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むっつ

 閑話休題

「さて、アキトくん、話をしましょう。私は伊狩 夏希といいます。よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

「近い内にまた会わないとって思ってたんだけど、こんなに早くというか…………ハジメが勝手に連れてきただけだけど、あなたをこのオカルト研究同好会にスカウトしたいのよ」

「スカウト…………ですか?」

「そう。単刀直入に、あなたは生き物を知ってるわね?」

「はい…………?」

「では生き物でない存在を知っているかしら?」

「は…………?」

 と言って、私は紙の束を机に置いた。その紙は、履歴書のように多くの項目が分けられたものだ。

 しかし記述されていることは、人物の経歴を示すものではない。

 ヘビ型妖異。一枚目はそれだ。

「目を通しながら聞いて。それは妖異という存在に関する事柄をまとめたものです。妖異とは、様々な説明がなされるけど、一概にはさっき質問したような、生き物ではないものを指すの。生きていないのに、石や水と違うのに存在する、そういうものたち。

 彼らは浮き世に交じり、風景として存在するわ。形も様々で、性格も様々。どうして存在するのかは謎よ。それはどうしてもわからない。そして、彼らは悪影響しかもたらさないものなの。

 唯一の悪影響、人の邪気を糧として、魂を貪る。

 ピンとこないでしょうね。これは自称頭のいい連中が捻りに捻った表現だからニュアンスだけわかればいいわ。

 彼らは人の負の意識を好むのよ。

 妖分を求めている、とか。

 都市伝説と神隠しや、原因のわからない事故と事件に少しだけ絡んでるかもしれない奴らなの。

 確かに曖昧だけど実際かなりの証拠が上がってるわ。だから茶々を入れないで。

 そしてそういった事態に対応する、彼らを狩ることを専門とした物好きな組織があるの。一般にはまったく知られていない、かっこよく言えば秘密結社が。

 私たちはそこに所属していて、この学校、この教室で妖異のプロファイリングしてる。それをあなたには、手伝ってもらおうと思って、今回呼ばせてもらったというわけなの。

 ここまではいいかしら?」

 なにを言ってるのか全然わからない、とでも言いたそうな顔を、秋人くんはしていた。

 やっぱりこうなる…………。

 私は今日すぐに会いたかったわけじゃないのにハジメバカキノコ頭。

「なんだよ。僕の頭にキノコは生えてないはずだが?」

「ハゲればいいのに」

「痛みのある言い方はやめてくれ…………」

 話を戻そうとすると、やはりアキトくんが得心いった様子はない。

 妖異というものがどんなものなのか、まずは知らないといけないだろう。

「それで、どうして僕なんですか?」

 思いの外いい食いつきみたいだ。

「あなたには素質があるのよ。実はこの教室の周りに、結界を張ってるの。対人用にね。あなたは昨日それをひとりで通り抜けることができた。だからあなたに頼むの」

「そんなことでどうして僕なんですか?」

「人手不足よ」

「ぶっちゃけたっ?」

「あなたみたいなのは本当に希少だから、ちょっとは手伝ってくれると嬉しいかな…………と思って」

「嬉しいの後の間は一体…………」

「それで仕事の内容だけど――――」

「ちょっと待ってください!まだやるとは…………っ」

「大丈夫よ。基本整理整頓するだけだから」

「…………そういう問題ではなくてですね」

 サムズアップはどんな不安も軽くすると陽菜が言ってたのにこの子まだグダグダグダグダ言うんだけど。どうして?

「とりあえず今日はなにもないけど、また報告書とかがきたときに整理を手伝ってもらうわ。よろしく」

「よろしくお願いします…………」

 今頃サムズアップが効いたみたいね。

 アキトくんは神妙にうなずいた。

「話はおわりよ。またハジメを遣わすわ」

 アキトくんはもう一度うなずいた。

「これで仲間だな。アキト。よろしくな」

「よろしくお願いします、ハジメ先輩」

「ハジメにはよろしくしなくていいわ。ただのパシリだから」

「僕らは対等なはずだぞ夏希?そんなこと言うならもう宿題を見せてやらないからな」

「結構よ。私には大親友がいるの。むしろ私に優しくしないで。不快だわ」

「OK…………わかった」

 後輩の前でみっともない姿を見せるとは、先輩の風上に置けないやつ。

 アキトくんという大事な男手がこんな頼りないやつにならないようしっかり教育しなくては。

 ふたりは私のそんな決心をつゆ知らず、話がちょうどひと段落ついたところで唐突に部室の扉が開き、更にふたりの女子が親しげに談笑しながら入ってきた。

「御機嫌よう」

「やっほー」

 誰かと思えば、茜先輩と陽菜だ。

「茜先輩に陽菜ちゃんじゃないか〜っ」

 また始まった。元気にしてしまうので彼女らが来る前にハジメを追い払っておきたかったのに。

「ハジメくんっ?こんな早くに来るなんて珍しいねっ。それとあれ?君は…………」

「紹介しよう、アキト。まずこの華蓮で上品なお方は我らのご意見番、弐ノ舞 茜先輩!そして!この画に描いたようなメガネの美少女は!我らがオカルト研究同好会のマスコット喜多町 陽菜ちゃんだ!」

「マスコットじゃないしっ!」

「新入部員かしら?急ですわね」

 陽菜の慟哭に続き茜先輩が言った。

「茜先輩、陽菜ちゃん、こいつは哀川 秋人。ピッカピカの一年生だ」

 アキトくんの紹介が雑。

「よろしくね。秋人くん」

「はい!よろしくお願いいたします!」

 私の話を聞いてた時と打って変わって元気になったな…………結構アクティブなのね、アキトくん。

「どうだ秋人。この美女二人は?」

「はい!ハジメ先輩!とても良いです!」

 バカが増えた。最悪だ…………。

「アキトくんっていうんだ。よろしくねー」

「よろぢくっ?!がはぁっ!」

「アキトどうしたっ?!」

「ハジメ先輩…………こんなに早くあの喜多町先輩を生で…………しかも言葉も交わすなんて」

「お前もそのクチだったのか…………」

「はい…………以前中学のレクリエーションで一目見てからずっと…………がはっ!」

「しっかりしろアキト!」

 舌を噛んだだけで大袈裟な…………陽菜も随分有名になったもんだ。

 そんな反応ももう見慣れたらしい陽菜は毅然としている。

 むしろファンサービスを欠かすこともない。

「これからは仲間になるんだから、できればその…………もう少し普通の人だと思って接してくれると嬉しいかなー…………なんて」

「アキト、お前は幸せなやつだ…………かの近眼天使————陽菜ちゃんと友達になる機会をこうも簡単に得られるなんて」

「ハジメくん、やめてって言ってるでしょ…………?」

「僕は…………もう思い残すことはなにも」

「アキト…………アキトぉぉぉぉっ?!」

 うるさいな。



「夏希ちゃん、今日はお仕事あるの?」

 ついに茶番に興じるハジメとアキトくんには目もくれず陽菜がそう訊ねてきた。

 なら私は陽菜の質問に答えよう。

「今日はないわ。今はラク待ち」

「そうなんだ。じゃあ待機だね。茜さん、座ろう」

 陽菜はそう言って、さっき秋人くんが使っていた私の向かいに座った。譲ったらしい秋人くんはハジメと共に待ち人のごとく起立し陽菜の側に侍るつもりらしい。

 陽菜も幸せものだ。

「夏希さん?ラクくんになにか用なの?」

 今度は茜先輩が訊ねた。

 ちなみに彼女も同級生や後輩に慕われる人気者だ。

「いえ、監視対象のクセに好き放題やってるから、クギを刺しておこうと思って」

「監視対象?」

 次はアキトくん。本題に乗っかってくれるつもりなのか、やっとハジメ以外におふざけがない時間でお喋りに望むことができる。

「そのうち説明するわ」

「たしかに、ちょっと最近は多いのかしら」

「なんでかな?」

 茜先輩と陽菜はそろって首を傾げた。

 心配性なのも、このふたりの共通点になっている。

「ハジメ、昨日はラクのこと‘見えた’?」

「てんでダメだ」

「使えないのね」

「おい。ラクの結界に入るなんて誰がやってもムリに決まってるだろう」

 それもそうだけど。

 だから四苦八苦してるんだから。

 すると揉め始めた私とハジメに割り入って、アキトくんが申し訳なさそうに手を挙げた。

「あの、ラクって?」

「冬真 楽。コノムの漢字が楽だからラク。私たちと同じ学年の、同じオカ研会員よ。今度紹介するわ」

「冬真…………楽?」

「アキト、どうかしたのか?」

 様子がおかしい。アキトくんにとって、初めて聞いた名前ではないような。

 冬真はさておき、コノムなんて名前はそうそうあるものじゃない。

「いえ…………その人、昨日あった人と同じ名前で」

 !

「会ったのか?いつごろだ?」

「昨日っ?」

 ハジメと私は驚き隠せなかった。

 昨日?ハジメじゃ手に負えない‘強過ぎる結界’を使ったラクを?

「たしか…………6時ごろ」

 結界が効かない後輩。

 まさか————。


 ラクの結界も効かない?


「ちーっす」

 突然、扉から再び声がした。

 そこで、なんの負い目も見えない、いつも通りの笑顔をした冬真 楽が手を振っている。

「あれ?今日は人が多いな」

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