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じゅうし

「さて、どうやってラクを捜してみるか」

 特にやり方はない。

 なぜなら、ラクというイレギュラーが結界をどう使って、秋人というイレギュラーがどのように結界から逃れているのか、定かじゃないからな。

 はっきり言って、ものすごい面倒を押し付けられた気分だ。

「秋人の力を試す機会だ。さぁ遺憾なく発揮してくれ。いつでもいいぞ」

「無茶言わないでください…………僕、なんのことか全部理解できてないんですけど」

 仕方ないことだが。

 秋人は腑抜けたことを言った。

 あまりモタモタされると教師が僕らという素行不良生徒を勘付かないか心配だな。

「そう簡単に無理ムリというのはよくないぞ。先輩だから言わせてもらうが、世の中には無理だと思った方にこそ立派な活路が佇んでいるもんだ。お前も見出してみろ」

「説得力をつけないでほしいな、この先輩は」

 如何せん、無茶かな。

 目を凝らしてラクを捜せと指示したはいいが、効率は悪い。

 目は僕の方がいいのだから、僕が望遠するのが最も堅実な方策ではあるな。

 ちなみにこの場合の目がいいとは、別に視力がいいという意味ではない。

 望遠鏡があるわけでもないし、仕方がないから手ずから用事を済ませればまぁ、そっちの方が効率もいいな。秋人の力は借りるとしよう。

「なら定石に頼るというのも方策だ。秋人、肩を貸せ」

「いや…………構いませんけど、どうするんですか?」

「古くから、ままならない事態にはそれを打破する教訓が言葉によって残されてきた。今こそ、その先人の知恵に頼る時だ」

「切り札取り出すの早いな…………」

「かもしれないな。言うだろう?押してダメなら、引いてみろ」

 とりあえず僕は秋人の肩を持ち、セリフと同時にくいっと引いてこちらを向かせてみた。

 …………冴えない顔つきだ。

「なんですか?いきなりなんでそんな残念そうな顔してるんですか?僕の顔になにかついてるんですかっ?」

「よく聞け秋人。これは触れてみるという、検査や捜査では衛生上、現場保存上ご法度な行為だ。特に僕らの業界では呪いの普及が進んでいるから、安易な判断でこんなことをしてしまえば取り返しのつかない事態に陥ることがあるかもしれん。だが現状で手がない。そんなときにはこのようにタブーに触れてみるという柔軟な判断が必要なんだ」

「はぐらかすのか?僕のどこに触れていけない部分があって、どこに触れなければ仕方のない部分があったんですか…………?顔か?顔ですか?じゃあなんとか言ってくださいよ…………触れるなら最後まで触れればいいでしょ!」

 うるさい後輩だ。

 しかし僕の表情で僕の残念な想いを読み取るとは、侮り難し。

 自虐乙だがな後輩よ。

「呪いというのは触れてみて感染するというのも珍しい話じゃない。例えば、お前の体質は結界を無効化することだが、もしも戦闘中であればこんな不便な能力はない方がいいだろう」

「先輩はさっきからなぜ僕の胸中をえぐり出さないと気が済まないんですか?」

 真剣な話の最中になにをツッコミ入れてるんだ、この後輩は?

 まぁいい、話を続けよう。

「笑い事か?結界は呪いを防ぐ一番の盾だ。お前には結界を張れない。それが意味することを、わかるか?」

「…………え?」

「結界や呪いを含めたオカルトの類が効かないと、それなら都合がいいが、効かないのは結界だけならどうする?お前はどうすべきだ?」

 捲し立てるようにそれを指摘してやると、秋人は特にツッコミを繰り出すことをやめた。

 僕らのような子供、ガキが、こんな責任を持ってしまったのは他でもない、この理由にある。最終的に大人へ託すことになるとはいえ。

 つまり、こいつが下手をする前に保護しなければならなかったのだ。

 いずれ秋人自身での身の守り方も教えなければならないのに、防御が使えないのならどうしようもない。

 厄介な後輩がいたもんだ、全く。

「どうしてお前にそんなものが宿っているのか、僕にも不思議だ。前例がないが…………役には立ってもらうからそのままじっとしていろ」

 穏やかな切り上げ方ではなかったが、そろそろ校門へ向かわなくてはならない。

 この数日は大人しかったラクが、今日は一体どこでなにをしているのか、見ものだな。

 見せてさっさと帰らせてくれ。


 では本題を。

 僕は能力に潜り込んでいった。

 発動する前置きがないだけに、一瞬で‘他人の脳の一部’が流入してくる、それが水中へ潜る感覚に似ているのだから間違ったニュアンスではない。

 潜り込む。

 しかしラクの結界は強力で、僕の力では侵入することはできない。

 そこで秋人だ。

 そして透明人間を全くの手探りで捜し当てる奇妙なゲームに興じなければならない。

 無理ゲーをするのは大好きだ。

 まずは空から。

 つまりは、鳥の眼を預かる。

 感覚は目線がはるか上に移動するというだけだが、到着してこの動き、ジェットコースターに似ているといえば似ているかな。

 この上目線はどこへやら向くので、駆け巡る視界を駆使してやつを見つけよう。

 などと、腹が立つほどに難しい作業。

「やっぱりこれだけじゃあラクの結界を抜けることは難しいか」

「そうですか…………ていうかなにをしてるんですか?」

 見ることに関しては、秋人の能力の影響を受けるわけではないのか。

 もう少しチョロい仕事だと思っていたんだけどな。

「切り上げるか」

「え?早くないです…………か?」

「僕も暇じゃない。帰って店番をしなきゃならないんでな」

「家がお店なんですかっ?」

「住み込みなもんで。ちょっとうるさいぞ」

「…………」

 おや?

 おやおや。

「あれは…………見つけた。ギリギリ収穫はあったな。少し遅かったが、少しいい報告が出来る」

「え?土壇場で都合いいな」

「やかましい後輩だ。細かいことを気にするとハゲるぞ?」

「んなっ?!」

 秋人は飛び上がって戦慄した。

 リアクション過剰気味じゃないか?

 もしかしたら親戚に何人かいるのかもしれないが、それはどうでもいい。

 確かに、もう少しラクを見学したかった。しかし狩りが————。

「終わってたから話にならない」

「それは仕方ないですね」

 あれほどの獲物を一人で。しめたな。

 今回得られた情報は大きい。

 果たしてこれを直属の上司であり小娘の夏希にそのまま献上してもいいものだろうか。

 どちらかというよりは、‘直接’伝えた方が都合がいいかもしれない。

 利用価値は、‘あの女’に判断してもらうとしよう。

「帰るぞ秋人」

「これだけですか?」

「不服ならこのままラクのところまで行ってもらおうかな。結構遠かったが」

「勘弁してください…………」

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