情報開示
前回引っ張った続きです
これだけだとまだ分かんないですが…伏線的なものと思ってもらえれば
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――新たな情報の開示があります――
唐突に始まった情報開示とやらはこのゲームにしては珍しく、遥による音声案内でなく画面に表示された文章での説明だった。要は遥も知らない内容ということなんだろう、自然とスマホを握り締める手に力がこもる。
――おめでとうございます――
何がだ。
――被憑依者コード16732〝高津悠〟様及び憑希〝遥〟がゲーム内で特定の条件を満たしたため追加情報を開示します。なおこの情報は特殊でありメタ的な要素を含みます。世界観を重視する被憑依者にはこの先の閲覧をお奨めしません――
コードやらナンバーといった単語の放つ何とも言えない中二病的雰囲気に反応しかけたけど今はそれどころじゃない。特定の条件。遥の表情や通知のタイミングからしてさっきの教科書類……あれが〝当たり〟だったってことか。
続けて閲覧しますか? という質問に迷わずイエスと返す。世界観ってあれだろ? 108ページだろ? いらない。
――憑希サイドのゲームクリア条件について――
「は……?」
耳を疑った。いや間違えた目を疑った。見間違えたのかもと思って幾度か瞬きしてからもう一度睨みつけてみる。ちょっとくっきり見えた。
ああ、確かにメタ情報だな。だがそんなの気にならないくらい内容ぶっ飛んでるぞ。
憑希側のゲームクリア? 待て、その一文だけで突っ込みたいところが山ほどある。プレイヤーサイドのクリア条件、ということなら暫定で予想している〝憑希のレベルカンスト〟の裏付けあるいは反証となりえるが、憑希側ってのはどういうことだ? プレイヤーが目指しているゴールとは別に憑希にも達成すべき目標があるってことなのか? え、何それ仮に遥が先にクリアしちゃったら俺はどうすればいいの? というかそれより何より、
この発言……憑希には確かに意思があるってタクティクスから保証されたようなもんじゃないか。
――〝憑希〟は被憑依者がゲームをクリアした場合同じくクリア扱いになりますが、公平を期すため自身の力でもクリアすることが可能になっています――
――その場合被憑依者がクリア認定されることはありませんが、憑希がいなくなることにより自動的にゲームから離脱することになります――
離脱。どうしてもその単語が目に付いてしまった。このゲームからの離脱方法なんて設定されていたのか。今のところ何のことだか全然分からないがこれは朗報の一つとカウントしていいだろう。よしいいぞと読み進めて、
――憑希が得られる報酬はどちらでクリアしても変化しないのでご安心を――
待って飛ばしすぎだから待って。本格的に何を言われているのか分からなくなってきた。憑希に報酬? それじゃまるで憑希も、遥もある意味プレイヤーとしてこのゲームに参加しているみたいだ。それでクリアを目指している? その報酬とやらのために?第一報酬ってなんだ、遥は知ってるのか?
まあ情報開示ってくらいだからその辺も説明されるんだろう。混乱する頭をおいて大人しく次の一文を待つことにして、
――それでは〝解放〟目指して頑張ってください――
「ぅおおおおおおい!」
さすがにテンション高めな突っ込みを入れないと心が折れてしまいそうだった。
終わりやがった……これが情報開示だと? 何も分からないどころか謎が増えたんだが。このゲームは相変わらず情報が少なすぎる。過去ログ機能を使って出てきた文章を何度か読み返してみてもやっぱりぴんと来ない。ただ一つだけ、クリアに解放という漢字を当てているのは少し引っかかったけど、そういう背景設定があったのかも知れないしスルー。
ここはさっき何か言いかけたままの状態でまだふるふる震えている遥に訊いてみることにしよう。
「なあ。って、大丈夫か?」
『はい……はい。元気なく見えるかもですけど気にしないで下さいなのですー。色んなことを一気に言われて混乱しちゃってました』
「じゃあ遥も今の情報は初耳ってこと?」
『そういうことです。うん、知らないことだらけなのです……こわい』
その口調がかなり思い詰めていると言うか真に迫っていると言うか、とにかく潰れてしまいそうなほどに弱々しくて、気付くと俺はケータイの画面を触っていた。
具体的にはちょうど遥の頭の辺りを優しく撫でるように。
「どした? 何でも話してくれる約束だろ、一人で背負い込むなって」
『悠さん……ありがとう、ございますっ』
少しは効果があったのか、遥は若干怖々とした様子ではありながら頬を赤らめて微笑んでくれた。そしてそのままこっちに小さな人差し指を向けてくる。何? ET? 未知との遭遇なら何日か遅いよ……。まあいいか。
ちょこんと指を合わせてみる。
『え? あ、え……違います違いますっ! さっきの教科書見せて欲しいだけなのですよー!』
「ああそういうこと」
先に言って欲しかったな、地球上の人類全てがひっかかること間違いなしの完璧なミスリードじゃないか。推理小説とか書けるんじゃないの。
茶番を挟みつつも先ほどのロッカーの中身を全て持ち出し、近くの机を拝借してその上に置いた。改めて見ると汚れはそうでもないがかなり埃を被ってしまっている。二年近くも経っているんだから当たり前の話ではあるけれど、積極的に触りたいとは思えない。
『……やっぱり』
スマホが汚れないようにギリギリまで近づけると遥はしばらくむーむー唸っていたがついにそう零した。画面を反転させて続きを促す。
『これ……わたしの、です』
「これって……この教科書?」
『はい。間違いないです。教科書の内容もノートに書いてある文字の筆跡も端っこの落書きも全然覚えてないですけど、これは絶対にわたしのものです』
「……」
支離滅裂だ。支離滅裂、だが――ここまで来たら信用するしか道はない。多分、本当にそうなんだろう。このゲームに関わっている以上端から常識なんて通用しないものと考えた方がいい。覚えてないけど自分のものだと言うことは分かる、そんなこともあるんだろう。きっと。
遥も論理が崩壊した台詞を放っていることは自覚しているようで、それを弁解しようともしていたが、今はそれどころではなく、体中を支配する感情の方が勝っているらしい。
すなわち、恐怖が。
『悠さん……わたしは、悠さんのパートナーである憑希です。それ以外の何でもなかったはずです。必要な知識や人格は持ってますけど、悠さんと会う前の記憶なんて持ってません。というか、ないと思ってました。ある意味のないものだし……わざわざ過去の設定を作る意味なんてないのかなって。でもここにあるものは絶対にわたしのものです。それにこの教室にはそれに近い感じのものがたくさんあります……懐かしいな、って思っちゃうような。
わたし、多分ここに居たことがあります。でも、そんなの変ですよね? 学校に通ってたってことは、わたしは悠さんみたいに人間だったんですか? もしそうならどうして今は憑希なんかになってて、しかもそのときのことを何も覚えてないんですか……? 教えて――教えてっ……くだ、さい』
気丈に、敢えて淡々と話していた遥の語調が不意に崩れる。高ぶる感情を抑えきれずにその大きな瞳から一筋の涙が零れた。それに気付いて必死に隠そうとする遥。こういうところを見られたくないんだろう。それは、分からなくもないけど。
「いいよ、泣いて。むしろもっと泣いた方がいい」
『え――?』
「良く話してくれた。遥の気持ちはしっかり受け取った。俺がその恐怖を半分貰ってやる。なんせパートナーだからな、一緒に悩んでやる。一緒に怖がってやる。それで思う存分泣いたらいい。でも泣いて潰れて終わりじゃ面白くない。だってこれ、ゲームなんだろ。涙で恐怖を全部どっかに流して――そしたら一緒にクリアしてやろうぜ」
俺史上、最高にクサい言葉だったと思う。誰かに録音されてたら一生そいつの奴隷をやるしかないレベルに恥ずかしい。そうでなくても時々思い出しては赤面すること請け負いだ。
でも、後悔はしてないし、まして言ったことに嘘はない。不真面目な男子高校生は大抵ゲームが大好きなんだぜ?
絶句したまま微動だにせず聞いていた遥は、その直後堰を切ったように声を上げて泣き始めた。その頭を画面越しに撫でる――電子機器の放つ熱だってことくらい俺にも分かっているけど、ほんのりとした温かさを感じた。
読んでいただきありがとうございます
次回もお楽しみに!




