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一筋の光明

一日遅れてしまってごめんなさい。昨日PC触れないことが分かってたのに予約投稿もしてなかったというミスorz

今回で新たな情報が出てきて話がまた少し進みます

楽しんで読んでいただけると嬉しいです!

15


 それは一分強の間続くと、これまた突然終わった。


「どうなったんだ……?」


 画面はいつものメインページに戻っている。しかしそこにアバターの姿はない。インフォメーションのアイコンが光っていたのでつい横から手を伸ばして触れてみると『被憑依者プレイヤーコード2839〝結城夢乃〟様、及び憑希アバター〝雪〟がゲームをクリアしました。おめでとうございます』とのこと。


 ……これだけ、か? もっと色々出てくるのを想像というかある意味期待していただけに肩透かしを食らったような違和感を覚える。


 でもまあ、確かにクリアしたんだろう。雪、という名だったらしいアバターがいなくなっているのが何よりの証拠だ。


 結城は憑希の分ぽっかりとスペースがあいて寂しくなった画面を噛み締めるようにしてしばらく見つめていたが、こんなに近くにいる俺にも聞こえないほど小さな声で何やら呟くと、吹っ切れたようにスマホを机の上においた。


 落ち着いたらしい。


「全て完了した。正直不安がないとは言い切れないけど――あ、あなたは、その。これからも私に、いえ、私があなたに? 私は――一緒にいても」


 やっぱり落ち着いてなかった。


「えっと、何言ってんの?」


「――こほん。だからけほっ、ごめ、こほん」


「おーい」


 喉の調子を整えようとしたら逆に咳が止まらなくなるとか、対人スキルはやっぱりかなり低いままか。見ててこっちが不安になってくる。


「改めて――こほん。私は、これから誰かの後ろについていくんじゃなくて、誰かと一緒にいたいと思った。でも、その、相手が……あの、あなたしかいないから、それだと、つまり」


 何回言いなおしてもやっぱり要領を得ない結城だったが、その頬をちょっと赤らめて上目遣いを見せながらも困りきった様子を見て察しの良い俺は気付いてしまった。


 つまり? それだと都合悪いってこと?


 ――あれ、これ俺と一緒にいるの拒否されてない?


 物凄く太い槍でぐっさあと心臓を一突きにされたような錯覚を覚えながら空ろなテンションで問いかける。


「あ、あー。つまり誰かと一緒にいたいけど唯一知り合いな俺はノーサンキューだからどうしようかなって話? なるほどね……」


 それはもう大ダメージだった。これでも多少の信頼関係は築けてるかなとか、調子に乗ったことまで考えていたのだ。やばい、これきついよ。恥ずかしさも相まって精神が瀕死寸前にまで追い込まれていく。


 段々目が死んでいく俺のすぐ前で、結城が慌てて立ち上がった。


「ち、ちがっ……! 違う、の。そうじゃない」


「…………何が?」


 テーブルに両手をついてこっちに身を乗り出している結城の表情はさっきよりもなお赤く染まっている。ぼんやりとそれを見つめる俺に、彼女は一言一言言い聞かせるように、大事に大事に言葉を紡ぐ。


「そうじゃない。そうじゃなくて、私が、一緒にいたいと思うのは、まだあなただけだから……居させて欲しい。それで……あなたは。迷惑じゃない?」


 ――台詞が進むごとに俺のライフが超絶回復していったのは言うまでもない。なに、下げて上げる的な教育方針なの? もしそうならこれ以上ないくらい成功してる。三途の川の一歩手前から一気に有頂天ってくらいの高低差だ。有頂天って場所なのかよ。


「あ……」


 目の前で一世一代の告白でもしたかのように若干瞳を潤ませながらぷるぷる震えている結城の頭に手を載せた。呆けた顔を返される。いや、だって撫でやすい位置にあるんだもん。


「あのさ、迷惑だと思ってるなら今だってこうやって一緒に居るわけないだろ? だいたい結城と話すの楽しいんだからいなくなられたら逆に困るっての」


「っ!? ~~~~~~っ!?」


 俺の言葉を聞き終わるか終わらないかの内に結城は顔中から煙を発し、勢い良く机に倒れこんだ。そのまま燃え尽きたかのように伏せている。え、何、大丈夫? それとも周りから見ると恥ずかしさに悶絶するほど痛々しいの俺?


「だ、だいじょう、ぶ……頭が、せ、性感帯だからちょっと驚いた。それだけ」


「ああ全然大丈夫じゃないね! ていうかもう伏せる努力さえしなくなったの? ねえそれでいいの?」


「見れば分かる。私は完全無欠に突っ伏してる」


「十代女子が同い年の異性の前で発するのに抵抗あるはずの言葉の方も伏せでお願いします」


 放送禁止用語じゃないとは言え。


「それは出来ない相談。私は、え……えっちな、こととか? 好きなタイプ。あなたに何を言われたところで趣味嗜好を変えることはできない」


「表情が明らかに無理してるよね? なんでいきなりキャラ路線変更を狙ってるの? むしろそっちが趣味なの?」


「そう。……え。いや、違う」


「認められても困るんだけど……」


 等々。


 結局この調子のまま一時間ほど喋り続けていたのだが、ミルクティーのストックが切れたところで不意に猛烈な眠気に襲われた。プラシーボ効果ってすごい。ともかくそういうわけで、もう午前四時を過ぎていたし、数時間後には学校へ行かないといけないので仮眠を取ることに。当然同じベッドじゃなく、俺は愛用の目覚ましが待つ自室、そして結城は母親の部屋へ移動する。


 

 ――そして。


 

 その直前、机の上に置き忘れていったスマホを結城に返す際、クリア後にしか閲覧できないんであろう〝とあるデータ〟が見えてしまい――これまでのどの情報よりも明るい希望を見出すと共に、今夜眠れないことを悟ってしまった。


 布団に潜り込みたいのは山々だけど……まあいいか。俺、限界まで眠いときの方が頭回る体質なんだ。


 そのデータとは、いわゆる個人情報。


 結城の元憑希である雪のものらしいが、俺が目にしたことのあるデフォルメキャラの身長体重スリーサイズなんかとは毛色が違う。


 ――高松雪菜・平成五年八月二十三日生まれ・血液型O型・両親と兄との四人暮らし・身長158cm・体重46kg・趣味は読書、裁縫、楽曲の作成・交友関係は接触頻度の高かった者から順に以下の通り……――


 こんな調子で、果ては過去にあった人格形成に影響を与える出来事や恐怖を覚える事柄、現在の友達一人ひとりとの距離感まで全て詳細に書き連ねてあった。今回は例のチュートリアルみたいにページで分けられているわけではなく一枚にまとめられていたので、途中からスクロールするのが面倒になってきたほどだ。


 しかしもう、こんなの最後まで読まなくたって分かる。これは明らかに一人の人間を構成している情報だ。ゲームのアバターに付随させただけの設定なんかじゃない。




 

 さらに――ああ、突っ込みが遅くなったけど別に女子高生の個人情報をゲットできたのが明るい希望ってわけじゃないからな。断じて違う。人の携帯覗き込んでそれって俺、人として最悪じゃないの。そうじゃなくて、メインは画面の一番下に総括としてくっついていた文章の方だ。


 

 ――憑希・雪はゲームクリアによって以上の情報を取り戻し、解放されました――



 解放。解放という言葉は俺の端末でも出てきた。それは単にクリアという概念をこのゲームの世界観に落とし込んだだけだと思っていたが、どうも違うらしい。情報を取り戻して解放された? それはつまり、要するに。


「……憑希は元々人間で、そのときの記憶を何もかも奪われた状態でアバターとしてこのゲームに参加していた?」


 かあっと頭が熱くなる感覚がした。何? 人から情報全部抜き取ってゲームさせてたって? それでクリア報酬が記憶の回復と解放だ? ――ふざけてる。


 詳細不明の株式会社タクティクスへの怒りは募るも、しかしそれをおいて冷静に考えてみれば〝憑希はゲームにクリアすれば人間に戻ることが出来る〟という風に捉えられる。


 いや、それだけじゃない。


 憑希が自力でゲームをクリアする方法――とやらにも関係していないとおかしいだろう。だってあれじゃヒントが少なすぎる。与えられる手がかりが異様に少ない謎解きゲームは大体、他でもらえる情報を関連付けたりすれば上手くいくのだ。


 雪はゲームクリアによって人間に戻り、記憶情報を取り戻した。この流れは一方通行の矢印で結ばれているものなのか? この情報量はそのまま人間一人を形作っていると言ってしまっても良さそうなほどだ。人間に戻ることと、記憶その他を手に入れることは、イコールで結ばれるんじゃないか。


 

 だったら憑希のクリア条件は、人間だった頃の記憶を、情報を思い出すこと。そういう風になる。



 いつも通り憶測だが、今回は多少なりとも根拠がある分間違っていないような気がした。脳みそが半分眠ってる絶好調のコンディションだし。ただ――、


「これを今、整理して遥に話せる自信はない……」


 遥と相談するのは、明日になりそうだった。


読んでくれてありがとうございます!

次回はちゃんと三日後に上げますのでお楽しみに!

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