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Re:call~異世界転生  作者: 漣恋
1章〜始〜
2/12

浅い眠りの中――ポタポタと何かが頬に落ちる。頬を撫でてみれば、少々粘り気があり異臭を放つ液体だと分かった。

 今すぐにでも目を開けて、確認して見たいが瞼が重く持ち上がらない。


 現状を軽く理解した所、冷静に考えてみる。――俺は今何処で何をやっているんだ?と。

 学校から帰宅して、その後暇つぶしにパソコンを弄っていた所までは思い出せる。

 だが、その後が思い出せない。何か重大な事が合ったようなそんな気がしてならない。


 そんな困惑を打ち消すかのように、今度は連続して液体が顔を襲う。

 幸い、口には入らなかったが鼻の周りに落ちるたび、廃棄物の様なゴミの臭いが鼻を可笑しくする。


(雨・・・って事は無いよな)

 記憶を頼りに最後の場所は覚えているが、多分今はその場とは違う場所にいるはずだ。

 地面からは、乾いた砂の様なサラサラとした感触が伝わってくる。それは海の砂浜と似ている。

 だが、潮の匂いや波の音は聞こえない為違う。


 目が慣れたのか、を軽く擦るとゆっくりと視界を広げていく。若干ぼやけて、見えにくいが色と形の識別は出来る。


 ――どうやら俺は仰向けに寝ていたようだ。


 まず、それは理解出来た。

 頭上には空一面の蒼い太陽。意味分からん。

 そして、髪の上。マコトを見上げている三つの頭。更に分からない。


 一度深く目を瞑り、もう一度目を開く。


 視界の先には、こちらを覗き込む三つ頭の獣。狼に近しい顔をしているが、頭が三つありそれぞれの瞳が違う。

 左の子から順に両眼紅色。真ん中は左が蒼に右が紅色。そして最後の右の子は両眼蒼色。

 それぞれの首には、革で出来ている首輪。その革には、金属で出来た棘が付いており、触れただけでも怪我をしそうだ。

 首から下は一つの胴体で繋がって、尻尾は頭の数だけある。


 先の液体はこいつらの唾液かよ。と内心呆れ、その恐ろしい光景を背に目を瞑った。

 なるべく動かないように、ばれないように。


 何故だか分からないが、妙に冷静な気がする。現実味が欠けているのが一番の理由だろうか。

 ともあれ考える。

 ラノベやアニメと言った創作物で何度か見たことある三つ頭の獣。詳しくは分からないが、名前は確かケルベロスだった気がする。

 冥府の番人だとか聞いたことあるが、お役目をサボって散歩中なのだろうか。

 目の前の獣が脅威であり、敵であることは理解出来た。


 さて、どうするか。竹刀の一つでもあれば、この絶望的な状況を切り抜けられるかも知れないが、武器と言う武器を持っていない。

 このまま、助けを待つと言う手もあるが出来ればそれは最終手段として取っておくのが良いだろう。

 この獣がいつまでも、眺めているだけとも限らないし自分のほうが先に果てるかも知れない。


 取れる方法は考えられる限り一つに絞られた。それは、目の前の獣から意識を逸らし全速力で逃げる事だ。

 剣道を辞めてからも道場に通い、現代の日本では『虐待』と言われるであろう訓練は一日も欠かさずやっている為、他の人間より体力や筋力はあるはずだ。

 それでも、四速歩行の生物の速度に適うと自惚れる気は無いが、現状において最善の選択だろう。

 そうと決まれば、即行動。


 目を開くと真ん中の子が口を大きく開けて喰らい付く寸前だった。慌てて身を横に転がし、危機は免れたものの、目の前の絶望的な風景に動揺せずには居られなかった。


 俺を中心に軽く見ただけでも、数百の獣。幸いな事に、腰を丸め身体を休めている最中なのか、直ぐに襲ってくる気配は無かった。

 前方の岩陰には、動物の骨が散らばっている。地面が薄っすらと濡れていた為、そう遠くないうちに襲われてしまったのだろう。


 なるべく身体を低くし、相手の歩数に合わせて後ずさる。しかし、運が悪い事に丁度近くにいたもう一体のケルベロスの尻尾を踏んでしまった。

(――やべっ)

 ビクリと身体を痙攣させ、飛び上がるように起き上がる獣。それを流し目で見ると、咄嗟に地を蹴る。


 大きく横に飛んだ後、全速力で群から逃げる。極力足音を立てず、それでいて速く走るのには少々きつかった。

 後ろから迫り来る獣が、大きく飛びかかる寸前。脚がもつれた。振り返り様に腕をクロスさせ、顔と致命傷を守る。

 咄嗟の判断で、致命傷は免れた――とは一概には言えないかもしれない。クロスさせた手の腕の根元から噛み千切られ、血が吹き出る。


「あがっ――」

 不思議と痛みは感じられなかった。だが、腕から先のない部位を直視すると、その痛々しさから気分が悪くなり、胃液が込み上げて来る。

 喉まで出掛かったそれを、喉を鳴らし飲み込むと、決して振り返らずに全力で逃げた。




 何時間走り続けただろうか。先程までの砂漠は無くなり、辺り一面見上げるほどの高さまで在る岩地に辿りついた。

 近くの岩に背を預け、先程までの異常な光景と自身の無くなった腕を思い出た。

 ある程度、血は収まったものの力を入れる度、傷口が開いてくる。

 着ていた上着の袖を千切り、傷口を縛る。慣れない片手作業で思いのほか苦戦し、時間が掛かってしまった。


 恐怖が収まったせいか、痛みと空腹感が身体を襲った。心地よい風が、傷口を抜けると電撃が走ったかのような痛みが一気に来る。

「ぐっ――」

 歯を食いしばり、痛みを我慢するも力んでしまい、増す一方だ。


 適当な岩に腰を預けると、辺りを注意するように見る。特に変わった所は無く、目の前を阻むかのような高い岩、それ以外は何も無い。

 このまま真っ直ぐ進めば何処かに人でもいるのではないか、と思い目の前の絶壁を見るとやる気が失せた。


 短時間の内に色々とあったせいか、疲れがどっと出てきた。

 瞼を閉じれば、気分がいくらか和らぐ。その感性に浸りながら、マコトは仮眠を取った。

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