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人間
うぅむ、とうなるように視線を下げている青年から、わたしはそそくさと去っていく。
「それじゃ、わたしはもうここから飛び降りるよ」
「わっ、わっ! ちょっと待ってちょっと待って! 少しくらい話をしよう。一分先に死ぬのも、三十分先に死ぬのも大差ないでしょう?」
「……まあ、そうですね」
あわてて呼び止めた青年の思惑は、正直図れない。ただ、自殺を止めるのが目的なら、まあそれでもいいかと思う。
好んで自殺をする人間はいない。自分を殺すことが癖になる人間もいない。人間死ねばそれまでだから。
「それで、何を話しましょうか」
何の目的だろうと水を向けると、案外するりと青年は答えてくれた。
「そうだね、人間について話そうか」
「……人間?」
最後の題材にはふさわしいのかもしれない。とはいえ、わたしから話すことは何もなかった。