコトは、致命傷を免れた物の、片目は砂で閉ざされ、片腕は運悪く飛んできた石に弾かれ筋を痛めている。相当な痛手を負ってしまった。まだ、利き手が残っているだけマシだと思うしかない。


 狭まれた視界から見えるのは、一直線に飛んでくるクロエル。両手には短剣が逆手に持たれている。剣を右手に持つと構える。


 横に逸れたクロエルを、その後視認することは出来ない。マコトは内心舌打ちをした。視界が狭まっているのを良いことに、死角からの攻撃。予測は出来るのに、追いつけないのは、クロエルの身体能力が上がった事を意味していた。


――・・不味い――ッ!!

 

 背中から流れ落ちる血液。痛みすら感じないその攻撃は、まるで遊ばれているかのように浅く、速く刻まれていく。

 赤いシミが滲んだ黒いシャツは、ボロボロになり体を露にする。


 背後に気配を感じ、即座に剣を薙ぎ払うもそこには誰もいない。空ぶった勢いのまま、身体を半回転させ上段回し蹴りを見舞う。


「――ちっ」

 僅かに開かれた瞳に写ったのは、踵が剣先で押さえられている光景。

 手ごたえは感じたが、どうやら防がれていた。

 足を戻し、間髪入れずに振るう剣。その間僅か一秒。しかし、それすらも予測していたかのようにギリギリで避けられる。


 ニタリと嗤うクロエルは、縮地で間合いをゼロにし両腕をマコトの腹に添える。


――嘘だろ・・?


風の悪戯(ミスチフ)

 ゼロ距離から放たれた風魔法は、マコトの体をへこませ、数メートル先まで吹き飛ばす。

 上下感覚を失い、受身に失敗する。身体をバウンドさせながら、勢いを殺し、擦り傷を増やしていった。


「がはっ!!」

 口から零れ落ちる血液の塊、意識が朦朧としまともな考えが沸かない。

 それでも、容赦なく迫る足音。空ろな目は、既に色を失っている。


 まるで、死の宣告のようだ。死神に刈り取られる前の処刑人のように、死の恐怖に震える。


「・・・消え去れ人間・・・消滅(バニッシュ)だ」

 銀色の輝きを放つそれは、マコトの首を捉えている。得物を握るクロエルの手は震えていた。命を刈り取るのに躊躇っている。それは誰が見ても、一目瞭然だった。


 敵である人間を殺す事に、今までは何の感情も抱かなかった――いや、抱けなかった。

 感情を殺し、作業のようにただ死を与えるだけだった。でも、何故かその先――手を振り下ろす行為まで至らない。


 今までになかった『抵抗』。いや、これ程までクロエルと渡り合える人間はいなかった。それを可能とした少年に初めて会った愛おしいエルと重ねてしまったのかも知れない。


 だが、エルと重なる少年を前に躊躇っていしまう。容姿は違えど、似ている箇所が多々あるため、手を掛けられずにいた。


「・・・何で・・なんで、動かない、の」


 かたかたと震える腕をもう片方の腕で抑え付ける。それでも止まらない右腕。

 ガシャンと音を立てて腕からすべり落ちる短剣を横に、少女は涙をしてた。




 幾千もの前に起きた大規模な戦争。意見の食い違いから起きた、エルフと人間の争いは互いのトップの首が刈り取られ、幕を引いた。

 その際死んだエルフ三万。かつて賑わっていた、エルフの森も今じゃ人口は激減し、沈黙の絶えない日々が続いている。


 それを起こした――戦争を始めた人間が憎い。殺したい程憎い。だから、森に踏み入れた人間を無差別に殺しては、感情を満たしていた。

 きっとそれは間違っていたのだろう。いや――気付いていた。ただの八つ当たりに過ぎないと。だが、どうしとも許す事の出来なかったクロエルは、事実を殺し、記憶を虚偽で埋め尽くした。


 罪なき人間を数え切れないほど、手に掛けたクロエルの心は染まりきった黒。もう止められない。涙を細い腕で乱暴に拭うと、地面に落ちた短剣を握り締める。


――ごめんね・・。


 短剣を両手に持ち、心臓に狙いを定める。これで終わり、今まで通りと。


 マコトに迫り来る刃物。頭は擦り切れ、肺は恐らく潰れている。そんな中、野生的本能だろうか。マコトの本質か、動くはずも無い右腕で短剣を受け止めた。


「――なッ!?」

 驚くのも無理は無い。瀕死に近い人間が、動けるなどとは思っても居なかっただろう。マコトの瞳には、光が戻っていた。クロエルを睨みつけるその瞳には未だ戦意が残っている。


「――お、かえし・・・だ」

 最後の気力を振り絞り、筋の切れた左手をゆっくりとした動作でクロエルの腹に添える。回転と同時に押し出す。発勁を利用した突き飛ばしは、常人に出来る技ではない。それこそ、武の道を極めた者ならば可能とするが、それを即座に可能とするマコトの神経は他人とは違うのかも知れない。


 全体重を乗っけて放たれる平手は、押し出すようにクロエルの身体をへこませる。瞬間的に揺らいだ心臓は、一時的な痙攣状態を起こし、失神させた。


「うぐ――ッ!!」

 直後、数秒麻痺していた痛覚が戻り激痛がマコトを襲う。全身を内部から連続して殴られる感覚。思考を切り替えようにも、伴う痛みが邪魔してくる。


 頭部から滴る血液の量は、食らった時よりも遥かに出血していた。


――傷口が開いたか・・。


 このまま進んでいけば出血多量による死亡。或いは、貧血で済むか。どちらにせよ、マコトにとって危機である事には違いない。


 そんな事を考えていたからか、若しくは既に器官が正常に働いていないのか。背後から話しかけてきているレイラに気付かないでいた。


「・・・あんた、大丈夫?」

 背後から掛けられる声。まるで戸惑うような感情は、恐らくクロエルと戦闘していたからだろう。


「ッ・・これで、大丈夫だと思うのなら病院行って来い・・」

 

 余裕を装い口端を吊り上げてみたものの、正直限界まで近い。今にも倒れそうな身体を自身の気力だけで保っている状態だ。


「あいつは誰なんだ・・・?」

「ユグ――クロエル様。世界樹の頂上に住まうエルフの神様だよ」


 不審な人物と認識して、敵対してきたか――或いはもっと別の理由があったのかマコトには分からない。


「ちっときついなぁ・・これ」

 皮肉気味に放った言葉は、頬から滴り落ちる血液を指差していた。

 

 徐所に失われていく光。重たい瞼は吊り上げようにも唐突な眠気で邪魔をされる。

 これが死か。と思わせるほどの状態。生憎と、走馬灯と言うものを見れなかったがそれもどうでも良い。


 糸の切れた人形のように倒れこむマコトは、深い暗闇の中に落ちていった。


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