1日目
「……嫌いだ。」
ふと聞こえた誰かの一言。それは隣の席の君だった。
今週から教室掃除は私の班だ。皆は露骨に嫌そうな顔で掃除を始めた。私だって勿論、好きではない。その中でも君は特に嫌そうにしていた。私は思わず溜め息を漏らす。
「掃除当番、めんどくさいなぁ。」
ふと視線を感じ振り返ると、君がいた。
「今の溜め息、聞こえてた?」
「うん。」
君は気だるげに答えた。
「…本当に?」
「本当に。」
クスリと笑う君。顔に熱がこもるのを感じ、思わず目を逸らした。すると君は不思議そうにし、覗き込んできた。
「…ッ……!」
だんだんと近づく君の顔。目を閉じた私。しばらくして君が笑った。
「何?期待した?」
「……してないよ。」
すると君は口を開いた。
「俺さ、掃除嫌いなんだよね。」
「だってさ、面倒じゃん。早く部活に行きたいけど行けないし。」
私は目を逸らしたまま、黙って話を聞いていた。
「だからさ、俺は雨宮さんの気持ち分かるよ。…けど、なんで顔が赤いのかは分からないなぁ。」
意地悪な表情で君は笑った。
「……意地悪だね。」
「そうかな?」
「そうだよ。」
しばらくの間、お互いに笑い合った。
「雨宮さんはさ、掃除……嫌い?」
「…好きではないなぁ。」
「そっか。」
一瞬君の瞳が揺らいだように見えた。
気づけばもう掃除が終わり、ゴミ捨てじゃんけんが始まる時間。今日の当番は私でも君でもなかった。
「じゃ、またね、雨宮さん。」
君は笑いながら言った。
「う、うん。またね!」
君は荷物を持って体育館へと走りだした。
夜、私はベッドの上で君のことをずっと考えていた。
「…今日はよく笑ってたなぁ。あんなによく笑うような人だっけ?」
彼はあまり笑わない。いつも気だるげ。故に、私の学年では有名で、『無気力ボーイ』と呼ばれている。それだけではない。何故なら彼の性格、容姿ともに良く、学校一の人気者なんだ。それに対して私は、漫画で例えるならクラスメイトAといったところだろう。そんな君が私に話しかけるなんて………