じゅうに
私は震えていたその子を手に取った。
よもや寒くて身を強張らせていたわけでもないスマホの通話アイコンを押し、やがては本当に嫌な声を聞いて私に伝えねばならないことに憂鬱なのはよくわかる。
今日は疲れて、結構怖い目にもあってこの様だというのに、まさかこんな電話が入るとは思ってもみなかった。
私だって、あれの生存確認を兼ねていると割り切っているからこんな電話を受け取ることができるとはいえ、話をしたいくらい仲のいい間柄ではないのだから。
姉に気を遣う行為に違和感を覚え始めたのはいつからだろう?
“おねーちゃんよー”
「あーはいはい。なんの用」
“つれないのよね、その第一声。まぁいいわ。今度の集会そこ借りるから、できるだけ掃除しておいてね。お願い”
挨拶がない上に、急に勝手なことを抜かしやがった。
全く…………。
「それは構わないけど、集会?変な時期…………」
“細かいことは気にしないの。強いて言うなら、怪異 狸奴の最近の動向とか聞きたくなったのよ。他の幹部たちにもオーケーはもらってあるから、あとは場所だけ。これはあなた次第だからね。埃ひとつ残さないで頂戴”
本当に勝手な姉だ。
縁とゆかりだけで大それた接待をこの家に持ち込むのか。
美味しい料理も出せないのに。
それに、こんな大層な家の掃除なんて…………いつもやってる仕事に比べたらまだマシか。
陽菜にでも手を貸してもらおう。
“集会は5月。あなたのことだから、毎日掃除してても自分の部屋ぐらいでしょ。でもそれじゃ足りない。ちゃんとお土産持ってきてあげるから、トイレも隅々まで掃除してるのよ。任せた”
ツー…………ツー…………ツー…………。
よく耐えてくれた私のケータイ。私のためにあれの声を聞かせてくれてありがとう。充電してあげる。