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ハコ0(ハコマル)  作者: archi
2/2

Ready?

「で、俺に白羽の矢が立ったわけか」



隣で腕組をしている叔父は文句の一つでも言いたげな顔で俺に話しかけた。



「まあ、そうなんだけど・・・」


「そうなんだけどじゃねえ。条件を見たが酷いぞこれは」



怒りたい理由もわかる。


こんな条件書を見たら当事者は一言二言言いたくなるはずだ。


最初は黙ってようかとも思った内容だが、後で噴火されるよりはいいだろうと思ったから今言った。



「条件一、話題性を持ちつつ勝ちを狙うために監督は実績のある元ドライバーにすること」


「それは、叔父さんなら余裕でクリアしてるじゃん。なんせあの『日本一速い男』としのぎを削っていたんだし」


「いつも引き合いに出されていい迷惑だがな」



叔父さんの顔が少し柔らかくなる。

やっぱり昔の栄光は気持ちいものなんだろう。



「それに、叔父さんなら・・・どんなレースでも勝てると思ったんだよ。だから・・・」


「俺が走ればな」



しくった。地雷踏んだかも



「条件二、話題性を持つためにドライバーは素人を使うこと」



そう、一番のネックな条件はこれだ。


「素人ドライバーを使うこと」


という事は少なくこともレース経験は無いか、もしくは浅い人ではなければいけない。


それもスーパーGTでは2人(・・)は必要になる。



スーパーGTはF1等とは違い、ドライバーの交代が必須である。


耐久レースのように基本的には2人のドライバーで1レースを走る。


単純に考えれば、勝ちたかったら2人共速ければ良いのだが・・・



「そもそも素人ってどっから素人だ!曖昧すぎんだよ!」



ああ、遂にキレた。


でも、ここで降りられちゃかなわない。

またゼロからスタートになってしまう。



「めんどくせえこと押し付けやがって。そもそも俺は全日本GTに出たのは1シーズンだけだ。あとはスポット参戦しかしたことねえ」



叔父さん古い。今はスーパーGTだからというツッコミは飲み込んでおこう。


川畑賢士カワバタケンシは名うてのドライバーだ。

ル・マン、フォーミュラー、耐久・・・

現役時代は数々のレースで結果を残し、伝説のドライバーとして今でもたまにTVや雑誌で紹介される。

引退後はプロレーサーの教育に専念か・・・と思いきや1年足らずでその現場も去ってしまった。

曰く『俺の方が速いと思ってしまうから冷静に教えられない』だとか。



「大体俺は他人を速く走らせる才能が無いだろ」


「そんなことはない」



僕は即答した。



「叔父さんの教える上手さは僕が身をもって知っている」





8年前まで僕は叔父の教育を受けながらレースに参戦していた。


アマチュアのカートレースだったが、趣味の世界で終わるかと思っていた自分にプロ1歩手前までの世界を見せてくれたのは紛れもなく密かにコーチをしてくれた叔父の存在だった。




「叔父さん。お願いがある」


「なんだ、照彦テルヒコ?」


「僕のチームの監督になってくれなんて言わない」


「・・・・・あ?」


「僕の代わりに走る人を探して下さい」



結局僕はプロににはなれなかった。



「本当は僕が戦いたい。勝ちたい。でも、今まではその土俵にすら立てなかった」


「・・・・・・」


「そしてチャンスすら失った(・・・)



僕は卑怯だ。


これは交渉なんかではない。

只の泣き落とし。

いやほとんど脅迫だ。



「僕は走れないけど、別の形で戦う術は身につけた。」



それに・・・



「叔父さんに戦い方を教わってた時、どんどん速くなる自分が居て、自分が自分じゃなくなる気がして、それはとても幸せなことだった」



それが・・・



「その幸せが・・・僕だけで終わっていいはずがない!」



僕は欲張りだ。


まだ戦いたい!

戦う術が欲しい!

この人の戦い方で戦う方法が欲しい!


こんなことを5年間考え、

こんなことを5年かけて計画して、



「だから僕はこの条件を喜んで飲んだ。川畑賢士の純粋な戦い方で勝てるドライバーが欲しかったから」



だから僕は・・・川畑賢士の一番弟子は師匠の強さを証明したかったから。



「・・・・わかったよ」



!?



「お前、5年も営業マンやってたせいで交渉が上手くなったんじゃないか?」


「・・・・・・」


「・・・いいだろう。やってやる」



!!



「但し、俺は中途半端には終わらせんぞ。勝てるチームを作るからな」


「・・・・はい!」



涙が出そうになった。

いや、もう出ているのかな?

だってこの人がついに動いてくれた。



「そのためには・・・」


「なんでも協力します!」


「・・・わかってんじゃねえか」



やっとチームの一歩目が踏み出せる。

待ち望んでいた・・・夢に見たチームが・・・



「おし、レーサー探し再開だ。次行くぞ」



サングラスをかけ直し歩き出す叔父・・・いや監督。


僕はその後を、置いていかれないようにとタイヤを押した。







「おーう、ケンちゃん」


「久しぶりだな、ヨウジ」



ここは愛知県T市にある石原サーキット。


古くからあるこのサーキットでは週末になれば数多くのレーサーがここにレーシングカートをやりに集っている。


俺も昔ここで監督にカートを教わった。



「・・・ん?今日はレースか?」


「おう。うちの目玉レースの日さ」



コースを見れば何台ものカートが走っている。


色とりどりで、オイルとガソリンの匂いがして、目の前を通り過ぎる度に速さを感じる。



「『スーパーCT』?なんだこれ?」



レースのパンフレットを眺めながら監督は呟く。



「スーパーGTのパクリっすよ~。参加条件はドライバー2人で必ず途中交代が必須。1人がレースの3分の2以上走ってはいけないってのがルールの丸パクリレースっす」


「丸パクリ言うな!」



バイト君の説明にツッコミを入れる店長。


カートだからCTか・・・と苦笑いする僕らに店長は続ける。



「2組だし台数が多いから何が起こるかわからない。本気でチューニングしたカートでも駄目な時はだめ。それが面白いんだよこのレースでは」



確かによく見るとカートの種類はまばらだ。

チューニングされている持ち込みカートだけでなく、レンタルカートも走っている。


とは言っても流石に性能差はあるようで、上位はほとんど持ち込みカートだ。


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