表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re:call~異世界転生  作者: 漣恋
1章〜始〜
8/12

8


 数えるのも憂鬱なくらい長い日々、私は眠り続けた。彼が植えた、世界樹の頂上には、私の部屋がある。


 部屋と言っても、それ程大層なものではなく、簡素な作りのベッドがある。それだけの部屋。それでも私は気に入っていた。今は亡き、大好きな彼が生前作ってくれた大切な居場所だから・・・。


 彼は私に、呪いとも言える魔法を掛けた。彼の固有魔法(オリジナル)悠久の眠り(スリープフォレバー)』。

 対象を永遠とも言える長い時、眠りに付かす魔法だ。だが、彼は魔力を持たぬ故、不完全な形で魔法は発動してしまった。


 意識のある眠り。それは過酷な日々の始まりだった。初めの一年は酷く怯え、自分だけが取り残された闇の世界であるはずも無い光を追い求め、彷徨っていた。

 動く事も許されない苦痛の日々、何時しか私は眠り姫なんて呼ばれて崇められていた。


 毎晩の様に、供え物と共に送られる祈りと懺悔。うんざりとしながらも、大切な情報源に耳を傾ける事しか出来なかった。


 そして、今日もまた訪れる人――いや、今回はどうやら訳が違うらしい。

「千年以上前から何事も無かった結界が破られましたか・・・」

 とても切なそうな、それでいて悔しがる声色で呟く女性。確か、エルフの四代長の一人、レイラだ。

 四代長と言う訳の分からない集いに、私が入ってるのは最年長であるが故なのかも知れない。


 エルフの結界は、先代の長老が魔力を絞って作り上げた傑作。それを破った人物と言うものが気になって仕方なかった。


「では、魔力を持たない何者かが、同時に侵入したと?」

 威圧感のあるその声に、私は反応した。いや、その言葉に反応したと言って方が正しい。


(・・・魔力を持たない人間)

 彼女が知っている人物の中で、そのような人間は一人しか居なかった。でも、それは可笑しい。何せ、彼は随分と昔に死んでいるのだから。


(エルが生きているって事・・・?)

 有り得ないと分かっていながらも否定できない。否定したくないのかも知れない。もしかしたら、生きているかも何て、幻想を抱いてしまう。


(――ッ!!こんな、こんな時でも目覚めないのッ――!?)

 必死に身体を動かそうにも、ビクともしない。全身が鎖で縛られているような感覚が胸を締め付ける。


(・・お願い――ッ!!)

 動かなかった口が、パクパクと動き出す。喜びを表現しようにも、目も筋肉も動かない。辛うじて動く口も、渇いた喉からは言葉と言う言語は発する事は出来無い。


「――ぁ・・」

 喉元まで出掛かった声は、酷く掠れ、弱々しい。それでも諦めない。諦めたくない。森に迷い込んだ彼が、何者――エルかどうか、確認するまでは・・・諦めない。


 そして、最後の力を振り絞り、エルから受け継いだその場凌ぎの魔法を使った。

「――拘束解除(レリース)ッ!!」


 悠久の眠り(スリープフォレバー)の魔法解除として、エルが残した魔法。彼が去り行く時、この魔法名を溢していなければ、成功しなかった。

 それと同時に発した言葉「クロエル・・・この世界は君にとって毒だ」と言う言葉。それが、何を意味しているのか、真実を知りたい。


 魔法の発動を確認し、重たい瞼をゆっくりと開ける。何千年振りの景色だろうか。眠りに付いた当時の世界樹は、自分の背丈程しかなかった。今となっては、天高く伸びている。

 

 雲までもを貫通する世界樹から、真っ逆さまに降下する。久しぶりに動かした身体は、思うようにいかないが、魔力操作は楽にこなせた。

「風よ、我が身に纏え」


 我流の詠唱。人間世界では、上級魔法と称されているそれは、風を自在に動かすと言うもの。効果時間は、魔力が尽きるまでだ。


 瞬く間に近付いてくる地に片手を添えると、涼しい風が、上昇しクッション代わりとなる。難なく地上に降りたクロエルは、魔力探知を行う。

 クロエルの持つ魔力は膨大で、枯渇を知らない。森の構造から人の影、そして位置までもを正確に脳裏に浮かばせる。


「――見つけた」

 嬉しそうでいて少し悲しいような声色は、彼女の心情を表していた。もしも、違っていたら。エルでなかったらと。


超加速アクセレレーション・ブースト。――今会いに行くからね、エル・・・」


 思いを風に乗せ、足を動かす。クロエルが通る道は、荒らしの後の様に悲惨で、誰もが首を傾げる状態を引き起こしていた。


 彼女もまた、焦っているのだろう。長年待っていた少年がまた、何処かに言ってしまうのではないかと。



ーーーー


 ピクリと痙攣を起こしたような反応を表すレイラ。悪寒を感じながら、魔力感知を使うと黒い靄がこちらに向かってくる映像が脳に流れた。

 魔力感知には、周囲の魔力量を知る事が出来る。低い順に、青、緑、赤、白、黒となっている。

 そして、最大量の魔力を表す黒い塊。それが、途轍もないスピードでこちらに向かってきているのだから、冷や汗をかくのは当然だった。


「なッーーなに、よ・・・これ」

 初めて見た色に戸惑うレイラ。魔法に関しては無知なマコトは、分からないと言った感じで首をかしげたが、ほか二人は「有り得ない」と思わず溢す程のものだった。

 千年を優に超える日々を生きたエルフですら、過去に見たことの無い魔力量。徐々に近付いてくるそれは、止まる事を知らず、更に加速を増した。


 ある種の本能。即座に感じ取った危機感が、逃げろと脳を騒がせる。対象から目を離さず、後ろに大きく飛び退く。他三人も、合わせて飛んだ。――刹那、暴風が吹き荒れる。


「――ッ!!」

辺りの草花を掘り起こし、宙に浮かせる。木々はなぎ倒され、破壊の限りを尽くしていた。

 その中心に佇む人物は、レイラ達エルフが良く知る人物――クロエルだった。


 クロエルを視認したエルフ達は、即座に頭を垂れ、膝を突く。エルフにとっては神同然の人物。幼き頃から聞かされているクロエルの事を考えれば当然の行動だった。


 一方、何も知らないマコトは、困惑していた。いや、彼らの行動を見れば、目の前の少女がどんな人物か何て、粗方想像出来る。だが、人間である自分も同じくしたほうが良いのかと、少し迷っていた。


 クロエルは、艶のある金髪を風に靡かせマコトを直視していた。僅かな可能性であった、侵入者がエルであること。それが今否定されたのは、言うまでもないだろう。


「貴方・・・名前は?」

 とても弱々しく、それでいて心地よさを感じさせるその声は掠れているようで、耳を近付けなければ、聞き逃してしまうほどの声音だ。


「――っと・・北原マコトだ」

 一拍置いて、口を開いた。正直言えば、見惚れていたのかも知れない。まるで作り物の人形のように、整った顔。エメラルドの様な輝きを放つ大きな瞳。露出度の高い白いワンピースは、太ももの付け根辺りまでしかなく、完全に隠れていない下着が風で煽られる度見えてしまう。


 必死に見ないように、目を逸らすがどうしても目線が下部に行ってしまう。


「――どこを見ている・・・」

 女性は視線に鋭いと言う噂は本当だったらしい。クロエルは、身体を隠すように両手で抱き、ジト目を向ける。マコトは「気にしないでくれ」と、指摘しない方向に持っていった。


「失礼ながら、ユグドラル様」

 まるで神の前に平伏す人間のように、地面すれすれまで頭を下げたバオンが口を開いた。


「私はクロエル・・・ユグドラルじゃない」

「し、失礼しました。クロエル様はお目覚めになられたのですか?」


 恐る恐ると言った感じで言葉を発するバオン。額には、じんわりと汗が流れているのが見える。

 マコトからして見れば、クロエルがどれほど凄い人物なのか、分からない為、エルフの対応が今一理解出来なかった。


「あぁ・・・結界を破った人物がいると聞いて、来て見たんだけど・・・。やっぱりエルじゃないんだね・・・」

 冷たさを思わせるその瞳を細め、嫌悪を露にする。だが、エルと似ている箇所が多々ある為、どうにも粗相に出来ない。黒髪に無魔力。一致する人物は、この世界の中でもマコトとエルだけだろう。それ程珍しいのだ。


――・・・エルだったら。・・・エルに話した事沢山あったのに。


 可愛らしく頭を振り、思考をクリアする。エルでなのであれば、どんな理由であれ結界を破り侵入した罪は重い。特に、嫌う人族であれば死で償われるべき物。


「・・風よ、薙ぎ払え」

 小さく呟かれた省略詠唱は、片手を振り払う動作と共に、辺り一面を真っ二つにする。マコトの頬には細い切れ後が残り、薄っすらと血が滲み出る。


――これが魔法か。


 説明を受けても尚原理が分からない現象は、理解に苦しむ。そして、相手の意図が分かってしまったマコトは、苦笑いを浮かべた。


――準備運動ですか・・・。


 対するマコトはバオンから剣を奪い、構える。鞘を適当に投げ、腕を顔横に構える。刀を扱う時によくある構えで、突きを出しやすい体制だ。

 

 マコトの構えを見ると、鼻で笑い、両腕に短剣を造りだす。

 それがクロエルから出された時、僅かながら風が横切った。あの短剣にも何かしらの仕掛けがあると見て間違えないだろう。


 剣の柄を上の部分に持ち替え、歩行術縮地で間合いを詰める。初手から全力の攻撃。水菜流剣術『宵影(ヨイカゲ)』。

 暗闇の中に紛れる影の様に、動く技。

 水菜流剣術の三段階の内一段目の技だ。繋ぎを得意とする水菜流は、どの技からでも合わせられる。


 足音すら聞こえないその歩調で、相手の呼吸音に合わせ、死角である背後を取る。首筋に掛けて振るわれる剣は、クロエルの短剣にて弾かれ、即座に距離を取る。


 直後、マコトの居た場所に竜巻が引き起こされる。行為的に引き起こされた自然現象は、クロエルの鳴らした指で何事も無かったかのように消えた。


「参考ついでに、何で分かったのかって聞いて良いか?」

「・・・僅かだけど、風を感じた。私にその手の技は通じない」

「へぇ」


 風を感じると言うのは良く分からなかったが、一種の気配を感じると言う行為と似た物だろう。それにしても――クロエルの短剣を見ると、まるで意思を持った生き物のように浮遊している。


(自動追尾って感じか?・・・何でもありだな魔法ってのは)

 

 迫り来る短剣を受け流し、徐所に間合いを詰めていく。歩いている合間にも、短剣は縦横無尽に飛び回りマコトを着々と死に追い込んでいた。


宵影(ヨイカゲ)

 対人戦においては、言葉一つとっても戦略として繋がる。敢えて言葉にだしたのも警戒させるための策。

 見事術中に嵌まったクロエルは、短剣を逆手に持ち替える。

 宵影の移動術に嵌った人間は、術者を見ることは出来ない。と言うのも、呼吸に合わせて移動しているマコトは、クロエルが視認することは叶わない。第三者からみれば、普通に歩いて見える光景も、クロエルからみたら、一瞬で移動したようにみえるのだ。

 死角を突いて、と言う点で考えれば縮地に似ている。


 僅かに感じた風を頼りに、再び背後を見る。だが・・。


「残念だ」

 酷く低音で、背中を凍えさせるような声は、真正面から聞こえた。

 即座に視線を戻したクロエルの眼前には伸びる剣。『伸刀(シントウ)』と言う抜刀術の応用。

 水菜流抜刀術にある伸刀は、得物の柄をわざと短く持ち、リーチを短く見せる事で錯覚させると言う物だ。初めに持ち替えたのはこの為。


 僅かに届かなかった剣も、柄を滑らせるように先端に持ち替える。誰もが取ったと思ったその時。


 クロエルは、小さな身体を反り返し、迫り来る剣を下から見上げた。

 光に反射し、キラキラと輝く金髪が宙を舞う。間一髪避けた剣。驚いた顔のマコトに向けて、口端を吊り上げると、得意魔法を使う。


天変地異(ディザースター)

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ