ななつ
「妖異、怪異。見ただけではよくわからないものだけど」
「妖異とはあるものがないものを望んで成したもの。怪異とはないものがあるものに望まれて生まれたものだと解釈している」
「そうなると冬真先輩は人間じゃないっていう考えになってしまうんですが」
「間違いではない」
3人の先輩たちの話を聞いてできた理解がそれだ。
我ながら突飛な解釈だとは思う。
「そう。ただし表面は人間。あいつは猫の怪異に取り憑かれて中身が化け物に変わり果ててしまったのさ」
なるほど。
けれどもそんなことを、へぇそうなんですか、なんてホイホイ信じられるわけがない。
そもそも見たことも聞いたこともない異形の存在を知ることも理解することもできないはずなのだ。
これは先輩らの受け売りだけど。
「僕たちはずいぶん迷惑をかけられてる」
「かけられっぱなしじゃないでしょ」
ハジメ先輩から漏れた冬真先輩に対してだろう悪口を、陽菜先輩が手早くフォローした。
「ラクくんが力を貸して解決した案件も、少なからずあるわけだし。それに憑いてるの怪異の方さえ大人しければ私たちに害はないわけだし」
「だが、どうだ?あいつは最近、随分と自由にうろちょろしてるらしいが、その間なにもしていないはずがないんじゃないか?」
「まさか。不良じゃあるまいし」
「後ろめたいことがなければ結界なんか張らないだろ」
冬真先輩は今、この場にいない。伊狩先輩もだ。ふたりは今、教室を出て、ナイショ話をしているらしい。
ちなみに、昨日のことはもう説明を済ませてある。
「その行動の意味が不可解ですわね」
弐ノ舞 茜先輩。
かなりのお嬢様なのか、言葉遣いがとても丁寧だ。
実は彼女と陽菜先輩の名声は少なくとも僕の中学まで轟いており、一部の男子はマジで彼女らにお近づきになりたくてこの学校を受験したまであるそうな。
かくいう、僕のような例である。
「そこはどうしても知りたいところだよね。せめて、私たちには。仲間なんだし」
陽菜先輩は、心なしか、それを強調した。
優しいから、というよりは心から冬真先輩のため、仲間のために注げるように。
「ふざけるな。僕はあいつが仲間だなんて、一度も思ったことはない」
けれどハジメ先輩は否定した。さっきの女性陣に対する態度は一変して、一貫した姿勢を見せるだけだ。
「なんで、そんなに冬真先輩のことを?」
「お前には関係ない」
投げかけた疑問がハジメ先輩にぞんざいに扱われ、この話に嫌気をさしてしまったのか彼は教室を出ていってしまった。
戸をそっと閉めてるあたり、カッとはなったけどまだ冷静ならしかった。
「しょうがないね。秋人くん、ハジメくんはああ見えて優しくて頼りになる人だから、気にしないで」
やっぱり怒った人へのフォローも忘れない素晴らしい先輩だ、陽菜先輩。
「わかりました」
「萌やしはどうでもいいけど、できればラクくんには私を頼って頂きたいわ」
なんだろう…………弐ノ舞先輩のハジメ先輩と冬真先輩への扱いに差が。頰も若干赤い気がする。
「そうだね、茜さん。ラクくんは少しなにかを焦ってるのかも。私たちだってできることはあるのに」
ふたりのアイドルにここまで言ってもらえて、冬真先輩は幸せものだな。
なんだろう。
羨ましいなと思っちゃったか。
「夏希さん、いつまでラクくんを独り占めしてるのかしら?私はまだラクくんと話をしてないのに…………」
「もうすぐ帰ってくると思うな…………」
陽菜先輩がとうとう弐ノ舞先輩にあきれてしまった。
冬真先輩への熱を隠そうともしない弐ノ舞先輩に、周りの人の方が恥ずかしくなってしまうんだろう。
たしかに、あのふたりは、いったいなんの話をしているのか。
「そういえば、結界って?」