れい
素人の作品です。
気になったり、気に入ったり、気に入らなかったところはドンドン指摘してください。
今後の参考にします。
すでに頂い方。
ありがとうございます。
猫に追い詰められた鼠ってのはこんな気持ちらしい。
今おれは、為す術もなく膝をつく行為に恥ずかしさや不甲斐なさを感じていることに悔しく思っているが、そもそもこうなる以前の経緯からして赤面しないシーンがないということで冷静でいることができた。
なんでここまでなってるんだろうな。全くもって不甲斐ない限りだ。
なぜか。と言って、ここまでしてくれたやつらが目の前にいながら思うと惚けるのも大概にしないといけない。
理由は明らかだ。
今までおれたちを自由にしてくれたこの社会に、今のうちに感謝したくなる。
名前も知らない土地。もとは木々が生い茂った林だったこの場所は無残にも、丸ハゲにされている。
おれとあいつらの仕業ではあるのだが、今まではどんな相手でもおれはここまで周囲に迷惑をかけたことはない。
それだけの余裕をくれなかった5人。
おれは5人を相手取り、5人相手に大立ち回りを演じて、そして情けなくも5人を前に膝をついて万事休す、間違っても両手を挙げて白旗を振らないよう気を強く保ち続けているわけだ。
自慢できるところはなにもない。けれども胸を張って敢えて言おう。
死にかけであると。
これは予定外だ。
まさか人間相手に、とその反省はさっきしたけども、あちらさんは、この程度か?ーーーーとか思ってんのかなぁ。
そう思うと少しずつ怒りがこみ上げてくる。
人間の癖に。
そう、こいつらは人間だ。
おれが戻りたくもない低俗で愚かしい高が人間だ。
いや。化物のおれにここまでするのなら、あいつらもおよそ化物の域に入ってるんじゃないか。
今、猫がもし万全の常態なら――――というのは言い訳だが。
どちらにせよ、おれひとりでどうにかならなかった、奢りから招いた結果なんだ。
とにかく、なにがなんでも猫。
こいつには手を出させない。
不甲斐ないのはいつものことと言えるが、これが最悪の事態、手の施しようのない事態になることは避けないといけない。
そうならざるを得なくとも、せめて猫だけを窮地から脱する方法があるんじゃないか?
おれはしつこくも、その策になる突破口がなにかないかを考えた。
いったい何ができる?
膝を着いたまま全身の力は抜け、握った得物の切っ先も地に着きかけてる。目は完全に視界がぼやけ、よもや敵が10人もいるのではとバカになっている始末だ。
こんな常態で何をどうすることができるのか。素晴らしい。大逆転のステージを演じるには絶好のシチュエーションじゃないか。
ここでおれの秘めたる力が完全に覚醒してやつらを蹴散らすことができる。
最後の足掻きとばかりに、落ちた切っ先を、5人に向けようと持ち上げた。
実際足掻きを。おれはこんなとこ死ぬわけにはいかない。
おれが死ねば次は猫だ。
絶対に避けたい。おれのミスでそんなこと、絶対許さない。ただでさえ、もう自分が許せなくなってきてるところだというのに。
本当に許せないのは、あいつらのことだが。
その澄ました顔に鼻をあかしてやりたい。
そして、さっきから満身創痍のおれを眺めてつっ立っていた5人に動きがあった。
正確には先頭にいたひとりが、ゆっくりとおれに歩みを向けた。
終わらせる気なのか。
全身に走る痛みに構ってる暇はない。なにがなんでも生き残り、悲劇を免れるには。
脚に力を込めて、力が抜けた。
腕を持ち上げようとして、腕が下がった。
焦点を合わせようとして、余計ずれた。
畜生。
畜生畜生畜生畜生っ!なんでだよっ!
こんなところで終われないっ。こんなところで!まだ猫と話したいことがたくさんある!
動け動け動け動け!
動いて暴れろ!
男は歩みを止めた。
おれの前に佇んで、おれと曇って弱くなった陽の僅かな光の間に立っておれに陰を差してくれる。
こいつひとりに手こずった。
ほとんど、こいつひとりにやられたようなもんだろうか。こいつひとりでも、おれは相手にならなかったんじゃないかと思う。
強かったか、それだけか。
おれが弱かったのか。高を括ってたのか。まだ弱かったのか。
結局猫がいないと、おれはなんにもできないのか。
男はおれを見下した。
後悔しても足掻き、まだ助かろうと臨むおれを、高く見下した。
人間を見るような目ではない。
化物を見るような目でもない。
ましてや、モノとしても見てるかどうかも怪しい。
化物より化物らしいやつだ。こいつは。
化物のおれが言うのだから間違いない。
お前ら、生まれてくる形を間違ってる。
妖異か怪異がお似合いだ。
そんなことが聞こえたわけでもなかろうに、さっさと終わらせたいとでも思ったのだろうか。
男は持っていた刀を高々と掲げた。
幕を降ろそうと。それか幕を切るために。
…………まだ終わってない。
‘おれ’がそう挑む間は。
男は刀を降り下ろした。
まだ終わりじゃねぇと思っている。
そのとき、男の身体を一本の腕が貫いた。
刹那、激しく血飛沫が舞う。肉と骨の屑が飛び散った。
これは助けがきたとか、おれの覚醒が寸前で発現したとかそんなんじゃない。
正真正銘、‘わたし’の腕が人体を貫いたのだ。
刀も使ってない。非武装、素手で、な。
男は悲鳴をあげることもなくすぐに絶命し、力なくうなだれて呆気なく冷たくなっていった。
しかもえらく重くなるもんだ。
しばらくこれに目をやっていると、すぐさまもうひとりが大声で訳のわからないことを喚きながら走り向かってきた。
‘わたし’は邪魔な屍から腕を抜き、同じくそいつに対峙して走り出す。
どちらが先に‘入ってきた’のか、それはどうでもいいけどそいつは‘わたし’の頭を狙って剣を振りかぶり、横薙ぎに一閃。
‘わたし’は跳んでそれを避け、空中にいる段階で脚を振り回しそいつの頭と胴体を切り離してやった。
さっきのやつよりも盛大に血飛沫が舞い上がり、‘わたし’は一気に、赤く染まり、ずぶ濡れた。
頭はポトリ、と残りの3人の前に落ちていくと彼らは少し怯んだ様子を見せた。
すぐにふたりが奮起して足を踏み出す。
‘わたし’は血の雨にあてられ、全身が赤く染まって濡れるのも構わずそいつらが向かってくるのを待つ。
そしてまず先に着いたひとり目の剣の突きをかわすこともなく剣ごと、腕ごと潰しながらそいつを蹴り飛ばし、ふたり目に激突したところに近寄ってふたつの胴を一蹴した。
なんとも言えない音をたてながら、さらにふたりが絶命は確信する。
これで死体は部品で数えると7つになるだろう。
あとはひとり。
‘わたし’はそのひとりに目をやった。
そいつはガタガタと震えて腰を抜かしたのか尻餅を着き、手にもった剣を捨てて背を向けて‘わたし’から逃れようと這い出した。
しばらくすると力を振り絞って足腰を叱咤激励して一目散に逃げだしていった。
判断をわかっているような、わかっていないような。
見逃してやる、とでも思ったか?
‘わたし’は右脚を踏み切り、逃げたそいつとたった一歩で距離を詰め寄った瞬間にその情けない背を左足で踏み潰した。
最後のひとりは、背中をグチャグチャに。
………………。
そもそも最初から向かってこなけりゃよかっただろ。
泣いて無様を晒せば、それで被害者面か。
それがお前ら人間なんだよな。今も昔も変わらない。
ふざけるなよ。
くだらない。
‘わたし’は足下の死肉に目をやった。
ただのうす汚い肉だ。
ダメだ。ここまでしたのに、全然頭冷えない。
まだまだ怒りがこみ上げてくる。
当然だ。
全員いっしょだ人間なんて。同じだ。同罪だ。連帯責任だ。
人間なんて、いなくなればいい。滅べばいい。
もう止まらない。
全部ぶっ壊す――――道連れにする。
‘おまえ’もそう思うだろ?
‘わたし’が代わりに終わらせてやる。