序章
自分のことが好きな人は、この世にどれだけいるのだろうか。
自分のことが嫌いな人と、どちらが多いだろうか。
もちろん、私は後者だけれど。
佐伯陽、16歳。好きなことは読書、嫌いなことは運動。根っからのインドア派。自分のことが好きになれない、どこにでもいる高校生。
これからも静かに高校生活を送ろうと思って新学期を迎えたのに、委員会決めで予想外のことが起こった。
「じゃあ図書委員、あと一人決めろよー。」
もう一人は私。
中学の時から図書委員をやっている。本が好きで、本が所狭しと並ぶ図書室が好きで、古い本の匂いが好きだから。
「おーい、だれもいないのかぁ?」
新しく担任になった先生は、頭を掻きながら面倒そうにして黒板に背を預けた。
教室はざわざわと騒がしく、昼休みのようだった。
「誰もでないなら、先生が指名するからな。」
先生は指を一人一人に向けながら、誰にしようかなー、とニコニコしている。
こいつ楽しんでるな。
「よーし決めた。そこの関係なさそうに漫画読んでる、藤澤海くん。」
指名された彼は、弾かれたように顔を上げた。
そして私も、驚いて先生を見る。
まじで?
「…俺すか?」
「ああ、お前だ。」
藤澤海は、結構目立つ奴だ。
私とは違って、クラスカースト上位。イケメンとかそういう感じじゃないけど、明るくて面白いから人が勝手に集まる。そんな奴。
「えぇー、俺本とか読まないっすよ。」
「図書室には漫画もあるぞ、それに関係なさそうにしてたお前が悪い。拒否権なしだ。」
藤澤の図書委員が決定したところで、教室の色んな所からからかう言葉が飛ぶ。
「よかったじゃん、海!」
「これを期に少しは、勉強したらどうだ!?」
「うるせぇよ、お前ら!」
明るく笑い飛ばす、藤澤はそれほど嫌がってるようには見えなかった。
対して私は明るくはなれなかった。ああいう人はどうも苦手で、一緒に仕事するとか嫌でしょうがなかった。
「ところで、あと一人だれなの?」
「佐伯さんだろ」
「佐伯?」
藤澤がこちらを振り向いた。
大きな目がこちらを捉えて、私は少し身を引いた。
「よ、よろしく。」
藤澤はにっと笑った。
「よろしくな、佐伯」
底抜けの明るさに、気圧されながらどうにか笑顔を作った。