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Re:call~異世界転生  作者: 漣恋
1章〜始〜
7/12

 マコトがフィレオットと離れ、数分が経った頃だった。

「何で一人何だ・・・?」

 

 耳を地面に付けながら、疑問に思う。 

 一瞬の出来事ではあったが、あの場に居たのは三人のはずだ。だが、聞こえてくる足音は一つだけだ。先の様な歩行術でない事は明白。研ぎ澄まされた耳は少しの狂いもない。


 徐々に近付いてくる荒い足音に嫌気を覚え、苛立ちを感じるも、逆の立場だったら・・・と同情せずには居られなかった。


 この森の先住民である事は恐らく間違いない。後ろの二人の耳が異常に長かったのは、一瞬の出来事だった故の見間違いだと思いたい。

 未だ不審な人物であるマコトは、敵対心を抱かれても、文句は言えないだろうと理解していた。だが、幾らなんでも乱暴すぎるだろ?と相手に問いたいくらいの気持ちだ。


 特に敵対する必要も無い為、穏便に事を進めたいマコトだが、木を真っ二つに斬るほどの乱暴さから見るに、恐らくそれは叶わぬ夢なのかも知れない。

 

 そう考えている内に足音は後数歩先まで近付いていた。視界を埋め尽くす程の木々は、相手を視認出来る範囲を大きく狭めている。

 だから、正確な場所は音でしか聞く事が出来ないわけだ。

 

 相手の不意打ちを警戒し、腰を少し落とし構えを取る。埃一つすら見逃さない程の集中力を前に、フィレオットは現れた。

 

 マコトを見つけると、腰に下げた剣を素早く抜剣する。太陽に反射し、銀色輝くそれは素早く頭上から放たれる。


 マコトは、構えの姿勢から一歩も動かず、次の動きを待っていた。

――予想通りのカウンター。

 わざとらしい、一振りに耐え切れず弱々しく、速度を極限まで落とした拳をフィレオットの顔目掛けて放つ。

 

 来ると分かっていたが、予想以上のスピードだった。拳を避けるように屈み、その位置から剣を振り上げられる。咄嗟に横に顔を逸らし、回避するも黒髪がパラパラと宙を舞い散る。


 この時点でマコトは、相手の評価を上げた。ファッションで着飾っているものだとばかりに思っていたせいか、相手の実力を測り間違えた。


(太刀筋は良い。でも、足の向きと目の動きを読まれているって気付かないと素人同然だな)


 相手の戦意を成るべく削る為に、少し本気で打ち込む。足を少し横に逸らし、右腕を力ませる。すぅーと静かに息を吸い込み、吐くのと同時に腕を伸ばす。


 単純な右フック。フェイントなしに放たれた拳は、フィレオットの頬に食い込み、強制的に首を右にやる。吹き飛びはしなかった物の、フィレオットの脳は相当に揺らいだ。

 獣相手に放った蹴りの時と同様、脳震盪を生み出そうとしたが、フィレオットはその細められた目を限界まで見開くと、踏み止まる。


「――ッくぁ!!はぁはぁ――ッ!」

 脳震盪までいかなかった物の、脳に与えたダメージは相当なものだ。それこそ、立っていられるのが異常なくらいに。

 マコトは、対峙する相手に口を開きかけたが、それよりも先にフィレオットが未だ荒い呼吸を、立て口を開いた。


「お、お前何モンだよ――」

 ぎろりとマコトを睨む茶眼。目尻が潤っているのは苦痛に耐えているからだろう。

「北原マコトだ。出来れば手荒な事は勘弁なんだけど・・・」


 言い終える前に、目先を剣が横切る。最早止められない戦いだと、言いたげな態度に「最悪だ」と愚痴を漏らすと、再び頭部に向けて廻し蹴り――とは行かなかった。

 若干細身の大人びた女性は、気品のある顔を歪め今にも放たれそうな弓を構えマコトを冷ややかな目で睨んでいた。マコトの横には、喉前に突き出した剣を構える男前な男性。恐らくは、こいつの仲間か。と納得する。


(気配すら感じなかった・・・このおっさんが寸止めで良かった)


 三人相手だと分が悪いと判断し、両手を上にあげて降参のポーズを取る。

 弓を構えた銀髪の女性、レイラは構えを解いてはくれない物の安堵の表情を浮かべている。

 バオンは既に剣を鞘に収め、マコトを見定めるように全身隈なく見ている。


 先程交戦していたフィレオットはと言うと、荒れた呼吸を必死に抑え、未だ震える足を何とか地に付けている。


「貴方は何者なの?」

 何度目かの質問に嫌気を指したが、無碍にする事は出来ず、繰り返し同じ言葉を投げる。


「北原マコトだ。出来れば、手荒な事はしたくない。不審者である事は自分でもわかっているが、決して怪しい人物ではない。だから、殺気を収めてはくれないだろうか」


 殺気は、真横のバオンから放たれている物だった。並の人間ならば、失神しかねない程の威圧感。それは、正面から斬り付けられていると錯覚するほどのものだ。

 背筋がゾッとする感覚を覚えるも、それ以上に恐ろしい殺気を向けられた事があるマコトは、対して効果は無い。

 実戦において、喰らってしまったら恐らくは数秒動けないだろ。


 レイラが目寄せすると、それは直ぐに収まり風がマコトを横切る。


「マコト殿ですな、貴方は中々良い目をしている。幼い頃のフィレを見ているようだな」

 顎の髭をわさわさと触り、遠くを見つめ思いに更けるような表情を浮かべている。どうやら誤解?は解けたようで一先ずは安心だ。





 一時の和解を終え、自己紹介も済んだところ、事の成り行きでエルフの森にある『世界樹(ユグドラシル)』に向かうことになった。

 未だに警戒心を緩めてはくれていないが、自分に敵意が無い事を分かって貰えれば十分だろう。

 目を細め、様子を伺っていたレイラも、弓から手を引いている。

 時折、釘を刺すようにいつでも狙えると言いながらも、道中矢が刺さる事はなかった。 


 森の深部にある世界樹は、聞けば相当な長木らしい。幾千もの時を休む事無く伸び続ける木は、一人の青年が植えたと言っていた。

 余り興味の無い話だった為、軽く聞き流していたが『精霊魔法』と言う聞きなれない言葉を前に、興味が沸いた。


「その、魔法ってのは何なんだ?」

 その手の話題は、師である水菜の得意分野だった。その為、何度か魔法についての知識は取り入れていたのだが、詳しくは知らない為、説明を請う。


「う~ん、そうね。魔法って言うのは簡単に言っちゃうと、物質変換なの。魔力って言う、大気中に浮遊する物質を、例えば炎に変換する。その際、詠唱をする必要があるのだけれども、詠唱を行わず魔法を発生させる事を無詠唱何て言ったりするわね。まぁ、既に詠唱文がある魔法を無詠唱で発現させても、魔力効率が悪いし、余りお勧め出来ないのよね。んでも、『固有魔法(オリジナル)』の場合は、どっちにしても消費量は変わらないから、わざわざ詠唱する馬鹿はいないわ」


「ふむ・・」

 納得した、と言う顔で頷いてみた物の理解したのは断片のみだ。


 大気中に浮かぶ魔力と言うのは恐らく、酸素だとかの元素と同じと考えて良さそうだ。魔法と言うものを実際に使っている場面を見たことがない為、想像するに難しいが。何も無い所で、火を出せると聞いて「便利だな」としか、感想を抱けなかった。


「魔法ってひと括りに言っても、種類は多種多様。それこそ、生物が思考を持つ限り無限だって言えるの。大きく分けると『攻撃系』『防御系』『支援系』ね」

「肉体を――筋力を一時的に上げる魔法ってのはあるのか?」

「勿論あるわよ。支援系魔法の『身体強化』って言う魔法で自身を強化出来るのよ」


 中々面白いと、関心していると水を差すかのような嫌味が降り注ぐ。

「お前には多分使えねぇよ」


 先の戦闘で消耗していたフィレオットが、お返しとばかりに強気で言う。向けられたマコトは、気にする様子も無かった。「まじか!?」と驚いていた物の、マコトからしてみれば魔法とは便利と言うだけのもの。使えなかったからと言って他人に劣るとも微塵にも思っていないだろう。




 レイラ達からしてみれば、マコトが不審な人物であることには変わりなかった。こうして話してみても、違和感だらけだった。魔力が無いと言うのはイコール死だ。大気中に浮遊している魔力は、魔法を使う以外に、体内に取り入れる必要がある。人間は一定以上の魔力が体内に無いと、魔力枯渇と言う即死に繋がる症状が出て来る。


 直ぐに、魔力を取り入れれば症状は治まり、後遺症として暫くは頭痛が続く。その症状がマコトに出ていないと言う事が不思議でしょうがないのだ。

(本当に貴方は何者なの・・・?)


 底知れない不安感を抱きながらも、マコト達は世界樹にあるエルフの集落ルーカスに足を踏み入れた。


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