さんじゅうご
当たりだ。
焦って夏希に報告したとき、まずいところを見てしまったからどうしようかと思っていたが、この手柄で少しは刑が軽くなるだろうか。
免罪がないのが、伊狩裁判所の怖いところだが…………。
そして、同じだ。
直接は会ってないが、見る限りでは。
予想は八割方外れてないようだな。しかし、なんでまたこんなやつがツインテールロリに興味を持つ?
共鳴みたいなもんだろうか。
さて、仕事、仕事。
早速、いい皮肉を思いついたところで、しかしそれは先手をとられてしまった。
「烏に訊いたって、変なこと言うやつだなぁ」
………………。
「ほっとけ」
「もしかしてストーカーってやつ?こわっ」
あんな短期間で、なぜそんなムカつく人格が出来上がるんだ?
ムカつく。
言い返してやる。
「それならお前はロリコンってやつか。女児誘拐なんて、まともな人間ができるわけがない」
「女児じゃないしっ」
ロリに言い返された。
心配するな。僕はお前を助けに来たんだ。
「ぼくにしてほしいことがあるのかい?」
………………。
ロリコンめ、勝手に話を進めたな。まぁ話が早いのは助かる。
「そこのロリを解放してもらおうか」
「いやーだねっ」
「ロリって言うなぁっ!」
想定内だ。もとより、戦闘を覚悟してた。
「どうしても、か?」
「なぁ。あんたがやりたいのは話し合いじゃないんだろ?殺りたいんだろ?」
念をおしてみたがダメらしい。
まったく。話が早いのはいいことだが…………こっちはペースってのがあるんだ。
僕はシュッ、と右手を払った。
目の前にハエがいたからじゃないが、強いて言うなら捕まえたのではなく、投げたのだ。
こないだの誰が持っていたんだったか思い出せないんだが、確か爪楊枝として印象が残っていたあれをそのまま持ってきていたので、それを投げた。
先制攻撃を仕掛けたと言えばよかったか。
ともあれ、結果はただ滑ったとしか言いようがない。だが開戦の合図としてはこれぐらいでも別にいいだろう。
音もなく向こうの暗闇に溶けていった爪楊枝は、ロリコンの肩をスレ違うように飛んでいった。しかし微動だにしない。
予想したことではあった。むしろそれで泣き叫んでいたら拍子抜けもいいとこだ。
少し間を置いて、ロリコンがニヤリと笑ったのは、気持ち悪いと思わざるを得ないな。
祭壇を初めて降り、背筋を伸ばしてなにをケラケラしてるんだ?こいつは。
「あれで嚇しのつもりかよ?面白くないな…………本当に恐怖を与えるなら、こうした方がいいんだぜ?」
ロリコンは僕に視線を向けた。
すかさず僕はもう一本の爪楊枝を、今度は狙い違わず、そのほっそいに肩に、鎖骨の辺りに突き刺した。
やつは身動きせず、ただゆっくりと傷を負った箇所に見つめ、固まった表情からは、なにも読み取ることができない。
自分にターンが回ったと思い、モタモタしだしたとたんにもう一手に繋げられているこいつは、ひょっとしてただの間抜けなんじゃないだろうか。
こいつ、実はそれほど強くないんじゃないか?
僕やロリが不審に、気味悪く思っていると、次の瞬間やつが取った行動は、それ以上に怖気が走るものだった。
そう。
この僕ですら怖いと思ってしまうほどだ。
「痛い…………」
やつは言った。
痛い――――と。
痛いなら、泣き叫ぶか怒るかが普通だ。
しかしこいつは…………、
「痛い…………痛いっ……痛いっ!!痛いぃっ!!なんだこれ?!めちゃくちゃ面白いっ!もっとだっ!もっとっ!!!!」
悦んだ。
ただひたすらに爪楊枝が刺さったままの肩を叩きながら、嬉しそうに、泣き叫んだ。
気持ち悪い。
イカれてる。
もっと言いたい、痛いのはお前の頭だ。
いや、正直もう帰りたいと思ったな。帰って布団をかぶってガタガタ震えたいところだな。
あのとき、キッチンでGに遭遇したときと同じくらい鳥肌が立ちまくっている。
ロリに目をやると、気が合うようで、目を地面に落とし、しきりに両肩を擦って、まるで冬の寒さから身を守っているようだ。
未だに快楽を求めようと泣き叫んでいるあいつの声を聴いていると、こっちの方がとてもじゃないがイカれそうで気分が悪い。
長期戦になるのはマズイはずだ。
そう思ったより感じた僕は利き脚を踏み切り、ほんとはお近づきになりたくない相手の懐に飛び込んで、持っていた爪楊枝をすべて刺し込んだ。
さすがに効いたようで、やつは人間らしく、赤い鮮血を吐き出したが、しかし、こんなやつの脳にそのしつけは不充分だったらしい。
一旦距離をとり、構えを崩さず様子をうかがっていると、
「…………フフッ…………フフフッ…………もっとだぁ…………もっとぉっ!!!!」
キモッ!
僕したことが、思わずギャル語を…………。
チッ!なら次だっ!
僕はもう一度やつに近づき、空っぽの手で人体に突き刺さった爪楊枝を持てるだけを一瞬で引き抜き、すかさず後ろに回って、背中、肩、さらには脚に突き刺し、それを数周回繰り返して、またさっきと同じくらいの距離をとった。
チッ。
舌打ちもんだ。
やつはアゴを限界まで上げ、口は開き、腕はだらんと垂れ下げて、脚は膝を少し曲げ、ビクビクと小さく痙攣していた。
怯んでいる証拠のはずだった。
だがそうじゃない。
なんで立っていられる…………?
僕はこういう相手との戦闘は初めてじゃない、けれど異常に感じた。
なぜなら、やつは大きく開いた口を徐々に閉め、そのままニヤりと笑ったからだ。
この異常も、半分は見るのが初めてではない。
半分の“怪異”特有の治癒能力。そして、もう半分の痛みに悦ぶイカれた思考。
厄介な異常者だ。
僕はたまらず、無謀な特攻を試みた。
予定では、脚を払い、持ってきた短刀でやつの胸を貫き様に地面に叩きつけようという、単純なものを行おうと思ったのだが、3回目はマズイ。
回数的に近づき過ぎた。
やつは笑う。
「お前も感じてみる…………?この痛みを…………」




