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Re:call~異世界転生  作者: 漣恋
1章〜始〜
4/12

4

 夜空に黄金の月が昇った頃、『影』は目覚めた。

 暗闇の中を彷徨う紅と蒼。同じ場所を行き来している『影』は何か大切な物を探している様に見える。


 岩を器用に下り、鼻を地面に付け匂いを辿る。暫くして行き着いた先には、地面に伏せている一つの人影。

 影――ケルベロスは、その無防備な姿に牙を立てる。


――今なら、殺せるのでは無いかと。


 未だに痛む脳を切り替え、その思考を捨てる。昼間のあの顔。自分と言う脅威がいるのにも関わらず、絶望の色すら感じられない強い瞳。

 例え腕がもげようが、脚が無くなろうとも命ある限り抗い続ける、そんな気配すら感じられた。

 

 そこでふと、獣は目の前の人物、マコトの腕を見て疑問を抱く。

 そこには昨日まで無かったはずの腕が、生えている。常人では考えられない回復速度。例え高位な魔法士だとしても、治癒魔法では痛みを紛らわすのが限界だ。

 ケルベロスは少年に、計り知れない恐怖を抱きながらも、決して敵には回したくないと力強く決心した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 何も無い無の世界。辺りは黒一面の空間。目を凝らして周囲を見るも、暗闇が永遠と続いている。

 その暗闇に、一際目立つ眩しい光。その光体は、人影が薄っすらと見える。


『――目を覚ましなさい』

 光から発せられるその涼しい声は、耳から聞こえてくる訳でなく、直接脳内に響いてるとそんな感じを思わせる。


『貴方は――をこ――ための――なのだから』

 ノイズの混じった音声のような、途切れ途切れの言葉は不安を抱かせる。

 これは夢の中だと言うのは明白だった。何しろ、マコトの身体が無い。何故視えて、何故聞こえるのか。その原理は分からないが実体が無いのは確かだ。


 だから、声を出す事も出来ない。その声、聞き逃した言葉さえも聞き返すことは出来ぬまま、マコトは目を覚ました。



「――ん・・・」

 蒼い太陽の日差しは、その色から出ている物だとは思えない程蒸し暑かった。

 目の前を彷徨う三つ頭の獣、初めは驚いたがマコトが目を覚ましているにも拘らず襲う気配は微塵も無い。


(何だ・・・?)


 底知れない不安を抱きながらも、身を起こすと四本足で地を蹴り木の葉に包まれた物を口で運ぶ。

 その大きな木の葉を足で丁寧に開くと、そこには赤や黄、青といった様々な色の実が姿を現した。

「ん・・と?」


 意図が通じているか分からないが、確認の意味を込めて聞き返す。すると、獣は赤い木の実を口の中に放り込むと頭を上に振る。

 奇怪な行動をする獣に苛立ちを覚えながらも「それで?」と続きを待つと、獣は数歩下がり腰を丸めた。


「食って良いのか?」


 空いた腹を軽く撫でるとゴロロと鳴る。食用なのか分からない木の実を一つ摘むと眼前に持っていく。


 見た目はトマトのような物。丸っこい実に天辺に生えた緑の草。


 躊躇いながらも、口に運び味わうようにかみ締めた。

『ぷちっ』と言う弾ける音と共に広がる甘い香り。味は林檎のように甘く、自然と頬が緩む。


「美味いな」


 素直な感想だった。この良く分からない実は、想像以上に空腹感を満たし、共に出る汁が自然と喉を潤す。


 赤い木の実をもう一つ摘み、思考する。


(実があるって事は、近くに木があるってことだよな・・・――最悪、木の水滴を取って凌げるが、川か何かありゃ良いけど)


 木から取れる水量は微々たるものだが、舌を湿らせていれば暫くは持つ。気をつけるべきは、熱中症等の病気のみだ。


「その木の実はどこから取って来たんだ?」


 恐らく、言葉は通じている。言葉の後に『ガウ』と鳴いているがマコトには、日本言葉以外分からない。その為、獣が誘導する形で後を付いて行くことになった。





 岩地を抜けて少し先に進んだ辺りの事、唐突に変わる空気に寒気を感じながらも歩みを止めないマコトと獣。明らかに、先程のほのぼのとした雰囲気とは違い、どこか殺気立ったようなそんな気配すら感じさせる先にあるのは大きな木。


 目寸法で数十メートル程の木々が、一帯を埋め尽くしていた。その森の恐らく中心部。他の、敷き詰められているかのように並ぶ木とは違い、人が通れる位の少し小さめの穴が開いていた。


 先住民がいる可能せいを視野に入れる。此処を住居にしている生物がいれば、マコトは完全なる侵入者。武器は持っていない為、身の潔白は証明できる物の、不審な人物には変わりない。警戒してはいるべきだろう。


 獣の後を追い、森に踏み入れた途端微弱な電流が走った様な痛みが襲ってきた。

「――ん?」


 先を歩く獣は、気にした様子も無く、淡々と奥を進む。道中、振り向く事はあったがどうやら、獣には感じていないのかも知れない。


(俺の勘違いか・・?)


 疑問を抱きながらも、歩くペースを落とさず一定の距離を保って獣に付いて行く。借りに獣が敵意を持っていないとしてもなんらかの状況で、敵に回った時、処置出来る範囲がこの距離だ。

 

『まさか、エルフの結界を生身で破るとはな』


 唐突に響いた声。それは、耳から聞こえているのではなく、脳内に直接話しかけているようなそんな感じがする。


「何だ」

 突然の声に驚いたものの、冷静さを演じ、静かな声でそう言った。


「こんにちは。マコト君」


 獣が立ち止まった数歩先。灼熱を思わせる真っ赤な髪の女性が姿を現した。

 髪は胸辺りまで伸びており、毛先にはウェーブが掛かっており、女性らしさを出しているロングヘアー。

 全体的に整っている美形。街に出れば間違えなくナンパされるであろう人物だ。


「なんで俺の名前知ってんだよ」

「なんでだろうね」


 にっこりと、悪戯っぽく笑う女性にドキッとしながらも、続ける。

「先住民の人か?それだったら、突然押しかけて申し訳ない。んだが、決して怪しい人物じゃないから安心して欲しい」


 可能性の一つであった先住民の存在。まさか、森で生活している人がいるとは思わなかったが予め用意していた台詞を言った。


「先住民じゃないけど・・まぁいいか。私の名前はエリス・フィナルト。――エリスでいいわよ」

「ん。分かったエリス。んで、先住民ではないエリスは此処で何を?」


 先住民でないのなら、この迷いそうな森に何のようだったのか。マコトと同じく、獣から逃げてきた訳ではない事は、腰に据えられた高そうな剣を見れば分かる。

(・・・それに、俺の名前が知られてるのも気になるな)


 知り合いならまだしも、全く知らない人物に名を知られていると言うのは少し気持ち悪いものだ。それに、髪の色も少し可笑しいし。


「そうね、敢えて言うなら少し遅いお出迎えかしら?」

「いや、全く意味分からないぞ」

「気が付いたら此処にいた。そんな感じじゃなかった?」

「――なんでそれを・・」


 当人であるマコトにしか分かるはずの無い、この現象。それを見事に言い当てたエリスは何者なのだろうか?積もる不安は、焦りを生み出し、冷静さを一瞬にして奪った。


「お出迎えって言ったでしょ?君をこの世界に呼んだのは、私だよ」

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