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しじゅうさん

前話と日が空いてしまいましたので、続けて読むことをお奨めします。


「ハァッ…………ハァッ…………ハァッ…………!」


 なんだ…………?今の…………。

 夢…………?


「ハジメくん…………」

 陽菜ちゃん?

 僕は…………。

「ここはどこだ?」

「新垣さんの邸宅。ちょっと待ってて。お医者さん呼んでくる」

 ……………………。

 今の夢…………ラクの頭の中での会話。

 なんで猫以外に…………‘トモ’が出てくるんだっ?

 いや、とてもリアルだったが、夢である以上、事実だとは限らない。

 残念ながら僕に予知夢の才はない。

 しかし最後の場面………… 一瞬でよくわからなかったが、ラクの胸から、‘太刀’が飛び出したような…………。

 もしかして、あれは――――。

「ハジメくん」

 む。

「気分はどうかね?」

 ………………。

「どうした?」

 言うまい。今度こそ白い襖を開けてくれるのが美人な女医であってほしいと本願していたとは、口が裂けても言うまいっ…………。

「気分は、だいぶ善くなりました。ありがとうございます」

「いやいや、よかったよかった。3日も寝て、目が覚めなかったから、まさかとは…………思っちゃダメなんだけどね。まだ若いんだから、こんなに医者の世話になっちゃいかんよ?」

 しかもヤブでジジイだしな。あと数年であんたも知り合いに診てもらうことになるだろう――――と、つい考えそうになってしまった。

 年寄りは労らなくては。

「3日ね…………じゃあ戦いの方は」

「幸い死人は出ず、重傷者も少なかった。ホンボシは、今回も取り逃がしたそうだが」

 じゃあラクはまたしくじったのか。ざまぁないな。

 あんだけ追い詰めといてなんで逃がせる。あいつはそういうので笑いをとろうとしてるのか?

 失笑でなければ、苦笑いもんだぞ?

 笑えない。


「君が身を呈して守ったお嬢ちゃんは、目立った傷はなく、トラウマもあまりなかったが、失踪者として、今警察で事情聴取されてるらしい。そのあとはまたウチで同じことされるんだから、堪ったもんじゃないな」


 ……………………。

 ふと思った。

 ラクがあれを逃がした理由。

 あれだけ追い詰めたのに、また、見逃した理由が。


 夢だ。


 もし僕が見た夢が、万が一にも現実なら…………あぁ、そうだ。辻褄が合う。

 でもなぜ、あんな絶好な場面で、あんなハプニングがおこったというんだ?

 というか、これが事実なら、結の計画の変更を余儀なくされる。せっかく時間をかけて作り上げたものなのに、やってられないな。

 しかも組み込むべきコンテンツが‘トモ’だ。

 証明問題の試験で出来た文章の中で、途中の式の間違いを見つけたときのようなやりきれなさだ…………終了5分前くらいでな。

 たくっ…………。

 僕は額に手を当てた。

 それが医師に頭痛だと受け取られたみたいで、薬をくれると、しばらく寝るように言われた。

 頭痛じゃない。だから薬は必要ない。

 僕は目をつぶって寝るフリをし、これからどうするか頑張って思考したが、いつしか本当に寝てしまっていた。



 さて。

 それからまた3日と経たない、ある日だ。

「いつまで怠けてるのかしらね。ハジメくん」

 とりあえず、ラクはさておき、別に誰がお見舞いに来てくれても僕としては両手を広げてウェルカムなのだが、例外的にこの女だけは、寒さを凌ぐように身体を抱える格好をして、できればお引き取り願いたいという衝動にかられてしまう。


 扇の頭領という肩書きがなかったとしてもだ。


「あんたが怪我人の見舞いなんて珍しいな。身内相手にも冷たいあんたが。結」

「冷たいこと言わないの。私だって、人並みの温かさは持ち合わせてるつもり」

「その慢心には同意しかねる」

 どうせ仕事の話か、茶化しにでも来たのだろう。

「今日はじい様たちの相手をしなくてもいいのか、結?」

「サボってきちゃった。コノムくんは?」

 頭の出来はいいが、使い方に難があるお嬢様だ。あとから責任を追求されても、容易に回避してしまうだろう。

「あいつはここにはいないらしい。残念だったな」

「そうね。せっかく会いに来てあげたのに」

 つまり僕のことは‘ついで’だったというわけだ。

「じゃあ、用事を済ませましょう」

 少なくとも茶化しに来たわけではないようだが。

「用事とは?」

「間者のことよ」

 患者?それは僕のことか?

「知っての通り、私はすでに山坂さんから目をつけられているわ」

 結はそそくさと機械的に話始めた。

「でもそれは関知する程度のことじゃない。もっとずっと厄介な懸念事項が生まれた」

 …………なんとなくわかる気がするな。


「あなたの後輩。哀川 秋人くんだっけ?」


 …………は?

 なんでここで秋人の名前が出る?あいつは――――。


「あの子が妖異を使役していたという報告がきたんだけど」


 ………………?!

「あいつが?!なぜだ?!」

「知らないわ」

 もっとよく調べて来いっ!

「あり得ない…………っ。だってあいつは、‘トモ’と接点はないはずだろっ?」

「当たり前よ。だから異変なの。けれども、存在するだけでも、ただでさえ脅威な能力。見逃がすことはできない」

「本当に本当なのかっ!?なにかの間違いだろっ!?」

 ……………………あり得ない。あれは俺しか継承しなかった、しかも不完全の紛い物しかもうこの世に残っていないもののはずだ。

 いったいどんなトリックを――――?

「本当に必死なのね。確かに証拠はないわ。でも戦闘に参加したメンバーに、‘眼’を持つ人間はいないの。そして夏希に伊狩邸の留守を任されたはずの秋人くんが、どういうわけか現場に顔を見せた。ちょうど妖異の奇行が収まって消滅したときによ。偶然だと思える?」

 思えなかった。しかし認めたくはない。

 あの力でどれほどの犠牲者が出たか…………そんなものが秋人に宿ってしまったなんて…………それこそ、夢であってほしい。

「調査はしてる。用事の一件目はこれよ。二件目が――――」

 あくまで仕事か。結は事務的に、手短に用事を済ませようとする。

「ところで私が頼んでおいたことは、もうできたの?」

 こいつ…………ネガティブニュースを一件目に持ってきていやがった。二件目も別にポジティブというわけでもないが、僕のこのテンションでその天然ボケをツッコめと言うのか…………?

 第一できるわけないだろ…………。

「まだできてない」

 僕はとにかく、当たり障りの無さそうな言い訳をして、この場を凌ごうと思った。


「できてない?なんで?今までなにやってたの?まさかサボってたわけじゃないでしょうね?もしかしてサボってた?別にあなたを責めたいわけじゃないけど、与えられた仕事ぐらい言われてすぐにこなしなさいよ」


 無駄だった。

「責めたいわけじゃないだぁっ?嘘つきめっ、満面の笑みじゃないかっ。だいたい冥界と交信する準備をしろっていうのが、そもそも不可能なんだよっ!」

「どうしてできないの?クチナシは十秒もしない内にできるのに」

「僕とあいつを比べるのやめろぉっ!それからまず僕が今怪我人であることを考慮してるかっ?」

「してないわ」

「…………おい、こんなに騒ぐとまずいんじゃないのか?内容も聴かれたら、僕たち打ち首獄門だぞ?」

「びびってるの?かわいい」

 …………………。

 ドS魔女め。

「ハジメくーん。包帯替える時間ですよー」

 …………!…………!…………!…………!

 ビックリした。ナースが襖を突然開いたのだった。ノックもなしに、無作法だぞ…………?

「じゃあ私はお邪魔ね。クチナシにレクチャーを頼んでおいたから、それまでにいい加減自分の脚で歩きなさい。っていうのが二件目」

 その言葉を最後に、結は回れ右をして帰ろうとした。

「それとハジメ」

 僕は結の呼び掛けに無反応で、ただナースが準備をしているのを眺めていた。

「あなたから報告すべきことはなくって?」

 僕は――――無反応だ。

「そ。おだいじにー」

「ああ」

 今度こそ結は帰っていった。

 するとナースがキョロキョロし始めた。そして訊ねる。

「ハジメくん、今誰かいた?」

 相変わらず、透明になるのが好きなお姉さんだ。


「いや、誰もいませんでしたよ」

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