表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

権利の放棄

 わたしはとある廃ビルの屋上へ来ていた。


「この場所は、一等古い感じだな」

 わたしのいるビルの周りには同じような持ち主のいないビルが立ち並ぶ。うらびれた風景の中、その中でもこのビルは比較的古めかしく見えた。


 周囲の空気はすでに夜の帳が落ちようとしている。黒いカーテンが落ちていくのを惜しむように、遠景は最後の華とばかりに鮮やかに空を彩っているが、それもやはり風前の灯。消え行く最後に揺らめくがゆえの、はかなさと隣り合わせの美しさなのだろう。

「きちゃった、な」

 古びた町の一角。排他されているかのように薄汚れたビルの中で、このビルはかつて一時話題を呼んだ。


 ――人が、死んだんだって。

 投身自殺はかつて一時話題を呼んだが、あわただしい現在において話題が残ることは少ない。わたしはその、かつての話題をかろうじて思い出したに過ぎない。

「ここで……」

 人が死んだのか。

 そう噛み締めるように呟くわたしも、今その人の後を追おうとしている。


 生きること、その権利を手放そうとしているわたしの耳に、予期せぬものの声が届いたのはそんなときだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ