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病院

結城かわいい。

相葉さんに会いに行くはずだったんですが、微妙に長くなってしまったので話を分けることにしました。

変則ですが病室内のシーンは二、三日後に投稿しようかと思います。


 一人でも一分以内に終わるような至極簡単な作業を終え、ダイニングに戻ってくるとテレビではまだ先ほどの事故の話をしていた。男性と女性が対話形式で今回の事故の特徴やら詳しい説明、今後起こらないようにするためにはエトセトラと掘り下げていっている。単調なものだ、いい加減飽きてきたし他のに――、


 そう思ってリモコンに伸ばした手が、完全に止まった。


 それは二人の会話のほんの一部。修飾以外の意味はなく普通なら流してしまうような言葉。


『なるほど……そしてその軌道上に〝不幸にも〟一人の少女が居合わせてしまったと』


 不意に、頭を強く殴られたような錯覚を覚えた。


 不幸にも? そうだ、道に飛び出したわけでもないのにまだ明るい時間から飲酒運転の車に撥ねられるなんて運が悪いと言いようがない。まるであつらえたかのように不幸そのものである。……〝不幸属性〟を連想するには充分なほどに。


「どうしたの?」


「いや……」


 あいつは制服を着てなかった。どこの学校に通っているのかそもそも学生なのかどうかも分からないわけだが、どっちにしろ普段から学生証を持ち歩いているようなタイプは稀だろう。身分証明はできないはずだ。それにまたすぐ会いに来ると言っていたから、この辺りをうろついているのも自然と言える。


「……大丈夫?」


「いや……」


「駄目なの?」


「いや……」


 もちろんただの思い違いかも知れない。無理矢理こじつけているだけと言う可能性もある。しかしそれでも胸騒ぎは収まらなかった。


「よし。――病院に行こう」


 椅子から立ち上がり、宣言。なんとなれば目の前で俺の様子をしきりに窺っている少女もどうやら連れて行かないといけないようなので。


 そんな結城は俺の言葉を聞いて、何故か口元を緩ませて慈愛に満ちた優しげな笑み――と思われる表情――を浮かべる。


「そう。凄くいい考えだと思う」


「そっか、じゃあ結城も――」


「自分の状態を把握するのは案外困難。その上でぐっと一歩踏み出せるその覚悟は尊敬に値する。安心して、正気度を回復できる良いお医者さんを知ってるから」


「何の話ですかね!? あとなんでその辺でSAN値回復できるんだよどうなってんだこの街!」


 びくっと震えてさらに小さくなる結城。ごめん謝る、謝るけどさすがに突っ込み待ちだよね。


 絶望的に話が噛み合ってないので、と言っても朝の話を聞いていなかった結城に俺の心境を理解しろと言う方が無理難題なのだが、面倒臭いし歩きながら説明することにしてとにかく家を出発した。






「えっと、それでどうして結城は後方二メートルの電柱脇に隠れてるわけ?」


 ちなみに時刻は既に夕方か夜かで呼び方に困るいわゆる黄昏な頃合に到達している。まあこの距離なら顔の判断が付かないほどじゃないけど純粋にくらやみフォーカスで怪しさが微増している気はした。


 わざわざ後ろを振り向いたりせず、少し大きめの声で結城に疑問をぶつける。


「理由。〝追跡特性ストーカー〟で私はあなたから十メートル以上離れられない。その範囲の中でもこの位置にいるのは目視が容易、予想外の事態へのとっしゃの……咄嗟の対応が可能、何となく落ち着くという数々の利点があるため」


「えええ……?」


「……不快なら、もっと離れるから。それも嫌なら対象を変える。これ以上迷惑だと思われたくない」


「あー、いや、そうじゃなくてさ」


 頭上に欝雲うつぐもを生成し始めていた結城が数ミリ視線を上げて俺を見た。


「隣、来ないのか? これでも確かに声は届くけど話しにくいと言うか、十メートル以内って制限満たせばいいなら何もストーキングしなくたって一緒に歩いてもいいんじゃないか?」


 なかなか反応がないので気になって振り返ると、珍しく結城の顔の角度が俺と目が合うレベルまで鈍角になっていた。その瞳はこれ以上ないほど驚愕に見開かれている。


「盲点だった……」


「そ、そっか。じゃあ、」


「でも行けない。ここが私の絶対領域テリトリー


「ああ! 夢の言葉が何か残念な使われ方してる!」


 結局何を言っても頑なに俺との相対距離を縮めない結城に完全敗北した俺は自分の後方に向かってかくかくしかじかと喋りながら歩くという珍妙なプレイをさせられたのだった。時折小さな声で何かを呟いては表情を変えていたようだが内容までは分からない。


 まあ、とにかく。


 向かう先はここら辺一帯の怪我人、病人がまず間違いなく運び込まれるこの街唯一にして最大の病院である。






 信号を渡る際に距離が大分開いてしまったり、途中乗ったバスの料金を二人分払って降りたところしばらく後ろからの返答及び相づちの最後に「感謝する」「ありがとう」「かんしゃ……監査、あれ、その、感謝? するから」などといったオプションが付いたりといったハプニング(?)はあったものの目的地には無事到着した。


 ちなみにバスに乗って、とは言ったがそれほど遠いわけじゃない。高校生男子が自転車を駆使すれば十五分もかからないだろう。体育全欠席または見学の結城に合わせた形だ。


 それなりに広い病院の敷地にはいくつもの棟が乱立しており、一つ一つが外科やら内科やらその他色々な分野に対応しているらしい。パッと見ただけでは相葉がどこにいるのかさっぱり分からないが、どっちにしたって部屋番号は調べなきゃいけないわけだし受付をスルーする道はない。結城がついて来ているか確認してから一番大きな棟に入る。


 自動ドアが開いた先すぐの受付ロビーには三人の看護師さんが座って待機していた。特に意味はないが真ん中の、名札に〝研修中〟とついている白衣の方に話しかけることにする。これまた意味はないが研修生って大抵その他より若いよね、うん。


「あの、すいません」


「はい。いかがなされましたか?」


「えっと……友達のお見舞いに来たんですけど、部屋が分からなくて。教えて欲しいんですけど」


「患者さんのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」


「相葉です」


「……三人いますね。下の名前もお願いします」


「あ、知りません」


「知りませんか」


「知らないんです……えっとその、俺と同い年くらいの女子なんですけど」


「女子、ですか? 女の子の相葉さん……いらっしゃらないようですが」


「え。――ああそっか身元不明なんだっけ。ついさっき交通事故に遭った人運ばれてきませんでしたか? そいつの知り合いなんですけど」


「…………そのう、その方のご家族か何かでしょうか? もしくは特に親しくされていた方ですか?」


「そういった方ではないですね」


「ないですか。えー、えと。申し訳ございません、それではお通しするのは難しいと言いますか、そもそも女性が一人でいらっしゃる病室に異性を案内できないと言いますか、あのそれ以前にそういえばもう面会可能時間は過ぎていますので明日以降にまたいらしてくださいと言いますか本当にごめんなさい……」


「まさかのトリプルパンチ!」


 これならお見舞いって口にした時点で門前払いされた方がよっぽど良かったってくらい抉られてしまった。しかも嗜虐的にいじめるように、というならともかく(?)ぺこぺこ頭を下げられながらの拒絶である。トラウマ化するのは避けられない。


 黙って立っていたら更なる追撃を喰らいそうだったのですごすごと退散する。あー、うん。当方こういう事態は全く想定してなかったのですよ。面会時間云々はもちろん、異性がダメってことは明日来ても帰らされるんじゃないの? あれかな、どっかのイベントこなしてからじゃないと入れないタイプのダンジョンなのかな。


「待って」


 んなわけねーよどうしようとか考えながら病棟を出てしばらく歩いていると、ふと負け犬のように丸めた背中に小さな声が届いた。結城だ。


「どうした?」


 受付ロビーに入った辺りから見失っていたがちゃんと付いてきてはいたらしい。ただし自分から声をかけてきた割に立ち位置は侵入路脇の柱の影だ。さすが、揺るがない。


「……ふ」


 しかもなんかすっごくドヤ顔だった。ドヤ顔を見せるためだけに俯きスタイルをかなぐり捨てていた。そっちは揺らいでもいいらしい。いや別にいいけどさ、下向いてるより良いと思うけどさ、ドヤ顔ってそんなに大事なの。


「おう……。もっかい訊くけど、どした?」


「西棟五階の八号室」


「……何した? 教えてくれないはずなんだけど。入れないはずなんだけど」


「丁寧にお願いしただけ。快く教えてくれた。行かないの?」


「え、いやまあそういうことなら行くけど……」


「何してるの? そっちから入ると見つかる。安心して、ここの構造は把握してるから。スニーキングミッションは得意。だってスト」


「ストーキングと響きが似てるから、とか言わせねえよ!? 何それ全然快く教えてもらってないじゃん! どうやったの――ってやっぱいいや方法とか知りたくない! 真実が怖い!」


「賢明な判断ね」


 結局しぶしぶながら結城の指示に従いつつ非常階段から病室を目指すことになった。道すがら、とりあえず研修中のナースさんのご冥福を祈っておくことにする。


 

 きっと説教の一つでも食らっていることだろう。


読んでいただいてありがとうございました!意見や感想などもお気軽にどうぞ!

次回も頑張って書きますのでお楽しみにー!

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